サッカー日本代表を福田正博が最終点検。「森保監督は、世間が考える以上の厳しい戦いを想定している」
■カタールW杯への調整試合のカナダ戦も終わり、いよいよ本番へ臨むサッカー日本代表。11月1日のメンバー発表からここまでを見て、福田正博氏が大会直前での懸念点と収穫を指摘した。
カタールW杯本番前にカナダと親善試合を行なったサッカー日本代表
カタールW杯がいよいよ幕を開ける。日本代表は11月23日にドイツ戦、11月27日にコスタリカ戦、12月1日にスペイン戦に臨む。彼らの行く末について語る前に、まずは日本代表メンバーについて触れたい。
11月1日に森保一監督の口から26人の代表選手が発表され、その後に故障した中山雄太(ハダースフィールド)に代わって町野修斗(湘南ベルマーレ)がメンバー入りした。左サイドバック(SB)の中山に代えて1トップタイプのFW町野という選択は、ポジションだけを見ると違和感を覚えるものだが、全体の構成から考えれば腑に落ちないわけではない。
26人のメンバーのうち、GKは3人選ばれたが、それ以外のポジションは基本的に各ポジションにつき2選手で構成され、長友佑都(FC東京)が流動的な存在になっていた。その長友を左SBの伊藤洋輝(シュツットガルト)のバックアッパーとして計算できると考え、森保監督は故障した中山に代わる選手を、別のポジションに厚みをもたせる決断をしたのだろう。
ただ、こうした判断よりも衝撃を受けたのは、FW大迫勇也(ヴィッセル神戸)とMF原口元気(ウニオン・ベルリン)の落選だった。
大迫はコンディションの問題などもあって代表活動からしばらく離れていたものの、10月くらいからのJリーグでのプレーは復調している印象だった。ベスト時に比べれば80%ほどの出来という感じではあったが、日本人FWのなかで屈強な外国人DFと対峙しながら1トップの仕事を遂行できる実力は、大迫が抜きん出ている。また2021年シーズンまでブンデスリーガでプレーした経験や、前回大会をはじめとする国際大会の豊富なキャリアを踏まえれば、最終的にはメンバー入りするのだろうと思っていたからだ。
それだけに大迫を外した決断には驚かされた。ただ、これは見方を変えれば、森保監督のなかでは、世間が考えている以上にカタールW杯は厳しい戦いになると想定しているのかもしれない。大迫がいくら復調してきたとはいえ、試合は相手があること。グループリーグの対戦相手の力量から、大迫を起用するメリットが生かせない戦いになると判断したのではないかと思う。
コンディション回復は間に合うのか原口もメンバー入りはするものだと思っていた。グループリーグで対戦するドイツ代表やスペイン代表の強度を考えると、柴崎岳では物足りなさを感じていたことや、原口は中盤なら守備的でも攻撃的でもどこのポジションでもこなせ、いざとなれば3バックのウイングバックや、4バックでのサイドバックなどにも対応した実績もあったからだ。
ひとりで複数ポジションを担える選手というのは、過去の大会のメンバー構成では重宝されてきたし、今大会は原口がその役割を担うと考えていた。だが、蓋を開けてみたら、原口の名はなし。
これはカタールW杯のメンバーが26人まで拡大されたことも影響したのだと思う。これまでのように23人の選手しかメンバー登録できない場合は、マルチロールな選手を選ぶ必要があった。しかし、今大会は26選手を登録できるため、GK3人+10あるフィールドプレイヤーの各ポジションに2選手ずつ選んだとして、さらに3人を選べることになる。そのため各ポジションにスペシャリストを選出したほうがいいと決断したのだろう。
本番の日本代表の戦いについてだが、グループリーグ突破には、故障を抱えている選手が戦列に戻れるかにかかっていると言っていいだろう。日本代表の心臓であるボランチの遠藤航(シュツットガルト)と守田英正(スポルティング)が、出場できるのかは気になるところだ。
