※この記事は2020年05月21日にBLOGOSで公開されたものです

多くの熱狂を生むスポーツ・サッカーの舞台裏を取材する森雅史さんの連載『インサイド・フットボール』。今回は新型コロナウイルスの影響で開催延期が続くJリーグからアルビレックス新潟の代表取締役社長・是永大輔氏に話を聞きました。通常なら見込める収入が断たれるなかでどのような舵取りをしているのか、苦しい現状を明かしています。

新型コロナウイルスの影響で依然として開催延期が続くサッカー・Jリーグ。そのなかで、もっとも厳しい状態に立たされているのがクラブチームだ。入場料やグッズ販売をはじめとした収入源が断たれている状態で、クラブを維持していくことは容易ではない。今回はJ2リーグの中でも多くのサポーターを抱える人気クラブ、アルビレックス新潟の代表取締役社長・是永大輔氏にクラブ運営の現状を聞いた。

平均観客動員数はJ2平均の2倍以上 地域に愛されるクラブチームの現在

--アルビレックス新潟はJ2リーグに所属するクラブチームです。チームの特色について教えてください。

私たちは成り立ちが市民クラブに非常に近いと思います。どこか特定の大企業に支えてもらっているような形ではなく、たくさんの人たちの力を集めて出来上がっているクラブです。

J1リーグに昇格した2004年には平均37,000人以上の観客のみなさんに来ていただきました。ピークを超えてから観客数は減っていますが、それでもJ2リーグ平均観客動員数の7176人に比べると、2倍以上の1万4497人の方にご来場いただいています。また、去年からはデータを重視したチケット戦略を行っており、有料観客数が平均1000人ほど増えています。

--新潟の収益構造はどうなっていますか?

営業収益の約40パーセントほどのスポンサー料に加え、シーズンパスを含めたチケット収入が私たちの中では約25パーセントという大きな割合を占めます。チケット収益の中でシーズンパスが占める割合は60パーセントぐらいですね。昔からずっと愛し続けてくださるみなさまがいらっしゃるので、それは本当に助かっています。グッズ売上や、スタジアムでの飲食販売でもたくさんのみなさんにご協力いただいており、そのロイヤリティ収入も重要な収入源です。

アルビレックス新潟とカテゴリ別Jクラブ平均売上(2018年)

営業収益 スポンサー収入 入場料収入 アルビレックス新潟 24億9300万円 11億2700万円 5億0700万円 J1平均 47億5500万円 21億3000万円 8億0400万円 J2平均 15億4100万円 8億1000万円 1億9900万円 J3平均 4億4400万円 2億4100万円 2900万円

新潟の特長は、J1からJ2に降格した初年度はスポンサー料があまり減らなかったことです。もちろん、スポンサーのみなさまとデータで共有している広告露出の回数や質という部分には影響があるのですが、リーグのカテゴリーが下がったことで減額に結びついた割合は少ないと言えるでしょう。これは私たちのことを地域のインフラとして認識していただいているからだと思います。他のクラブのことをすべて知っているわけではありませんが、おそらく新潟はかなり恵まれていると思います。

チケット収入が断たれ、手元キャッシュに不安

--Jリーグは2月21日に開幕した直後の25日、新型コロナウィルス感染防止のため28日から3月15日までの試合を延期すると発表し、その後まだ再開できずにいます。現在のクラブの状況を教えてください。

手元のキャッシュが問題です。本来であれば、試合ごとに入ってくるチケット収入がありません。シーズンパスとしてチケット収入の一部はいただいているものの、試合ごとのチケット収入はもちろん重要です。

グッズに関しては、インターネットショップや新潟駅に「アルビレックスショップ オレンジガーデン」というオフィシャルショップがあるのですが、やはり試合日にスタジアムで売れる比率のほうが圧倒的に高いです。また試合が開催されないため、会場での飲食販売のロイヤリティ収入もなくなっています。

--現在はどのような資金繰りで会社を運営しているのでしょうか。

ほとんどのスポンサー料は通常どおり2月から5月の間にいただきます。ですから今は、ほぼそのスポンサー料とシーズンパスの収入だけでクラブを運営している状態です。

あとは育成組織のアカデミーやサッカースクールからの収入はあるのですが、それ以上に育成組織には費用がかかりますので、基本的にアカデミーは大きな赤字です。

--どのような対策を練っていますか?

