スペインの名指導者が日本代表の勝利の要因を解説。「鎌田大地と遠藤航の関係性が流れを変えた
「ふたつの顔を持った試合だった」
スペインの慧眼、ミケル・エチャリはそう言って、カタールW杯で日本がドイツを2−1の逆転で下した試合を振り返っている。
エチャリは久保建英が所属するレアル・ソシエダで約20年も強化部長などを歴任。日本代表の分析は2009年から続けている。
「前半の出来では、大敗を喫していても不思議ではなかった。サイドの守備バランスは悪く、中盤も背後を取られていた。PKによる1失点だけだったのは、僥倖だった。後半になって選手を入れ替えてフォーメーションを変えるなか、残り20分で鎌田大地、遠藤航などの役割が明確になっていった。何より、リードされても選手が少しも諦めることなく、粘り強く戦い続けたことで流れをものにした」
エチャリは、「ふたつの顔」が変化する推移にこそ、試合のカギがあったことを指摘している。
ドイツ戦の堂安律の同点弾はは「再現性のあるゴール」だった
「前半、日本は本来の持ち味である『技術とスピードをコンビネーションで融合させたプレー』をほとんど出せていない。『いい守備がいい攻撃を作る』のは定石だが、あまりにも受け身に回ってしまっていて、先発の選手のチョイスに問題があるようにさえ見えた。
ドイツはサイドバックが非常に高い位置をとる戦術で、サイドで数的優位を作ってきた。そして常に日本の先手を取っていた。サイドが優勢を得てから、中央、逆サイドと翻弄した。
日本はビルドアップに問題を抱えており、満足にボールを持ち出せていない。序盤はカウンターを放ち、前田大然がゴールしたかに見えたが、オフサイドで取り消されている。流れそのものはすばらしかったが、前田が完全に抜け出すタイミングをミスしていた。
前半33分の失点は必然だった。PKとなった直接のプレー自体はGK権田修一のミスだったが、その前にサイドチェンジから守備を完全に裏返されていた。この場面だけでなく、もっと失点を浴びてもおかしくなかった」
エチャリはそう指摘して、日本の前半の戦いぶりについて冷静に書き留めている。
鎌田が遠藤の近くでプレーしたことで好転「後半に入って、日本が久保に代えて冨安健洋を投入することで、3−4−2−1を選択した。これは不安定だった守備を落ちつけるため、守備に際して5バックでサイドに人を置いた形と言える。当初は混乱も見られたが、次第に落ちつき始める。
右サイドバックの酒井宏樹に本来のパワーが感じられず、伊東純也との役割分担が不明瞭になっていた。それを、酒井がウイングバック、伊東がアタックとサポートという形で整理できた。左も同じようなことが当てはまり、冨安がセンターバック3枚の左、長友が左ウイングバックになったことで守備力を高め、ドイツの侵入路を塞いだ。
何より、ドイツの猛攻が追加点に及ばなかったのは大きいだろう。71分、4本のシュートをたて続けに打つが、権田がビッグセーブでストップ。彼はPKのミスを帳消しにし、ドイツの勢いはこれを契機に弱まった。
直後の71分、日本は堂安律を中盤に入れ、さらに南野拓実も投じ、リスクをかけて攻撃に厚みを出す。これによって鎌田が遠藤の近くでプレーするようになると、ボールを握れるようになって、ペースをつかむ。遠藤は中盤で守りのリズムをとり、鎌田がプレーを作り始めたのだ。
ボールを動かせるようになったことで、日本はカウンターも含めて攻撃が有効になった。
75分、左ウイングバックに入った三笘薫がドリブルでボールを運び、仕掛けるそぶりを見せながら、裏を抜けた南野にパスを出す。南野は迷わずシュート性のクロス。GKが弾いたところ、堂安がつめた。この時、浅野拓磨もゴール前に入っており、クロスに対し、ゴールできる状況が整っていた。すばらしく『再現性のあるゴール』だったと言える。
そして弱ったドイツに対し、日本は容赦ない。
83分、バックラインからのボールを受けた浅野は、瞠目すべき推進力でボールを持ち上がり、マークを受けながらもニア上に叩き込んでいる。板倉滉はただ長いボールを蹴ったのではなく、確実なパスを選択できていた。これがゴールの必然につながった。浅野自身も確信があって走っていたのだろう。
アディショナルタイムはドイツの総攻撃を食らったが、権田を中心によく耐えている」
エチャリは勝因を「必然」に求めた。終盤、攻守が噛み合ったことが逆転勝利につながった、という見解である。そしてコスタリカ戦に向けて、以下のようにエールを送っている。
「この日は、森保一監督の采配が功を奏していた。交代出場した選手たちも、ミッションを遂行するだけの力を持っていたと言える。その点、文句なしのチームとしての勝利だった。すばらしいスタートへの祝福の言葉を、コスタリカ戦へのエールとして贈りたい」