先入観は不要! 「かわるかたち」と「The Colours!」の規格外のパワーに圧倒された
「個性」や「多様性」という言葉がよく使われるようになった。他者との違いを尊重し、各自のありのままを受け入れることは、大切だけれどけっこうむずかしい。でも表現の世界では、この「違い」が大きな長所になる。そんなことを感じさせる、2つの展覧会が開催されている。強烈な個性と規格外のパワーを放つ、それらの魅力の一部を紹介したい。
○アール・ブリュット2022 巡回展「かわるかたち」〜いろいろな素材、さまざまな表現
「アール・ブリュット」は、正規の美術教育を受けていない人などによる独自の発想や表現方法が注目されるアート、というような意味だという。見る側の常識を超えるような独創性や自由さが特徴だ。
このアール・ブリュット2022 巡回展「かわるかたち」には、色鉛筆やボールペン、水彩絵の具などのさまざまな画材、布や糸、チラシなどのさまざまな素材で表現された、10人の作家の作品が集められている。
萩尾俊雄 無題
特撮のテレビ番組に登場する怪獣などに興味があるというこちらの作家。自分で戦わせて遊ぶためにこうした立体作品を作っていて、チラシをセロテープで巻き付けて、1日に2、3体を手早く完成させてしまうそう。隆起したツノといい、細かな手足の指といい、ユーモラスな表情といい、なんともいえずチャーミング!
渡邉あや「飛行機」
修学旅行で沖縄に行った経験から、飛行機を題材にした作品を描き始めたというこの作家は、展示された4つの絵のタイトルがすべて「飛行機」だ。アメリカやスペインなどの国から連想した人や動物、料理、建物などのモチーフが色彩豊かに描き込まれていて、見ているこちらもウキウキ楽しくなってくる。
吉川秀昭「目・目・鼻・口」
細かな模様が刻まれた粘土の立体作品。模様はすべて「目、目、鼻、口」という顔のパーツの集合体だ。近くで見るほどその規則性にビックリするのだが、この作家は一定のリズムで粘土の表面に刻んだり、紙に描く作業を繰り返すこのスタイルを、もう30年以上も続けているそうだ。
五十嵐朋之「人間ダンサーシリーズ」
ペン画、刺繍、染、折り布などさまざまな手法で、昆虫や魚介、植物、建物、人間などのモチーフを描いているこちらの作家。どの作品にも「???」となるような独特の名称が添えられていて、個性的な字体で書かれた不思議なフレーズまでもが、だんだんクセになってくる。
井上優「5人のかお」
70歳を超えてから本格的な創作を始め、1日3時間の創作活動で10Bの鉛筆を1本使い切るという作家もいる。幅2メートルの大きな紙に描かれたこの絵は、5人の不思議な表情もさることながら、鉛色に光るほど鉛筆で塗り重ねられた筆致のパワーが圧巻だ。
ちなみに、使い切った鉛筆も大切に保管しているといい、今回の展示では、絵の横にそっと置かれていた。
○ヘラルボニー4周年記念「The Colours!」-違うことの価値を問う
いっぽう、「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニット「ヘラルボニー」による展覧会のテーマは、「色」。異彩あふれる色のパワーを持つ12人の作家の作品がセレクトされている。
衣笠泰介 (左)「海辺でフルーツ」 (右)「ヨーロッパの夢の国」
金沢21世紀美術館キュレーターの黒澤浩美さんが手がけるコンセプトは、「個々の『違い』が価値となり社会を彩る」というものだ。
伊藤大貴「富士山と太陽」
「絵の具や色鉛筆のカラーパレットは、使う人たちが足したり混ぜたり、薄めたり伸ばしたりすることで、無限に自分だけの色を作り出すことができる。色の知覚も人によって違う。(略)あなたが赤というものも、私には赤と呼べないこともあるかもしれない。この『違い』こそが尊重されるべき価値だ」と黒澤さん。
早川拓馬「アイドルトレインエキスポ2016」
会場にはさまざまな「色」を持つ作品が展示され、作家ひとりひとりの際立った「個性」に驚かされる。たとえば大きなキャンバスに、あ然としてしまうほどの緻密さで人物と電車が描き込まれたこちらの作品。
近づいて見れば見るほど細かな描き込みに圧倒され、その集中力と根気に感服してしまう。唯一無二なオリジナリティもすごい……!
岡部志士 (左)「Scratch Works Yay!Yay! No.6」(右) 「Scratch Works Yay!Yay!No.5」
また、さくらクレパスを使った淡くやさしい虹のような色彩の作品も。作品の横に添えられた解説文によれば、この作家はクレパスの削りカスを団子にして「コロイチ」と呼んでおり、本人はそのコロイチを作るために絵を描いていて、作品は副産物なのだという。こんなに美しい作品が、副産物とは……!
