アパレル企業の淘汰と再編進むか コロナショックで益々厳しさを増す業界 - 南充浩
※この記事は2020年06月03日にBLOGOSで公開されたものです
これまでの不況とは異なる事態がアパレル企業を襲う
ついに緊急事態宣言が解除されましたが、コロナショックによるアパレル企業の経営破綻が始まりました。
今回のコロナショックで、一体どうしてアパレル企業が経営破綻することになるのか、簡単におさらいしておきましょう。これまでの不況とはちょっと状況が異なります。
これまでの不況は何かのきっかけで消費者の財布のヒモが固くなったのですが、今回のコロナショックはそれに加えて、百貨店・ファッションビル・郊外ショッピングモールなどの大型商業施設や都心路面店などが軒並み休業してしまったことが特異でした。
通常の不況では、店自体は営業していたのですが、今回のコロナショックでは店舗の多くが休業に追い込まれました。
もちろん、例外もあります。ロードサイドの路面店や地方の路面店は営業を続けていましたから、そういう店を多く展開していたアパレルは、売上高の減少が比較的軽くて済みました。
4月度増収のワークマンや4月度の売上高減少幅が比較的少なかったしまむらなどはその典型でしょう。店を開けていれば、最低でも毎日何千円かの売上高は稼げますから。
一方で、レナウンが民事再生法を申請しました。それに先立ち、メルベイユアッシュという17店舗程を展開するアパレルが破産し、先日は52店舗を展開するハヴァナイストリップというアパレルが破産しました。
また、洋服ではありませんが「ドラゴンベアード」というスニーカーブランドを展開していたチャンスという靴メーカーが民事再生法を申請し経営破綻しました。
これらは一様に「コロナの影響で」と報道されますが、コロナの影響ではありません。コロナの影響は最後の一押し程度です。コロナ以前に経営が悪化していたことが共通しています。
百貨店や商業ビル出店メインの企業は淘汰進むか
レナウンの経営がずっと低迷していた上に、2010年に買収された親会社である中国企業の山東如意科技集団への売掛金53億円が未回収だったため、昨年末に経営の悪化に拍車がかかったことはすでに多くのメディアで報じられています。今回のコロナショックがなくても早晩経営は行き詰っていたと考えられます。
メルベイユアッシュ、ハヴァナイストリップも同様です。
まず、メルベイユアッシュですが合計18店で2020年3月期の売上高は17億円だったとのことなので平均すると1店舗当たりの売上高は1億円弱しかなかったことになります。
地価の安い地方路面店ならこれでも大丈夫だったでしょうが、出店場所は都心の百貨店・ファッションビルだったので家賃や人件費を引くと経営状態は厳しかったことが容易に想像できます。
さらに報道によると、過剰債務を抱えていた上にリーマン・ショック時に発生した為替デリバティブ取引に伴う赤字などで財務が弱体化。近年は金融債務のリスケジュールを受けながら再建に取り組んでいたと伝えられていますので、コロナショックがなくても近々経営は破綻したでしょう。
ハヴァナイストリップも、報道によると、同社はピーク時の2008年7月期には売上高約41億7,600万円を計上したが、ファストファッションの台頭などの要因から業績不振に陥り、運営店舗は公式サイトの会社概要で記載されている全国66店舗から2020年2月末には52店舗まで減少したという。2019年7月期の売上高はピーク時の約半分に当たる20億2,862万円に落ち込み、3期連続で赤字となるなど厳しい資金繰りが続いていた。金融機関に対して借入金の返済のリスケジュールを要請するなどして再建を目指していた
https://www.fashionsnap.com/article/2020-05-25/haveanicetrip-bankruptcy/
とあります。52店舗もあって売上高が20億円強しかありませんから平均すると1店舗あたり5000万円しか売上高がありません。メルベイユアッシュ以上に経営は苦しかったことでしょう。ですからここもコロナショックがなくても早晩潰れていた可能性が高いといえます。
「ドラゴンベアード」ブランドの靴メーカー、チャンスも同様です。こちらはメーカー色が強いところが異なりますが、背景は同じです。
https://www.fashionsnap.com/article/2020-05-28/chance-out/
帝国データバンクによると2017年8月期は売上高が約11億円を計上するほど成長していたが、近年は他社との競争に苦戦。2019年8月期の売上高は約7億円にまで減少するとともに、赤字を計上して債務超過に転落しており、経営難が続いていた。
とのことでコロナショック以前から経営危機に瀕していたことがわかります。ちなみに仮面ライダーゼロワン、仮面ライダービルド、宇宙戦隊キュウレンジャーなどの特撮番組にも劇中衣装としてスニーカーを提供していました。
今後、さらに多くのアパレル企業、ファッション企業が破綻に追い込まれると考えられます。特にコロナショック以前に経営危機に瀕していた企業で、都心百貨店・商業施設への出店をメインとしていた企業はほとんどが淘汰されてしまうのではないかと考えられます。それは大手、小規模問わずに、です。(前提として、コロナ以前に経営が傾いていたことが必須)
”コロナショック”でアパレル事業は一層厳しさを増す恐れも
それによって、吸収合併やブランド買収などの業界再編がある程度はなされると思います。しかし、多くの識者が期待するほどアパレル業界の企業数・ブランド数は減らないのではないかと個人的には見ています。
なぜなら、会社を失った人たちがまた新しく会社を立ち上げるからです。過去、アパレルには大規模倒産がいくつもありましたが、アパレル企業数自体はそんなに減っていません。むしろ、零細企業が新たに立ち上げられており企業数だけでいえば増えているのではないかと思われるほどです。
今回のコロナショックによる淘汰でも同様のことが起き、また新しい小規模、零細アパレルは増えるのではないかと思っています。
アパレルの供給過多が叫ばれていますが、低価格ブランドが大量に作ることそのものが悪いのではなく、中価格~高額ブランドも含めた各ブランドが、機会損失を過剰に恐れて売りさばけないほどの量を作り込むことがその原因の一つなのです。
また、OEM・ODMを手掛ける企業が把握できないほどに数多く生まれたことも過剰供給を助長しました。(アパレルからのリタイア組み・リストラ組みがこれまでどんどん立ち上げ続けてきた)
その結果、カネさえ払ってそれらに依頼すれば、どんな素人でもオリジナルで服が作れるというくらいにアパレルへの参入障壁は低まり、今ではないに等しくなっています。あるとすればカネの有る無し、だけです。参入障壁が高くならないことには、今後も過剰供給が収まることはないでしょう。
ただ、もしかすると、コロナショックで業界再編がなされ、ユニクロを筆頭とする強力な大手ブランドの寡占化傾向が強まれば、参入障壁は今より少し高くなるかもしれません。そうなると過剰供給は少し収まることになるのではないでしょうか。
ただし、参入障壁が高くなるということは、ブランドのラインナップはほぼ固定化されるため新たな人気ブランドが出現しにくくなるということにもつながりますので、諸刃の剣にもなりかねません。
そういうことも考えると、アパレルビジネスは今後さらに難しい事業の一つとなっていくことだけは間違いないのではないかと思っていますがどうでしょうか。