※この記事は2020年05月28日にBLOGOSで公開されたものです

いつ頃かわからないけど、黒川さんと安倍さんで、かつてこんな会話があったんじゃないかな・・・。

安倍「黒川くん、いろいろありがとう」

黒川「総理、恐縮です」

安倍「キミが、まさに、いわゆる、ややこしい問題を、正しく扱ってくれるから、非常に助かってます」

黒川「いえ、私は正しいことが公正に行われる国家の為に、検事という職務を遂行しているだけであります」

安倍「正しいことが公正に行われる国家、まさに安倍政権の目指す理想の国家、『美しい国ニッポン』です。黒川くんのおかげでニッポンは着実に『美しい国』に向かっています。キミが関わったすばらしい仕事、いっしょに振り返ってみましょう」

・2015年 公職選挙法違反の小渕優子議員 → 不起訴
・2016年 建設会社から現金100万円を受け取っていた甘利明議員 → 不起訴
・2018年 加計学園から200万円を受け取っていた下村博文元文科大臣 →不起訴
・2018年 森友学園事件で公文書改ざんの佐川宣寿元国税庁長官&財務省 → 不起訴

安倍「すばらしいです。まさに、いわば、正しい判断としての不起訴がここにあるわけです。不起訴が4件、まさに四暗刻の役満です」

黒川「わたし、役満大好きです」

安倍「そこで黒川くんに相談ですが、これから先、『桜を見る会』での疑惑だとか、広島の河井克行元法相と河井案里議員の疑惑だとか、まだまだややこしい問題がまさにあるわけです。万がいち総理である私が起訴されるなどあるわけないのですが、ええ、まさに、いわば、万がいちそういうことが起こらないよう、黒川くんの、検察官としての、いわゆる、適切な、公正な、判断がされることを、望んでおります」

黒川「いたくお察しします」

安倍「そこでですね、キミは2020年2月で定年退官となるわけですが、それを、適切に延長して、そのあと、検事総長に昇格して頂き、これまでと同様、検察として公正な判断を継続して頂きたい、そういう提案をしたいのです」

黒川「しかし総理、現在の法律で検察官の定年延長は認められてませんが」

安倍「であれば、そこはスピード感を持って、法の解釈を変更すればいいわけです。そして、そのあとスピード感を持って、法を改正しましょう。そうすれば私も黒川くんもこの国では、まさに無敵、国士無双の役満となるわけです」

黒川「わたし、役満大好きです」

・・・アハハハハ、まあ、もしかしたらこんな会話があったかもしれないって話だよ。だけど黒川さんを無理やり定年延長させて検事総長に就かせようっていう、例のプランを作ったのは安倍さん側だろ。そうすりゃ自分達がグレーなことしても最後の最後は「不起訴」で安泰だろうって、安倍さん側が描いて、黒川さんに差し向けたプランだよな。

それを黒川さんは飲み込んだワケだ。でもね、真っ当な心ある検事なら、ここで自分から辞退するべきだった話だよ。やろうとしてることの不当さ、いびつさ、ご都合主義、検事長という高い役職に登り詰めた黒川さんは誰よりも理解できた話だよ。ああ、これはイカサマだなって。

だけど欲をかいたんだな。検事長で定年かと思ってたら、安倍さんのチカラで検事総長になれそうだぞと。自分は今まで与党と安倍さんには相当尽くしてきたから、その見返りがあってもいいんだ。たとえイカサマであっても「検事総長」という役満を上がりたいな~って思ったんだよ。

役満狙って仕掛けたイカサマ

検察官はいかなる立場においても「公平公正」であらねばならないという理念も、安倍政権側に長く立ち回ってきたことで曇っちゃったんだろうね。国家社会の「公利」より安倍さんと自分の「私利」を優先しちゃったんだ。

そしてその結果、役満どころか大チョンボ。黒川さんは安倍さんが持ちかけたイカサマに乗ったことで、歩んできた人生を汚しちゃった。

コロナ対策でみんなが苦しんでいるさなかに、ひどいイカサマがまかり通ろうとしていた。そりゃあみんな許せないと思うよ。「検察庁法改正案に抗議します」っていう声がツイッターで1000万も集まったんだろ。それ以外にも、俺みたいにSNSとかツイッターをやってないけど、このイカサマはひどい、許せないだろうって腹を立てた国民がいるわけだから、大変なことだよ。

そこに週刊文春のスクープが炸裂した。黒川さんが産経新聞と朝日新聞の記者と賭け麻雀をしていたことが発覚だ。日本じゅうがステイホームで外出自粛している時期に、雀卓囲んで「密」になって、検事長とマスコミが賭け麻雀してるなんてな。

墓穴を掘った黒川氏 ベタオリした安倍首相

たぶん黒川さん、安倍さんが思い描いたとおりになるって本当に思ってたんだろうね。与党は圧倒的な力を持ってるわけだし、野党がどんなに反対したって焼け石に水だから、すべて思いどおりになるって。だから何をしたって自分は大丈夫、賭け麻雀ぐらい何の問題もない。何しろ自分は起訴も不起訴も思いどおりにできる検事長だし、何かあっても安倍さんが自分を守ってくれる・・・、そう思ってたんだろうね。でも現実はそういかなかった。黒川さんは墓穴を掘り、安倍さんは黒川さんを切って逃げるしかなかった。

