浅野拓磨「僕はドラマチックなことが起きる人間」。香川真司にかけられた言葉、そのすべてが逆転ゴールにつながっている
83分、日本vsドイツの決勝点を決めたのは途中出場の浅野拓磨だった。
最終ラインの板倉滉がボールを持った瞬間、「これ来るなと思った。内側仲間で意思疎通できてる気がして」と、9月の同じような時期に同じ内側を負傷した仲間からのパスを信じて右サイドを駆け上がる。
板倉からのロングボールをぴたりとコントロールし、右足でニア上をぶち抜いた。「ニアポケットを狙ったわけじゃないんだけど思いきり打ったら」とシュートを振り返った。
日本中を熱狂させた浅野拓磨のスーパーゴール
これまで、シュートは浅野の課題だった。
スピードはもちろん、最終ラインとの駆け引き、トラップまでは自ら「完璧」と認めつつ、最後のシュートになると急にクオリティが落ちるのは事実だった。シュートを打つまでに感じさせる可能性と、シュートとの差がありすぎて歓喜から落胆へ急降下させられることはしばしばあった。
だが、この日のシュートに関して浅野はこう話す。
「もう(得点を決めた今、自分の言葉には)説得力あるから言いますけど(笑)、4年半前から狙ってました。あのシュートを狙ってました。言うたらそれまでですし、うん」
笑いながらではあるが、本気で話している。
「これ、(最後の最後に落選したロシア大会から今までの)4年半をひとつの試合にたとえた時に、流れのよくない時間帯もあればサポーターからぶーぶー言われる時間帯もありました。でも、その度に立て直してきて、その度にあきらめず、自分は最後の最後に結果を残せるって思ってやってきました。
なので、4年半前から今日までが90分の試合だったとするなら、90分目にゴールが取れた、それだけかなと思います。でも、僕はこういうことを信じながらやってきただけなので、今日結果が出てなかった可能性もありますし、それは結果論であって、過程が僕にとっては大事で、その過程に100パーセント力を尽くしてきたなと。それしか言えないですね」
ラストミニッツのゴールを信じてやってはきたが、結果は結果にすぎないという。
「赤い髪の人」も言っていたまた、浅野は自身のシュートの決まらなさについて「メンタルの問題ではなく、あくまで技術の問題」と改善可能な問題と捉えてきた。この日のゴールは思いきりのよさだけでは片付けられないスーパーゴールだった。
その観点からこのゴールを説明してほしい、と伝えてみた。浅野の回答はこうだ。
「そうですね、技術をも超えるタイミングが来ると言うことは、今日に限らず今までありましたし、その度に自分はヒーローになってきました」
技術ではなく、タイミングだという。
「でもその瞬間はその一瞬で終わって、またズドンて落とされるタイミングが来て。どっちかと言ったら落とされている時間のほうが多いですし、もう落とされ続けて、落とされ続けて、批判され続けて。まあ、僕らはそういう仕事なのでそれ自体はなんもないですけど、ただまあこういうタイミングがくることは間違いない。
それは技術どうこう関係ない、僕は試合前にも言いましたけど『気持ちの強いほうが勝つ』って。今までW杯を経験してきた赤い髪の人(横にいる長友佑都を指す)がそう言ってるのを聞いて『絶対そうだ』と僕も感じたので、だからこそ俺らやれるなと思いました。気持ちで勝てるって」
最終的には気持ち、ということに落ち着いた。
浅野はドイツとのW杯での対戦がすでに決まっていた4月、ドイツ国内で話題になったことがある。
所属のボーフムで得点を決めた試合を、ドイツのハンジ・フリック監督が視察に訪れていた。フラッシュインタビューで「ハンジ・フリックが今日、見に来ているけど」とアナウンサーに聞かれ「ハンジ・フリック? なにそれ??」と答えたのである。
敵将の名前を知らなかったのだ。日本でプレーするドイツ代表がいたとして「もりやすはじめ? なにそれ?」と言うのと同じだ。そのフリックの前で決勝点を決めて見せた。
「全然意識してなかったですけど、それ(フリックってなに?発言)も含めてすべてがつながっていると言うか。やっぱドラマチックってよく言うと思いますけど、ドラマチックってほんとにあることなんだなって。
特に僕は、ドラマチックなことが起きる人間だと思ってるので、それが今日たまたまきた。まあもう今日のドラマはもう終わったので、次の試合に向けて準備したいと思います」
香川真司からもらったパワードラマチックな話はもうひとつある。4年前、サポートメンバーとしてロシアに赴き、代表選手たちとともに合宿をした。その当時の悔しさを「今後に生きるから」と励ましてくれたのは、香川真司だったという。
「(カタールW杯の)メンバー発表の前々日、シンジさんが僕の家に来てくれて、パワーをくれたんです。なにもないのにただただ会いに来てくれて、僕の家に泊まっていって。シンジさんも今回のW杯、これっぽっちもあきらめてなかったですし、本気で目指してたって言ってました。
ただやっぱ、そういう人たちの気持ち、ほんとに目指してた人が、最後の最後に僕のとこに来てくれて『だいじょうぶ。メンバーに絶対入るよ』って声をかけてくれて。なので、別れる時に『やれそうな気がします。パワーもらいました』って返して。それが今日につながってる。それもまあドラマチックですけど、僕はもうそういう男だと思います」
エピソードの数々を明かしながらも「いろいろ経験してきましたから」と意外にも冷静だった浅野。そのいろいろが報われたドイツ戦だったに違いない。