「形」をテーマにしたアール・ブリュット2022 巡回展「かわるかたち」と、「色」をテーマにした「The Colours!」。どちらの展覧会も、作家の強いこだわりと個性によって生み出された驚きの作品が集っているので、ぜひ生でじっくりと体感してほしい。
■information
アール・ブリュット2022 巡回展「かわるかたち」
第1会場:東京都渋谷公園通りギャラリー(9月25日まで)11:00~19:00 東京都渋谷区神南1-19-8 渋谷区立勤労福祉会館1F/第2会場:練馬区立美術館 区民ギャラリー(10月27日〜11月2日)/第3会場:府中市美術館 市民ギャラリー(11月25日〜12月4日)/無料
■information
ヘラルボニー4周年記念「The Colours!」
会場:ANB Tokyo(8月7日まで) 11:00~19:00 東京都港区六本木5-2-4/無料
○アール・ブリュット2022 巡回展「かわるかたち」〜いろいろな素材、さまざまな表現
「アール・ブリュット」は、正規の美術教育を受けていない人などによる独自の発想や表現方法が注目されるアート、というような意味だという。見る側の常識を超えるような独創性や自由さが特徴だ。
このアール・ブリュット2022 巡回展「かわるかたち」には、色鉛筆やボールペン、水彩絵の具などのさまざまな画材、布や糸、チラシなどのさまざまな素材で表現された、10人の作家の作品が集められている。
萩尾俊雄 無題
特撮のテレビ番組に登場する怪獣などに興味があるというこちらの作家。自分で戦わせて遊ぶためにこうした立体作品を作っていて、チラシをセロテープで巻き付けて、1日に2、3体を手早く完成させてしまうそう。隆起したツノといい、細かな手足の指といい、ユーモラスな表情といい、なんともいえずチャーミング!
渡邉あや「飛行機」
修学旅行で沖縄に行った経験から、飛行機を題材にした作品を描き始めたというこの作家は、展示された4つの絵のタイトルがすべて「飛行機」だ。アメリカやスペインなどの国から連想した人や動物、料理、建物などのモチーフが色彩豊かに描き込まれていて、見ているこちらもウキウキ楽しくなってくる。
吉川秀昭「目・目・鼻・口」
細かな模様が刻まれた粘土の立体作品。模様はすべて「目、目、鼻、口」という顔のパーツの集合体だ。近くで見るほどその規則性にビックリするのだが、この作家は一定のリズムで粘土の表面に刻んだり、紙に描く作業を繰り返すこのスタイルを、もう30年以上も続けているそうだ。
五十嵐朋之「人間ダンサーシリーズ」
ペン画、刺繍、染、折り布などさまざまな手法で、昆虫や魚介、植物、建物、人間などのモチーフを描いているこちらの作家。どの作品にも「???」となるような独特の名称が添えられていて、個性的な字体で書かれた不思議なフレーズまでもが、だんだんクセになってくる。
井上優「5人のかお」
70歳を超えてから本格的な創作を始め、1日3時間の創作活動で10Bの鉛筆を1本使い切るという作家もいる。幅2メートルの大きな紙に描かれたこの絵は、5人の不思議な表情もさることながら、鉛色に光るほど鉛筆で塗り重ねられた筆致のパワーが圧巻だ。
ちなみに、使い切った鉛筆も大切に保管しているといい、今回の展示では、絵の横にそっと置かれていた。
○ヘラルボニー4周年記念「The Colours!」-違うことの価値を問う
いっぽう、「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニット「ヘラルボニー」による展覧会のテーマは、「色」。異彩あふれる色のパワーを持つ12人の作家の作品がセレクトされている。
衣笠泰介 (左)「海辺でフルーツ」 (右)「ヨーロッパの夢の国」
金沢21世紀美術館キュレーターの黒澤浩美さんが手がけるコンセプトは、「個々の『違い』が価値となり社会を彩る」というものだ。
伊藤大貴「富士山と太陽」
「絵の具や色鉛筆のカラーパレットは、使う人たちが足したり混ぜたり、薄めたり伸ばしたりすることで、無限に自分だけの色を作り出すことができる。色の知覚も人によって違う。(略)あなたが赤というものも、私には赤と呼べないこともあるかもしれない。この『違い』こそが尊重されるべき価値だ」と黒澤さん。
早川拓馬「アイドルトレインエキスポ2016」
会場にはさまざまな「色」を持つ作品が展示され、作家ひとりひとりの際立った「個性」に驚かされる。たとえば大きなキャンバスに、あ然としてしまうほどの緻密さで人物と電車が描き込まれたこちらの作品。
近づいて見れば見るほど細かな描き込みに圧倒され、その集中力と根気に感服してしまう。唯一無二なオリジナリティもすごい……!
岡部志士 (左)「Scratch Works Yay!Yay! No.6」(右) 「Scratch Works Yay!Yay!No.5」
また、さくらクレパスを使った淡くやさしい虹のような色彩の作品も。作品の横に添えられた解説文によれば、この作家はクレパスの削りカスを団子にして「コロイチ」と呼んでおり、本人はそのコロイチを作るために絵を描いていて、作品は副産物なのだという。こんなに美しい作品が、副産物とは……!
「形」をテーマにしたアール・ブリュット2022 巡回展「かわるかたち」と、「色」をテーマにした「The Colours!」。どちらの展覧会も、作家の強いこだわりと個性によって生み出された驚きの作品が集っているので、ぜひ生でじっくりと体感してほしい。
■information
アール・ブリュット2022 巡回展「かわるかたち」
第1会場:東京都渋谷公園通りギャラリー(9月25日まで)11:00~19:00 東京都渋谷区神南1-19-8 渋谷区立勤労福祉会館1F/第2会場:練馬区立美術館 区民ギャラリー(10月27日〜11月2日)/第3会場:府中市美術館 市民ギャラリー(11月25日〜12月4日)/無料
■information
ヘラルボニー4周年記念「The Colours!」
会場:ANB Tokyo(8月7日まで) 11:00~19:00 東京都港区六本木5-2-4/無料