何度もデートしていたのに女がキスした途端、態度が急変した男。そのワケとは…
― イイ男はすでに売約済み ―
婚活戦国時代の東京で、フリーの素敵な男性を捕まえるなんて、宝くじに当たるくらい難しいと言っても過言ではない。
待っているだけじゃ『イイ男』は現れない。
これだと思う人を見つけたら、緻密な戦略を立ててでも手に入れる価値がある。たとえその人に、彼女がいても…。
◆これまでのあらすじ
大手IT企業に勤める凛（30）は、大学時代の憧れだった先輩の悠馬（31）に再会するが、彼女持ちだった。悠馬を好きになってしまった凛は徐々に彼と仲良くなり、思わずキスをして告白する。
「好き…」
悠馬と久しぶりのデート。バーでいい雰囲気になった凛は、思わず禁断の言葉を口にした。
我に返り、慌てて手で口を覆う。
― 言っちゃった…。
“略奪恋愛では告白はしないほうがいい”と涼子から聞いていたのに。
すぐに後悔したが、凛はふと思った。
これまでずっと涼子のアドバイスを守ってきたが、彼女と自分とでは性格もキャラも違う。
― 私にはテクニックを使うなんて無理。私は私のやり方でやろう。ストレートにぶつかってみよう。
そう覚悟を決めた凛は、悠馬の顔をもう一度見る。
だが、先ほどまで愛おしい人を見るような優しい目で凛を見ていた悠馬が、今は冷たい目をしている。
「とりあえず、今日は帰ろうか」
悠馬はそう言うと、サッとお会計を済ませてしまった。
店の外に出ると、アプリでタクシーを手配しながらさっさと乗り場へと向かう。
― さっき私がキスしたことも、好きって言ったことも、なかったことにしてる…？
凛は咄嗟にスマホを持つ悠馬の腕を掴み、覗き込むようにして言った。
「さっき“好き”って言ったの、本気です」
真っすぐな瞳で悠馬を見つめる凛に対し、悠馬は少し困惑した表情を浮かべた。
「いや…悪い。ただ、凛ちゃん酔っていたし、お互い一旦冷静になった方がいいと思って」
悠馬は落ち着いたトーンで答える。その態度が、凛を不安にさせる。
「酔った勢いじゃありません！悠馬さんへの気持ちは本当です。ずっと好きでした」
せっかく思いを伝えたのに、なかったことにされるのは嫌だと思い、もう一度告白した。その迫力に若干驚いた顔を見せながら、悠馬は考えるように黙った。
そして、ゆっくりと口を開く。
「正直、凛ちゃんと会うのはすごく楽しかった。でも、それが可愛い後輩としてなのか異性としてなのか、わからない。それに彼女いるから、今は凛ちゃんの気持ちには応えられない」
「それなら、待ちます。悠馬さんが女性として見てくれるまで」
真剣な眼差しの凛に圧倒された悠馬は、思わず目を逸らした。
「いや、待たないで。彼女とは最近うまくいってないけど、だからってすぐに別れて凛ちゃんと付き合うとかは、今はまだ考えられない」
“彼女”というワードに、凛は嫉妬心が込み上げた。
そして、とうとう言ってしまった。
「そんなにエリさんのことが好きなんですか？でも彼女、悠馬さんの知らないところで遊んでますよ！？それなのにどうして…」
凛がまずいことを言ったと理解するより早く、悠馬の眉がピクリと反応した。
― どうしよう、怒らせた…？
凛のほうに向き直った悠馬は、声を低くして言った。
「エリが遊んでいるのは…知ってる。でも、どうして君が知ってるの？」
「あの、友人が偶然エリさんと繋がっていてそれで…」
急に名前ではなく“君”と言ったのは、きっと怒っているからだ。悠馬が知っていたことに凛は驚くも、これ以上何も聞けない。
すると少し平常心を取り戻した悠馬が「ふぅ」とため息をついた。
「君が何を知ってるのかわからないけど、俺に言わなくていい。それに、どういう経緯か知らないけど、裏で嗅ぎ回られているようであまりいい気はしない。ただ…」
凛は、情けなくなりうつむいた。
「凛ちゃんの気持ちは嬉しかった。それに、俺も思わせぶりだったと思う、悪かった。けれど今すぐに“君と付き合う”とは言えない」
― 私今、決定的に振られてるってことだよね…。
悠馬と再会してから半年以上、ずっと彼のことだけを想っていたのだ。
だから、凛はどうしても諦められなかった。
