激闘来たる!カタールW杯特集
中村憲剛が「フロンターレ組」にエール(1)
<谷口彰悟・山根視来>編

 現地11月20日、カタールにて2022年FIFAワールドカップが開幕。今回選ばれた日本代表メンバーを見返すと、最終登録26人中のうち、実に7人もの選手が「川崎フロンターレ」に縁を持っている。フロンターレの"バンディエラ"中村憲剛氏にそれぞれの選手の特徴や思い出を語ってもらい、本大会に向けてエールを送ってもらった。

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31歳で初めてW杯メンバーに選出された谷口彰悟

── まずは発表された26人のメンバーについて、率直な感想を聞かせてください。

「ひと言で言えば、『意外』でした。特に原口(元気/ウニオン・ベルリン)が外れたのはちょっと驚きました。たしかに原口は最近の代表ではあまり試合に出ていませんでしたけど、継続的にメンバーに選ばれてきた選手です。森保(一)さんは試合に出られなくてもそれ以外の部分も大事にしてきた人だからこそ、彼の名前がないことにある種の覚悟を感じました。

 大迫(勇也/ヴィッセル神戸)に関しては戦い方のところだと思います。大迫がいなかった9月の遠征で手応えがあったんでしょう。あの2試合のやり方でいけると判断したんだと思います。ただ結果的に、初選出の選手がかなり多くなりました。4年でこんなに変わるのかという驚きもありますね」

── 東京五輪組が多いですよね。

「東京五輪が1年後ろ倒しで開催されたことは、かなり影響があったと思います。選出された26人のうち、オーバーエイジも含めれば12人が東京五輪メンバーですからね。

 初選出の選手が多いことは、経験値を考えれば不安ですけど、それよりも自分の考えが浸透している選手、パフォーマンスが計算できる選手を選んだということでしょう。それに森保さん自身も『経験値よりも野心を取った』と言っていましたが、過去の実績より勢いや伸びしろを重視した、ということもあると思います」

── 登録メンバーが26人に増えたことも選考には影響したのでしょうか。

「スペシャリストを多く入れられるので、ポリバレントな選手の優先順位は低くなりましたよね。旗手(玲央/セルティック)が選ばれなかったのも、そういう部分が影響したのかもしれません。もちろん欧州での活躍に比べ、日本代表ではまだインパクトを残せてないことも理由のひとつかもしれません。

 ただ、すべては監督の判断ですし、選考の是非は結果によって評価されるべきこと。誰を入れても、入れなくても、すべての人が納得する選考はないなかで、このメンバーリストから森保さんの相当な覚悟を感じています」

── 26人のなかには憲剛さんが川崎フロンターレで一緒にプレーした選手が7人も選ばれました。今回はそれぞれの選手への想いや、ワールドカップで期待したいことなどを聞かせていただきたいと思います。まずは、谷口彰悟選手が選ばれたことをどう感じていますか。

「ひとつは『大人を選んだ』ということだと思います。日本代表は強い個性の集まりですし、今回は若手も多い編成です。そのなかで彰悟は年齢も含めて大人として、安定や良心を担保できる選手で、これまでの代表活動のなかでもキャプテンに次ぐ立ち位置にあったと思います。

 フロンターレ出身の選手たちにとっても彰悟の存在は大きいですし、チーム全体のなかでも谷口彰悟という選手が信頼されているなというのは見ていても感じること。プレーはもちろんそうですけど、リーダー的な存在として、代表のなかでどんどん存在感が増していったと思います」

── 谷口選手はハリルホジッチ監督時代に何度か選ばれていましたが、以降は代表から遠ざかる時期も経験しています。この4年間でどういった部分が成長したと感じますか。

「ハリルホジッチ監督の時に呼ばれた時よりも、いろんな経験を積み重ねて、プレー面もメンタル面も大きく成長したと思います。当時はまだ日本代表として当事者意識がなかったと思います。でも、この4年間フロンターレで結果を出すなかで、DFとして間違いなく成熟しました。今や、まごうかたなき国内ナンバーワンDFだと思います。

 特に今季の序盤戦は中国(1月27日@埼玉)、サウジアラビア(2月1日@埼玉)との大事な2連戦にスタメン出場し、勝利に貢献するパフォーマンスを見せたこと、そしてその後のJリーグでのプレーを見た時に、別格になってきたなと。国内ではすでに、名前と顔で守れるくらいのレベルにまで来ていると思います」