結局、黒川さんには誰が決めたのか「訓告」という軽いイエローカードが1枚出ただけで辞職扱い。退職金も約6000万円払われるらしいね。

だけど、黒川さんは3年ぐらい賭け麻雀してたって話だろ。でさ、国家公務員って違法なことをしていた時の処分規定があるわけだ。それに沿ったら今回のケースは「違法賭博」に関わるわけで、もっと厳しい懲戒免職とか、退職金に関してもそれなりの減俸が当てはまるって話だよ。軽い処分で退職金がどっさり支払われるのは変だよ。

あと、一緒に賭け麻雀していた産経新聞と朝日新聞の記者も、新聞の信用を著しく損なったのは大問題だ。こっちもきちんと「違法賭博」に関わった罪に問われないとな。そうでないと、これまで賭け麻雀で逮捕されてきた人達がいたたまれないよ。俺も何人か思い当たりあるよ。あの人とか、あの人とか・・・。麻雀だけに彼らの「面子」に関わるって話だよ(苦笑)。

賭け麻雀が日常風景だった昭和から時代は変わった

賭け麻雀って、昭和の時代は確かに日常の風景だった。学生も社会人もみんながやってた大衆娯楽だったよ。俺も若い頃は劇団の仲間と3日3晩やり続けてフラフラになった思い出がある。

映画界に伝わる逸話だと、市川右太衛門さんと片岡千恵蔵さん、二大スターが麻雀で家を一軒(!)賭けたっていう豪快な話があるよ。家と言っても自宅ではなく、まあヨソに建てた別宅だな。まさに麻雀で「卓」を囲って、ご婦人を囲った「宅」を賭けた・・・というね。

まあ、そんな話がまかり通る時代もあったけど、段々と賭け麻雀は違法とされるようになっていき、今では逮捕されても文句の言えない違法行為になってる。その見せしめもあって平成以降は賭け麻雀で逮捕されたり、活動謹慎になった著名人も数々いるわけだ。

なのに検事長という公職のトップにいた黒川さんが賭け麻雀をした結果、「訓告」という軽い注意で済むって納得いかないよね。そんな人物に税金から退職金を支払う必要はないよ。

それでも退職金を払うというならさ、安倍さんは黒川さんの騒動に関して「責任は自分にある」って公言してるんだから、安倍さんが責任を持てばいいんだ。安倍さんが黒川さんに退職金の代わりにアベノマスクを6千万円分現物で支給すればいい。

ほら、アベノマスクって中々届かないし、届いてもいらないっていう国民も多くて、使い道がないんだろ。それを黒川さんに回せばいいんじゃないの?

ちょっと編集部、アベノマスクって1枚いくらだっけ? なになに、官房長官があれは1枚約200円って言ってた? そしたら6千万円で何枚買える? おお、30万枚か。じゃあ、黒川さんの退職金はアベノマスク30万枚だな。

腹話術の人形のような森法相の答弁

この黒川さんの件で、森まさこさんって法務大臣もガタガタだな。あのね、昔の自民党に稲葉修さんっていて、70年代半ばに法務大臣だったの。その在任中にロッキード事件が起きたんだ。今の自民党とは違って派閥が機能してたから、同じ自民党同士であっても派閥が違えば容赦なし。相手が総理大臣であっても容赦なしだった。稲葉さんが法相の時に田中角栄さんの逮捕を検察に許可した。それで角栄さんは逮捕されたの。だから田中派は別派閥の稲葉さんに怒り心頭だったんだ。

この稲葉さんがそのあと選挙(1980年)に落ちちゃったの。出直しの衆院選(1983年)で俺は立川談志に頼まれて稲葉さんの応援演説に行ったんだよ。新潟2区だね。ちなみに角栄さんは新潟3区だからお隣りだ。この稲葉さんが肝が据わってて喋りが面白いんだ。選挙演説で「私は悪いことしたヤツを捕まえたのに、選挙で落ちるとはいったい何ごとだー!」って拳ふり上げて聴衆を沸かしてたよ。それで再選されたんだ。

改めて現在の法務大臣・森まさこさん。この人は公選法違反で辞任した河井克行さんの代わりに、昨年秋に急きょ法相のポストに就いたんだよね。結局、安倍内閣も内閣改造を重ねるたびに、実力に見合わない人に恩賞みたいに閣僚のポストをあてて、自分に忠誠を誓うイエスマンを並べてるだけなんだよな。

森まさこさんは弁護士出身で法律畑らしいけど、キャリアも中身もまだまだ法相の器じゃないよ。それが急きょ安倍さんと官邸の都合でポストをあてがわれたクチだから、自分の意見なんか言えない。官邸の意向をパクパク喋る腹話術の人形みたいなもんだよ。

だから、今回の黒川さんの問題についても、大事な文書は何も残ってなくて「口頭で決裁を得た」とか、法律を学んだ人間だったらズッコケるようなことを国会で言ったりしてた。安倍さんの意向を守ろうとすると、大臣も官僚もみんなあんなふうに道を外れちゃうんだよな。

なんか田中角栄さんと稲葉修さん、安倍晋三さんと森まさこさん、総理大臣と法務大臣の関係を比べるとさ、今の自民党がどんなレベルにあるか透けて見えちゃうね。

結局、黒川さんが辞任に追い込まれて、安倍&黒川のスジ書きを正当化する為に、無理な答弁を重ねてきた森さんはハシゴ外されちゃって、八方ふさがり。国会の答弁もいきなり魂が抜けちゃったみたいに虚ろな顔で弱々しくなってたよ。ああいう顔、どっかで見たことあるなと思ったら、役満を振り込んだ後の顔だよ・・・。

イカサマの役満なんかいらないんだ、庶民が望んでいるのは安全安心な「平和」だよ。

(取材構成:松田健次)