※この記事は2020年06月15日にBLOGOSで公開されたものです

話題のノンフィクション「女帝 小池百合子」、一読で圧倒され、すぐさま再読しまた圧倒される。読めば読むほど安易な覗き込みを憚る彼女の『物語』。読後、曖昧にやり過ごしていた現実の風景が明らかに変わる。これは、今まさに刻々と蠢く現在進行形のリアルホラーだ。

女帝 小池百合子 (日本語) 単行本 - 2020/5/29

< 「女帝 小池百合子」(石井妙子・著 文藝春秋・刊)より >

「一九七一年九月前後にエジプトへ渡り、初めの一年間はカイロ・アメリカン大学東洋学科でアラビア語を学び、翌年の一九七二年十月にカイロ大学文学部社会学科に入学。留年せず四年間で同大学を卒業した日本人は自分が初めてであり、「首席」だったとも。しかし、学生数は十万人、エジプト人でも四人にひとりは留年するという大学で、そんなことがありうるのだろうか。」

「カイロ大学卒という経歴を差し引いて、今の彼女は存在し得ない。(略)政治家になることもできなかったはずである。この経歴が虚偽であるならば、彼女は長年、公職選挙法に違反してきたということになる。」

学歴詐称疑惑の大波に飲まれるか

本書「女帝 小池百合子」刊行により、あらためて浮上しているこの問題。「卒業」の真偽は、これまでに公的な証明に至らぬまま押し問答で棚上げされてきた。こちらは一向に進まないステップ「0」。7月の東京都知事選を前に、この問題をうやむやにしない取材と検証でまとめられた力作ノンフィクションが、虚実の女帝・小池百合子に立ちはだかる。

もはや自身の口先では逃げ切れないと悟ったのか、おそらくは小池側が中東人脈に手を回したのだろう、6月8日付けでカイロ大学は「小池百合子氏が1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する。卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された」という声明を出した。

この、カイロから吹いてきた中東の風は小池に降りかかる火の粉を吹き払うのか。それとも風を誤り逆に炎上を招くのか。東京はコロナ第2波よりも先に、小池都知事の学歴詐称問題(こと公職選挙法違反=虚偽事項公表罪)という大波に飲まれるのか?

感染症対策CMを連発 広告代理店とテレビ局を潤す小池都政

ああ、小池百合子・・・、この数ヶ月の残影を改めて思い浮かべてみる。新型コロナウイルスへの対応に安倍政権が迷走していた3月、世界の動向を見れば明らかに非現実的な状況に陥った「東京オリンピック開催」のフラッグをギリギリまで振り続け、開催延期が決定するやいなや、そのフラッグをコロナ対策のパネルに持ち替えた。

「ロックダウン」「オーバーシュート」「ステイホーム」・・・、感染拡大に関する日々の動向を記者会見することには問題ないが、4月に入ると小池自らが出演し感染症対策を呼びかける広報CMをテレビ各局で流しまくる姿には「まだ出るか」と過剰さを感じた。

都知事としての責務と言うならそうなのだろうが、もはや朝から晩までコロナ漬けのメディアになっており、放っといても都知事のメッセージは連日繰り返し露出される。そこに上乗せしての都知事出演CM連打・・・。正直、食傷だった。

なにしろこのスポットCMの原資は東京都民による血税だ。いったい何本流れたのか。結果、感染症対策の徹底という大義の下に「小池都政」から相当なCM料が広告代理店とテレビ局を潤したことになる。

さらにこのコロナ期、小池都知事に対して日々感じながらもやり過ごしていたものがあった。それは小池都知事のマスクだ。毎回変わるそのデザイン。色、柄、模様、ワンポイントの刺繍(例えばユリ)など、日替わりのオシャレマスクは都知事のメディア露出時に、いやでも目を引くアイテムだ。

穿った見方をしなければ、まあ、こういう非常時にありながらも平常心を保ちましょう、せめてマスクで気晴らしを、目の保養を、という女性的配慮という印象だった。さらには安倍首相のあのマスク姿があまりにもアレなこともあり、小池都知事のマスクが「逆映え」するという視覚効果も自然と浴びせられた。

だが、「女帝 小池百合子」の読後にあってはその見方も変わる。冷静に状況を見渡せば、東京都内ではコロナによる死者が311名(6/10時点)に達している。それだけの死者が出ており、入院者、隔離者が出続ける非常時の只中にある。

小池都知事は東京都民1400万人のトップに立ち、この非常時の指揮を執る最高責任者だ。その人物が公的な場所でなぜ日替わりデザインのマスクを日課としているのか? 見映え、振る舞い、発言、一挙一動、そこに紐づきながらも見過ごしてきた違和感の正体。なぜ、小池都知事がマスクを変え続けるのか。死者への配慮はそこに含まれるのか。その回答へと導いてくれるのが「女帝 小池百合子」だ。

