不仲だったのに、パジャマを変えたら夫の態度が急変！妻の“ある作戦”とは
女医の世界には「3分の1の法則」というものが存在する。
「生涯未婚」「結婚した後、離婚」「結婚生活を全うする」それぞれの割合が、ほぼ3分の1ずつとなるというものだ。
彼女たちを取り巻く一種異様な環境は、独特の生活スタイルを生み出し、オリジナリティーに富んだ生き方を肯定する。
それぞれの女医は、どんな1／3の結末をむかえるのか…。
▶前回：「これ、異常だよ…」憧れの医者と結婚したものの。女が1年足らずで離婚を決意したワケ
Vol.11 皮膚科・紗友里（29歳）の場合【前編】
「今度、病院の近くにマンションを借りようと思ってるんだけど…」
直輝とは同じ医学部の同期で、初期研修が終わったタイミングで籍を入れた。今も同じ総合病院に勤務していて、代々木上原のマンションで暮らしている。
「病院の近くってことは…新宿あたり？」
「うん。オンコールにも対応しやすいしね。ここからだと、渋滞にハマると30分以上かかっちゃうこともあるから」
皮膚科医である紗友里にくらべ、循環器内科医の直輝は呼び出しも多い。納得できる話ではあるのだが、腑に落ちない点もある…。
「ひとり…で使うんだよね？」
「当たり前だろう。なに言ってんだよ」
直輝は呆れたように言うが、紗友里の不信感は拭いきれない。
最近、帰宅時間が不自然に遅くなったり、部屋のなかでスマートフォンをいじる時間が妙に増えたりしていたからだ。
「まあ、すぐってわけじゃないから、頭に入れといてくれよ」
直輝がまた慌ただしく出勤支度を進める。
「そうだ、直輝。今夜、私出かけるから」
「え、誰と？友だち？」
「うん、遥香さんと…」
直輝はその名前と聞くと、「あ、うん…」と歯切れの悪い返事をした。
遥香は、紗友里の高校時代の1つ上の先輩にあたる。
現在は女性ファッション誌の読者モデルをしていて、すでに経営者の男性と結婚もしており、紗友里は、結婚生活についてもよくアドバイスをもらっている。
だが、紗友里があまりに慕っているせいか、直輝はさほどいい印象を抱いていない。
「ちなみに、直輝が今飲んでるハーブティーも、遥香さんに勧めてもらったものなんだよ」
テーブルの上のティーカップに視線を落とす。
「あ、これ？すげぇマズいんだけど…」
「抗酸化作用が高くて、すごく肌にいいって言われて…」
「皮膚科医が肌にいいもの勧められるって、どうなんだよ…」
確かにその通りだと思いながらも、カップのお茶を飲み干した。
◆
紗友里は仕事終わりに、新宿三丁目にある『Il Lato（イル ラート）』 に向かった。
ドアを開けると、遥香がすぐに気づいて手をあげる。
― やっぱり遥香さん、今日もキレイだな
上下ブラックのシックなコーデだが、袖部分がシースルーになっていて軽やかさがあり、店の雰囲気とよく合っている。
「同じのでいい？」
遥香が手に持ったワイングラスを揺らす。
「あ、はい。ありがとうございます」
― いつも最初は緊張しちゃうんだよな…。
遥香と向き合うと、つい肩に力が入ってしまう。
彼女と出会ったのは、高校生のとき。紗友里の1つ上の学年だったが、華やかな容姿は周囲と一線を画し、際立っていたため存在は認識していた。
スクールカーストも最上層であり、紗友里には接する機会もなかったのだが、ある日突然声をかけられたのだ。
「ねえ。なんかあなた、もったいない」
廊下ですれ違いざまにそう言われ、立ち止まった。
当時の紗友里は、とにかく地味。メガネをかけ、黒髪で顔を覆い隠すように歩いていた。
「顔ちいさいし、スタイルもいいんだから、ショートにしてみたら？」
急な忠告に一瞬唖然としたが、勢いに押されて思わず「はい」と答えてしまった。
それから遥香にちょくちょくアドバイスを受けるようになり、地味な見た目が徐々に変貌を遂げ、男子生徒との関わりも増えていった。
人並みの高校生活を送れるようになったのは、遥香のおかげだと思っている。
「なに、旦那さんとうまくいってないの？」
遥香がワイングラスを口もとに添えながら尋ねる。
「そうなんです…」
直輝とのことは、大方LINEで伝えていた。
実は、直輝と結婚したのも、遥香のアドバイスがあったからだと言っていい。
「学生時代に結婚相手は見つけておいたほうがいいよ」
医学部1年生のときに、遥香に言われた言葉である。
今までも、先輩医師から「研修医になると忙しくて恋愛どころではなくなる」という話を聞いた気がするが、遥香に言われると真に迫るものを感じた。
