最近、日本の若い選手を取材していると、将来の目標として「プレミアリーグでプレーしたい」と口にする選手は数多い。

 世界中からスター選手が集うイングランド・プレミアリーグは、最も人気があり、必然的にサラリーも高い。現在のサッカー界において、ヒエラルキーの最上位に位置しているのがプレミアリーグなのだから、当然のことかもしれない。

 サッカーファン垂涎のプレミアリーグを自国に抱えるイングランド代表もまた、さながら「スター軍団」と呼ぶにふさわしい。プレミアリーグの「オールスターチーム」と言ってもいいほどの選手が顔をそろえる。

 今回のワールドカップメンバー26名のうち、国外クラブに所属しているのは、MFジュード・ベリンガム(ドルトムント)ただひとり。残る25名はすべてプレミアリーグのクラブに所属しており、そのほとんどが、いわゆる"ビッグ6"の主力選手だ。

 イングランドが優勝候補のひとつであることは、疑いようのない事実である。実際、今大会のグループリーグ初戦では、圧巻の攻撃力を見せつけている。

 イングランドは19歳の新星、MFベリンガムの先制ゴールを皮切りに、大量6点を奪うゴールラッシュ。イランに6−2で快勝した。

 ところが、チームを率いるガレス・サウスゲート監督は、「大会の初戦でこのようなスタートをきれたことを喜んでいる」と言いながらも、後半に2点を失うなど、バタついた試合を振り返り、こうも語っている。

「落ちつかない試合だった。私はこういう試合が好きではない。次のアメリカ戦では改善が必要だ。フルスロットルでいく」

 しかし、続く2戦目のアメリカ戦も、そんな思いを抱える指揮官を満足させるものだったとは言い難い。

 序盤こそイングランドが攻勢に試合を進めたものの、前半半ば以降は、むしろ格下であるはずのアメリカに試合の主導権を握られた。FWクリスティアン・プリシッチ(皮肉なことに、彼もまたチェルシーに所属するプレミアリーグのスター選手だ)のシュートがクロスバーを叩くなど、あわやというピンチも何度か迎えている。

 また、幸いにして失点こそ免れたものの、その一方で得点の可能性を感じることもできなかった。

 イングランドが得た最大のチャンスは前半9分、ベリンガムのドリブルからFWブカヨ・サカにパスをつないで、最後はFWハリー・ケインがシュートを放った場面だろう。

 その後は、敵陣に攻め入る回数こそ少なくなかったが、チャンスらしいチャンスはなし。前半終了間際にMFメイソン・マウントがゴール左スミにシュートを放ちながら、相手GKに防がれたシーンがあった程度だ。

 公式記録によれば、両チームのシュート数はイングランドの8本に対して、アメリカは10本。イングランドが優勢に試合を進められなかったことは、数字にも表れている。

「攻撃の最後の部分で時間がかかり、プレーの質も低かった」

 サウスゲート監督もそう話しているとおりだ。

 結局、両チームとも得点がないまま、試合は0−0の引き分け。試合終了と同時に、イングランドサポーターが多くを占めるスタンドにブーイングが響いたのも無理はなかった。


アメリカ相手に劣勢を強いられたイングランドだが

 大味な打ち合いを演じた初戦と、こう着状態で我慢の展開が続いた2戦目。両極端な内容で最初の2試合を終えたイングランドは、いずれにしても課題を露呈したと言っていい。優勝候補が不安を残した、とも言えるのかもしれない。

 とはいえ、ヨーロッパのシーズン真っ只中にある11月開幕という異例のスケジュールで行なわれている今回のワールドカップは、トップレベルで戦うクラブに所属する選手ほど過密日程にさらされ、疲労を抱えた状態で大会に臨んでいる可能性が高い。

 ワールドカップが開幕する1週間前まで、所属するクラブでリーグ戦とUEFAチャンピオンズリーグ(あるいは、ヨーロッパリーグ)の連戦を毎週のようにこなし、心身両面で切り替えがままならぬうちに、代表チームでビッグイベントに臨む。

 大会開催の条件はどのチームにも同じだとはいえ、特に強豪国と言われるチームにケガによる離脱選手が増えているのは、当然の成り行きだろう。イングランド代表にしても、主力だったDFリース・ジェームズなどが、登録メンバーから外れる事態に陥っている。

 大会前にコンディションを整え、戦術的な確認をし、いよいよ開幕を迎えるというより、「大会をこなすなかで進歩していかなければいけない」(サウスゲート監督)というのが実状である。

 だからこそ、優勝候補を率いるという困難な役割を託されたサウスゲート監督は、ふたりのセンターバック(DFジョン・ストーンズ、DFハリー・マグワイア)を称えたうえで、こう続ける。

「今日の試合では(守備に回って)ボールを持っていない時に、(売りである攻撃とは)別の面を見せなければいけなかった。成功するチームになるためには、"多くの顔"を見せなければならない」

 イングランドはこの2試合、決して盤石の戦いを見せているわけではない。だが、裏を返せば、どんな試合展開でも大崩れすることなく、柔軟に対応できることを示したとも言える。

 ドイツが日本に敗れたのをはじめ、番狂わせが少なくない今大会において、イングランドは相手に金星を献上することなく、2試合で確実に勝ち点4を手にした。

 目指す頂に向け、徐々に調子を上げていくには悪くないスタートである。