サッカーマニア平畠啓史さんが注目しているカタールW杯の面白ポイント。「エムバペは早くオチがほしい今の時代が求めた選手」
エムバペは「ボールを持った瞬間に面白い」と平畠啓史さん
いよいよワールドカップが始まります。今回のワールドカップでまず楽しみにしているのがカタールという国です。
日本人はカタールについてどんな国なのか、僕も含めてあまり詳しく知らない人が多いですよね。試合の時に開催都市などよく紹介されますが、現状では都市名もほとんど知らないぐらいの知識です。
スタジアムの周りはどんな景色なのか、どんなスタジアムなのか。おそらくワールドカップ用に建てたスタジアムがあると思います。世界の最先端を取り入れたスタジアムが見れるのではないかと期待しています。
今大会は、近年のサッカーをずっと支え続けてきた、リオネル・メッシ(アルゼンチン)やクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)、ネイマール(ブラジル)らがもしかしたら最後の大会になるかもしれません。一つの時代が終わって新しい時代が始まる大会になるのかなと。
今までだったら、ワールドカップの雑誌を作るなら表紙はとりあえずこの3人だったと思うんですよ。その点で今後誰が表紙になっていくかが、はっきりとわかる大会になるんじゃないでしょうか。今後10年を引っ張ってくれる選手が出てきてほしいですよね。
そのなかでも一番の候補は、キリアン・エムバペ(フランス)でしょうか。
今の時代ってTik TokなどSNSの消費のされ方を見ていると「早くオチがほしい」という流れになっているなと。フリがあって引っ張ってサビが面白いというのじゃなくて、いきなり頭から面白いコンテンツが楽しまれてる。
エムバペって頭から面白い。前奏も振りもいらない。最初から自分でサビに入っていけるような選手ですよね。今の世の中がああいう選手を求めているんじゃないかと。世の中が求めている選手が出てくるものだと僕は思っています。ボールを持った瞬間に面白いシーンを作れるエムバペは、今後を背負うスターではないでしょうか。
次に僕が注目しているのは、スペインのガビですね。自分で打開できて、サッカーの楽しさを感じさせてくれる選手。あんなプレーを自分でもしてみたいなって思いますよね。個人的に好きなんです。あとはドイツのジャマル・ムシアラ。まだそこまで出場機会はありませんが色んなポジションができるので楽しみな選手ですね。
チームでは、フランスが楽しみですよね。とにかく強そう。エムバペもいますし、チームとしての強さを感じますよね。問題はちゃんとまとまるかどうかですが......。
グループDはフランス、デンマーク、チュニジア、オーストラリアですが、フランスにとっては決して苦しいグループではないと思うので、それも大きい。大会の頭にピークを持っていく必要がなく、大会を通して尻上がりにあげていくことができるんじゃないでしょうか。フランスは有利だと思います。
ただ、優勝となると、どこになるかは全然わかりません(笑)。今回は圧倒的な国がありません。フランスも強いですが、しばらくワールドカップを優勝していないブラジルも今大会はチャンスがあると思います。
ただ個人的にはアルゼンチン対ポルトガルの決勝でメッシ対C・ロナウドになったらめちゃくちゃ面白いなと思っています。でもポルトガルでは、早くもワントップはC・ロナウドでいいのかという話も出てきています。やっぱりそんな時代の移り変わりが起こる大会なんだなと感じています。
日本はピンチを防いでも喜びすぎないワールドカップの組み合わせ抽選会を見ていた時、日本がグループEに入った瞬間、腰がくだけました(笑)。
先にスペインとドイツが同じグループになった時点で「おお、このグループ凄いことになった!」と思ってたんです。いざ日本の抽選になった時に、まだグループEが空いていたんでやばいぞって思ってました。
部屋で一人で座って見ていたんですが、日本の番が来た時はなぜか立ち上がっていたんですよね。日本がグループEに入った瞬間、「アカン!」って大声で叫んで腰がくだけました。ちょっと近所迷惑だったかもしれないぐらい、大きい声が出ました(笑)。
それから「でもやっぱりいけるんじゃない」って思ったり、「いやいや、やばいよなぁ」っていう思いの波が今もずっと繰り返しています。でも最初は「アカン!」って思ったのは正直なところです。一番入ってほしくないところに入っちゃったので。ワールドカップはどのグループも難しいんですが、それでもここかよっていう(笑)。あの瞬間「やったー」とは普通ならないですよね。
ドイツは、新しいドイツ代表に生まれ変わってきている時期ですよね。試合を見ていると、切り替えの速さがあり、縦に速い印象です。あまり幅をとるようなサッカーではなく、どちらかというとペナ幅で縦に進んでいくような攻め方。プレーの強度は、ドイツらしさが相変わらずありますよね。
全体的に隙がない。予選ではいろんなメンバーを試していましたが、ネーションズリーグでだいぶ骨格が固まってきた印象です。GKはマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンとマヌエル・ノイアーのどっちが出るのか楽しみですね。どっちが出てきても世界最強クラスのキーパーです。