そこで、医学部の同期であり、親しくしていた直輝との関係を前向きに考えるようになり、順調に進展していった。
実際、紗友里の周りには、今になって慌てて婚活を始める同世代の女医が何人もいる。
「旦那さんが浮気をしているかどうかはおいといて、あなたたち2人の関係はどうなの？」
遥香がどこか意味ありげな表情を浮かべて言った。
「悪くはないと思うんですけど…。毎日ちゃんと会話もしてるし…」
「そうじゃなくて。夜よ。夜のほう」
紗友里がうつむくと、遥香がすべてを見透かしたような表情をする。
「ここ最近はまったく…って顔してるわね」
― う、鋭い…。
「夫婦生活がうまくいっていれば、旦那さんも浮気なんてしないはずよ。そのためには、愛され続ける努力もしないとね。まずは普段のビジュアルから変えてみるのはどうかしら？」
「…っていうことは、セクシーな服とか、下着を身に着けるってことですよね？」
遥香は、「ううん」と首を横に振る。
「逆よ、逆」
遥香の意図するところが、紗友里にはすぐには理解できなかった。
◆
次の日の夜。
直輝は同僚と飲みに行くとのことで、また帰りが遅くなっていた。
紗友里はいつもなら気を揉むところだが、今日は少し異なる感情を抱いている。
遥香に授けられた“ある作戦”を実行すべく、やや気を張って待っていた。
23時を回ったところで、ドアの開く音が聞こえた。
「ただいまぁ」
直輝が帰宅し、リビングに入ってくる。
「お帰り」
紗友里はソファに座った状態で直輝を出迎えた。
すると、紗友里の姿を目にした直輝がわずかに動揺しているのが伝わってきた。
「お、おう…。どうしたんだよ。いつもとちょっと違うじゃん」
「あ、そうなの。これ、遥香さんにもらったから着てみたの」
紗友里が身に着けているのは、ジェラートピケのパーカとショートパンツで、モコモコ生地の可愛らしいものだった。
会話をしながらも、直輝が体に視線を這わせているのがわかる。
― 見てる見てる。遥香さんの言った通りだ…。
昨日、遥香との食事中に勧められ、ネットですぐに注文したのだ。少し幼すぎるのではないかと言うと、遥香は「それでいいの」と頑として譲らなかった。
「お腹空いている？なにか軽く作ろうか？」
「あ、ああ…。そうだな…」
直輝の受け答えがいつになくぎこちない。
紗友里はキッチンに向かう前に、遥香に勧められたもうひとつのアイテムを身に着ける。
それを見た直輝が、さらに取り乱す。
「お、おい、それは…？」
「コンタクトを切らしちゃったの。裸眼だとほとんど見えないから、昔使ってたのをつけるしかなくて…」
紗友里は、メガネをかけたのだ。だいぶ前に使っていた、黒縁のメガネを、クローゼットの奥から引っ張り出してきて…。
直輝が目を泳がせながらも、チラチラと紗友里に視線を注ぐ。
それは、嫌悪感によるものではなく、あきらかに好奇の眼差しだ。
遥香は言っていた。
「セクシーな下着なんて、ありきたりよ。もっと意外性を狙わなきゃ。可愛らしいルームウェアを着て、トドメにメガネでもかければイチコロよ」
― さすが遥香さん。言われた通りにしていれば間違いないんだな…。
そこで、直輝が立ち上がった。
「ああ、紗友里。やっぱりメシはいいや。今日は疲れたから、風呂に入ってもう寝るわ…」
そう言いながらバスルームに向かってしまったが、動揺を鎮めようとしているようにも感じられた。
夜の夫婦生活を一気に改善するまでには至らなかったものの、一歩を踏み出せたことは間違いない。
シャワーの音が聞こえてきたところで、紗友里はすぐにLINEで報告を入れる。
『遥香さんの言う通りにしたら、バッチリでした！』
遥香からすぐに返信が届く。
『でしょう？良かった。で、今夜はどうだったの…？』
『さすがにそこまでは…。でも、すごい前進したとは思います！』
『そう。じゃあ、作戦を実行に移しましょう』
妙に堅苦しい言い方に戸惑う感覚があるものの、彼女に任せておけば間違いないと思い『はい！』と素直に返信した。
このあと、大変な事態が待ち受けているとも知らずに…。
▶前回：「これ、異常だよ…」憧れの医者と結婚したものの。女が1年足らずで離婚を決意したワケ
▶1話目はこちら：親が勧める相手と結婚したものの…。女は満たされず、つい元彼に連絡してしまい…
▶NEXT：11月13日 日曜更新予定
まさかのタレント活動…先輩の言いつけに従った妻の末路