「虚」の大芝居で上り詰めた権力の階段

ジャーナリスト石井妙子の執筆による「女帝 小池百合子」は、小池本人による発信とマスコミの(検証なき)承認により、グレーゾーンで放置され、拡散し、政治権力の階段を上りつめていくに至った小池の半生を、徹底した資料収集と関係者証言の蓄積によりつぶさに検証していく。

のちに「芦屋の令嬢」というイメージで流布する芦屋で過ごした少女期から、まさに本書の「肝」となるエジプト・カイロ留学時代、帰国後のマスコミ露出時代、政界進出後の節操のない世渡り、東京都知事就任、築地豊洲、東京五輪・・・そしてコロナ。

グレーを帯びた小池百合子がグリーンをまとい、民衆に支持され、選挙に勝利し、権力の階段を駆け上がり、なぜにして今現在に至るのか。

ずっと目に映っていた「実」らしきものが、ことごとく「虚」であると突き付けられる大芝居。この悲喜劇の幕は上がったまま、7月5日の東京都知事選という次なるクライマックスに向かって熱を増していく。この大芝居にチケットがあるとするなら「女帝 小池百合子」を読めば最前列、未読なら三階席と言えるだろう。あなたが東京都民であるなら、最前列をおススメしたい。

クイズ!小池百合子

そして、勝手ながらもそんな大芝居の呼び込みがわりに「女帝 小池百合子」が読みたくなる企画をひとつ。どうぞチャレンジしてみてください、「クイズ小池百合子」です、どうぞー。

< クイズ小池百合子 第1問 >

小池百合子はエジプトのカイロ留学時代、10歳年上の日本人女性・早川玲子(仮名)さんと一時期同居生活を送るなど、とても近しい間柄でした。あるとき小池は早川さんにこんな話をしています。

「あのね、私、日本に帰ったら本を書くつもり。でも、そこに早川さんのことは書かない。ごめんね。だって、バレちゃうからね」

さて、何が「バレちゃう」のでしょう?

A カイロ大学にコネで入学し、アラビア語はペラペラではなくカタコト、結局カイロ大学は卒業していないこと

B 実はカイロでわずか三週間でアラビア語の新聞が読めるようになったこと

< クイズ小池百合子 第2問 >

小池百合子は1995年の阪神淡路大震災で、地元兵庫の議員としていち早く現地入りしたことを公表しています。そんな小池の元に、震災の翌年、芦屋の女性たち数人が議員会館を訪ねて、被災者の窮状と救済を陳情しました。そのとき小池は指にマニキュアを塗りながら対応。その姿に驚きつつも女性たちは小池に味方になってもらおうと言葉を重ねましたが、小池はすべての指にマニキュアを塗り終え、指先に息を吹きかけたあと、何と言ったでしょう?

A 「わかりました、被災者生活再建支援法の成立に全力を尽くします」

B 「もうマニキュア、塗り終わったから帰ってくれます? 私、選挙区変わったし」

< クイズ小池百合子 第3問 >

2002年秋、小泉純一郎首相による北朝鮮訪問により日本人拉致被害者「5名生存、8名死亡」というシビアな報告がもたらされました。拉致議連による記者会見では、横田めぐみさん死亡という悲報に言葉を詰まらせる横田夫妻の真後ろで、ハンカチで涙を拭う小池百合子議員の姿もテレビにしっかり映し出されました。その会見が終わり取材陣も政治家も引き揚げ、被害者家族と関係者だけが残されて悲しみに包まれていたところへ、いったん退出していた小池が慌ただしく駆け込んできて、「私のバッグ。私のバッグがないのよっ」と大声を上げます。そして部屋の片隅にバッグを見つけ、拉致被害者家族たちがたたずむ部屋で、小池は何と言ったでしょう?

A 「二階建て電車を走らせて満員電車を解消します」

B 「あったー、私のバッグ。拉致されたかと思った」

< クイズ小池百合子 第4問 >

小池百合子は2017年6月、都知事として初めて迎える都議選を直前に、豊洲市場への移転問題で世間を揺るがす築地に足を運び、移転賛成派と反対派、双方の仲卸業者を前にしたスピーチで以下のように語りました。

「今日は直接、こうやって伺うことが、どんなに重要かわかりました。これからもっともっと築地の、この市場のほうにも私、足を運ばせて頂きますのでよろしくお願いします!」

この築地訪問の直後、小池は記者会見で「築地は守る、豊洲を活かす」と打ち出し、移転賛成派と反対派、双方の票を得て小池率いる「都民ファーストの会」は都議選を圧勝しました。ではその後、小池は都知事として築地に対しどのような行動をとったでしょうか?

A マグロの初競りで「すしざんまい」木村社長に競り勝った

B 築地に二度と足を運ばなかった

< クイズ小池百合子 第5問 >

小池百合子は小学5年生の時、校内の弁論大会で優勝しました。その時の弁論の題名はなんでしょう?

・・・と、まだまだクイズは尽きないのですが、ひとまずここまで。上記クイズの答え、とくに第5問の答えは「女帝 小池百合子」を読んでぜひお確かめください。

女帝 小池百合子 (日本語) 単行本 - 2020/5/29