大会新の記録で全日本駅伝を制した駒澤大

圧倒的な駒澤大の強さ

 全日本大学駅伝は、出雲駅伝に続き、駒澤大学が圧倒的な強さを見せた。

 全8区間中、区間賞が3区間、他はすべて5位以内(4−2−5−1−2−4−1−1)。3区の山野力(4年)でトップに立つと、そのまま独走し、5時間6分47秒という大会新記録で全日本を制した。

「まさか6分台が出るとは......」

 駒澤大の大八木弘明監督もびっくりのタイムが出たが、そのタイムが示すようにチームの勢いはちょっと手がつけられない状態になっている。

 選手の状態がいいのは、出雲、全日本を合わせてブレーキ区間がひとつもないことからもうかがえる。出雲は全選手が2位以内で、今回の全日本も5位以内という結果を出している。これは大八木監督、藤田敦史コーチが選手の状態をきちんと見極めて、それをオーダーに反映しているからだ。特に初めて走る選手は、蓋を開けてみないとわからないところもあるが、全体のコミュニケーションを活発化させることで、状態を確認することができている。今回、1年生の山川拓馬を4区で起用したが、上りがある区間の特徴や選手のメンタル、体調面を直前まで判断してのことだった。その山川は桁違いの走りを見せ、区間賞を獲得した。2区2位と好走した佐藤圭汰(1年)とともに1年生がいい走りをするとチームのムードが盛り上がる。

 ただ、山川に浮かれた様子はない。

「部内の競争が激しいので、今回いい走りができたからといって箱根(での出走)が決まるまでは気が抜けません」

 山川がそう語るように、今の駒澤大は駅伝のメンバーに入ることすら難しい。実際、今季トラックシーズンでは好調だったが、故障で遅れた篠原倖太朗(2年)が1年ぶりに駅伝に出走し、いい走りを見せた。出雲のアンカーとして走り、復活をアピールした鈴木芽吹(3年)はその後、足の痛みを訴え、故障が長引かないように配慮してオーダーから外されたが、田澤廉(4年)は「戻ってくる」と断言している。出雲、全日本を走ったメンバー以外では唐澤拓海(3年)、赤星雄斗(3年)、青柿響(3年)、吉本真啓(2年)、ルーキーでは伊藤蒼唯も好調だ。分厚く強い選手層を武器に、大八木監督は「箱根まで故障者が出ず、いい状態で戦えれば勝機はあると思います」と、箱根での勝利の自信をさらに深めた様子だ。

 主将の山野力(4年)は言う。

「ライバルは青学大ですね。先頭に立たせると一番怖いチームなので、次の箱根は前半から自分たちが前に出て、ぶっちぎりで勝ちたいと思います」

 田澤も「ライバルは青山」と唯一、名前を上げて警戒している。4年生が引っ張るなか、山の区間がハマり、故障者がなく、万全の状態で臨めれば、前回の青学大の大会記録を更新する勢いで箱根制覇、大学駅伝3冠を達成しそうだ。

山の区間で勝負したい青学大

 連勝街道をひた走る駒澤大を止めるのは、青学大だろう。

 今シーズン、出雲は4位、全日本は3位と駅伝で力を十分に発揮できていない。駒澤大との最大の差は、今回の全日本では2区と8区とブレーキ区間が出てしまったことだ。全日本の2区白石光星(2年)の起用は直前の練習では非常に調子がよく、好調を維持していたことでの判断だった。だが、調子がよいせいか体が軽くなりすぎてしまい、調整に失敗した。それを見極めるのは難しいが、原晋監督のすごさは、まさにその細かい部分を見抜くところだったはずだ。その選手のコンディションを見極める眼が機能し、主力に故障者が出なければ駒澤大を倒す力は十分に保持している。

 これは、タラレバになるが、全日本で8区のアンカーの宮坂大器(4年)に襷が渡った時点でトップの駒澤大とは2分27秒差だった。ブレーキになった2区で2分以上遅れたので、そこを普通に走っていれば少なくとも駒澤大とアンカー勝負にまでもっていけた。3区から7区までは青学大らしい巻き返しを見せ、2区で13位にまで落ちた順位を3位にまで戻せたのは、底力がある証拠。近藤幸太郎(4年)が田澤に一目置かれる存在となり、エースの風格を漂わせ、横田俊吾(4年)は全日本4区2位、中村唯翔(4年)が6区3位、佐藤一世(3年)は全日本3区2位と好調だ。また、今回入れ替えになった西久保遼(4年)、出雲で悔しさを味わった志貴勇斗(3年)、田中悠登(2年)、さらに若林宏樹(2年)、太田蒼生(2年)らもいる。

