私が二階幹事長と公明党が日本のコロナ対策を誤らせたと思っている理由 - 宇佐美典也
※この記事は2021年04月26日にBLOGOSで公開されたものです
この原稿を書いているのは4月25日なのだが、本日から東京では緊急事態宣言が発令された。前回の緊急事態宣言が解除されたのは3月21日なので、わずか1ヶ月での再発令ということになる。
おまけに今回の緊急事態宣言に伴う措置はこれまでに比べて格段に厳しいもので、酒類やカラオケ設備を提供する飲食店に休業要請、酒を提供しない飲食店に時短要請、床面積合計1000㎡超の商業施設に休業、イベントには無観客開催の協力を求め、都民には不要不急の外出・移動の自粛を求めるというもので、正直萎える。
“いたちごっこ”が大半のワクチン接種終わるまで続く恐れ
菅首相は3月18日に「再び(緊急事態)宣言を出すことがないように対策をしっかりやる」と述べて緊急事態宣言の解除を決断したはずなのだが、今回再発令に至った理由については「変異株が急拡大していること」を挙げている。すでに変異株の感染者が出始めている3月に緊急事態宣言を解除すればこうなることは当然予測できたはずで、実際「8割おじさん」こと西浦教授なども早い段階で解除すれば4月には緊急事態宣言が再発令に至ると1月の段階で警告を発しており、正直菅首相に関しては「もうちょっとまともな説明してくれよ」と個人的には呆れている。
これは少し考えれば当たり前の話で、新型コロナウィルスの感染者数は指数関数的に拡大するのだから指数関数の底、y=axのaに当たる感染者数、が十分に下がらなければ、すぐに再発令に至るのは論理的な必然ということになる。火事を消火しきらないまま火を残せばすぐにまた燃え広がるのと同じようなものである。中小病院が多く、常時人手不足で、構造的に感染症対策に充てられる資源が少ない日本ではなおさらのことだ。
今回GWに強権的な措置を講じることによって一時的に感染者数がある程度下がり、菅首相や小池都知事は5月17日に来日が予定されているIOCバッハ会長に対してメンツが立つのかもしれないが、解除すればまたすぐ感染者数が拡大して緊急事態宣言かそれに類する措置を出すことになるのは目に見えている。こうした「いたちごっこ」は国民の多くがワクチン接種を終えるまで、おそらくは1年から1年半ほど続くことになる。それまで国民の緊張が持つかは相当の疑念が持たれ、日本でも爆発的感染拡大が起きる可能性は十分あるだろう。
【訂正】初出時、「y=ax」とすべきところが入力上のミスで「y=ax」となっていたため、修正いたしました。(2021年4月26日21時15分)
「第二波の感染者数を下げきらなかった」という分かれ道
なぜこうなってしまったのか、若干言葉だけだとわかりにくいので図で説明しよう。上のグラフは国内における新型コロナウィルスへの感染者の推移を示したものだが、今のところ感染者数が医療リソースの限界(図では仮想的に点線で示した)にせまると都道府県単位での対策がなされ、限界を超えると緊急事態宣言が発令されるという運用がなされている。
都道府県単位での対策にしろ緊急事態宣言の発令にしろ、各種活動制限がかかりそれが機能すると感染者数が減っていくことになるわけだが、ここで感染者数を十分に減らしきらないと、次の感染拡大の波のスタート(図では赤線で示した)が徐々に高くなっていくので、感染拡大期に入るとすぐに次なる活動制限がかかることになる。これが現状である。もちろん行政も医療リソースを拡大しようと各種施策を打つわけだが、感染症に対する長年の準備不足が急に解決するはずもないわけで、医療リソースは各種対策により線形にしか増えていかず、抜本的な対策にならない。
緊急事態宣言を解除して1ヶ月後に再発令しなければいけないような現状は決して「成功」とは言えないわけで、では日本はどこで間違えたかというと、グラフから見て取れるように第二波できちんと感染者を下げきらなかったことにある。実はこのことに昨年の6月の段階で専門家会議及び厚労省は気づいており、厚労省は各都道府県と流行シナリオを共有し、例えば東京都で言えば1日あたり平均感染者数が50人を超えたら積極的に行政介入し感染をゼロ近傍まで鎮めることが最も自粛期間を少なくすることにつながると通知している。これは普遍的な結論で、台湾にしろオーストラリアにしろベトナムにしろ新型コロナ対策と経済の両立が上手くいっているとされる国はいずれもこのような対処をしている。
日本ももちろんこれらの国と同様になる道もあったわけであるが、ではなぜ今のような道を歩んでしまったかと言えば、政治的な事情による。新型コロナの第二波が襲った昨年の夏から秋にかけてはいわゆるGoToキャンペーンまっさかりであった。このタイミングで緊急事態宣言を出せばGoToキャンペーンを中断せざるを得ず、また、安倍首相が退任を発表しており政権がレームダックの状態にあったので、そのことが緊急事態宣言の発令を躊躇させていた。仮に菅首相が9月の就任直後のタイミングで緊急事態宣言を発令して感染を鎮めていれば、今でも観光を楽しめていた可能性は高く、この政治的判断は「目の前の1円のために将来の100円を捨てる」ようなものだったのだが、菅首相がこのような判断をせざるを得なかったのは彼の脆弱な政治基盤にある。
