※この記事は2020年06月02日にBLOGOSで公開されたものです

放送を見てもらってこそ意味があるテレビ業界。テレビを見なくなった若者に訴求するため、各番組が番組公式YouTubeチャンネルを立ち上げ、様々なコンテンツを展開していることをご存知でしょうか? その中でも素晴らしい動画を、現役放送作家が紹介します。

リアルタイムで見てもらってナンボ。テレビ番組のビジネスモデル

緊急事態宣言が解除されました。これから緩和の流れが進んでいくと思いますが、この記事を書いている5月下旬の時点で、テレビ業界は収録がストップしている番組がほとんど。その結果お休みになった芸能人たちが続々とYouTubeに参戦し始めています。

しかし、この“YouTube参戦”は芸能人に限った話だけではありません。番組として公式YouTubeアカウントを開設し、様々なオリジナルコンテンツをアップしているのです。

これにはテレビ業界の“課題”が大きく影響していると感じます。若者のテレビ離れが叫ばれて久しいですが、実際にこの10年でテレビを見ている若者(10代~30代半ば)は減少傾向にあります。

しかしYouTubeで再生回数を稼ぐチャンネルには、違法を含めてテレビ番組をアップロードした動画も多いため、テレビそのものがダメになったというわけではなく、テレビをリアルタイムで楽しむ視聴者が少なくなってきたと考える方が適切です。

ですが、テレビのビジネスモデルは、番組の間に流れるCMを見てもらうことで成り立っています。視聴率を獲得して、CMをたくさんの人に見てもらい、その広告料によって利益を出し、さらに番組を制作していく…という流れになっているからです。「数字を狙わなくていいから面白さだけ追求してほしい」といった視聴者の方の声も聞きますが、このシステムでビジネスがまわっている以上、リアルタイムで放送を見てもらって高視聴率を目指すのは番組の責務です。

これまでは「番組の中身を面白くすれば、視聴率が上がる」という“当たり前”がありましたが、リアルタイムでテレビを楽しむ視聴者(特に若者)が減少している状況では少し事情が変わります。「池の魚を奪い合う」のではなく、「池の外=テレビを普段リアルタイムで視聴していない人」をいかに地上波の放送に連れてくるかという戦略が重要です。

こうした昨今のテレビ業界において、先述したように「番組公式YouTubeチャンネル」を開設して、普段YouTubeをメインで視聴している人々にアプローチをかけるのは必然の流れではないでしょうか。

番組公式Twitterは昔から存在しましたが、文字中心のTwitterよりも、映像中心のYouTubeの方がテレビの強みが打ち出せるという理由もあります。

さて今回は、数ある番組公式YouTubeをリサーチし、どんなコンテンツを作って番組に関心を持たせ、テレビをリアルタイムで視聴してもらおうとしているのか調べてみました。

その中で、特にすごいと感じた4つのYouTubeチャンネルをランキング形式で紹介していきます。

第4位 名物キャラがYouTubeに!『有吉の壁【公式】壁チャンネル』

今年4月から日本テレビでレギュラー放送が始まった『有吉の壁』」。そもそもこの番組が夜7時というゴールデンタイムのド真ん中に編成されたことは、テレビ業界で大きな話題を集めました。

本来この時間の視聴者は年齢層が比較的高いというのが常識。そんな中で「グルメ」「健康」「お金」といったいわゆる“数字が取れる要素”がほとんど含まれておらず、芸人さんたちが繰り広げる純粋な笑いで勝負に出たことで、どんな結果が出るのか注目されていたからです。

僕は番組に関わっていないため、どの世代がどれくらい見ているのかはわかりませんが、『有吉の壁』は高い視聴率を獲得し「この時間帯で“笑い”で勝負しても数字が取れるんだ!」とテレビマンたちに勇気を与えているのは間違いありません。

そんな『有吉の壁』は、公式YouTubeにも力を入れ始めています。「ブレイク芸人たちのブレイク動画」というYouTubeオリジナル企画を展開し、高い再生回数を獲得。

その内容は、「パンサー菅さん扮するパラパラおじさんがパラパラなひと言を言う動画」や「チョコレートプラネット扮するMr.パーカーJr.の動画」「シソンヌ扮するこうへいくんとゴンちゃんのモーニングルーティン動画」などが人気です。

特にパラパラおじさんの動画は、視聴者から募集したひと言を発表するという企画も盛り込まれ、よりキャラを身近に感じられる工夫もされています。番組を見たことがなかったとしても、YouTubeで番組の存在を知ることになる若者もかなりいるのではないかと感じました。

第3位 三谷アナがかなり体張ってる!「動画、はじめてみました【テレ朝公式】」

このチャンネルは特定の番組ではなく、テレビ朝日の番組全体のオリジナルコンテンツが揃うチャンネルとなっています。たとえば『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』のAD3人組が出演する動画や、『激レアさんを連れてきた。』のオードリー若林さん&弘中アナウンサーが2人きりで話す「超のびのびトーク」など。

