3隻目の大型空母を進水させた中国海軍は連日のように南シナ海や東シナ海に姿を現すようになっています。ただ、日本以上に緊張感を持っているのが台湾。とはいえ、同国海軍が大量整備したミサイル艇は急速に陳腐化しているようです。

潜水艦の行動が困難な台湾海峡

 アメリカ議会の重鎮であるナンシー・ペロシ下院議長が、2022年8月2日に台湾(中華民国)を訪問したことにより、中国(中華人民共和国)と台湾・アメリカのあいだに緊張感が走ったのは記憶に新しいところ。ただ、空母の保有を始めとして急成長を続ける中国の海軍力についてはたびたび話題になるものの、一方の台湾の海軍力についてはあまり触れる機会がありません。

 台湾海軍(中華民国海軍)はどれほどの戦力を有しているのか、中国海軍(中国人民解放軍海軍)と比較した場合、どうなのかを見てみます。


艦首の旋回式ミサイル発射機から「スタンダード」艦対空ミサイルを発射する成功級ミサイルフリゲート「繼光」(画像:台湾国防部)。

 そもそも台湾は、日本と同じ島国ではあるものの、地勢的には大きく異なっています。同国の場合、潜在的脅威の対象である中国との間に横たわる台湾海峡は、もっとも狭い地点で幅わずかに約130km。水深は、その大半の水域で約50mと浅いものです。

 つまり、もし中国が台湾への侵攻を企図して輸送船団で台湾海峡を渡ろうとしても、水深が浅いせいで、潜水艦を運用するのは東シナ海や南シナ海などと比べて困難だといえるでしょう。そういった理由からか、台湾は経済的な事情もあるでしょうが、現在のところ潜水艦を4隻しか保有していません。

 代わりに、台湾海軍は31隻もの光華六号(Kuang HuaVI型)高速ミサイル艇を保有しています。ミサイル艇なら浅海面でも高速で行動可能なため、万一、中国軍が台湾海峡を渡って攻め入ってきた場合は、ミサイル艇などが搭載する国産の「雄風II」型対艦ミサイルと、同海峡に面した海岸部に配備された地対艦ミサイル、そして空軍機による空からの攻撃も加えることで、侵攻を阻止しようという作戦を考えていました。

太平洋側の防備に必須の潜水艦戦力

 ただ、ミサイル艇は、Kuang Hua VI型が就役した10年前であれば、かなり有効な沿岸防衛用の装備といえたものの、その後、中国の海軍と空軍が急速に近代化されたことで、現在では戦力としては急速に陳腐化しています。

 というのも、高性能な火器管制システムを中国軍の水上戦闘艦が積むようになったことで、各種火砲やミサイルをピンポイントで狙い撃ちできるようになったため、いくら高速で小回りが利くミサイル艇とはいえ、逆に制圧されてしまう状況が現出しているからです。


演習で艦隊行動中の台湾海軍水上艦部隊(画像:台湾海軍)。

 しかも冒頭に記したように、2022年8月2日から3日にかけて、アメリカ下院議長のナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問すると、それに対する示威行動として、同氏が同国を離れた直後の8月4日から7日にかけて、中国は台湾の全周にわたる海域において大規模な軍事演習を実施しました。

 この演習が意味するところは、いまだ中国海軍が未熟だった頃の台湾海峡渡航による「正面玄関からの台湾侵攻」に加え、台湾海峡とは反対側の南シナ海(太平洋)側からの「裏口からの台湾侵攻」も可能になったことを示しています。逆にいうと、中国はそれらを併用することにより、台湾への侵攻を企図する可能性が高まったといえるでしょう。

 南シナ海は、台湾海峡とは違って水深もあるので潜水艦は有効な侵攻阻止兵力となりえますが、台湾海軍の保有隻数は、前述したようにわずか4隻。同じく広海面での作戦行動に適した駆逐艦やフリゲートも、前者が4隻で後者が22隻と決して多いわけではなく、しかもこの数には旧式艦も含まれています。

 唯一の救いは、台湾の南シナ海側には上陸作戦の実施が可能な、広めの平野に連なった海岸が限られている点でしょうか。

 このところ、中国軍機が毎日のように台湾の防空識別圏(ADIZ)への侵入を繰り返しています。これは、一触即発の偶発戦争に発展しかねない危険な行為であり、仕掛けている中国側は、その気になれば容易に事態に「火を付ける」ことができます。

 危機的状況が高まる現在、台湾にとってはその海軍力の整備と強化が、武力侵攻を阻止するうえで急務となってきているのです。