「山の上りの5区と下りの6区には自信があります。箱根では勝ちにいきます」

 原監督はそう宣言しているが、駒澤大の唯一の懸念である山で差を詰める、あるいは広げ、先行する展開になれば青学大の2連覇が見えてくるだろう。

ダークホースは國學院大か

 優勝を争う2チームに食い込んできそうなのが、國學院大だ。

 出雲では最終区の6区で2位、全日本でもアンカーの伊地知賢造(3年)が猛烈なまくりを見せて青学大を抜き、昨年の4位を超えるチーム史上最高位の2位に入った。

 全日本は1区17位と出遅れたが、すぐさま2区の山本歩夢(2年)で取り返し、7位にまで順位を上げた。5区の青木瑠郁(1年)が区間賞を獲る走りで2位に上がり、6区で3位になったが、最終的に2位を確保した。主将の中西大翔(4年)、伊地知、平林清澄(2年)、山本の4本柱が中心だが、大幅な出遅れを他選手がカバーして順位を押し上げていけるのは個々の選手の力が非常に強いのと同時に、チームに勢いがあるという証拠でもある。

 國學院大は浦野雄平(現富士通)・土方英和(現Honda)の強い世代が卒業したあと、前田康弘監督は平林らが4年になった時、箱根で優勝を争えるチームにしていきたいと語っていた。ところが昨年からその芽がすでに開花しつつあり、今シーズンは駒澤大と青学大の間に割って入る力をつけている。ただ、箱根は全10区間、20キロを走れる選手を揃えたうえで5区6区のような坂道の区間もある。「駒澤大さんは、エベレストのような大きな山です」と、前田監督は打倒・駒澤大に向けては慎重だ。だが、出雲、全日本を走ったメンバーに加え、鶴元太(2年)、沖縄出身の1年生コンビ上原琉翔と嘉数純平ら中間層の選手の状態が上がってくると2強を食う一番手になるだろう。

中央大、東洋大も見逃せない存在

 全日本の走りで他校に警戒心を喚起させたのは、中央大と東洋大だろう。

 中央大は、出雲3位、全日本大学7位と安定した結果を出している。今回の全日本は、吉居大和(3年)のコンディションが整わず、出場回避の予定だった。だが、前日に調子が戻って急遽6区に入り、区間新の走りでエースとしての役割を果たした。「最初から投入できれば、違う区間で入れたかった」と藤原正和監督は語ったが、ここの区間で順位を上げたのが結果的にポイントになった。また、もうひとりのエース格である中野翔太(3年)も区間エントリ―から外れていたが、「走れない状況ではないが、箱根のために大事をとって」という監督の判断によるものだった。吉居の突然のエントリ―と中野のオーダー外の影響か、今回の全日本はやや順位がデコボコした駅伝になってしまった。それでも粘り強く戦い、シード権を確保したことはチームにとって大きな自信になったはずだ。

 また、出雲に出られず、記録会で頑張った湯浅仁(3年)と若林陽大(4年)がメンバー入りして、湯浅が7区10位、若林は5区6位とまずまずの走りを見せた。各区間での選手の走りや適性などを箱根の前に確認できたので、これからは箱根に向けて足りない部分を調整していくことになる。箱根で整った駅伝を見せられれば、おもしろい存在になりそうだ。

 東洋大は、出雲9位、全日本8位とチームとしてはやや低調な状態が続いている。出雲は1区13位、全日本1区14位とスタートで大幅に遅れた。昨年、スーパールーキーとして出雲5区区間賞で華々しいデビューをした石田洸介(2年)は、今回の全日本で2区9位にまで盛り返した。だが、チームを立て直すところまでは至らず、中盤以降になんとか帳尻合わせをした感じだ。レース後、酒井俊幸監督は、「選手はよくやったと思いますし、手堅く襷をつなぐことができました。ただ、タイムを大きく稼げる選手がいません」と今のチーム状態について語った。エースの松山和希(3年)を欠き、軸が定まらないので水が漏れてしまうような駅伝になっている感じだ。

 ただ、東洋大は箱根の戦いを熟知している。2020年の箱根では10位と思うような結果を残せなかった。復活を賭けた翌シーズンで、全日本は6位と優勝した青学大に2分近くの差をつけられて敗れた。それでも2021年の箱根では往路2位、復路9位で総合3位に復活した。この時の往路メンバーには現主将の前田義弘(4年)、児玉悠輔(4年)らがいる。来年の箱根の目標は「3位以内が妥当」と酒井監督は語るが、駒澤大、青学大と争うのが東洋大のあるべき姿である。どこまでチームを建て直して箱根に臨めるか。改めて酒井監督の手腕が問われることになるだろう。

 他に創価大など注目すべきチームはある。

 ただ、箱根前哨戦といわれる全日本大学駅伝で圧倒的な強さを見せた駒澤大の優位性は、次の箱根でも変わらないだろう。箱根は別モノ、魔物が出ると言われるが、今年に限っていえば、駒澤大が強すぎて、その要素は限りなく低い気配だ。