ロナウドのポルトガルは優勝候補なのか。ガーナ戦の乱戦は「中盤サッカー」に原因
アフリカ勢の最大の魅力は、その高い身体能力にあると言われる。しかし、身体能力とひと口に言ってもタイプはさまざまで、各国それぞれに特徴がある。
今大会に出場しているアフリカ勢(カメルーン、モロッコ、チュニジア、セネガル、ガーナ)のなかで、ガーナが特に秀でているのは馬力だ。低重心のフォームからボールを、泥臭く運ぶように前進する。ボール奪取も得意とするはずだが、現役時代ドルトムントなどでプレーしたオットー・アッド監督は、ポルトガル相手に立ち上がりから後ろに引いて構える選択をした。
ブックメーカー各社の予想で7番人気に推されるポルトガルは、その優位性を示すように、立ち上がりからボールを一方的に支配。試合は前日に行なわれたドイツ対日本の前半を見るような、ハーフコートゲームに近い展開となった。
最初の見せ場は前半13分。左サイドバック(SB)ラファエル・ゲレイロの折り返しを、クリスティアーノ・ロナウドがヘディングシュートに及んだシーンだ。スタンディングジャンプで優に1メートル以上、跳んでいた。ゴール前の混戦のなかで、その背番号7だけがくっきりと浮かび上がって見えた。
2日前、アルゼンチン対サウジアラビア戦で見た2歳年下のリオネル・メッシより断然、シャキッとして見える。この差をどう見るか。メッシはフルタイム出場を果たしたが、ロナウドは終盤ベンチに下がった。フルタイム出場せざるを得なかったメッシに対し、ロナウドにはベンチに下がる余裕があった。大会終盤まで生き残るチームはどちらだろうか。
ガーナ戦、クリスティアーノ・ロナウドの5大会連続ゴールで先制したポルトガルだったが...
試合に話を戻せば、引いて守るガーナに対し、ポルトガルは手こずった。引いて守る相手と対峙した際の鉄則である、サイド攻撃を追求できなかったのだ。
それはフェルナンド・サントス監督が、4−3−3を敷くポルトガルの両ウイングに、真ん中でのプレーに適性がありそうなMF系の選手を配置したことと大きな関係がある。ジョアン・フェリックス(左)とブルーノ・フェルナンデス(右)だ。前者は1トップのロナウドとポジションチェンジを行なったが、システマチックではなく、サッカーは悪い時のスペインを彷彿とさせる中盤サッカーに陥った。引いて守るガーナに対し、真ん中から素直に攻め入っては跳ね返された。
ガーナは大はしゃぎでポルトガルに追加点0−0の均衡が破られたのは後半20分。ポルトガルは。左SBのゲレイロが出した縦パスを、ジョアン・フェリックスが状況判断よくスルーする。ペナルティエリアを転々とするボールに、競い合うように走り込んだのは、ガーナDFでサウサンプトン所属の23歳、モハメド・サリスと、ポルトガルの背番号7、ロナウドだった。
競り合いに勝利したのは37歳のロナウドで、少し遅れて入ったサリスはたまらず、その左足をロナウドの足元まで深く出してしまった。ロナウドは待ってましたとばかり転倒。すると、アメリカ人のエルファト・イスマイル主審は、迷うことなくPKスポットを指さした。微妙な判定かに見えたが、深く審議されることなくPKは行なわれ、ガーナGKローレンス・アティジギが伸ばした左手の上を、ボールは勢いよく通過した。ロナウドの老獪さと衰えぬスピード感にガーナは翻弄された。
だが試合は、これを機に撃ち合いになっていく。前に出ざるを得なくなったガーナに、ポルトガルが後手を踏むというシーンが目立ち始める。アヤックスで活躍するモハメド・クドゥス、地元カタールのアル・サッド所属のアンドレ・アユ―、ビルバオ所属のイニャキ・ウイリアムス、アーセナル所属のトーマス・パーティーなど、実力者が本来の力を出し始めた。
後半28分に、強シュートを放ったばかりのクドゥスが、その1分後、左サイドを深々と割り、折り返すと、ゴール前に詰めたアユーがこれをプッシュ。同点弾とした。
同点劇の立役者となったアユーとクドゥスはこの直後、ベンチに下がった。記者席のモニターカメラにはそこで控え選手から祝福を受ける姿が映し出されていた。ガーナベンチはその時、大はしゃぎしていた。
ポルトガルに勝ち越しゴールが生まれたのは、2人がベンチに下がったその1分後だった。ブルーノ・フェルナンデスが、ディフェンスラインの背後にスルーパスを送ると、外から回り込んだジョアン・フェリックスがステップ軽やかに抜けだし、勝ち越し弾を鮮やかに流し込んだ。
そのポルトガルらしいゴールを、ガーナベンチの選手たちは見逃していた。喜びすぎてピッチから目を離している間に勝ち越しゴールを奪われるという間の悪さを、テレビカメラが抜いていたのだ。記者席のモニターはこのおめでたい姿をしっかり映し出していた。
ポルトガルは後半35分に3点目となる駄目押しゴールを奪うと、後半43分、活躍した3選手(ロナウド、ジョアン・フェリックス、ベルナルド・シウバ)をベンチに下げる余裕を見せた。
ところが、ポルトガルの楽勝ムードはその直後、消滅する。明らかな油断からガーナに2−3と1点差に詰め寄られるゴールを奪われてしまったのだ。ドタバタは、特にVARがなかったにもかかわらず、9分間にも及ぶアディショナルタイムまで続いた。その間には、ポルトガルGKが、背後にいたガーナ選手に気づかず、放置したボールを狙われるというボーンヘッドも犯していた。
ポルトガルの順当勝ちと言えばそれまでだが、試合は最後までドタバタ感漂う乱戦だった。その原因は、ポルトガルが演じた「中盤サッカー」にありとは、筆者の見立てである。この点を改善しない限り「7番手」の域から脱することは難しいと見る。