二階幹事長と公明党にとって一押しだったGoToキャンペーン
菅首相は自民党内で大きな派閥に属しているわけではなく、総裁選で菅首相を支えたのは二階派(48人)と準派閥とでも言える20人強の菅グループだった。それでも菅首相が総裁選を制したのは、党員の支持と、あとは公明党との良好な関係が大きかった。概して選挙を経ない継承政権は党内政治基盤の弱さから短命政権になりがちなのだが、菅政権がまがりなりにも窮地を乗り越えここまで求心力を維持できているのは、自民党内を幹事長である二階氏を通じて統制しつつ、公明党との関係を維持できたことによるところが大きい。そしてこの二階氏と公明党の両者が一押しの政策がいわゆる「GoToキャンペーン」であった。最悪党内での勢力である二階氏はなんとか抑え込めても、他党である公明党を説得することは困難極まりない。そういう状況では第二波の抑え込みのために緊急事態宣言を発令することは菅首相にとって取り得ない選択肢であったことは想像に難くない。
公明党の政策決定プロセスというのは、ヒアリングとアンケートを核とした「データに基づく現場主義」とでもいうものである。公明党議員は創価学会という宗教的背景もあり、横のつながり、ネットワークが非常に強く、また党内秩序も安定している。公明党の政策はこうした横のつながりと安定した秩序を生かしたボトムアップの方式が確立している。政策テーマに応じて「①地方議員が現場に赴きヒアリングする→②ヒアリング結果を踏まえてアンケートを作成する→③アンケートを集計して民意をデータ化する→(④必要に応じて広く署名を集めてさらに民意を補強するデータを作る)」という具合である。過去には携帯電話番号の持ち運び制度(番号ポータビリティ)や不妊治療の助成などの数多くの政策がこれにより実現にまで結びついた。こうした仕組みは他党や行政機関になく、まさに公明党の「大衆とともに」という原則を体現した素晴らしい仕組みだと個人的には思っている。
公明党の山口那津男代表は佐藤優氏との対談を記した近著の中で、災害対応を含めた様々な場面で国民の声を拾い上げた仔細にわたる政策を実現してきたことを記しており、他党とは一線を画す同党の存在意義が示されていて大変興味深い。
しかし、その特性がいい方にだけ作用するかというと、もちろんそうではない。「GoTo」に関しても地方の観光事業者の要望が届けられ、実現した政策の一つと言えるが、同著の中でその停止判断について以下のように述べている。
「赤羽一嘉国土交通大臣を中心にGoToを推進してきた公明党としては、(GoToの停止は)苦渋の決断でした」
「GoToトラベルを政権批判の道具として使ったり、人々の不安心理を煽り立てる道具に仕立てるのは好ましいことではありません。もちろん感染拡大を防止することはたいせつです。だからといって、GoToを長期間にわたってストップしてしまえば、地方都市で事業をやっている人はとても耐えきれません。限界点をどこで見極め、ギリギリのところで適切な政策を実行して行くか。世論を真摯に受け止めながら政府与党は難しい判断をしているのです」
まず誤解がないように言っておくと、私自身GoToは必要な政策だと思っている。ただ二階幹事長や公明党、ひいては政府は山口代表の言うところの「限界点」の見極め方があまりにも近視眼的すぎたように思う。その結果、厚労省のシミュレーションは無視され、GoToを停止しないために緊急事態宣言の発令は遅れ、医療リソースの限界スレスレまで感染拡大を放置してしまうことになった。その結果、日本社会は感染抑制に入っても感染者数が下がりきらないまま、第三波、第四波と次の感染拡大の波に入り、緊急事態宣言を短期間で繰り返すループに入ってしまったと言えよう。
前述の通りこの負のループから抜け出す策はもはやワクチン接種しかないため、日本国民は短めに見積もっても後1年ばかりほぼ常態的に活動制限を受け入れ、ワクチン接種の順番を待つしかなくなってしまった。問題は日本人がそれまで我慢しきれるかどうかである。出口が見えていればこそ、我慢ができなくなるケースはよくあり、今後日本でも欧州のような爆発的感染拡大が起きないとは言い切れない。ましてや権力者が自身のメンツを立てるために、恣意的に聖火リレーやIOC会長の来日に合わせて解除したり発令したりする緊急事態宣言となればなおさらである。
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2021年4月26日(月)~4月29日(木)中
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