お笑いの街・関西と東京の作家観・バラエティ観の違いとは? - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年07月07日にBLOGOSで公開されたものです
武村圭佑です。放送作家と名乗りだして11年が経ちました。そのうちの5年間は関西、6年間は東京で活動しています。キャリアの半分ずつを関西と東京で過ごしてきたため、ここで一度、自分の作家人生を振り返り、関西・東京での放送作家観や番組観の違い・ギャップについて考えました。
とにかく「お笑い」が大事な関西
大阪は笑いの本場と言われることもありますが、本場かどうかはさておき、東京に比べてお笑いがより身近なのは関西です。関西と関西のテレビ欄を比較してもらうとより分かりやすいですが、関西のテレビ欄をざっと見ると、全国ネットで放送されている番組、ニュース番組を除くとほとんどの番組に吉本興業の芸人が出演しています。それほど吉本興業が、そしてお笑いがお茶の間に根付いているのです。
全国ネットの番組には様々なジャンルの番組があります。クイズ番組、情報番組、ドキュメンタリー番組、そしてバラエティ番組。バラエティでもアイドルがメインで出演していたり、生活情報の紹介がメインだったり、芸人が1人も出演しない番組があったりと多種多様。
しかし関西では違います。バラエティ番組の出演者はほとんどが芸人。さらに吉本興業の芸人がメインです。報道番組、情報番組、ワイドショー番組についても同様で、関西制作の番組のほとんどで芸人がコメンテーターとして出演しています。
関西で放送作家として仕事をしていくにはどうすれば良いか
そんな背景があるため、関西で活動している放送作家は吉本興業の劇場で活動し、そこで実績を積み上げた後にテレビに呼ばれるケースが多いです。私が関西で活動していた頃、周りにいた先輩、同期のほとんどが芸人との繋がりで仕事を得ていました。
吉本の劇場のスタッフとなり、芸人と仲良くなり、一緒にイベントの仕事をし、その芸人が冠番組を持つようになると、番組に放送作家として携わる。この形が関西には根付いています。とある関西ローカルのバラエティ番組で仕事をしたことがありますが、放送作家が9人いて、そのうち7人が吉本興業の劇場出身でした。出演者のほとんどが芸人という番組はあっても、吉本興業の劇場で育った放送作家ばかりの番組は全国ネットでも稀ではないでしょうか。
東京でも芸人の推薦で番組に呼ばれるという流れはありますが、おそらく関西ほどではありません。関西では先にあげたように、吉本興業制作の番組が多く、そういった番組では放送作家含めスタッフも芸人の意向を取り入れやすいのだと思います。
ここまでの話を受けて、関西では芸人に気に入られる人、つまり人付き合いの良い、愛想の良い人の方が仕事を得られると思うかもしれませんが、そうではありません。芸人から番組に呼ばれる人は、お笑いの価値観や感性がとにかく合った放送作家。本当に面白いと思われた放送作家が芸人に信頼され番組に呼ばれます。
特に関西はお笑いや面白いことにシビアな印象のため、人付き合いが上手そうな人が少し敬遠される印象もあります。これも東京と関西の放送作家観の違いかもしれません。
最初に感じた関西と東京の作家観ギャップは企画書
東京ではどうなのでしょうか。東京では放送作家として仕事を得る方法が多種多様だと感じます。例えば放送作家が所属する事務所の数も番組制作会社の数も関西の比ではありません。芸人との繋がりに加え、所属事務所の多様性、制作会社の多様性など様々なやり方で仕事を得ている人が多いと感じました。
私が上京し、東京で初めて放送作家の仕事をした時に感じたギャップは企画書。関西に比べて、写真を多く使うなど、とにかく豪華で派手で驚きました。
私が関西で活動していた頃、企画会議や打ち合わせをする際、書いていたのは写真やイラストなしのテキストのみの企画書。A4用紙1枚に何個か企画を羅列しただけで、それが当たり前だと思っていました。ところが東京の放送作家が書く企画書は、ページ数も多く、表紙あり、イラストあり、画像あり、文字もワードアートで綺麗に装飾し、フォントも内容やページによってアレンジ。出演タレント案も全員写真付きでした。
企画概要のページでは出演を想定した芸能人の写真に吹き出しが付いて、その芸能人が喋っているように見えるこのような企画書を目にして、とてつもない敗北感を覚えました。もっとMicrosoft Wordの使い方を勉強しないといけないなと思った記憶があります。
企画書の出演タレント案が違いすぎる
