これまでのデザインを踏襲した13インチMacBook Proは、チップを刷新し、M2が搭載された。バッテリー持続時間が最も長いアップルのノートブック型コンピューターとしてのキャラクターを帯びる(筆者撮影)

アップルは6月24日、新型となる13インチMacBook Proを発売する。シルバーとスペースグレーの2色展開で、価格はベースとなるM2 8コアCPU・10コアGPU・メモリー8GB・256GB SSDストレージのモデルで17万8800円(税込)。

デザイン面は、これまでの13インチモデルと変化はないが、外装となるアルミニウムには、酸素を排出する方法で製造された低炭素アルミニウムが用いられている。そして、最大の進化のポイントは、第2世代となるアップルシリコン「M2」の搭載だ。

13インチMacBook Proは、このM2を搭載する初めてのコンピューターとなる。

アップルシリコン「M2」の実力とは?

アップルは2020年に、「2年間かけてインテルチップからアップル設計のチップへと移行する」計画を明らかにし、同年11月のMacBook Air・13インチMacBook Pro、Mac miniを皮切りに、Mac Pro以外のすべてのモデルをアップルシリコンへと置き換えてきた。

2年が経過した2022年6月の世界開発者会議WWDC22で、第2世代となるアップルシリコン「M2」を発表し、これを搭載するMacBook AirとMacBook Proが登場した。まったく新しいデザインとなったMacBook Airに先行して、13インチMacBook Proが今回発売となる。

手元の新型13インチMacBook Proの性能を、ベンチマークソフト「Geekbench 5」で計測してみると、シングルコア1900前後、マルチコア9500前後、グラフィックス30000前後という数字となった。

M1を搭載した13インチMacBook Proでは、シングルコア1700前後、マルチコア7500前後、グラフィックス21000前後であったことから、それぞれ11.2%、26%、42%の性能向上を認めることができる。

処理性能の26%向上、グラフィックス性能の42%向上は、非常に高い負荷がかかるビデオや3D等の処理においては、体感できるほどの性能向上になるはずだ。こうした性能向上にもかかわらず、バッテリーが最大20時間の動画再生、17時間のワイヤレスインターネット利用という、M1モデルと同様の水準を維持しており、チップそのものの省電力性も向上していることがわかる。

改めて考える「アップルシリコンとは」

アップルが独自設計のチップを採用した背景には、インテルを採用したMacの行き詰まりがあった。インテルチップを採用し続けている限り、Windows PCに性能面での差別化ができず、ラインナップを絞っているMacが魅力を発揮できずにいたためだ。

そこでiPhone・iPad向けチップから発展させたアップルシリコンをMacにも採用する戦略を打ち出すこととなった。
アップルシリコンの設計思想は、

1)低電力・高効率であること

2)ユニファイドメモリーアーキテクチャであること

3)カスタムテクノロジーにより、ユーザーのニーズに直接応えること

の3点が挙げられる。

1つ目の「低電力・高効率」については、これまでのチップの常識だった「性能が高ければ消費電力も高い」という関係を覆すことにある。実はスマートフォンなどのバッテリーで動作するデバイスだけでなく、大規模化が続くサーバ向けチップの世界でも同様のニーズが存在するトレンドでもある。

M2の省電力化と高性能化の両立を実現するにあたって、背景にあるのが、第2世代5nmプロセスによる製造だ。アップルシリコンの製造を引き受けるTSMCは、この技術を用いて同じ消費電力で動作周波数を5%向上させる、もしくは同じ周波数の電力を最大10%削減することができる技術を導入している。

実際、M1は動作周波数3.2GHzだったが、M2は3.5GHzに向上しており、バッテリー持続時間を維持しながらの性能向上に寄与していることがわかる。


キーボードは十分な深さを確保したマジックキーボードを採用。タッチ操作によるアプリケーションの作業ができるTouch Barも引き継がれた。指紋認証のTouch IDも搭載される(筆者撮影)