── 現役時代に憲剛さんがアドバイスすることもあったのですか。

「彰悟には、入ってきた時から『怖さ』という点で物足りなさを感じていたんです。だから、相手に嫌がられる存在になってほしいということを、彼にはことあるごとに言ってきました。それが、僕が引退する数年前くらいからキャプテンを任され、チームの勝敗を背負ったことで、ググっと伸びていきましたね。

 ただ、代表では悔しい想いをする時のほうが多かったと思います。ベンチ外の時もありましたし。それでも、キレずにチームのために振る舞うことで、周囲の信頼を勝ち取りました。

 今回もピッチ外の雰囲気を作るベテランメンバーのひとりとしての役割も託されていると思います。E-1でキャプテンを任されたことも、日頃の振る舞いが評価されたんじゃないでしょうか」

── 31歳にして初のワールドカップ出場は、憲剛さんの29歳を上回りますね。

「たいしたものですね。だから、今回の彰悟のメンバー入りには多くのメッセージが込められていると思うんです。国内で磨き続けていてもワールドカップに行ける可能性があるということ。

 もちろん、ビルドアップの部分やディフェンス力も含め、シンプルに選手としてのパフォーマンスが評価されて入っているのは間違いないですけど、彰悟の場合はそれ以外のパーソナリティのところも大きいなと。だから、個人的にもかなりうれしいですね」

── 付き合いは長いですからね。

「ルーキーの時から見ていますから。歳を重ねるなかで不安定な時もあったし、危うい時も見てきましたけど、その都度、いろんな話をしてきました。

 彰悟の優れているところは、話ができるところ。こちらの言うことをしっかりと読み取ったうえで、自分の思っていることを正しい言葉でぶつけられるんです。なので、会話に無駄がない。そういうところも信頼される要因だと思います。

 僕が感じている信頼感みたいなものは、おそらく森保さんも感じているんじゃないでしょうか。ぐいぐいと引っ張るキャプテンシーじゃないけど、その人間性、安心感はチームに必要なんです。いろんな話をしてきた選手がワールドカップの舞台に立つのは、やっぱり感慨深いですね」

── 続いて、山根視来選手について聞かせてください。2020年に湘南ベルマーレから加入してきた時の印象はどういったものでしたか?

「その年に僕が引退するので、視来と一緒にプレーしたのは結局1年間だけでしたけど、最初の頃はとにかく不安そうでした。視来だけじゃなく、フロンターレに来る選手はみんな言うんですよ。(周囲が)上手すぎると。だから、『必死でやらないといけない。とにかくこの空間に慣れないといけない』ということを言っていたのが印象に残っています。

 ただ、彼がすごいのは、自分が足りていないことを理解しているから、あとはやるだけだというマインドで臨めること。変なプライドがないから、いろんなものをすぐに吸収していったんですよ。

 それに、どんな状態であっても絶対に試合に出るんですね。なぜかと言うと、自分が休めばほかの選手がチャンスをモノにする可能性が出て、ポジションを奪われるのが嫌だからなんです」

── ハングリーですね。

「身体もタフですけど、気持ちも相当強いんです。そうじゃないと、あれだけ走れません。苦しい時にチームのために走ることが自分の持ち味と言いきる選手ですから」

── ふたりでよく話もされたんですか?

「僕はその年リハビリ中で、一緒にピッチに立つ機会は少なかったですけど、背番号が13と14だから、クラブハウスのロッカーがとなりだったんです。だから、いろんな話をしましたね。

 よく彼に伝えたのは、サイドバックはチームで一番うまくないといけない、だから視来のところで奪われちゃいけないんだよと。奪われないサイドバックが一番いい選手だと伝えていました。

 彼の場合は、守備の選手なのにもともと得点能力もあって、家長昭博(川崎)の存在も大きかったと思います。能力の高い選手に、生かし、生かされながら、いろんな引き出しを増やしていったと思います」

── 気持ちの強さがベースにあるからかもしれませんが、大事な場面で結果を出す勝負強さも備えていますよね。

「そうなんです。サイドバックなのに点を取りそうな雰囲気を持っている選手はなかなかいませんからね。代表では現状、酒井宏樹(浦和レッズ)のバックアップの立場ですけど、勝負どころで起用されるんじゃないかと、僕は見ています。

 視来は今いる日本代表メンバーのなかでは、経歴的には被エリートだと思います。追い込まれた時の底力っていうのは、そういう道を辿ってきた選手にしか出せないんですよね。

 泥臭く闘うことが自分の持ち味だと言える選手が、26人の中にいることは実はすごく大きいことだと思っています。いきなり最後尾から現れてゴールを決めることができるので、カタールでも彼の意外性に期待したいですね」

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