2022スーパーGTは日産vsホンダで閉幕。なぜトヨタはこんなにも弱くなってしまったのか
日本最高峰の自動車レース「スーパーGT」の2022年シーズン最終戦が11月5日・6日、栃木県のモビリティリゾートもてぎ(旧ツインリンクもてぎ)にて行なわれた。トヨタ、ホンダ、日産の国内3大自動車メーカーが覇権を争うGT500クラスでは、ナンバー12のカルソニック IMPUL Z(平峰一貴/ベルトラン・バゲット)がシリーズチャンピオンを獲得した。
27年ぶりにGT500クラス王者となったチーム・インパル
今回戴冠した12号車は、ご存じ「元祖・日本一速い男」と称された星野一義監督が率いる名門「チーム・インパル」。カルソニックカラーのマシンがシリーズチャンピオンを獲得するのは、1995年の全日本GT選手権以来、実に27年ぶりのこととなる。世界中にもファンの多い"カルソニックブルーのマシン"が、ついに日本レース界の頂点に返り咲いた。
日産勢の今シーズンを振り返ると、昨年から大幅に改善された点は、これまでずっと課題と言われてきたストレートスピードだ。マシンのセッティングが煮詰まってくるシーズン中盤になっても、日産勢は最後までライバルにスピードで後れを取らなかった。
安定した強さを誰よりも肌で感じていたのは、星野監督だろう。現場で自らが指示を出すシーンはほとんど見られず、いかにチームメンバーに絶大な信頼を置いていたのかがわかる。
「ふたりのドライバーはミスなく走ってくれて、レース中も他車と接触しない。決勝でも毎回バゲットがスタートしてから何事もなく『はい、どうぞ』という感じで平峰にバトンタッチしてくれて......。ふたりともそれぞれ特徴があって、すごくいいドライバーです。
また、うちのチームスタッフもピットストップが本当に速くなった。スーパーフォーミュラでもスーパーGTでも、いつもトップクラス。高橋(紳一郎工場長)がスタッフたちの管理を全部やってくれて、クルマに関しては大駅(俊臣エンジニア)が中心に考えてくれて、レース中のピットのタイミングなども(息子の星野)一樹がいろいろ計算してくれて......。本当にすごくいいチームに成長しました」(星野監督)
ホンダと日産の差とは?チーム総合力の向上は、結果を見ても明らかだ。トラブルでリタイアとなった第3戦・鈴鹿を除いて、12号車はすべてのレースで7位以内を獲得。一番の勝負所となった最終戦でも、これまで課題だった予選を克服して最終的に2位となり、悲願の王座獲得にこぎつけた。
その12号車を筆頭とする日産勢に最後まで食らいついたのが、昨年最終戦で王座を逃したホンダ勢だ。今年は「タイプS仕様」のNSX-GTに変更し、フロント部分をはじめ空力パーツの一部を新しくして参戦した。
シーズン序盤はライバルに先行を許すレースが多く、「今年のホンダは苦しいか?」と思われていた。だが、徐々にポイントを積み重ねていき、第7戦・オートポリスではナンバー17のAstemo NSX-GT(塚越広大/松下信治)が今季初優勝すると、最終戦・もてぎではナンバー100のSTANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)がポール・トゥ・ウィン。シーズン終盤でのホンダ勢の快進撃は目覚しいものがあった。
17号車は自力での逆転チャンピオンの可能性も残していたが、最終戦は苦戦を強いられて王座奪還ならず。あと一歩が足りなかった印象だが、ホンダ陣営のシーズンを振り返ると「勝てたはずのレース」「ポイントを獲れたはずのレース」も少なからずあったのは確か。細かな部分で生まれた日産との差が「決定打となった」ように感じられた。
このように今シーズンは「日産vsホンダ」の王座争いで大いに盛り上がった。その一方、ここ数年安定した強さを誇ってきたトヨタが珍しく上位に顔を出せないシーズンでもあった。
最終戦では、ナンバー14のENEOS X PRIME GR Supra(大嶋和也/山下健太)とナンバー37のKeePer TOM'S GR Supra(サッシャ・フェネストラズ/宮田莉朋)にわずかながらに逆転チャンピオンの可能性は残っていた。だが、両者とも予選で下位に沈んでしまったことが大きく響き、主役の座に返り咲くことはできなかった。
トヨタが王座陥落した理由2020年にデビューしたトヨタの参戦車両「GRスープラ GT500」は過去2年、全車がノーウェイトとなる開幕戦や最終戦ではライバルを圧倒する速さを見せていた。今年の最終戦も上位を脅かす存在になるかと思われていたが、予選では6台中5台が下位に沈む大苦戦。トヨタ陣営のパドックはどんよりとした空気が流れていた。
2022年は日産、ホンダともに参戦車両を変更してシーズンに臨んだ。結果、序盤の2メーカーは新マシンの性能をフルに引き出せず、経験値の豊富なトヨタGRスープラが一歩リードしていた場面もあった。
しかし、シーズン中盤から後半に突入すると、日産やホンダがマシンの熟成を進めたのに対し、トヨタは思ったほど性能を伸ばせなかった。その結果が最も露呈したのが、全車ノーウェイト勝負で争われる最終戦だったと言えるだろう。
また、トヨタ勢は昨年から今年にかけてドライバー体制を大幅に変更し、20代前半の若手ドライバーを積極的に起用した。その結果、若手の勢いが存分に発揮されたレースもあったのだが、経験不足によって苦戦を強いられる場面もあったように感じられた。
さまざまなシチュエーションに対処できる"経験"も、スーパーGTでは重要になってくる。今シーズンは日産やホンダと比べて、そこが足りないと感じる場面も多かった。ただ、経験は積んでいくことでしか克服できない部分でもあるため、来季以降の成長に期待したい。
いずれにしても2022シーズンは、日産の「新型Z」が登場したことで、ここ数年の流れが大きく変わることとなった。来シーズンもこのまま日産が覇権を握るのか、2年連続して一歩及ばなかったホンダが王座を奪還するのか、それとも昨年王者のトヨタが意地の巻き返しを見せるのか。2023シーズンに向けての戦いは、すでに始まっている。