2つ目のユニファイドメモリーは、プログラムの処理とグラフィックスの処理で別々にメモリーを持たせてきたこれまでの構造をやめ、1つのメモリーのみをチップと直結させることで、データ転送による速度低下を防ぐ施策だ。

M2ではメモリー帯域幅が100GB/sに拡張され、さらなる高速化が図られている。

3つ目のカスタムテクノロジーとは、例えば機械学習処理を行うニューラルエンジンや、画像処理を行うエンジン、オーディオ処理など、ユーザーがMacでよく行う負荷の高い処理について、CPUではなく専用のプロセッサーを持たせることで、高速化と省電力化に寄与するアイデアだ。これも、スマートフォンの高度化によって培われてきたものだ。

M1とM2を比較すると、M1 Pro、M1 Max、M1 Ultraに採用された動画処理のアクセラレーター「メディアエンジン」が追加された。より高解像度・高圧縮のビデオの編集と書き出しを、スムーズかつ低電力で実現する特性が、アップルシリコンのベースのチップにも搭載されたことになる。

MacBook Airとの比較

アップルはM2搭載の新製品として、13インチMacBook ProとMacBook Airの2つの製品をアナウンスし、Proモデルを先行して発売する。搭載されるチップは同様だが、MacBook Airはまったく新しいデザインと4色展開が魅力となっている。

M2搭載のMacBook Airの優位性は以下の通りだ。

1)サイズが拡大した13.6インチの縁なしディスプレー「Liquid Retina」採用(Proモデルと同様の500ニトの最大輝度を実現し、Proの優位性が失われる)

2)フルHDに対応するFaceTime HDカメラで、よりクリアーなビデオ会議を実現(Proは720pのHD画質)

3)新設計の4ドライバースピーカーの採用で、より大きくクリアーで広がりのあるサウンド体験

4)充電コネクターMagSafe 3を採用し、USB-Cポート2つを外部機器との接続に利用できる(ProにはMagSafe 3非搭載で、充電のためにUSB-Cポートが1つ占有される)

5) 日本でのベースモデルの販売価格が1万4000円安い(ただしAirで、Proのベースモデルと同様の10コアGPUを選択する場合、Airのほうが2000円高くなる)

6)まったく新しいデザインで、シルバー、スペースグレーに加えて、シャンパンゴールドのような色味の新色スターライト、青みがかった深みある黒の新色ミッドナイトが選択できる

と、かなり多岐にわたる。

新型MacBook Proの優位性

では、M2搭載MacBook Proを選択する理由はどこにあるのか。


冷却ファンを内蔵している点がMacBook Airとの最大の違いとなる。負荷の高い作業をしている際に、マシン内部を強制的に冷却することができるため、高い性能を持続する時間をより長く保つことができる(筆者撮影)

1つは、バッテリー持続時間だ。非常に軽い使い方として、動画とワイヤレスインターネットでも、MacBook Proのほうが2時間長持ちする。

M2チップ自体は同様だが、MacBook Proにはアクティブクーリングシステムが搭載されており、内蔵の極めて静かなファンによって内部の熱を排出する仕組みが備わっている。そのため、特に日本の夏場や屋外で太陽の下での使用を想定する場合、強制排熱ができないMacBook Airでは、熱による性能制限の影響を受ける可能性が高まる。

加えて、極めてタイトになっている納期も気になる条件だ。

MacBook Airはアップルも言うように、最も人気のあるノートブック型コンピューターであり、その魅力的な新デザイン、かつアメリカなどの新学期シーズン(8月末)の商戦に合わせた新製品であることを考えると、争奪戦になる可能性が考えられる。

加えて半導体やそのほかのあらゆるものが供給不足に陥っている昨今の事情を考えると、ストレージを大きくしたり、プロセッサー性能を向上させるなどのカスタマイズを行うと、一気に納期が延びてしまうことは予想に容易い。

カスタマイズしなくても、予め10コアGPUと上位のチップが採用されている13インチMacBook Proは、出先で高性能・長寿命バッテリーを求めるユーザーにとって、より現実的な選択肢となるのではないだろうか。

(松村 太郎 : ジャーナリスト)