※この記事は2020年05月22日にBLOGOSで公開されたものです

どの仕事にもその業界内で伝わる「あるあるネタ」が存在します。共感を呼ぶあるあるネタだからこそ、それを知ることで普段は知ることができないテレビの裏側が垣間見えるかもしれません。

放送作家の深田憲作です。毎回、自分の好きなことをテーマに記事を書いていますが、今回はあるあるネタです。

あるあるネタを得意とする芸人さんで思い浮かぶのはテツandトモさん、いつもここからさん、ふかわりょうさん、つぶやきシローさん、レイザーラモンRGさんなどでしょうか。

柳原可奈子さん、横澤夏子さんが巷の女性を少し意地悪な目線で切り取ったネタもいわばあるあるネタですね。ヒロシさんの自虐ネタはモテない男のあるあるネタと言えるかと思います。

そして、芸人さんのネタで言うとモノマネもあるあるネタの側面がありますよね。「あの人、こんな声してるわ~」「こんな言い方するわ~」「こういうクセあるわ~」というところで笑ってしまいます。

どうやら人間が抱く「共感」という感情には、なぜだか「面白い」という感情も付随してきます。これは常々不思議だなと思っていました。「なんで共感できると面白いと感じてしまうのだろうか?」と。脳科学の専門家の方に話を聞いてみたいところです。

さて、僕が関わるテレビ業界にも当然あるあるネタのようなものが存在していて、これはテレビ業界以外の人が聞いても興味を持っていただけるのではないかと考えています。

そこで今回は「テレビ界のあるあるネタ」をいくつかご紹介させていただく運びとなったわけでございます。それでは1つずつ挙げさせていただきます。

番組の打ち切りが決定してから視聴率上がりがち

若手の頃に先輩放送作家から聞いた話ですが、10数年ほど現場でやってみて確かにそう思います。自分が担当していた番組でも打ち切りが決まった後の放送で視聴率が上昇していたことが何度もありました。

冷静な分析をすると、終了と決まった後に視聴率が上がると「もうちょっと編成部が粘って続けさせてくれていたらなぁ…」といった悔しさが相まって強く印象に残るという部分は大きいと思います。(※番組の存続の命運はテレビ局の編成部が握っています)

きちんと統計を調べると打ち切りが決定してから視聴率がさらに下がっていることの方が多いとは思いますが、テレビ界では「打ち切りが決まってから視聴率が上がる」というのはあるあるネタですね。(聞いたことがないというテレビマンの方、すみません)

AD 辞める時の理由に「親が体調を崩して」を使いがち


ご存知だとは思いますがADとはアシスタントディレクターのこと。基本的にADはディレクターの下で働いているため、放送作家の僕は普段からADと密接に仕事をしているわけではありません。これはディレクターから耳にしたあるあるネタです。

近年は働き方改革でADに休みがない・家に帰れないといった劣悪環境はだいぶ改善されているようですが、それでもやはり大変な仕事のため辞めてしまう人が多いのも事実。

これはどんな仕事でも共通すると思いますが、簡単に「辞めさせてもらいます」とは言えないもの。先輩や上司に「仕事が辛くて辞めたいです」「仕事が楽しくないです」とは言いづらいのでしょう。

とにかく一刻も早く辞めたいわけですから「もう3か月だけ頑張ってみないか?」などと引き止められたくもありません。

そこで使われる理由で多いのが「親が体調を崩して」だそうです。もちろん本当に親が体調を崩して実家に帰る人もいると思いますが「こんな高確率でADの親、体調崩さないだろ」というくらい、この理由が多いそうです。

この理由を言われてしまうと「ウソつけ」とも言えないし「もうちょっとだけ続けてみたら?」とも言えません。ただ、僕がここにあるあるネタとして書いているように、この理由はほとんどウソだということもバレています。今から辞めようとしているADは違う理由を考えた方がいいかしれません。

「親が体調を崩した」のように、仕事の辛さから逃げ出したと思われず、かつ「ウソつけ!」とは言われない、そして引き止められにくい理由を考えましょう。それがADとしてのあなたの最後の仕事です。

