カタールW杯でポルトガルの初優勝はあるか。最高レベルのテクニックの選手たちが慎重に戦って安定感
注目チーム紹介/ナショナルチームの伝統と革新
第12回:ポルトガル
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充実した陣容で初優勝を狙うネーションズリーグのグループリーグ最終戦、スペイン対ポルトガルは見どころの多いゲームだった。どちらもパスワークが洗練されていて、ハイプレスでは互いに奪えない。そうなると、一方がボールを持てば、もう一方は撤退して守る。全体的にはスペインが優勢だったが、ポルトガルが攻め込む時間帯もそれなりにあった。
カタールW杯で初優勝を狙うポルトガル代表
どちらもハイプレスが効かないという点で、現在最もレベルの高い試合だったと言えるかもしれない。
ポルトガルは伝統的に技術が高い。旧植民地のブラジルから多くの選手が流れ込んでいるだけでなく、やはり旧植民地のモザンビーク出身者も多かった。伝説的な名手エウゼビオやマリオ・コルナもモザンビーク出身である。ボール扱いと体の動きが柔らかく、欧州というより南米に近いのだ。
カタールW杯のポルトガルはメンバーが充実している。生きる伝説化しているクリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)がいて、ベルナルド・シウバ、ブルーノ・フェルナンデスはマンチェスター・シティとマンチェスター・ユナイテッドのプレーメーカーだ。万能サイドバックのジョアン・カンセロ(マンチェスター・シティ)のほか、ビッグクラブのレギュラーとして活躍中の選手が揃う。
ダニーロ・ペレイラ、ヌーノ・メンデス(パリ・サンジェルマン)、ルベン・ディアス(マンチェスター・シティ)、ラファエル・レオン(ミラン)、ジョアン・マリオ(ベンフィカ)など、名前の通ったスター選手で占められている。
予選はプレーオフからの勝ち上がりだったが、メンバーと実力からすれば初優勝のチャンスもあるかもしれない。
美しいプレーで魅了した時代ワールドカップでの最高成績は初出場の1966年イングランドW杯での3位だ。この時のポルトガル代表は、ほぼベンフィカだった。エウゼビオ、コルナ、アントニオ・シモンエス、ジョゼ・アウグスト、ジョゼ・トーレスのアタックラインはベンフィカそのもの。
ベンフィカは当時の強豪クラブで、1960−61、61−62シーズンのUEFAチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)を連覇している。その後も1962−63、64−65、67−68は準優勝。ワールドカップは初出場でも、選手は経験十分で実力もあった。
1960年代のエースはモザンビーク出身のエウゼビオだ。強烈かつ正確なシュートで知られ、イングランドW杯では得点王になっている。テクニック、スピードもすばらしく、「欧州のペレ」だった。アフリカ出身選手の身体能力の高さを世界に知らしめたストライカーでもあった。
しかし、その後はしばらく低迷が続く。フェルナンド・シャラーナ、パウロ・フットレといった名手も生み出しているが、久々にポルトガルが脚光を浴びたのは1990年代に入ってからだ。1989、91年のワールドユース(現U−20ワールドカップ)を連覇した「黄金世代」の時代である。
ルイス・フィーゴ、マヌエル・ルイ・コスタ、パウロ・ソウザ、ジョアン・ピントなど、技巧派の若手が台頭。小気味のいいパスワークで敵陣を切り裂いていく攻撃は、ポルトガルのイメージを決定づけた。ただ、この世代は大きな期待を集めながらワールドカップでは結果を残していない。1998年フランスW杯は予選敗退、2002年日韓W杯もグループリーグで敗退してしまう。
強さを手に入れて強豪へ1990年代のポルトガルは、プレーの美しさでは歴代最高だったと思う。しかし、大舞台を勝ち抜くには何かが欠けていた。
1つは得点源。黄金世代は守備も固く、中盤のテクニックはすばらしかったが、明らかに決定力不足だった。偉大なエウゼビオの後継者が現れるのは、クリスティアーノ・ロナウドまで待たなければならなかった。
もうひとつはメンタルだろう。2004年の自国開催のユーロでは優勝候補と目されていたが、ポルトガル人で優勝できると思っていた人はたぶん少ない。大会中に街中で話を聞いても「せいぜいベスト4」「優勝はブラジルかドイツ。あ、ユーロだからドイツか」といった回答ばかり。スタジアムでも失点するとサポーターはシュンとなってしまう。
欧州の西に位置するポルトガルは、ドイツやフランスを「ヨーロッパ」と呼んでいて、自分たちも欧州人だという自覚があまりなかった。そうしたおとなしさが何となく代表チームのプレーぶりにも表れていた気がする。2004年のユーロは決勝まで進んだが、開幕戦で敗れたギリシャに再び負けて準優勝に終わってしまう。
ただ、このユーロは転換点だった。ブラジル人のフェリペ・スコラーリ監督が勝負強さを植えつけ、2006年ドイツW杯では4位まで勝ち進んだ。ユーロ2004で国際大会デビューしていたロナウドはエースに成長、2016年のユーロではフランスを破って優勝し、初のビッグタイトルを手に入れた。この時のポルトガルもテクニックは相変わらず高かったが、ノックアウトステージからは守備型の戦術にシフトして粘り強い戦いぶりだった。
1990年代に夢のある黄金世代のチームが現実の壁に突き当たり、その後は現実主義をとりいれて結果を出した。1980年代にシャンパン・フットボールと呼ばれて華やかだったフランスが、その後に強固な守備のチームで1998年フランスW杯に初優勝したのと少し似ている。
カタールW杯に臨むフェルナンド・サントス監督は9年目の長期政権。堅実さが持ち味で、黄金世代にあった「軽さ」は払拭されている。それでいてタレントは黄金世代を上回る充実ぶりだ。
ポルトガル代表の主要メンバー
ボールを保持して相手を圧倒できる力があるにもかかわらず、ミドルゾーンで守備ブロックを置く慎重さが目立つ。ある程度、相手にボールを持たせても構わない。守備の固さには自信があるのだ。少し引いて、カウンター時にFWの個の強さを生かすこともできる。
最高レベルのテクニックがありながら、それを前面に押し出すのではなく、いくぶん抑制的に戦う。かつての華やかさのかわりに安定感を手にしている。準強豪という位置づけのポルトガルだが、本格的に強豪国の仲間入りをするチャンスかもしれない。