日本がドイツに、ワールドカップの舞台で、それも先制されながら逆転で、2−1と勝利した。

 歴史的勝利。そう表現することに異論を挟む余地はない。まずはこの興奮に浸り、大いに喜ぼう。

 だが、日本が今大会で掲げている目標は、ドイツに勝つことでも、グループリーグで1勝することでもない。グループリーグを突破し、さらには決勝トーナメント1回戦を勝ち上がり、ベスト8へ進出することのはずである。だからこそ、歴史的勝利を挙げたドイツ戦であろうとも、冷静に振り返る必要がある。

 この試合、日本は前後半で異なる"ふたつの顔"を見せている。守備に追われた前半の顔と、攻撃に転じた後半の顔である。そして結果が出た今、フォーカスされがちなのは当然、後半の顔だろう。

「フォーメーションを変えて、どう(相手を)ハメるか。戦術を変えたのがすべてだった」(DF長友佑都)

「(4バックから)3バックにしてハマった」(DF吉田麻也)

 選手からもこうした声が聞かれたように、日本はハーフタイムを境に4−2−3−1から3−4−2−1(実際には5−2−2−1のほうが正確だろう)へとフォーメーションを変更。ひとまず守備の手当てを行ない、そこから徐々に攻撃的な選手を投入することで攻撃へと重心を移していく策が見事にハマり、逆転勝利につながった。

 確かに後半83分のFW浅野拓磨の決勝ゴールは、ドイツの一瞬のスキを突く形(DF板倉滉がFKをすばやくリスタートし、浅野が相手DFラインの背後に抜け出した)で生まれたものではある。

 だが、後半60分過ぎからそこに至るまでの時間、日本は明らかに攻勢に立ち、試合の主導権を握っていた。

 実際、後半75分のMF堂安律の同点ゴールは、ボールを保持して敵陣に攻め入るなかで奪ったものだ。

 ドリブルを仕掛けたMF三笘薫からMF南野拓実がニアゾーンに走り込んでパスを受け、ゴール前の浅野へと送ったクロスは、ドイツのGKマヌエル・ノイヤーに弾かれるも、そのこぼれ球を堂安が仕留める。完璧な崩しと言ってもいい、幅と厚みのある攻撃だった。

「負けていたので(攻撃に)いくしかない」(三笘)

 攻撃に転じた後半の顔は、そんな強い意志が表れた結果だと言えるだろう。

 と同時に、選手の口から勝因として挙げられたのが、「前半を1失点に抑えたこと」(長友)である。

「0−1で(前半を)折り返したのが大きい」(吉田)

「0−1なら何でも起こるのがサッカー。今日はそれが出た」(MF伊東純也)

 いかに後半の策が奏功したとはいえ、前半のうちに日本が2点以上失っていれば、それ以前に勝負が決していた可能性は極めて高い。


前半はドイツの攻撃に後手を踏んで、再三ピンチに陥っていた日本

 だからこそ、0−1で折り返せたことが大きかったわけだが、そこには多分に運が含まれていたこともまた否定できない。日本が見せたもうひとつの顔、すなわち守備に追われた前半は2点どころか、3、4点取られていても不思議はなかったからだ。

 4−2−3−1をベースとするドイツが、左サイドバックのDFダビド・ラウムを攻撃時には高い位置まで押し出してきたことでミスマッチが生じ、日本の守備は混乱。前半の日本は、ドイツがテンポよくつなぐパスに後手を踏み、次々と決定的なシュートを許していた。

 後半開始から3バック(実質5バック)に変更し、前半に比べて守備が落ち着いたのは確かだが、それでも後半60分あたりまでは、MFイルカイ・ギュンドアンのシュートがゴールポストを叩くなど、ドイツの攻勢が続いている。

 にもかかわらず、失点はPKによる1点のみ。0−1で前半を終えることができたのは、ドイツの拙攻によるところも大きかった。それは紛れもない事実である。

 結果が出た今となっては、日本が粘り強く守ったとも言えるが、日本が"もうひとつの顔"を見せる前に、勝負が決してしまった危険性は十分にある試合だった。

「(3バックは)ぶっつけ本番のところが正直あった。自分たちはツイているなと思う。そこで(変更を)決断した監督がすばらしい」

 三笘がそう話していたように、これまでに多くの時間を割いて試してきたわけではない3バックへの変更も含め、日本がツイていたことは否定できない。

 フォーメーションのミスマッチに対応できず、ピンチを招くことは9月のドイツ遠征でも見られたもの。つまりは、これまでにも露呈していた弱点を、ワールドカップ本番で改めてさらけ出したとも言える。

 当然、今後対戦するチームが、日本潰しの策として取り入れてくる可能性はあるだろう。せっかくの劇的な逆転勝利も、ここから尻すぼみに終わってしまえば、その価値が半減してしまいかねない。

「しっかり前を見据えて、やることをやって、(2戦目の)コスタリカ戦に備えたい」(吉田)

「ドラマチックだったが、今日のドラマはもう終わったので、次の準備をしたい」(浅野)

 結果的にドイツ戦では大事に至らなかったとはいえ、ミスマッチへの対応の遅れが依然課題として残っていることは、2戦目以降の戦いを考えるうえで気になるところ。昨年の東京五輪では、初戦勝利を含めてグループリーグを3連勝で突破しながら、結局メダルには手が届かなかった苦い経験もある。

 日本サッカー史に残る歴史的勝利も、決して必然の勝利などではなかった。そう認識するところから、2戦目以降の戦いは始まる。