テレビはキャスティングでYouTubeに勝てない!? 番組がタレントを選ぶ時代から、タレントが番組を選ぶ時代へ - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年06月17日にBLOGOSで公開されたものです
放送作家の谷田彰吾です! はじめましての方のためにご説明しておくと、僕は現役のテレビ放送作家です。でも、作っているのはテレビだけではありません。Wednesdayという会社で「デジタルメディアレーベル(DML)」というサービスを立ち上げ、芸能人のYouTubeでの活動をプロデュースしています。
現在、講談師の神田伯山さん、『おかあさんといっしょ』元体操のお兄さんのよしお兄さん、芸人のMr.都市伝説 関暁夫さん、元メジャーリーガーの上原浩治さん、ファミリーで大人気の芸人・はなわさんなどのチャンネルを運営したり、制作したり、企画をサポートしたり、コンサルティングしたりと、微力ながらお手伝いさせていただいています。
芸能人のYouTube進出はますます盛り上がりを見せています。手前味噌で恐縮ですが、先日、弊社で運営・コンサルティングさせていただいているYouTubeチャンネル『神田伯山ティービィー』が、2019年度のギャラクシー賞・テレビ部門フロンティア賞を受賞しました。
ギャラクシー賞というのは、テレビ・ラジオといった放送における『アカデミー賞』のようなもの。放送文化の質的向上を目指し、優秀番組・個人・団体を表彰する1963年から続く歴史ある賞です。『神田伯山ティービィー』は、これをYouTubeとして初めて受賞しました。(テレビ部門だけどYouTube、YouTubeだけど『ティービィー』、ちょっとややこしい(笑))
誤解を恐れずに言えば、YouTubeの動画はこれまで、総じて質の低いコンテンツとみなされてきた部分が少なからずあると思います。しかし、今回のギャラクシー賞は、YouTubeの個人チャンネルがコンテンツとして価値あるものであると認められた証ではないでしょうか。これもひとえに、神田伯山さん、事務所の方々、ディレクターさん達の努力の賜物です。
近い将来、芸能人が1人1チャンネルを持つ時代が、必ず到来すると思います。このコラムを読んでいる方々なら、きっといくつかチャンネル登録していることでしょう。どうですか? コロナ禍でバズった動画やチャンネル、思い当たるものありますか? 僕はコロナ禍で痛烈に感じたことがあります。
錦戸亮&赤西仁が見せたテレビにできない離れ業
近頃はYouTubeに携わっている放送作家たちと話す機会が多かったのですが、誰もが「あれはすごかった!」と口を揃えた動画があります。
それは元関ジャニ∞の錦戸亮さん、元KAT-TUNの赤西仁さんが始めたYouTubeチャンネル『NO GOOD TV』のVol.4。そうです、俳優の小栗旬さんと山田孝之さんがゲスト出演して話題になった、あの動画です。
これはもうシンプルにぶったまげました。「なんだこのメンツは!」とおじさんが年甲斐もなく興奮するレベル。みなさんよく考えてみてください。ジャニーズ事務所から独立し、テレビではめっきり見かけなくなった2人がトークしているだけでも貴重なのに、そこに花沢類と村西とおるがトッピングされてるんですよ? 「スター増し増し」、ふんだんに「追いスター」した超豪華な一品です。
しかも、内容がまたすごい。それぞれの自宅や仕事場をビデオ通話でつなぎ、プライベートをチラ見せ。友達同士だからこそできる超自然なトーク。あの赤西仁が「おしっこ行ってくる」と発言してしまうラフさ…(かつてデビュー曲で舌打ちをキメていて、不良キャラだと思っていたので「しょんべん」ではなく「おしっこ」と言ったことに軽い衝撃を受けたのは僕だけでしょうか)。こんなのさすがに見たことがありません。
ファンは気絶ものだと思いますが、そうでないおじさんでもこの貴重さには震えます。そしてもうひとつ付け加えるなら、これが「無料」で見られるスゴさ。1万円のDVDにしても売れる破壊力があるメンツだと思います。
そうなんです。今回のポイントは、この「ありえないキャスティング」にあります。
コロナ禍のYouTubeでは、他にも驚きのキャスティングがありました。渡辺直美さんの生配信には、あの星野源さんが登場。
さらには、『おかあさんといっしょ』元体操のお兄さん・よしお兄さんが発起人となり、歴代のお兄さんお姉さんがリモート合唱を行った『ぼよよん行進曲』の動画は、700万再生を突破(6月8日時点)。『おかあさんといっしょ』で放送していた歌なので本来はお子様向けなのですが、動画を見て泣いてしまう大人が続出。コロナ禍の癒やしとして、幅広い視聴者に届きました。
この3つの動画に共通するのは、出演者本人同士の関係値がベースになってキャスティングが成立していることです。「仲が良いから」「先輩後輩だから」という個人的なつながりが発端となって生まれたコンテンツ。もちろん、コロナ禍だからこそのサービス精神が存分に働いているのは間違いありませんが、上記のようなキャスティングをテレビがやろうとしたら… 僕はかなり難しかったのではないかと思っています。そこには、テレビのキャスティングとは違う、YouTubeならではの常識が根底にあるのです。