放送作家 しゃべりだしでハードル下げの一言使いがち

「放送作家は常にハードルを下げながら生きている」と個人的には思っています。アイデアを出す時に「これ面白いと思うんですけど」なんて話しだす放送作家はほとんどいません。むしろ、ハードルを下げる一言を発してからしゃべりだす人が多いです。

例えば、「わかんないですけど」「ジャストアイデアですけど」「これがベストな案とは思わないですけど」が常套句。

テレビマンに限らず、世のビジネスマンもこのようにハードルを下げる一言は使っているかもしれませんが、その度合いはきっとテレビ界の方が強いのではないかと思います。

ハードルの話からは少し逸れてしまいますが、明石家さんまさんがテレビでこんなことをおっしゃっていました。「笑いは突き詰めると“緊張の緩和”に尽きる。緊張を緩めることで笑いになるから、“面白い話があるんですけど~”と話し始めてしまうのは、最初から緊張を解いてしまう行為だ」と。

これは分かりやすい説明です。“緊張を緩めることで笑いになる”ということがいまいち理解できない方のためにご説明すると、例えば、葬式という緊張感のある場所で誰かがオナラをしたら面白く感じてしまいますよね?

これがお祭りでワイワイやっている時のオナラだと葬式の時ほどは面白くない。これが緊張を緩めることで笑いになるということですね。芸人がコントをする時のシチュエーション設定は、シリアスな場面が多くなるのは必然だということです。

話が飛びましたが、テレビの会議で放送作家がハードルを下げる一言をよく使うのは、やはり芸人さんのトークから影響を受けているのではないかと僕は分析しています。

テレビの台本 フォントは丸ゴシック使いがち

これはおそらく間違いないと思いますが、テレビ番組の台本に使われるフォントは丸ゴシック体が1番多いと思います。理由は不明ですが、僕は先輩から「丸ゴシック体が1番面白そうに見えるんだよ」と聞きました。正直、フォントによって面白く見えるという感覚はよく分かりませんが、多数派に従って台本を作成する時は基本的に丸ゴシック体を使っています。

ちなみにパソコンが普及していなかった頃は、会議資料は手書きで書いたものを提出していたため「あの人の字は企画案が面白く見える」ということがあったそうです。この感覚も僕はよく分かりません。

女性スタッフ プライベートでも男性にトークのオチ求めがち

ちょっと傲慢かもしれないですが、裏方のスタッフでもディレクターや放送作家はトークの面白い人が多いと思います。そのため、長年テレビの世界で働いている女性スタッフがテレビ業界以外で働く男性とデートしていると「話が面白くない」と感じることが多いようです。

業界である程度のキャリアを積んだ20代後半から30代前半の女性はこんなことをよく話しています。「分かっていますよ。自分が男性に対してそんな高望みしちゃいけないってことは分かってるんです。でも話がつまらない男性とはどうしても付き合えないんです!」

男性がどんな大企業で働いていても、どんなにイケメンでも、どんなに優しくても、トークが面白くないと恋愛感情が持てないそうです。

これはひょっとしたらテレビ界全体ではなくバラエティの現場で働く女性スタッフのあるあるかもしれませんが…。話を聞く分には笑いながら聞いているのですが彼女たちにとっては切実な問題のようです。

放送作家 フジテレビ本社と湾岸スタジオを間違えて絶望しがち

フジテレビで仕事をすると、球体でおなじみのフジテレビ本社か、湾岸スタジオと呼ばれる社屋のどちらかで会議をすることが多いのですが、ADからの会議連絡をきちんと見ずに本社へ行ってしまい、「湾岸かよ~!」と慌てて向かう、ということがたまにあります。

ちなみにフジテレビ本社と湾岸スタジオは徒歩約12分。距離にして約735メートル離れています。

完全に自分の責任ですが普段、フジテレビ本社で会議を行っている番組が、たまたま湾岸スタジオでの会議になった場合、この事態に陥ります。他の方に確認を取ったことはありませんが放送作家あるあるだと思っています。

いかがでしょうか。

ここに挙げたあるあるネタがテレビ業界以外の方にとって興味深いものであるならば幸いです。そしてテレビ業界の方で「そんなあるある聞いたことない!」というクレームがありましたら、個人的にご連絡ください。

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
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