その中で異彩を放っているのが、『やべっちFC~日本サッカー応援宣言~』などでもお馴染みの三谷アナウンサーが挑戦しているダイエット企画。ダイエットの理由が「いつプロポーズされてもいいように」という打ち出しになっているように、普段はピシッとしていることの多いアナウンサーという立場をこえて、とてもくだけた話し方になっていたり、愚痴っぽく弱音を語るシーンが入っていたり、YouTubeに適応するように三谷アナウンサーのパーソナルな魅力が詰まっている内容です。

YouTubeの魅力の1つに「カメラの前のかしこまった姿ではなく、まるで友達に話すように有名人が喋るところ」が挙げられますが、中でもアナウンサーの素顔を見せるコンテンツはネットニュースでも大いに話題となりました。

ちなみに同じアナウンサーが登場するコンテンツとして、めざましテレビの『めざましテレビチャンネル』があります。ここではアナウンサーの皆さんが100個の質問に答える企画などを展開しているのですが…とにかく顔が近い!

これは三谷アナウンサーの企画にも言えますが、ここまでドアップのアナウンサーの顔を見ることはテレビでは絶対ありえなかったためかなり新鮮。カメラ目線でのトークもあり、その人物に親近感を強く覚えるようになっています。

朝、どの番組を見るか迷っている視聴者がいたとして、その人が一度でもこのYouTubeを見ていたとしたら、きっと『めざましテレビ』を選ぶでしょう。フジテレビの永島優美アナウンサーの動画は、この記事を書いている5月17日時点で約60万回再生されていますが、これだけの人に親近感を持ってもらえるのは相当大きなアドバンテージになるでしょう。

第2位 作り込みがものすごい!「ナスDの大冒険YouTube版」

熱狂的なファンを獲得した番組『陸海空 地球征服するなんて』シリーズ。その中でもあまりにも破天荒な行動で話題になったナスDが旅をする「ナスDの大冒険TV」はYouTubeでもチャンネルを展開しています。

地上波放送には入りきらなかったYouTube版などを配信しているのですが、アニメーションやテロップなどそのクオリティは一般的なYouTubeレベルを超越しています。他の番組公式YouTubeはBGMや編集がYouTubeっぽくなっているものがほとんど。その中にあってこのチャンネルの圧倒的な作り込みそのものがナスDのぶっ飛び具合を表現しているような気すらしてしまいます。

第1位 YouTube企画力がすごい!「有吉ぃぃeeeee!【公式】」

『有吉の壁』に続き、再び有吉さんがMCを務める番組となりました。若者向けの番組が多いということなのでしょうか。芸能人の家に行き、みんなでゲームをする『有吉ぃぃeeeee!そうだ!今からお前んチでゲームしない?』はYouTubeチャンネルでもオリジナルのコンテンツを数多くアップしています。

このチャンネルでは、地上波放送ではカットされてしまったゲームプレイ映像をほぼノーカットで出すなど、他の番組公式YouTubeでも行われている手法も展開しているのですが、その他にもYouTubeの利点を生かした企画も数多く存在しています。

僕が個人的に驚いたのは「作業用BGM動画」。これは過去に番組で放送されたトークなどを“映像を見せずに流す”という企画。料理をしながら、勉強をしながらなど、他のことをしていても楽しめるようになっています。

「テレビなんだから映像を見せないと意味がないんじゃないか?」という声が出そうですが、全くそんなことはありません! 出演者の人たちがワイワイと動きながら話している様子が脳内に広がって、不思議な感覚になります。

忙しい現代人でも「ながら聴き」ができるので、今後YouTube業界は音声コンテンツがかなりアツい! と噂には聞いたことがありましたが、ラジオのように基本的に座って話しているトークを聞くのではなく、元々映像として収められていたトークをあえて音声だけで聞くとこんなに面白いんだ! とビックリしました。

また音しか流れていないので「映像を見てみたい」=「番組を見てみたい」という気持ちにも繋がっていきます。

その他にも、収録で登場したカレー屋さんのレシピを公開していたり、ADがゲーム実況をで盛り上がっていたりする動画もありました。何よりスタッフの皆さんが楽しみながらYouTubeをしている感じが伝わってきます。このことが何よりも重要です。すごく勉強になります。

ここまで個人的に気になった番組公式YouTubeをご紹介してきましたが、この流れは今後加速していくでしょう。圧倒的な制作能力を持つテレビマンたちが番組と共にYouTubeに乗り込んできた時、どんなコンテンツが登場するのか楽しみです!

松本建一
放送作家/ネットテレビ局『プラステレビ』運営
担当番組/「それって!?実際どうなの課」「ポケモンの家あつまる?」「全国高校サッカー選手権」など。