新しい生活様式で「紅白歌合戦」が大ピンチ!N国のターゲットにも!? - 渡邉裕二
※この記事は2020年05月30日にBLOGOSで公開されたものです
大晦日恒例の「NHK紅白歌合戦」がピンチだ。
「緊急事態宣言」が解除され、徐々に社会や経済が動き始めてきた中で、早くも開催が危惧されているのが紅白である。まだ、半年以上も先の話で「気が早い」という声もあるが、放送関係者の間では、
「新型コロナウイルスは未だワクチンもない状況です。しかも秋には第2波、第3波の感染拡大が予想されています。コンサートや舞台、イベントでもソーシャルディスタンスが求められているわけですからね。いくら年末の恒例イベントだからと言っても、さすがに拳を振り上げられないでしょう」
と言う声も上がり始めている。
3密を避けられない紅白の現場
紅白は東京・渋谷のNHKホールで催されているが、バックステージは、まさに密閉、密集、密接の「3密」状態。しかも、4時間以上もの生番組である。現場は時間に追われているために怒号も巻き起こっており、想像しただけでも感染拡大の「危険地帯」であることは確かだ。
「紅白の場合は出場歌手以外に演奏のバンドやダンサーやコーラス、応援で盛り上げる出演者、さらにはプロダクションやレコード会社、番組に関わっているスタッフなどを合わせれば数千人がいます。しかも大勢が足の踏み場もないほどの通路を走り回っています。聞くところによると、会場の入場者(およそ3500人)以上がバックステージで動き回っているそうで、いくら人の出入りを制限し、整理すると言っても、こればかりは解決出来ないのではないでしょうか」(スポーツ紙の芸能担当記者)
そんな状況もあってか、一部女性誌は「中止か無観客開催の2択が迫られている」と報じた。しかし、NHKに中止と言う選択肢はないと言うのが大方の見方だ。観客を入れるか無観客にするかも、その時の状況にもよるだろう。
「すでに、担当プロデューサーも決まり、本格的に動いていますからね」と話すのは、NHK担当の放送記者。
「前回は、エンターテインメント番組部で東京五輪関連番組を担当していたプロデューサーが兼務する形でしたが、今回は、人気バラエティー番組『ブラタモリ』を担当する若手プロデューサーが担当することになっています。まだ44歳ですが、部内では仕事の出来る人間と評価されており、音楽のジャンルでは演歌、歌謡曲系が強いようです。もっとも前回もそうでしたが、若手のプロデューサーということで最終的には同部が総力を挙げて取り組むはずです」
無観客での開催にするかどうかは柔軟に対処出来る。あるいは、今回だけは「特例」の措置として、NHKホールを中心に放送センター内の各スタジオに分散して放送することも可能だ。いわゆる「3密」を解消させるためには、その方法しかないだろう。
「現在、生放送の『うたコン』を歌手のリモート出演に過去の映像を織り交ぜながら続けていることもあって、一部には紅白も〝リモート開催〟を検討しているとの報道もありますが、さすがに、それはあり得ないと思いますね。
紅白は他局のこととは言え、放送業界にとって特別な番組です。NHKとしても最低限の華やかさは演出すると思いますよ。むしろ今回は期待の方が大きいかもしれませんね」(民放の音楽番組スタッフ)
では、実際はどのようなスタイルになるのだろうか?
これまでは、紅白のパイロット版的な要素を含んでいた〝夏の風物詩〟〝夏の紅白〟と言われる「思い出のメロディー」があった。ところが、昨年の51回で番組にピリオドが打たれ、今年の放送はないと話す関係者もいる。
NHK関係者によると「今年は東京五輪を放送する予定だった」ようだが、実際には「緊急事態宣言が解除されたとは言え、以前のように再開することはできない」のだとか。
そうなると今年の紅白は、事前に学ぶものがなく、ある意味でぶっつけ本番の放送形態になる。
視聴率は至上命題 N国のプレッシャーも
一方で、コロナに関連した問題とは違った懸念もある。
視聴率を振り返ってみると、昨年の紅白は、大河ドラマ「いだてん」と並んでワースト記録を更新してしまった。
ビデオリサーチによると関東地区の前半の第1部(午後7時15分~8時55分)が34.7%で、後半の第2部(午後9時~11時45分)は37.3%だった。一昨年に比較して1部は3ポイント、2部に至っては3.8ポイントものダウンとなったのだ。
「世界のテレビ番組でも長寿となった紅白の70回目が、ワースト記録になったわけですからね、過去を紐解いても、第2部の視聴率でみると2004年の第55回が39.3%で最も低く、その後も06年、07年、15年、そして17年と4回の39%台があったものの、39%のボーダーラインを割るようなことは過去にはなかった。
それがいきなりの37.3%。局内では少なくても38~39%の潜在的視聴率があると言われていたようなので、この衝撃的な数字には、さすがに制作スタッフも青ざめたようです。
いくら最高裁の判決で受信契約の締結が強制されることになったとは言え、『公共放送』『みなさまのNHK』を標榜しているNHKにとって紅白は、絶対的なトップ・セールス番組です。
しかも3億円を超えると言われる巨額な制作費を投じていることもあって、タイミング的にも『NHKから国民を守る党(ホリエモン新党)』の立花(孝志)代表から格好の餌食にされるんじゃないかと現場はヒヤヒヤしているようです。7月の都知事選にも出馬するようなので、あるいは紅白でヒートアップするかもしれませんね」(放送関係者)
令和に生まれぬヒット曲
懸念はそれだけではない。
コロナ問題以上にNHKの担当者が頭を抱えそうなのは出場歌手である。とにかく今年は例年以上にヒット曲、代表する曲がないのである。
「令和に入ってから誰もが知っているヒット曲がない。コロナ問題もあって、新曲の発売延期が相次いだこともあって、誰が何を歌っているのかも分からない状態です。一つにはカラオケが自粛対象となっていたことも大きいかもしれません。
また、サブスクリプション(定額制)配信では80年代のヒット曲が多く聴かれていると言います。ここに来てテレビよりもYouTubeの視聴時間の方が上回ったということもあり、NHKにとっても悩ましい限りではないでしょうか。
そんな状態の中で、短絡的にYouTubeで話題になったものを紅白で取り上げたとしても、そもそも意味のないことですからね」(音楽関係者)
例年、紅白では、出場者とは別枠(特別枠)での出場者が話題になる。
昨年は竹内まりやが目玉で出演、さらにビートたけしが「浅草キッド」を歌い、さすがに評判はイマイチだったが没30年を迎えた美空ひばりさんをAIで復活させた企画まであった。
これには音楽関係者からも「視聴者ターゲットが全く絞りきれない、紅白の現状が露呈してしまった」なんて言われる始末。
もはや「歌は世につれ世は歌につれ」なんて言葉は死語になってしまった。
しかも、今回のコロナ問題でエンターテインメントそのものが「不要不急」のものになってしまったことに嘆く業界関係者の声もある。しかし、これは紅白に限ったことではなく、年末の「輝く!日本レコード大賞」にも言えることである。
感染拡大を予防するための「新しい生活様式」が求められている中で、いよいよ紅白にも新しい開催様式が求められているのかもしれない。