訪問診療が受けられる条件をご存じでしょうか(写真:USSIE/PIXTA)

超高齢化社会に伴い、65歳以上の高齢者が介護を行う老老介護が問題となっています。老老介護は高齢の妻が夫の介護を行うケースや、子が親の介護を行っているが子どもの年齢が65歳を超えているケースなどさまざまです。若い世代が介護や通院の介助を行える場合もありますが、仕事や家庭と両立をすることは大きな負担となっており、介護を受ける側だけでなく、行う側へのメンタルケアも必要な状態です。


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こうした負担を少しでも減らすためにも、定期的な通院をサポートする訪問診療というサービスがあります。訪問診療は厚生労働省がすすめる地域包括ケアシステムのひとつです。

団塊の世代が75歳以上となり、医療需要が増えると予想される2025年をメドに、住み慣れた地域で可能な限り自分らしい暮らしを最期まで続けられるよう考案されたこのシステムは、これからの社会にとって広く知られ、使われるべきものといえます。

訪問診療を受けられる条件

訪問診療と聞くと「お医者様がわざわざ家に来るなんて大変なことだ、通院が大変だからといって来てもらえるはずもない、難しい条件や手続きがあるに違いない」とハードルの高さを感じている方がいらっしゃいますが、それは大きな誤解です。訪問診療を受けられる条件は「患者ひとりでの通院が困難な場合」のみであり、具体的な例としては以下のような方が該当します。

・病気や障害で歩行困難、寝たきりの方
・同居または近所に家族はいるが通院介助が困難な方
・認知症などで定期通院が困難な方
・在宅人工呼吸器など自宅での医療管理が必要な方
・自宅での療養や緩和ケア、看取りを希望している方

さらに、訪問診療は医療保険の適応となるため要介護認定も必要なく、他の制度の申請をせずに気軽に導入を相談できるシステムとなっています。詳しい条件は医療機関によって異なり、また患者ひとりひとりの家庭の事情によっても異なるため、まずは病院でソーシャルワーカーやかかりつけの医師に相談してみましょう。要介護認定を受けている方は、担当ケアマネジャーに相談することもできます。

訪問診療は月2回程度

主治医が必要と判断すれば、事前に医療スタッフとの治療方針や費用の確認がされたのち、医療者側と家族側の同意を得たうえで初回訪問が行われ、その後、本格的に定期的な訪問診療がスタートします。

訪問診療は月2回程度行われ、予約した日時に医師と看護師が患者宅に訪問します。血圧や脈拍測定、胸の聴診や浮腫のチェックといった基本的な診察に加え、採血や採尿といった検査も必要に応じて行われます。さらに、尿道カテーテルの交換や胃ろう・ストーマのケア、褥瘡(床ずれ)のケア、点滴といった患者に応じた処置も追加されます。在宅人工呼吸器や在宅腹膜透析のような専門的な医療も可能であり、訪問診療でできることは幅広いと言えます。薬の処方も同時に行われ、その日に渡された処方箋を後日家族等が直接薬局に持っていくほか、薬剤師が患者宅に薬を届ける訪問薬剤管理指導というシステムも存在します。

さらに、発熱など急に病状が悪化した際は「往診」と呼ばれる緊急時の訪問を利用できます。事前に案内された医療機関への連絡先に電話することで、いつでも速やかに医師の診察を受けることが可能です。

ただし、何事にも良い面と悪い面があるように、訪問診療にもデメリットは存在します。診療内容の面では、あくまでも在宅で可能な医療行為に限られるためMRIや内視鏡などの精密検査は行えず、急変時も検査や投薬等の対応が十分に行えない場合があります。また、入院や施設入所に比べれば日々の介護負担は避けられません。したがって訪問診療のみに頼らず、今まで通っていた専門科の受診を可能な範囲で行うほか、デイサービスや訪問介護・訪問看護などを同時に導入するといいでしょう。訪問診療はあくまで負担軽減の形であり、家族の負担がゼロになるわけではないことには注意が必要です。

訪問診療で発生するトラブル

また自宅という、病院内のように周りの目がなく閉じられた診療の場ではトラブルが発生するケースもごく一部ながらあります。医師側の問題としては満足のいかない医療提供(横柄な態度や不十分な診察)、患者側の問題としては本人やその家族からの医療スタッフへの暴言・暴力があげられます。いずれも患者側が望む医療と医療者側が提供する医療のすれ違いが原因であることが多く、不安や心配は小さなうちに伝えましょう。直接相談が難しい場合は、医療安全相談センターという相談窓口も各所に設置されています。

それでも、訪問診療の導入には大きなメリットがあります。本人が住み慣れた自宅で、家族と共に療養でき、面会や食事の制限もなく余生を自分らしく過ごすことができます。また診療当日も、決まった日時に自宅で待機していればよいため、交通機関での移動の負担や病院での待ち時間を避けられ、さらに通院による感染症の心配もなく、季節や天候を問わず医療を受けられます。また自宅で比較的ゆっくりと医師や看護師に話ができるため、医療者側も患者本人や家族の希望を叶えやすくなります。

訪問診療の普及はまだまだ発展途上ですが、一般に広く知られることで医療機関・患者家族双方のニーズが明らかになり、より風通しの良い診療ができる分野だと感じています。

患者本人と介護者双方の負担を減らし、お互いに心の余裕を持って自宅で穏やかに過ごすためにも、まだ頑張れると背負いすぎず、通院を負担に感じている方は、ぜひ一度導入を検討してみてはいかがでしょうか。

(上原 桃子 : 医師・産業医)