知らないアナタは損をした!? コロナ禍で生み出された、秀逸な新型オンラインエンタメ3選 - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年06月30日にBLOGOSで公開されたものです
少しずつ再開し始めたエンタメ業界
6月19日、全国を対象に都道府県をまたぐ外出自粛が緩和されました。また東京都では6月12日から、ネットカフェ・パチンコ店・遊園地などへの休業要請も解除され、飲食店は朝5時から夜12時までの営業が可能に。もちろんまだまだ油断はできない状況ではありますが、徹底した自粛ムードから少しずつ元に戻ろうとする流れを実感しています。
テレビ業界も例外ではなく、6月19日をきっかけにロケや撮影を再開させた番組もかなり多いと聞きます。ただしどの放送局も厳しい条件を設定しています。出演者同士の距離はソーシャルディスタンスを守ること、スタジオでトークをする場合はアクリル板を挟むこと、大勢の人が集まる企画は避けること…など。大きな影響力を持つテレビ業界だからこそ、慎重に事が進められている印象です。
またテレビ以外の業界でも工夫をしながら、様々なエンタメが劇場などで実施されようとしています。たとえばオーケストラ。7月2日の主催公演開催を目指す「新日本フィルハーモニー交響楽団」は、感染症に詳しい医師のアドバイスを受けながら3段階の演奏スタイルを検討。試験演奏では指揮者と約70人の奏者がゴーグルとマスクを装着しビニールのついたてを設置。弦楽器は1.5メートル、管楽器は2メートルという細かな数値を設定した上で間隔を広げて演奏が行われました。
さらにお笑いライブも再開してきていますが、やはり客席の間隔をあける、最前列のお客さんにフェイスシールドの着用をお願いするなど徹底的な対策が取られているそうです。
制限があるからこそ、新しいエンタメが誕生
このように明るいニュースが届くようにはなりましたが、それでもコロナの影響を全く意識せず、どんな企画やイベントでも自由に実施できるようになるには、まだかなりの年月がかかりそうです。第2波がやってくるかもしれない、などと考えていると気が重くなるのが正直なところです。
そんな中で今回は、このコロナ禍で生み出された「秀逸なオンラインエンタメ」をご紹介したいと思います。何とかたくさんの人に喜んでもらいたいと、多くの作り手たちが様々なアイデアを形にしてきました。有名な芸人さんやクリエイター集団が、下手をすれば失敗して大恥をかくかもしれないのに果敢に新しいチャレンジをする様子は感動的ですらありました。
しかもそのどれもが「オンラインでもできる」ではなく「オンラインだからこそできる」という形になっていて、コロナが収束した後でも残り続けるのではないかと感じるものばかり。実際に僕が体験した感想も併せて書いていきたいと思います。
生活空間がエンタメ化!自宅探索型イベント「家にあるもので答えまSHOW」
「リアル脱出ゲーム」「謎解き」を世間に浸透させ、エンタメ業界でも確固たる地位を築きあげているSCRAP。コロナにより多くの人が自宅から出ない状態になっても、すぐさま数多くのオンライン企画を実施。中でも僕が実際に体験し、驚かされたのが「家にあるもので答えまSHOW」でした。
企画内容はいたってシンプル。数人でチームを組み、出題されるお題に対して「家にあるもの」で答えなければならない自宅探索型ゲーム。答えを思いついても「あぁ、先週捨ててしまった」など家にものが存在しなければ解答はできず、チームメイトがお互いの家にあるものを確認しあいながら頑張る仕掛けになっていました。
まず印象に残ったのは、徹底した準備と気配り。Zoomを使って開催されたイベントだったのですが、集合時刻に指定されたURLを使って入室すると、待合室のような部屋が用意されていました。そこにはBGMも流れていて、まるで本物のイベントに来た時のようなワクワク感がありました。
また、このイベントでは知らない人同士でチームを組むのですが、ゲーム開始前に自然と仲良くなれるように「お互いの家にあるもの」を確認させる段取りになっているなど、SCRAPが長い時間をかけて培ってきたノウハウがZoomでもしっかり反映されていたことに驚きました。
さらにイベントが始まった後も司会者の進行に合わせて画面共有を巧みに使いこなし、極めてスムーズにゲームが進行。「解答用紙に書き込む」「司会者の呼びかけに応じる」など、あらゆるアクションが求められましたが、参加者は誰一人として置いていかれることなく企画に没入することができました。
この頃はまだビデオ会議が浸透し始めていたくらいの時期で、やっと人々がZoom会議に慣れてきたレベル。そんな中でいち早く新しい技術に対応し、誰でも疑問なく使えるように様々な工夫を凝らしエンターテインメントに仕上げてきたチーム力に感服させられた参加者も多かったと思います。