凛はすがるような気持ちで、言葉を振り絞った。
「エリさんのこと、本当にごめんなさい。でも、本当に大好きです。大学時代からずっと。もし、私への気持ちが少しでもあるなら、考えてもらえないですか？いつまでも待ちます」
凛の真剣さが伝わったのか、悠馬は再び口を閉じた。
その時、先ほど依頼していたタクシーが来た。
「わかった、少し時間をくれ。きちんと考えて答えを出すから」
悠馬はそう返すと「悪い、今日は送れないから一人で帰ってくれる？」と凛をタクシーに乗せた。
― このまま、別れちゃうの…？待って、まだ離れたくない…。
不安な目でタクシーの窓越しに見つめる凛を、悠馬も真っすぐに見つめ返す。
凛が窓を開け「連絡待ってます」と告げると、そのままタクシーが発車してしまった。
― なんて馬鹿なことを言っちゃったんだろう…。このまま終わりたくない…。
タクシーで一人になった凛は、後悔で涙が溢れ出た。
つい先ほどまでキラキラと輝いて見えた夜の銀座の明かりが、今はどこか寂しく孤独の象徴のような気がしたのだった。
◆
ブブブ…
「悠馬さん！？」
朝5時。スマホの振動に反応して、凛は飛び起きた。
悠馬と最後に会ってから、1週間が経とうとしている。
― 仕事のメールか。また目が覚めちゃった…。
あれから凛はずっと、眠れない日々を過ごしていた。
日中は幸いにも仕事が忙しく、没頭することでなんとか精神を保てた。
しかし家に帰ってふと気がつくと、悠馬のことを考えて自然と涙が流れ落ちる。
― どうしてあんなことを…。もっときちんと謝ればよかった。もっとちゃんと思いを伝えれば良かった。もっと…。
眠りにつこうとすると、あの日のことがフラッシュバックして後悔する。
このまま連絡が来なかったら？嫌われてしまったのでは？とマイナスに考えてしまい、心が闇へと落ちていく。
咄嗟にスマホを取り、LINEの画面を開く。そして悠馬にあの日のことをもう一度謝ろうと文字を打っては消し、打っては消す。
― 今更何を言っても、きっと逆効果だよね。待つしかない…。
そんなことを毎晩繰り返す。
凛は真綿で首を絞められるような思いを抱えながら、ただひたすら連絡を待った。
◆
「大丈夫？痩せた…？」
あれからさらに2ヶ月。
元気のない凛を見かねた彩香が『恵比寿 夜ノ森』に誘った。食欲のない凛でも、ここの深みのある出汁の“おでん”なら、自然と食欲がわいてくるからと。
「そう、ダイエット。綺麗になった？」
明るく返す凛だが、誰が見ても覇気がないのがわかる。
「で、まだ連絡ないの？」
「うん、何にも。ジムでも会わないし…」
彩香には悠馬に告白したことを話していた。彼女は凛の恋愛を応援できないものの、ずっと心配している。
「もうやめなよ。それよりさ、隆也は？」
「隆也…？」
彩香はニヤッと笑った。
「今フリーって言ってるし、凛に気がありそうだし。知ってた？隆也って昔、ずっと凛のこと好きだったんだよ？」
「嘘？そんな素振りなかったけど」
生気のなかった凛が少し反応したので、彩香は嬉しそうに笑う。
「入社当初、私と隆也が先に仲良くなったじゃない？その時ずっと“凛を誘って”って会うたびに言ってたの。だけどあの頃凛には彼氏がいたから、諦めたみたいだけど」
相手がいるから諦めた隆也と、相手がいるのに諦められない凛。どちらが正しいのだろう、と考える。
「でも、今は違うでしょ？それに私、悠馬さんのこと諦められないし」
今は他の男のことを考える余裕のない凛は、話題を変えた。
その後彩香と別れ、一人になった帰り道。何気なくスマホを見ると、一件のLINEが届いていた。
期待せずにロック画面を開くと、悠馬からだった。
「遅くなってごめん。来週あたり、どこかで少し会える？」
凛は緊張で、身体中が大きく波打つのを感じた。
▶前回：久しぶりのデートを1時間で切り上げて帰った30歳女。彼女が、男に賞賛されたワケとは
▶1話目はこちら：「何考えてるの！？」食事会にしれっと参加する既婚男。婚活を妨げ大迷惑なのに…
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告白に対する悠馬の答えとは…？
