※この記事は2020年05月25日にBLOGOSで公開されたものです

共同通信社

5月20日、全国高校野球選手権大会を主催する日本高校野球連盟と朝日新聞社は、今夏の全国大会、いわゆる「夏の甲子園大会」を中止することを決定した。(*1)

中止の理由は、やはり新型コロナウイルスの問題である。 全国各地で行われる地方大会での感染リスクを完全に抑えることが難しいこと。 各地で懸命な治療が行われている中で、球場などに医療スタッフに常駐してもらうことが難しいこと。 これまで行われてきた休校措置などの影響から、コロナ終息後には夏休みを短縮するなどして授業時間の確保が行われると考えられることから、開催が球児たちの学業の支障になりかねないこと。 そして、全国大会が行われれば、全国から球児や監督が甲子園周辺に集まることから、地域を越えた感染拡大リスクを否定できないこと。 といった事から中止を決断したという。

現状、なかなか練習も勉強もままならない状況で、甲子園大会の中止がいつまで経っても発表されなければ、球児たちは不安を抱えたまま過ごすしかない。 中止が決定されたことで、3年生は不完全燃焼のままに卒業という形になるかもしれないが、早いうちに切り替えて受験に備えてほしい。 また、プロ野球の方でもシーズン試合数の短縮と日程の圧縮が考えられる中で、阪神タイガースの本拠地である甲子園が夏期に使えるかどうかは、NPBはもちろん、阪神ファンにとっても気が気では無かっただろう。 ……え? 阪神は甲子園で勝てないから使えなくてもいい? いや、去年はホームで勝ち越したでしょ。おととしまでは酷かったけど……

ここ数日は新たな感染者数は右肩下がりになっており、一見、落ち着いてきたかのように思える。しかし、まかり間違えばまた爆発的な感染拡大が起きる可能性を否定できない中で、今回の決断に至ったことは正しいと評価したい。

ところが、どうも現状が分かっていない人が大阪にいるようだ。それは大阪府の吉村知事だ。 吉村知事は甲子園中止の報を受けて「リスクを高野連がとってやるべきなんじゃないのか」(*2)と述べたのだ。 まぁ、無責任に「リスクをとって、やればいい」なんてのはいくらでも言える。大阪はかなり新型コロナの影響が低くなっていて楽観視しているのだろうが、首都圏はまだ予断を許す状況ではない。 さらにいえば、表面的には球児のためを装っているけど、維新の人たちにとっては「甲子園を開催して、新型コロナの感染が広がれば、正面切って朝日新聞を叩きまくればいい」くらいの認識だろう。 僕にはそうした政治的アピールが主目的で、あのようなコメントを出しているとしか思えない。

もし、本当に吉村知事が球児たちの事を考えているなら、大阪府高野連と組んで、大阪府が主催で「大阪府高校野球大会」をやればいいのだ。 大阪桐蔭や履正社など、高校野球に疎い僕ですら名前を知っているような強豪ひしめく大阪府での優勝は、甲子園での優勝とも等しい名誉である。もちろんプロ野球球団のスカウトは間違いなく試合を見に来るだろう。 近畿地方全体の感染リスクが低くなると考えるなら、近畿地方の高野連に呼びかけてもいい。全国大会はできなくとも、ある程度地域を狭めれば、それだけ感染リスクを小さくすることはできる。 あとは学習との兼ね合いをどう取るかだが、まぁそこは頑張って。

少なくとも大阪の府知事なのだから、他者の決定に対して「リスクを取れ」などと安全地帯から言うのではなく、その代替を自ら用意するくらいの気概が必要ではないだろうか。

*1:夏の全国高校野球 戦後初の中止決定 新型コロナ影響(NHKニュース)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200520/k10012437601000.html
*2:大阪の吉村知事、甲子園中止に「考え直してもらいたい」(朝日新聞デジタル)
https://digital.asahi.com/articles/ASN5N6JNCN5NPTIL04D.html