7月1日から有料化のレジ袋は環境保護の厄介者か? エコバッグにはコロナ感染の懸念も - 小林ゆうこ

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※この記事は2020年06月30日にBLOGOSで公開されたものです

スーパーやコンビニなどでのレジ袋の有料義務化が7月1日から始まる。実際に店舗を訪ねてみると様々な形でアナウンスされているものの、実は多くの波乱を含んでいるようだ。

このコロナ時代にエコバッグを奨励し、ウイルスが付着している可能性を拭えないままにコンビニやスーパーに持ち込ませるのか。そして、そのエコバッグに「袋詰め」するのは店側か、はたまた消費者なのか…。

国からは、なぜレジ袋だけが環境に悪影響を及ぼすのかに関する科学的な説明はさっぱり聞こえてこない。そもそも、なぜレジ袋は有料化する必要があったのだろうか。考えてみた。

地球環境保護の前提はトレードオフ レジ袋の場合は

6月初旬、いつものようにスーパーを訪ねてみると、売り場にはポリ袋の棚がこれまでになく充実していることにふと気がついた。レジ袋(100枚入り)が何種類か並んでいたので、いちばん安い92円の商品を1袋購入した。1枚あたりでは0.92円だ。

7月から有料化となれば、大手コンビニなら1枚3円でレジ袋を買うことになるため、節約のための準備だ。スーパーにはエコバッグを持参するものの、コンビニでもらうレジ袋は捨てずに家のごみ箱の内袋などにして再利用している。棚の充実ぶりは、他の家庭でも同様のニーズが多いことを物語っているようだ。100円ショップでも完売の店があるらしい。

マイエコバッグならぬ、マイレジ袋。これまでは無料が当たり前だったスーパーやコンビニのレジ袋が有料となる。価格は店舗ごとに決まるというが、消費税が10%漏れなく課せられる立派な商品だ。となると、スーパーやコンビニのロゴマークが入っているかもしれない3円のレジ袋を買うより、1枚1円しないマイレジ袋を携行するのが、庶民の“新しい生活様式”ではないか。

レジ袋は便利だ。雨天のときに自転車のサドルを包んだり、畑で採った野菜を入れたり、犬の散歩に持ち歩いたりと、多くの人に重宝がられている。

一方、世界各国のレジ袋規制は厳しさを増している。次々と課税・有料化・禁止といった流れになっているのが昨今の動向だ。国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)のゴール13では、2030年までに海洋汚染の防止・大幅削減が目標とされているものの、この度の日本ではレジ袋禁止にならず、有料化に止まった。

対象外となった袋(地球環境保護のためによいとされる袋)の顔を立てたのだろうか。あちらを立てれば、こちらが立たず。環境と消費は、一方を得るには他方を犠牲にする、いわゆる一得一失の「トレードオフ」の関係と言われるが、この度は「一得半失」といったところか。

プラスチックの大量生産はわずか50年で20倍に拡大した。それは人々の生活に恩恵を与える一方、いまでは年間800万トンのプラスチックごみ(以下、プラごみ)が海に捨てられる皮肉な結果を生んだ。丈夫な素材だから、いったん海洋に廃棄されれば分解されるまで数百年かかってしまい、現状のまま打つ手なく汚染が進めば、2050年までに世界の海は魚と同量のプラごみで埋め尽くされるという。

プラごみは世界中で年間300頭の海洋生物を死に追いやった。プラごみと知らずに誤飲してお腹を膨らませ、餓死したクジラやイルカ、ストローが鼻に突き刺さったウミガメの痛々しい写真は記憶に新しい。また海中で細かく粉砕されたマイクロプラスチックは生態系に入り込み、人の生命を脅かす恐れもある。いや、もう現実となっているという説もある。いま私たちは、海洋ごみと正面から向き合わねばならない崖っぷちに立たされている。

「実はレジ袋はエコ」 その真偽は?