まずはキャッシュをいかにショートさせないかということが、現時点での全てです。そのためにキャッシュを増やす、たとえば政策金融公庫含めて国が出している新型コロナウィルス対応策にアプローチをしています。

また、これからそれぞれの金融機関がどんなメニューを出してくるのか正式に決まるでしょう。それぞれの策が揃ったら金融機関にお願いをする場面があるかもしれません。

あとは、新潟はたくさんのサポーターに支えていただいているので、甘えるわけではないのですが、経営が厳しいという現実を共有させてもらっています。幸い新潟にはクラブの後援会という組織があります。「みんなでクラブをもう一度盛り上げましょう」と、後援会が主体となって「クラブ緊急支援特別募金」を開始していただきました。心から感謝しています。

--資金ショートの可能性はいかがですか?

何も対策を取らなければ、今はどの企業であっても資金ショートの可能性があると思います。ゼロベースで様々な策を取ることでそうならないように努力しています。

「こうも何も出来ないのか」打開策見えず

--現時点で何か新しい対策を始める考えはありますか?

現状ではEコマースしか売上の向上が見込めないと思いますので、その分野にも力を入れていきたいと思います。

この時期を耐えることができれば、キャッシュ次第で勝負できると思います。ですがそのキャッシュが苦しいので、新しい事業にドンと投資するというわけにもいきません。

--平常時の経営との違いを痛切に感じるのはどういうときですか?

こうも何も出来ないのかと痛切に感じます。たとえば経営上の数字を見ると、ここが悪い、ここをつつけば売上が上がる、ここは改善できるという判断が出来ます。戦略を組み立てることができます。それを粛々と1つずつ、効果の高いものから実行していくというのが王道だと思っています。

ところが今はなかなか打開策が見えません。商売ができない。何か出来ることはないかと、もがきながら探しているのですが、劇的に効果のあるものが出てくるかというと、なかなか見つかりません。

どこか大きなスポンサーが損失を補填してくれるようなクラブではないので、こういう全員が苦しんでいる状況では、本当に苦しいですね。同様のJリーグクラブも多いと思います。

度重なる延期に疲弊する現場 気持ち割り切れぬ「自粛」対応

--その他に苦しんでいるのはどんなことでしょうか。

誰も未来を予測できないから仕方がないのですが、スタッフが精神的に苦しんでいた時期がありました。開催が延期になり、再開後の日程が決まったものの、再延期。そしてさらに再延期と繰り返されました。再開の準備をして、段取りを組んで、でもできなかった、というのが何度も繰り返されたので、選手も働いているスタッフも一時期は疲弊していました。

あとは「自粛」でしょうか。自粛は自分の意志で活動を止めているということ、自分で自分たちの活動を規制しているという状態です。もちろんサッカークラブは公共物だと思っているので、地域のため、世の中のために進んで自粛していますが、本当に自分で自分の首を絞めている感じがします。まだこれが国や自治体からの活動停止要請ということになっていたら気持ちは割り切れるのですが。

--Jリーグや日本サッカー協会はどのような対応をしていますか。

現時点ではJリーグには「リーグ戦安定開催融資制度」というのがあります。ただ、「リーグ戦安定開催融資制度」の資金は合計で10億円。(J2の場合)最高1億5000万円が限度額です。そしてJ2クラブは22クラブあります。ですから各クラブは最初からリーグの制度を期待するのではなく、まず自分たちで出来る活動をしなければなりません。

今は、例えば災害でどこかの地域が局地的に苦しいという状況ではなく、日本中、世界中が苦しいのでとても難しいですね。そんな中で、Jリーグは各クラブの資金確保のために動いてくれていますし、各省庁ともリーダーシップを持って関係を深めてくれています。日本サッカー協会も独自にいろいろ活動してくれているようです。大変ありがたいことです。

練習の様子をTwitterにアップするなど、SNSでの発信にも力を入れている

試合ができる日まで、歯を食いしばって前進する

--サポーターの方々にメッセージをお願いします。

サッカークラブは「地域に勇気を与える」ことのが存在価値だと思っています。勝っても負けても勇気を与えるのがサッカークラブの役割だと思うのです。私たちは地域の皆様やサポーターにいつも勇気をもらっていますし、いつも助けていただいています。必ず恩返しをしたいと思っています。

今は本当に大変ですが、この状況がずっと続くわけではないと思います。いつか試合ができるときが来るでしょう。そのときサポーターの人たちと一緒になって涙を流して「やったぜ!」と叫びたいですね。

たぶんそのときが、私たちアルビレックス新潟がこの地域の、新潟という街の「復活の象徴」になれるのではないかと思っています。そのときのために歯を食いしばって前進します。ともにがんばりましょう。