遠藤は11月8日のブンデスリーガ第14節のヘルタ・ベルリン戦で、相手選手と激しく衝突して脳震盪を起こした。私はこの試合の解説を担当していたが、頭の打ち方を見た瞬間に背筋が凍る思いがしたほどだった。そこから遠藤は回復プロトコルを踏み、代表合流の許可をもらっている。スタメンに名を連ねるほど回復してくれることが最大の喜びではあるものの、予断を許さない怖さがあるのが脳震盪だ。
ラグビーワールドカップなどで脳震盪を起こした選手を見たことがあると思うが、脳震盪の後遺症は危険なもの。遠藤を欠くのは日本代表にとってこれ以上ないほどの痛手だし、遠藤本人は目指してきた舞台が目の前にある以上は「出る」と言うだろう。でも、もし仮に遠藤の状態が万全でないのであれば、彼のこれから先の人生を考え、しっかりとした判断を下してもらいたいと思う。
守田も左ふくらはぎの状態から11月17日のカナダ戦を回避した。ドイツ代表、コスタリカ代表、スペイン代表との対戦を考えた時に、遠藤に加えて、守田までも欠くことになれば、日本代表にとっては非常に厳しい戦いになると言わざるを得ない。それだけに、回復してくれることを願うばかりだ。
板倉の復帰、鎌田のボランチ起用は収穫攻撃のところでも、発熱のために代表合流が遅れた三笘薫(ブライトン)の状態も気になっている。彼がプレミアリーグで初ゴールを決めたウォルバーハンプトン戦も解説していたのだが、プレミアリーグであれだけのプレーができる選手を欠くことになれば、日本代表にとっては痛すぎる。
私はこれまで、日本代表での三笘の起用法については、ジョーカー的な途中出場がフィットすると考えていた。だが、ブライトンでのプレーぶりを見て考えを改めている。プレミアリーグで相手をきりきり舞いにできる選手は世界を見渡しても数えるほどしかいないなか、その一人である三笘を後半の勝負どころまでベンチに置いておくのは、なんともったいないことか。試合開始からピッチに送り出したほうが日本代表を助ける、と。それだけに三笘がどれくらいのペースで復調できるかは気がかりだ。
難しいのは、熱が下がったからといって、すぐに元通りのプレーができるわけではない点だ。筋力は休んだ影響などから落ちてしまうので、そこを取り戻す時間が必要になる。果たして三笘の場合は、コンディションを戻すのにどれくらいの時間を要するのか。長引くようだと日本代表は苦しくなってしまう。
その一方で光明もある。カナダ戦は試合には負けたものの、このタイミングでの親善試合の勝敗はさして意味はない。大敗したというのなら話は別だが、主目的はあくまでもチームに合流した選手たちのコンディションを整えることで、そのなかで本番に向けて気がかりな点などを潰しておく程度のもの。
その点において日本代表は2つの収穫があったと言える。ひとつは板倉滉(ボルシアMG)が、大怪我を乗り越えて2カ月ぶりにピッチにしっかり戻ってきたことだ。CBとしてスタメン出場し、ケガの影響を感じさせないプレーを見せてくれた。冨安健洋(アーセナル)が足の状態に不安を抱えているなかで、板倉が復帰したのは日本代表にとって本当に大きい。今シーズン序盤戦にクラブで見せた活躍ぶりを、ワールドカップでふたたび見せてくれると期待している。
もうひとつの収穫は、鎌田大地(フランクフルト)をボランチで起用できたことだ。鎌田はフランクフルトではボランチで存在感を発揮しているが、これまで日本代表ではその準備をする機会がなかった。なぜなら遠藤や守田がいたためだ。これをワールドカップ開幕前のタイミングで試せたのは大きい。日本代表がより攻撃的に出なければいけない状況や、遠藤と守田を欠くような時には、ボランチ・鎌田がチームを救う一手になる可能性はある。
あとは泣いても笑っても本番のみ。森保監督の下で4年間かけてつくられてきたチームが、日本サッカーがまだ見たことのないベスト8以上の光景を見せてくれると期待して、精一杯応援をしたい。みなさんにも最大限の声援をカタールで戦う日本代表に向けて送ってもらいたいと思う。