それにしても、なぜ、レジ袋だけが目の敵にされるのか? 有料義務化を、消費者へのペナルティーのように感じるのは筆者だけだろうか。有料でよければどうぞと、暗にレジ袋辞退を勧めているようでもある。レジ袋は、「もらわないほうがよいプラ」の筆頭にされた格好だ。ペットボトルや、発泡スチロールや、食品トレーと、プラごみにもいろいろあるはずなのに、なぜだろうか。 包装用品メーカー・清水化学工業のサイトが、その問いに逆説的に答えてくれている。

「脱プラ、脱ポリ、紙袋へ 切り替えをご検討のお客様へ」「ポリ袋は実はエコなんです」というタイトルで、ポリ袋(レジ袋)は環境に負荷をかけないものだと列記している。

例えば、その材料であるポリエチレンは(焼却しても)ダイオキシンなどの有害物質を出さない。ポリエチレンは石油精製時に出る素材からできるため無駄がなくエコだという。ポリ袋は自治体の出すごみの0.4%にすぎない。日本では、サーマル(焼却)リサイクルされているので燃料となり無駄がない。レジ袋は再利用率が高い、など。すんなりと納得できる話ばかりだ。

次の一文に、有料義務化に対するレジ袋メーカーの無念が窺える。

“容積ベースではポリ袋は海洋プラごみのわずか0.3%なのに、現在象徴的に非難されています。原因のウエイトと対策のウエイトが乖離しています”

容器包装リサイクル法(以下、容リ法)の省令改正により、レジ袋有料義務化が決まったのは2019年12月。その直前3ヶ月の間、環境省と関係省庁が設置した合同審議会「レジ袋有料化検討小委員会」が開かれていた。

環境省は2016年度、稚内、根室、函館(北海道)、遊佐(山形県)、串本(和歌山県)、国東(大分県)、対馬、五島(長崎県)、種子島、奄美(鹿児島県)の10地点で漂着ごみの調査を行なっている。その結果に基づき合同審議会に提供した資料にも次のように明記している。

「レジ袋は海洋ごみのわずか0.3%」

容積ベースでみても、1位はその他プラスチック、2位は漁網・ロープ、3位は発泡スチロールブイ。0.3%のレジ袋は10ある区分のうち最下位だった。

海洋ごみは大陸の河川から流出する

合同審議会(環境省・経産省)が募集したパブリック・コメントのなかにも、レジ袋をなぜ海洋ごみの元凶のように決めつけるのかと、制度設計を疑問視する声も少なくなかった。以下抜粋する。

・レジ袋のプラスチックごみ全体に占める割合は2%程度であり、仮にレジ袋がゼロになったとしても海洋ごみや地球温暖化などの解決には程遠い。
・海洋ごみ対策なら、不法投棄を取り締まればいいだけである。
・ごみ袋は自治体が回収し焼却するため、マイクロプラスチックによる海洋汚染とは無関係であり、レジ袋有料化は無意味。

あたかもレジ袋有料化で問題が解決するかのような風潮が感じられる。ペットボトル、漁具、トレイ、タイヤ粉塵、衣類の繊維クズ、スクラブ洗顔剤のマイクロビーズ、タバコフィルターに対して、いますぐ対策する必要があるのではないか、など。

こうした意見に対する環境省・経産省の回答は、上記パブリック・コメントと同時に「結果」として発表されたが、海洋ごみとレジ袋の本質的な関係については沈黙するばかりだ。

“ 資源・廃棄物制約や海洋ごみ問題、地球温暖化といった地球規模の課題を踏まえ、これらに対応しながらプラスチック資源をより有効に活用する必要性が高まっているところです。こうした背景を踏まえ、2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」を策定し、その重点戦略の一つとしてリデュース等の徹底を位置づけ、その取り組みの一環として、「レジ袋有料義務化(無料配布禁止等)」を通じて、消費者のライフスタイル変革を促すことにしています”

ところで、アジアの海洋ごみは、10の河川から流出しているという興味深い調査結果がある。

ドイツ・ライプチヒのクリスチャン・シュミット博士らのチームは、世界の河川からの流出状況を推計したところ、プラごみの海への流出経路で、もっとも大きかったのは中国の長江で、2番目はインダス川、次いで中国の黄河、海河、ナイル川、メグナ川の順だったという。10位のメコン川までの10河川で、年間に河川から海洋に流れ込む廃棄プラスチックの88~95%を占めるという。