もちろん企画内容も抜群。『オンラインイベントはお客さんが自宅にいて集中しづらい状況にあるから、なかなか臨場感が出しにくい』というのが通説でしたが「自宅にあるものを探す」という企画にすることで、日常生活空間そのものをエンタメ化。オンラインエンタメにありがちな「ただの視聴」ではなく「体験」になっており、あっという間に時間が過ぎていく感覚でした。そして何より、これはオンラインだからできることですが、日本全国から参加してくる人々が互いの自宅を繋いでお題を解いている状況はリアルなイベントよりも高い価値を感じる瞬間でした。
企画の力によって自宅をエンタメ化させるという試みは、コロナが収束した後も形を変えて次々と生み出されるのではないでしょうか。
YouTubeで公開!短編映画「カメラを止めるな!リモート大作戦!」
SNSを中心に大きな話題になったので、ご覧になった方も多いと思います。映画『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督とキャストが再集結し制作された短編映画『カメラを止めるな!リモート大作戦!』(通称 リモ止め)
発表から配信までわずか18日間。撮影も完全リモートで行われ、ビデオ通話の画面に加えて、キャストによるスマートフォンの自撮り映像を上田監督が受け取り編集を行ったそうです。この作品は公開と同時に大きな反響を集めてTwitterでもトレンド入り。海外からの熱い要望に応え英語字幕版も配信されるなどの2次展開も盛り上がっています。
この作品に大きな魅力を感じたのは『カメラを止めるな!』と同様、フィクションとドキュメントが混ざり合った状態になっていること。もちろん脚本があるので、あらかじめ構成やセリフは決められたものなのですが、役者陣のセリフがエンタメを愛する1人の人間としての「心の叫び」とリンクしていて、SNSでは『どこまでがセリフだったのか?』という書き込みがたくさん見られたほどでした。
僕はあまりに感動して上田監督のライブ配信なども見させてもらったのですが、監督自身も役者陣のセリフを編集しながら涙してしまったそうです。
そしてオンラインエンタメとして革命的だったのは、単純にビデオ通話画面を収録しただけではなかったということ。この「リモ止め」が登場するまで、Zoomを使った演劇などはありましたが、基本的にはビデオ会議している様子を画面収録したものが多かったように思います。
この手法では親近感のある雰囲気を出すことは可能でしたが、カメラワークやカット割りが存在しないため、一歩間違えると単調になってしまう危険がありました。
そんな中、リモ止めではビデオ通話画面も使われているのですが、役者陣の自撮り映像が作品の面白さの核を担っています。当たり前ですが、役者陣の自宅はバラバラなわけで、異なる空間で撮影された自撮り映像を1本のストーリーにするのは至難の業です。
しかし、そこはさすがの上田監督。『カメラを止めるな!』の登場人物や世界観を引き継ぎながら、バラバラの自撮り映像を見事な物語に仕上げていました。また衣装や小道具は役者さんの自宅にある私物も使っていたそうなのですが、それが圧倒的なリアリティになっていると同時に「あぁ、これを準備するのは苦労したんだろうな(笑)」というこれまたドキュメンタリーな笑いが存在していて、ただただ素晴らしかったです。
さらにはSNSを使って、一般の方から集めた自撮り映像も映画の中に組み込むなど、インターネットを駆使した演出も。まだご覧になっていない方は是非見てほしいです!
ゲストは本田圭佑選手!長友佑都選手の『YUTO’s ROOM』
最後に紹介したいのは、クリエイターではなくアスリートが生み出したコンテンツではあるのですが、新しい時代を感じた『YUTO’s ROOM』です。これはサッカー日本代表の長友選手が、Zoomを使ってゲストと対談するというトークイベント。僕は本田圭佑さんがゲストの回に自宅から参加しました。
この企画のポイントになっているのは、税込1,100円という有料になっていたこと。(収益は全額、長友選手が発起人の「ひとり親支援プロジェクト」に使われたそうです)
現在、YouTubeが盛り上がっていて貴重な対談も無料で見られるようになりました。一方でこのイベントは有料だったからこそ、全国各地から参加者が集まってきた「秘密のグループ感」があり、長友選手・本田選手ともにテレビや雑誌では見たことがないような素に近い空気感を醸し出していたように思います。
そして何より大事だったのは、誰にも編集されることなく、自分たちが話したいことを話したい分だけ話していたこと。テレビの放送時間や雑誌の紙面に制限されることなく、本音をぶつけ合っていた2人。「ワールドカップを戦っている時も、こんな風に熱く語り合っていたんだろうな…」と自然と感じられるものでした。
コロナをきっかけに有名人が自らコンテンツを発信することも増えたように思いますが、有料でグループを形成しその中で企画が実行されていく流れは今後も人気を集めるように思いました。
もちろん満員のお客さんを実際に集めて行うコンテンツが再開されることも待ち遠しいですが、引き続き様々なオンラインエンタメ企画も楽しめる世の中になればいいなと感じています。
松本建一
放送作家/ネットテレビ局『プラステレビ』運営
担当番組/「それって!?実際どうなの課」「ポケモンの家あつまる?」「全国高校サッカー選手権」など。