※この記事は2020年05月30日にBLOGOSで公開されたものです

東証一部上場アパレル大手のレナウンが、東京地裁に民事再生の適用を申請し実質経営破綻しました。直接の原因は、新型コロナウイルス感染拡大による経営不振です。新型コロナショックにおける初めての上場企業の倒産であり、産業界には激震が走っています。

レナウンがなぜ破綻に追い込まれてしまったのか、コロナ禍に苦しむ企業で破綻に追い込まれる企業とそうでない企業の違いはどこにあるのか、検証してみます。

破格の協力体制をとる金融機関に見放されたレナウン

レナウンは、百貨店等の主要販売先やテナント出店先の相次ぐ休業により売上が激減し、最終的に決済資金ショートに至ったとのこと。

いま企業は、大手も中小もとにかく経営破綻を避けるためにキャッシュフロー確保に奔走しています。黒字決算が続いていようが、決算書上に内部留保があろうが、手元に現金がないならば売上の激減によって経営破綻が免れ得ないからです。

あの無借金経営のトヨタでさえ、新型コロナショックの長期化に備えて1兆円を超える借入枠の手当てに動いています。中小企業は公的支援金と無利子・無担保の融資金が命綱になっていますが、大企業は金融機関借入あるいは日銀が買入枠を広げたコマーシャルペーパー(CP)および社債発行がその手段となるわけです。

しかし、新型コロナショックという有事の最中に、CPおよび社債発行などによる資本市場調達ができる企業は限られた優良企業であり、大半の企業は大手といえども金融機関の協力を得ることで生き延びる道を確保する以外にないのです。

多くの大手企業が苦しい経営状況が続く中で融資枠確保の報道が相次いでいますが、レナウンは金融機関の協力が得られず破綻を迎えた、ということになるわけなのです。

コロナ禍状況での金融機関の融資審査・指導は平時に比べてかなり緩めに移行しており、返済猶予や借入条件の見直しなども含めて破格の協力姿勢がみられると聞いています。そのような状況下にありながら、レナウンはなぜ見放されてしまったのでしょう。

巨額赤字で中国の繊維大手との親子関係に「不協和音」

レナウンは1902年創業の老舗アパレル企業です。60~70年代に高度成長に乗って成長し、80年代初頭のピーク時にはグループで3000億円を超す売上を計上。業界トップ、いや世界でもトップクラスにいたこともありました。

しかし、その後は、英国アクアスキュータム・ブランドの買収などの新規投資がことごとく失敗し、1992年の赤字転落以降29年間で黒字はわずか4期のみ。過去の蓄えを食いつぶし続けてきたことになってしまったわけなのです。

そのような中で、2010年に赤字体質打破をめざして中国繊維の大手企業である山東如意科技集団に協力を仰ぎ、2013年には持株比率53%の筆頭株主化を受け入れ子会社になっています。

しかし、合弁会社を設立した中国での事業展開は思うに任せず撤退を余儀なくされるなど、山東如意との連携は成果を出せぬまま不毛の10年を過ごすことになります。

加えて昨年、山東如意グループ企業に対する53億円という多額の売掛金の回収が滞り、それが主な原因でレナウンは昨年12月期に67億円という想定外の巨額赤字を計上することになり、親子関係に不協和音が聞かれていました。

そして、山東如意は3月のレナウン株主総会で、神保佳幸社長、北畑稔会長の再任決議案に対し、いきなり否決するという荒業を繰り出し、親子関係の想像以上の悪化が周知の事実となったのです。

以上のような経緯を踏まえると、銀行の立場で考えた時、レナウンに対する資金面での協力判断を阻害する大きな問題点がいくつか存在します。

ひとつは、ユニクロに代表されるSPA(製造小売)の台頭やeコマースの急激な浸透といった潮流に乗り遅れ、百貨店を中心とした旧態然としたビジネスモデルからの脱皮がはかれていないこと。

さらには、外資の傘下に入り親会社の方針が見えにくくなっていたこと。加えて、その親会社とも折り合いが悪く、先行きに不安定さを感じさせていたこと。特にこの親会社との不協和音は、何より金融機関の融資姿勢を及び腰にさせてしまった大きな要因であったと思います。

レナウンの事例が浮き彫りにした救済融資の可否判断ポイント

このようにレナウンが資金ショートに至った経緯を追ってみると同社特有の事情が多く、レナウンの破綻を持ってアパレル関連企業に破綻が相次ぐという結論にはならないでしょう。

しかし、このケースは、業種を問わず企業マネジメントにおける問題の有無こそが、新型コロナショック対応において金融機関からの支援が得られるか否かの生命線を握っている、との示唆には富んでいるのではないかと思うのです。

繰り返しますが、レナウンは、百貨店中心の旧態然とした販売戦略から脱皮できていなかった点、親会社が中国資本でその動向が不透明かつ相互関係が悪化していたことで、金融機関からの協力を引き出せず引導を渡されてしまったわけです。

現下の金融機関における資金繰り救済融資の可否判断では、まず当該企業の戦略上に大きな誤りがなくコロナ問題が終息に向かえば業績が回復するという見通しがあること、そして、経営陣や資本関係に先行きを懸念されるような材料がないことが大きなポイントになるという点を浮き彫りにしてくれたといえそうです。

企業存続のカギを握る成長戦略と安定経営の構築

融資審査の基本は大企業でも中小企業でも同じです。将来にわたる成長性が見込まれるか、マネジメント面で不安な点はないか、という観点は融資の可否判断において至極基本的な要素です。

そのような基本も、世の中の情勢が安定し、景気動向も悪くない時にはあまり振り返られることがなく、景気に頼った業績見通しから「当面は大丈夫であろう」と結論付けられがちです。

しかし、いまのような経済的有事においては、状況が異なります。元来銀行というものは臆病者の体質であり、世の中の状況が悪くなればなるほど基本に忠実にしっかりとチェックされることになるのです。

このように考えてみると、いま新型コロナ禍でどの企業も苦しい中、具体名を出すのは控えますが、本当に危機的状況にあるのがどこの企業であるかは、かなり明確に見えてくるのではないでしょうか。

今後より一層厳しさを増すであろう新型コロナショック下での企業存続の可否は、アフターコロナに向けた明確な成長戦略の有無と安定的な経営体制の構築・維持がカギを握っていくことになる、とレナウンの破綻は示唆しています。