一方、海洋に流出したプラごみの発生国は、1位中国、2位インドネシア、3位フィリピン、4位ベトナム、5位スリランカ。アジアの国々が名を連ねている。日本近海がホットスポット(汚染集中区域)と言われる所以だ。

日本が議長国を務めたG20大阪サミット(2019年)でも、海洋プラごみ問題は大きな注目を集めた。世界の途上国を含む主要国が、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有して、2050年までにプラごみゼロを目指すことになった。

安倍首相は、「強いリーダーシップを発揮して、適切な廃棄物管理と海洋ごみの回収などに、あらゆる手段を尽くしていく」と語ったが、そのビジョンとレジ袋有料義務化という施策が、どうも脳内でピンと繋がらないのはどうしたものだろうか。

レジ袋は環境問題解決の人身御供か

いまから約10年前、容リ法の改正を契機に、やはりスーパーやコンビニのレジ袋を削減しようという動きがあったのを覚えている人も多いだろう。つまり、レジ袋業界にとって今回の有料義務化は第二波の騒動ということになるが、その推移を、当時レジ袋問題を取材・執筆したという週刊誌記者が語る。

「国からレジ袋は常に標的にされてきました。プラスチックのなかで、もっとも身近なものだからです。第一波の際には有料義務化には至らなかったため、客離れを懸念した小売店側から無料化の流れが出ていまに至ります。無料から、いままた有料へ。レジ袋を巡って小売店は何度も揺れ動いてきた。ただし、一度〝悪者〟にされたレジ袋の汚名はずっと消えません。業界はその波をかぶり、安い輸入物の増加とも相まって、いま国産レジ袋は全体の2割程度。もちろん出荷数はジリ貧です」

昨年秋の合同審議会に招聘された業界団体の組合代表は、次のように意見を述べた。

「レジ袋が有料義務化となれば、レジ袋に携わる国産メーカーに非常に大きなマイナスのインパクトが発生すると考えています。約10年前の容器包装リサイクル法の改正では、レジ袋の有料義務化は見送られたものの、各市町村単位での自主規制は実施されました。一部の県では、需要の9割近くが消失したケースも発生し、国産メーカーは多大な打撃を受けました。これによって従来比で3分の1まで減少し、今日に至っています。当業界の組合員数も廃業・倒産により、その当時と比較して3分の2に減少しました」

「売上が減り、資金繰りに窮して倒産するところもあれば、これまでの設備投資が無駄になり、大変な負債を抱え込むところも出てくる。様々なケースが発生すると思われます。環境は大事ですが、それを強引に推し進めることによって、それを生業にしている企業、しかもこれまでも環境配慮を続けてきた企業が路頭に迷い、見殺しになってもいいのか。このようなポイントについても、政府には目を向けて頂く必要があると考えます」(合同審議会議事録より引用)

議事録には、大学教授などの委員が発言する、「(レジ袋は)分かりやすい」という言葉が繰り返し綴られている。レジ袋有料化は消費者のライフスタイル変革を促すための分かりやすいアイコンとして、標的になったのか。

組合事務局に聞くと、今回のレジ袋有料義務化の決定で、いまのところは会員企業の倒産・廃業といった情報はないとしながらも、「レジ袋は、(はかどらない環境問題解決の)人身御供にされている」との声が上がっているという。

外食チェーンは「銭函を用意しろ」

ところで、有料化の対象外となるレジ袋もある。有料化するレジ袋とは一線を画して法令に基づく有料化の対象にはなっていないので、店舗では無料で提供できる。プラスチックフィルムの厚さが0.05ミリ以上のもの、海洋生分解性プラスチック、バイオマス素材の配合率が25%以上のものと3種類ある。

そのうち、海洋生分解性プラスチックとバイオマス配合のレジ袋は、総称・バイオプラスチックと呼ばれる。例えば、トウモロコシなど植物由来の素材のことで、日本バイオプラスチック協会などの認証マークが付いている。これが、「地球環境保護のためによいとされる袋」だ。