続いて感じたのが、想定される出演タレントの違いです。番組会議では基本的にどのタレントが出演すると面白くなるかも議題の1つで、放送作家が出演するタレント案を出します。関西の番組会議の場合、出演が想定されるタレント案のほとんどが関西を中心に活動する芸人です。
「こんな面白エピソード持った若手芸人いますよ」「こんな特技を持った若手芸人がいますよ」といった案を求められています。そのため、出演者案を出す際は企画書にその芸人の名前に加え、こんなエピソードがあって…と書き加えます。「この間吉本の劇場に出演していた時に、こんな面白いネタをやっていた」などの説明を添えて案を出すことがほとんどでした。
一方、東京の出演タレント案は違います。芸人に加え、アイドル、俳優、女優、ミュージシャン、作家、専門家まで書き放題。そしてエピソードを添えてプレゼンすることもありますが、それよりも番組の企画に合っているかどうかを放送作家の感覚として出すことも多いです。私が東京に来た頃、他の放送作家が書いた出演者案に佐藤栞里や小島瑠璃子といった現在のテレビ界で活躍しているタレントの名前が書かれていて、「こんなに売れている人を書いて良いんだ」と驚きました。
とはいえ、好き勝手書けるから東京の方が楽…と言えないのが難しいところ。タレントなら誰でも書いていいわけではありません。とある番組でMCとアシスタント案として、ある女優の名前を書いたところ、「出てくれるわけねーだろ!」と怒られたこともあります。出演者候補に色々と書ける反面、良いラインを出すのが難しいというのもあります。
番組会議や打ち合わせでのギャップ
では、関西と東京で番組の方向性にどんな違いがあるでしょうか。テレビ離れが叫ばれる昨今、テレビ番組の会議ではメイン視聴者層である、主婦層に見てもらえる企画が求められます。主婦が家事をしながら放送していても気にならずに、家事の合間、休憩時間に見ると、ふと目に留まるような情報が出てくる。このような案が求められているのです。
一方、関西ではどうでしょうか。関西で大切にされる視聴者の属性は、いわゆる大阪のおばちゃんです。「おばちゃんの目に留まる内容にしなあかん」というわけです。「それじゃ大阪のおばちゃんは笑わへんねん」とダメ出しを受けた作家仲間もいました。
どの番組でもそんな話をしているわけではないでしょうが、ヒョウ柄の服を着て、飴ちゃんを配り、買い物袋をさげた明るく陽気な大阪のおばちゃん像を常に意識しないといけないことが分かります。
価値観やギャップはあっても、作家を目指すきっかけはそんなに変わらない
では放送作家になるきっかけも違うのかというと、そうではありませんでした。関西で放送作家を目指す人は、お笑い番組がやりたくて仕方がない人ばかり。私も中学生の頃、大阪・難波にあった吉本興業の劇場・baseよしもとが好きで、その劇場に所属している芸人や、芸人がパーソナリティを務めるラジオ番組を聞いたことで放送作家を目指しました。関西時代、放送作家志望の人と話をすると、好きな芸人と、好きなバラエティ番組の話になることがほとんどでした。
上京してから、東京の放送作家に目指したきっかけを聞くと、関西と大差ありませんでした。多く人がお笑いやバラエティ番組が好き。中には、元々は吉本興業の養成所に入っていて、芸人としては芽が出なかったものの、面白いことに携わりたいため作家になったという人もいます。
今後の東京と地方との差はどうなる
今後、番組観や放送作家観はどう変化していくでしょうか。動画配信サービスTVerやサブスクリプションにより、東京でも関西ローカルの番組が見られるようになりました。今後は「関西の番組だから、大阪のおばちゃんに合わせないと」…という方向性もなくなっていくかもしれません。
また東京で活動している放送作家の事務所や制作会社がリモートで関西のローカル番組を作る時代がくることも考えられます。
この間、主に関西で活動する芸人が東海ローカルの番組に出演したところ、リモート用のパソコンと撮影器具が送られてきて、収録は自宅で行ったそうです。私の周りだと、新型コロナウイルスが大流行していたこの春、関西でお世話になっていた放送作家の方から久々の連絡がありました。
話を伺うと、関西ローカル番組の企画書募集の話題で、もちろん応募しました。新型コロナウイルスの流行がきっかけというのは皮肉な話ですが、これからのテレビ界では東京だから、地方だから、という線引きがなくなり、面白い番組、興味深い番組をとことん突き詰めていくと思います。
武村圭佑
1986年生まれ 奈良県出身。
『ダウンタウンのごっつええ感じ』など数多くの番組を手掛けた放送作家が講師を務める『かわら長介放送作家魁塾』を卒業し、放送作家の道へ。大阪吉本のイベント構成を経て2014年拠点を東京に移す。現在はテレビ、ラジオの構成や芸人とのネタ作成を中心に活動中。