日本からすると、初戦で戦えるのはよかった部分もあるかなと思います。ドイツのように優勝を目指していく国は、1試合目からコンディションをピークに持ってくることはないと思うので、逆に日本がピークを持っていければ面白いゲームになるんじゃないでしょうか。初戦はどの国にとっても緊張があるものですから、日本にもチャンスがあるはずです。
対ドイツで僕が広めたいのは、ピンチを防いだり、ボールを取ったあとに喜びすぎないことなんです。ドイツは攻撃から守備の切り替えがものすごく速いので、ボールを取られた瞬間ガッときます。だから日本がボールを奪った時は、逆に危ないと思っておいていいぐらい。
また後ろでゆっくりとボールを回しても、刈り取られる危険があります。ドイツはセンターバックのアントニオ・リュディガーもニクラス・ジューレも、前にがんがんボールを持ち運ぶのでその分裏が空きやすい。日本は前線がクイックネスで勝るところもあるので、ボールを取ったら手数をかけずに裏へポーンと落とすボールをどんどん使っていったら面白いのかなと思ってます。
コスタリカは情報がないからこそ楽観的にとらえる自分と、「いやいやこういう国こそ危ない」と悲観的になるふたりの自分がいます(笑)。
ドイツ戦の結果次第でコスタリカとの戦いは変わってきますよね。またコスタリカ対スペインの試合を見てから臨めるので、いろいろと準備できるところもあると思います。ドイツ戦で勝ち点1でも取れていれば、この試合に向けてのモチベーションは大きく変わりますよね。1戦目は試合内容が悪くても勝ち点1を取る戦いでもいいんじゃないでしょうか。
コスタリカについて知ってるのはケイロル・ナバスぐらいですもんね。GKの情報だけ持っててどないすんねんってところですが(笑)。今、日本人でコスタリカの情報を持っている人は、メディアにひっぱりだこなんじゃないでしょうか。
日本らしい戦術や戦い方が生まれてほしいスペインは、ドイツの縦に対して横のイメージが強いですね。ピッチの幅を広く使ってきます。4−3−3でサイドに展開してから崩しが始まるイメージ。日本は焦れずに我慢するのが大事ですね。
たとえスペインのボールポゼッションが70%になっても焦らない。点を取られていなければ大丈夫という気の持ちようじゃないと。中途半端にボールに行くと、(マークが)ズレて、ズレて、ズレて、ゴール前に運ばれる形になりかねない。誰になんと言われてもボールを持たれても気にしない!
1試合目と2試合目の結果次第で戦い方が変わる試合ですが、無理にボールを取りに行かなくてもいいと思っています。ボールを持たれても、持たせているぐらいの気持ちでいいんです。取りに行けばいくほど間を通されてしまうので。
日本人って、頑張って走ってる姿を見るの好きじゃないですか。僕も日本人なんでそうなんですけど、でもこの試合ではボールを取りいかないでそこに立っていることが大事、勝つために動かないでここに立っているんだよと。そういうサッカーがあること、そういうサッカーも面白いんですよっていうのも、日本の人に知ってもらえる機会です。ワールドカップしかサッカーを見ない人もいるので。
サッカーにたずさわる人として、試合前からこういうことを言っていったほうがいいのかなと思っています。ボールを持たれていると「なんだ日本ダメじゃん」って言われちゃうと思うんですが。
こんなこと言っているんですが、ワールドカップって自分たちの現在地を知る大会でもあるので、持っている力を示してどのぐらいやれるのかというのを見てみたい自分もいます。自分たちの力を出してそれでやられちゃってもしょうがない、それを受け入れる気持ちも僕のなかにはあります。
今回の日本は、海外でプレーしている選手が本当に多いので楽しみですよね。僕の世代と今の若者の世代の海外への意識って全然違うと思うんですよ。僕らは今でも外国人としゃべるとしても緊張したり、こっちがどんな表情を作ればいいのかなとかわからない時がありますもん。
でも今の選手たちって、外国人と戦うのは当たり前って感覚じゃないですか。ユーチューバーも日本を超えて世界に発信していってる人もたくさんいます。サッカーだけじゃなくて、日本社会の外国への意識が変わってきてる。特に今の若い人たちは。冨安健洋選手なんてプレミアリーグで普通にやれているじゃないですか。
僕がワールドカップで期待しているのは、日本らしい戦術や戦い方が生まれてほしいなと。フォーメーションや戦術はいろいろ出尽くした感じはあるんですが、それでも日本独特な戦い方やシステムってあるんじゃないか。それはゆくゆくなのかもしれませんが、しっかりした形のものじゃなくても雰囲気だけでも出てくればなと思っています。
平畠啓史
ひらはた・けいじ/1968年8月14日生まれ。大阪府出身。芸能界随一のサッカー通として知られ、サッカー愛溢れる語り口が人気で、多くのサッカー関連番組の出演中。平畠啓史Jリーグ56クラブ巡礼2020 日本全国56人に会ってきた」(ヨシモトブックス)など、サッカー関連の著書も多い。