それが有料化の対象外となったことで、7月以降も無料提供することに決めたのが、北海道で展開するコンビニ・チェーンのセイコーマートや、吉野家、ケンタッキーフライドチキンなどの外食チェーン。7月以降もバイオマス配合のレジ袋を無料提供するというニュースが駆け巡った。

その決断には、コロナ時代のサービスにうまく照準を合わせた、業界の知恵があった。前出の週刊誌記者は事情を語る。

「外食チェーンにとってレジ袋有料義務化は、スーパーやコンビニよりも厳しい事情がありました。有料のレジ袋には10%の消費税がかかります。ところが外食チェーンの券売機には1円を投入する仕様はない。ガイドラインでは〝銭函を用意するなど工夫を〟などとありますが、正直、現実味はありませんね。あまりに急な制度変更で整備が間に合わないこともありますが、新型コロナ感染防止の衛生面を考えれば、無料で出せるバイオマス配合レジ袋は〝渡りに船〟。外食チェーンが足並みを揃えたのは見事でした」

ところで、バイオマス・レジ袋は、本当に地球環境にやさしいのだろうか? 環境省がまとめた「プラスチックを取り巻く国内外の状況」に、非常に気になる項目がある。

「バイオプラスチックに対する国際的な論点」として、バイオプラスチックは、トウモロコシやサトウキビを原料にする食品用途と競合し、温室効果ガスを排出するLCA(ライフサイクルアセスメント)が問題であると。また、生分解性プラスチックは、海洋環境中では生分解されるまで長時間かかり、長期にわたってマイクロプラスチック化してしまうと示されている。

分解されやすく、リサイクルには不向きなため、リサイクルルートで他のプラスチック素材と混在するとリサイクルの阻害要因となるという。「国際的な論点」になる訳である。

最後の1点には、さらに驚かされた。モラルハザードを引き起こし、ポイ捨てを助長する恐れがあるとのことだ。「バイオ=地球にやさしい」というイメージには、倫理崩壊という落とし穴があるということか。

未だ発展途上のバイオプラスチックを、日本は2030 年までに約200万トン導入すると決めている。政府はやはりその顔を立てたのではないか。

エコバッグ「袋詰め」にレジから悲鳴

Twitterで、「#レジ袋有料化」だけでなく、「#袋詰め」のハッシュタグを付けると、多くのコンビニ・スタッフの叫びが聞こえてくるようだ。

「レジ袋の有料化でエコバッグが増えるだろうけど、触りたくねえ。雑菌いっぱいだよ。その手でレジ打ち、ありえない」「誰が袋詰めするんだろう。このご時世、客のエコバッグ触るの抵抗ないか?」
「コンビニには、サッカー台(袋詰めのための台)はないし、混んでる時間はレジがもたついて大変だよ。どうすんだろ」
「スーパーでエコバッグを使う人が増えたら、サッカー台で薄いポリ袋をたくさん使う人が増えそう。ごみ削減に全然ならない」

そんななか、異彩を放っているtweetがあった。発信者は「全国スーパーマーケット協会」。

“「おはようございます。レジ袋有料化の義務化は昨年、政府が決めたことですので、制度自体に対するご意見は、店舗の従業員ではなく、相談窓口にお願いします。消費者向け0570-080-180です」”

経済産業省の相談窓口の電話番号を明記している。さっそく連絡して、「実際にそうした事例があったか」を伺うと、非常にリアルな現場の声を頂戴した。

「いちばんに守りたいのは、現場の従業員の皆さんです。有料化の義務を課せられた小売事業者の側も、苦心して対応にあたっているのです。コロナの影響でできた「新しい生活様式」では、石油燃料を撒き散らして配送する通販が推奨されています。通販ではレジ袋を使用しても、それは有料化の対象外。リアル店舗の事業者には細かい金銭のやりとりや在庫管理、報告義務などが課せられ、ネット販売では事実上、野放し。小売店側もいろんなことに戸惑っているのが実情です」

確かに、新しい制度改革に立ち会うには、戸惑いと混乱はつきものだが、それにしても、レジ袋だけでなく、レジスタッフも決して悪くない。「地球にやさしい」行動変革を目指す前に、「レジスタッフにやさしい」消費者にならなくてはと肝に銘じたい。