10月11日から始まる「全国旅行支援」の気になる中身について解説します(写真:zak/PIXTA)

2022年10月11日(火曜)以降、「Go To トラベル」の後継ともいえる「全国旅行支援」(正式名称は「全国を対象とした観光需要喚起策」)が始まる。

全国旅行支援は、当初2022年7月前半からの開始を予定していたが、新型コロナウイルスの感染状況を理由に延期されていた。

概要は以下のとおりだ。なお、財源は国から各都道府県に対して宿泊実績などを考慮してすでに予算を配分している。それに加えて、県民割・ブロック割の財源となっている地域観光事業支援の残余分も投入される。そして、実際に旅行商品を販売した旅行会社や宿泊実績をあげた宿泊施設に販売補助金が支払われる仕組みとなっている。

2023年1月以降の実施は各都道府県の判断

実施期間:2023年以降は各都道府県の判断

観光庁は2022年10月11日(火曜)から12月下旬までと終了日をぼかしているが、群馬県(10月31日まで)・熊本県(12月下旬)・大分県(12月下旬)以外では、12月20日(火曜)(21日チェックアウト分)までとなっている。

なお、2023年1月以降の実施は各都道府県の判断による。予算の消化状況などにもよるが、都道府県によっては2023年3月まで実施される可能性もありそうだ。

旅行代金の割引:1室2名で2万5000円を超える宿は不利

旅行代金の割引は、Go Toトラベルの35%よりやや高いが県民割・ブロック割の50%よりやや低い40%割引となる。1人1泊当たりの割引の上限は宿泊のみの場合5000円、交通機関+宿泊の場合、8000円である。

そのため、1泊1室2名宿泊の場合、総額2万5000円の場合、1万円割引で1万5000円となるが、それ以上宿泊費が高くなっても、1万円引きは変わらない。そのため、1泊1室2名宿泊で10万円の高級旅館に宿泊した場合、割引率は10%にとどまってしまう。

地域クーポン:安宿は還元率が高くなるが注意も必要

旅行代金の割引に加えて、宿泊地のある都道府県などの指定された飲食店や土産物屋などで使える地域クーポンが平日なら1泊(日帰り旅行の場合1日)につき3000円、休日なら1000円分得られる。

1人5000円の宿泊費は40%引きで3000円となり、平日なら同額のクーポンを獲得することになる。1人10万円のホテルでもクーポンは同額しか得られないため、安い金額のホテルに宿泊したほうが還元率は高くなる。

宿泊費が安すぎると対象外に

2020年秋、Go Toイートが開始されたとき、鳥貴族で1品のみ注文して、1000円分のポイントを得る行為が「トリキの錬金術」として話題となった。

全国旅行支援では、こうした事態を避けるために割引対象の下限を設けている。具体的には平日なら1泊1名5000円、休日なら1名2000円を下回る場合は割引対象にならないというものだ。

これは平日の場合、1泊1名5000円から宿泊費が40%割引で3000円となり、そこに地域クーポンが3000円配布され、いわゆる「実質」ゼロ円の状態となる。

ただし、1泊1名5000円ということは、1室2名では1万円となり、ビジネスホテルや安価な旅館などでこの金額をもともと下回っているところはかなり多い。その場合、上限に達するために意図的に値上げをするか、金額が下回っているので全国旅行支援には参加できないということになる。

値上げをする代わりに何らかの特典などをつけて対処する宿泊施設もあるだろうが、それらを必要としていない人にとってはありがたくない。また、低額の宿泊施設が対象外となることについても、公平性の観点からみて疑問が残る。ただし、高知県など、安い宿泊施設の利用時は、提供するクーポンの枚数を減らすことで対応する都道府県もありそうだ。

休日の定義:金曜・日曜泊は原則平日扱い

休日とはチェックイン日、チェックアウト日がいずれも土曜、日曜、祝日の場合をさすので祝日がからまないかぎり、金曜宿泊と日曜宿泊はともに平日宿泊の扱いとなる。当然のことながら金曜泊、日曜泊の人気が高まることが想定される。

Q、参加しない都道府県はあるのか?

全国が対象となる。ただし、開始時期は都道府県によって異なる。例えば、東京都は10月20日(木曜)からの開始となっている。

参加を希望しない都道府県がある場合、その都道府県を目的地とした旅行は対象外となる。その一方で、Go Toトラベルのように、〇〇県からの旅行者は割引対象外といったことはなくなる。

Q、割引に必要な書類は?

利用者全員について、運転免許証、健康保険証などの身分証明書に加えて、3回目のワクチン接種証明書か、PCR検査などの陰性証明書の提示が必要になる。ただし、家族で旅行する場合、同居している12歳未満は証明書が不要となる。

東京では2万円のホテルが実質1200円相当に

Q、開始前の予約は割引対象?

全国旅行支援開始に予約した商品が割引対象になるかどうかは、予約した旅行会社などによって異なるのでそれぞれのサイトで条件を確認したい。10月7日時点で、楽天トラベル・じゃらんnet・Yahoo!トラベル・一休.com・JTB・るるぶトラベルなどでは、既存予約も割引対象となるという告知をしている。ただし、例えば楽天トラベルの場合、10月11日〜13日チェックインの既存予約には割引が適用されない。

Q、県民割との併用はできるのか?