大事なのはお金ではなく「関係性」
YouTubeには「コラボ」という出演形式があります。YouTubeチャンネルを持つ者同士が、お互いのチャンネルに出演することで、お互いのファンに自分のチャンネルを露出することができるため、登録者を増やせるのが大きなメリットです。コラボのオファーは、はじめましてのケースもありますが、本人同士の関係値で行われることが多い印象です。条件も本人同士の取り決めによるところが大きく、ギャランティー0円という場合もよくあります。
上記にあげた3つの動画については、チャンネルを横断したコラボ出演ではありませんが、本人同士のキャスティングという意味ではYouTubeらしい形になります。
テレビでも、トーク番組中に「プライベートでも仲の良いあの俳優さんが素顔を語る!」みたいな感じで友情出演することもありますが、決定的に違うのはテレビが第3者のメディアであるのに対し、YouTubeが個人メディアであるということでしょう。YouTubeの場合は、お互いの登録者が増えてチャンネルの価値が向上します。それは、本人の価値向上とほぼ同義です。
この違いは大きいと言わざるを得ません。YouTubeやSNSで芸能人がいつでも自由に発信できるようになった今、自分のとっておきのネタは自分のメディアから発信するようになることでしょう。
今や、テレビマンにとって芸能人YouTubeはネタ探しのメディアにもなっています。「あの人、YouTubeでこんなネタやっていたからテレビでもやってもらおう」「あの動画を使わせてください」といったケースが増えています。
テレビ番組のキャスティングは基本的に企画が先にあり、それをおもしろく膨らませてくれるタレントを選ぶ「企画先行型」のキャスティングです。あくまで主導権は番組にある。でも、これからはその関係性が変わるかもしれません。
タレント側が主導権を握って、出演する番組を吟味するようになる。もちろん、今もタレント側が番組や企画を選んでいますが、より強い力を持って決めることができる。今は大御所と呼ばれるタレントの特権みたいに思われがちかもしれませんが、YouTubeなどの個人メディアがより力を持ち、それだけで十分な富と名声を得られるようになってしまったら…番組を選べるタレントは大御所に限らず、増えることでしょう。
それでも「国民的○○」を作り出せるのはテレビだけ
では、テレビは今後どうなってしまうのか。よく「テレビは終わり」などと言う人がいますが、そう簡単にはいきません。僕はメディアの役割分担がもっと明確になると思います。テレビは、年代も性別も違う圧倒的大多数の人間に、同時にコンテンツを届けることができる、唯一無二のメディアです。
どれだけYouTubeがメジャーになり、ヒカキンさんのチャンネル登録者数が1000万人を超えようとも、アクティブユーザーの多くはキッズを中心とした若年層。リーチできる年代や性別がどうしても限定されてしまいます。Netflixなどの有料プラットフォームは、有料である時点で視聴者が限定されます。
となれば、テレビの力を存分に発揮できるのは「国民的ビッグイベント」。『M-1グランプリ』や『NHK紅白歌合戦』といった年に一度の恒例行事、みんなで同時に結末を知りたくなる「国民的ドラマ」、そして日本中がひとつになる「国民的スポーツ中継」など、歴史的瞬間に立ち会えるメディアこそがテレビ。
YouTubeは新たなスターをたくさん輩出していますが、どれも局地的。国民的スターを生み出すことができるのはテレビしかありません。かつて、猿岩石がヒッチハイクの旅から帰国した時の一大イベント感とスター誕生感。あの興奮を、今どうすればアップデートできるのか…。
YouTubeのプライベート感あふれるコラボ動画の良さは、テレビには真似できないものです。ならば、テレビもテレビにしかできないことを追求する。今後、テレビはより企画の部分で独自性が求められてくるのではないでしょうか。
僕は一人のテレビマンとして、大きなビジョンを描いた企画を作りたいと思っています。国民がワクワクするようなビッグイベントを作る。それがこれからのテレビマンの大きな宿題かもしれません。
谷田彰吾
クロスボーダークリエイター・放送作家/TVクリエイターギルド株式会社VVQ代表 / 株式会社Wednesday取締役ドキュメンタリー番組『プロ野球戦⼒外通告』『バース・デイ』、有吉弘⾏、乃⽊坂46、池上彰などのバラエティ番組を構成。放送作家だけでなく広告プランナーとしても活動。Wednesdayで芸能人YouTube制作レーベル「DML」を運営。業界の垣根を超えたクロスボーダークリエイティブがモットー。
・https://vvq.tokyo
・https://webnesday.net
・https://note.com/showgo_wednesday
・Twitter:@wednesdayshowgo