全国旅行支援は、県民割・ブロック割を発展させたものであり、どちらも財源が国の補助金から出ている以上、併用することはできない。だが、例外なのが東京都の都民割「もっとTokyo」だ。これは都の財源を用いているため、「もっとTokyo」と「全国旅行支援」(ただいま東京プラス)の併用は可能となる。ただし、「もっとTokyo」は東京都在住者のみが対象となる。

例えば1泊1室2名で東京都内に宿泊した場合、2万2000円の宿泊費が「もっとTokyo」で1万円引きとなり、1万2000円となる。ここからさらに全国旅行支援で40%引きとなり、実際の支払額は7200円となる。さらに平日宿泊の場合、1名につき3000円のクーポンがつくので、2名で6000円となり、2万円のホテルに「実質」1200円相当で宿泊できる。

独自の都道府県民割という意味では、すでに居住地の制限を加えず、全都道府県からの旅行者を割引の対象としていたのが、奈良県の「いまなら。キャンペーン2022プラス」である。

10月11日以降もキャンペーンが継続するが、全国旅行支援との併用・一体化することで条件が若干変更となる。宿泊費は他の都道府県が40%引きのところ、奈良県のみ50%引きとなるうえ、休日のクーポンも他の都道府県の1000円に対して2000円と手厚い。

また、一部の都道府県では、全国旅行支援にあわせて、独自の「上乗せ特典」を用意している。

例えば鹿児島県では、平日宿泊時の地域クーポンが通常ならば3000円のところが上乗せされて4000円となる(交通付商品で認証施設に宿泊した場合)。また、島根県では、県内に宿泊した人を対象に、通常の地域クーポンに加えて1人1泊につき1000円分の「2022年しまねプレミアム飲食券」を提供する。

併用時の割引金額が大きいのが埼玉県だ。10月7日時点では公式に発表されていないが、2022年11月中旬から2023年2月28日にかけて埼玉県内の宿泊者を対象に行われる「とくとく埼玉!観光応援キャンペーン」では、1人1泊につき3000円分のクーポンが提供される。

16万人分の予算が組まれており、埼玉県民割との併用も可能だったことから、全国旅行支援と併用できる可能性が濃厚だ。

自家用車の交通費割引制度!?

全国旅行支援と併用可能で興味深い割引制度を実施しているのが高知県だ。高知県へ旅行し、県内の指定宿泊施設に宿泊した場合、交通費を1人最大5000円(自家用車・レンタカー・タクシーの場合は1台5000円)割り引く「高知観光リカバリーキャンペーン」だ。自家用車の交通費割引制度はめずらしいし、鉄道のきっぷでは青春18きっぷも割引対象となる。

市町村割(市町村が実施する割引)については併用が可能なものと不可能なものに分かれる。札幌市が実施する「サッポロ割」や函館市の「はこだて割」などが併用可能な一方、横浜市の「Find Your YOKOHAMAキャンペーン」は不可である。

さらに「サッポロ割」や「はこだて割」なども、最終的な判断は事業者にゆだねられているので、ホテルによっては併用できないところもある。

Q、名称は都道府県によって異なる?

全国旅行支援は、Go Toトラベルの後を引き継ぐものとなっているが、各都道府県が主体となる点が、国が主体のGo Toトラベルとは大きく異なる。

割引の上限やクーポンの金額などの大枠は全国共通だが、細かな条件が都道府県ごとに異なるので、利用者は訪問する都道府県ごとに条件を確認しなければならない。この点において利用者にとってはわかりづらい仕組みとなってしまっている。

そもそも全国旅行支援というのはあくまで総称であって、具体的な割引の名称は都道府県にとって異なる。例えば沖縄県の場合は「おきなわ彩発見NEXT」となる(現行の県民割の名称は「おきなわ彩発見キャンペーン」)。こうした基本的な告知を国が一切発信していないために、混乱することが想定される。

Q、クーポンは隣接県で使えるのか?

Go Toトラベルの地域共通クーポンにあたるのが地域クーポンである。ただし、この名称や形態(紙ないし電子クーポン)は都道府県ごとに異なる。

利用可能な期間は、多くの都道府県でホテルのチェックアウト日まで、利用可能なのは都道府県内の指定された店舗だ。

Go Toトラベルのように隣接県では使用できないし、地域によっては利用できる店もかぎられているので、あらかじめどこで使うのかシミュレートしておいたほうがよさそうだ。なお、埼玉県・石川県・京都府では12月21日まで有効なので、期間中に再訪する可能性がある場合には、あわてて使う必要はない。

都道府県に丸投げ…

Q、Go Toトラベルはもうやらないのか?

Go Toトラベルが長期間中止となっていた期間も、各店舗では「地域共通クーポン」のステッカーを見かけた。いつでも再開できるようにステッカーを剥がさないように通達があったという。実際に国はGo Toトラベルを再開しないとは明言してはいない。ただし、全国旅行支援を実施する以上、それがGo Toトラベルの代替という認識で間違いないだろう。

観光庁のサイトを見ても、2022年10月7日時点でもトップページにはGo Toトラベルのバナーしかなく、その情報も2021年11月時点のものとなっていた。いずれにしても、各都道府県で条件が異なる以上、それぞれの都道府県のサイトで詳細を確認するしかない。観光庁は10月6日にようやく各都道府県へのリンクをアップした。

さまざまな課題があるのも事実だが、コロナの終息が見えてきたいま、国内旅行で大幅割引が得られる時期も限られてきた。結論からいえば、2名旅行の場合、1室1万円強、1名旅行の場合、5000円強の宿泊費が最も還元率が高くなり、ねらい目といえる。市町村割との併用などにより、さらに割引率を高めることもできそうだ。

ただし、各都道府県が旅行会社や宿泊施設に予算を配分し、消化する形態となるので、人気があるところでは、早々に予算がつきてしまい終了になることも予想される。条件をよく見極めつつ、早めの予約をおすすめしたい。

(橋賀 秀紀 : トラベルジャーナリスト)