コロナで経営難のラブホテルは緊急支援の対象外 「職業差別だ」と経営者らから怒りの声 - 小林ゆうこ

写真拡大

※この記事は2020年05月20日にBLOGOSで公開されたものです

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛のあおりで、ラブホテル(以下、ラブホ)が経営難に陥っている。そうした厳しい状況にもかかわらず、公庫特別融資やセーフティネット保証、5月から申請が始まった持続化給付金といった緊急支援の対象からことごとく除外されている。

「支援するのにふさわしくない業種だから」との理由で、国は「性風俗はダメ」との方針だ。ラブホ業者からは「生きるか死ぬかというこの緊急時に職業差別を持ち込むのか」と怒りの声が上がっている。

「ラブホ業界を潰す気か」マネーの虎が怒った

2月末、ラブホテル業界に衝撃が走った。コロナ禍における経済危機のなか、政府は日本政策金融公庫など公的機関に要請して、旅館業や飲食店を営む事業者に向けて「新型コロナウイルス感染症にかかる衛生環境激変特別貸付」を開始した。ところが、業績の悪化を補填するよう低金利で貸付する制度のはずが、風俗業界はその対象外となったのである。

この〝門前払い〟に、いち早く声を上げたのは、ホテルセーラグループの社長・市東剛さんだ。かつて、起業家を目指す人が各界の実業家に事業資金の協力を求める企画で人気を集めたテレビ番組『\マネーの虎』(日本テレビ系)。市東さんは実業家として出演した一人だ。

群馬県などで6軒のラブホテルを経営する事業家として、今回の貸与対象からの除外に対して意見表明した。「ラブホはコロナ経済対策対象外!?」と題してブログに綴った動機は、強い憤りだった。

今般新型コロナウイルス感染症特別貸付に際し、我々レジャーホテル業界は対象外とされていることについて断固抗議します。現在はまさに有事であり、一般のホテル業者と同等の扱いを要望するものであります。

そう始まる文章では、旅館業法による営業許可を得て適法に運営しているにもかかわらず、各種の緊急支援策でもラブホ業界がことごとく対象外とされている異常事態に異を唱えた。1ヶ月経ったいまも怒りは収まらない。

「ラブホは一兆円市場と言われ、この国の経済の一翼を担ってきたと自負しています。ところが、公金を投入するには〝ふさわしくない業種〟だと言う。いや、これまでも助成金と名のつくものはすべて対象外だったので、差別されるのは毎度のことなんです」

そう振り返り、続けた。

「ですが、今回ばかりは黙っていられません。コロナによる経済危機を未然に防げなかったのは国の責任、人災ですよ。経営難に陥った理由に業界の落ち度はない。国は、自然淘汰に任せてこの業界を潰してしまえと言っているように感じます。やり方が狡猾じゃないでしょうか」

市東剛さん

市東さんのホテルは従業員100人以下で規模は中小企業だ。しかし、まさに中小企業向けに創設された持続化給付金でもラブホは対象外となっている。4~5月は売り上げが半減。いまは内部留保で凌いでいるが、それも底が尽きかけているいま、借り入れができなければ社員に給与を支払う原資もないと案ずる。

「この業界は、建物や減価償却費の重みが大きく、売り上げが見込みより3割落ち込むと赤字になってしまうのです」

市東さんは懸念を示す。

「コロナ特別融資ダメ、セーフティネット保証ダメ、固定資産税の減免ダメ、持続化給付金ダメ。唯一、雇用調整助成金は受けられるようになりましたが、あまりにみみっちくて社労士の謝金にも足りません。いずれ景気は戻ることでしょう。ただその間に、経営的に体力のないラブホとか、競争の激しい都市部のラブホは、淘汰されて半減すると思います」

議員に100本 メールを送ったラブホ・オーナー

長野県安曇野市に開業42年という歴史あるラブホがある。親から受け継いだ2代目経営者の瀬戸悦さんはゴールデンウィーク明けから、経営難の苦境を訴えようとTwitterを始めた。

アカウント名は「ゴメンね、ラブホテル守れない@haigyoumadika」。それは冗談のつもりではなく、現実そのままだと語る。

「うちは13ルームあるラブホです。主にカップルステイで月に平均500~600組、年間1万人にご利用いただいていましたが、客足は2月から半減しました。固定費に100万円かかるので、資金繰りが苦しくなった3月に信用金庫に相談。4月に固定資産税を納税するため100万円を借りました。無利子に近いコロナ特別融資に比べたら高金利ですよ。これまで、なんのために税金を納めてきたのか。訳が分からなくなりました」

4月中旬から、瀬戸さんは議員やメディアに話を聞いてもらいたいと、メールで陳情を始めた。その数100通。追加分を含めると130通余りに上る。返信はわずか6通だったが、寺田学衆議院議員や、複数の立憲民主党所属議員からのものは心強く感じたという。しかし、ある県議会議員の対応には衝撃を受けた。

「支持者の手前、風俗業の後押しはできないと遠回しに言われました。つまり、ゴメンね(保身が大事だから)ラブホは守れないと。情けなかったです」

さらに、「話は長くなりますけど」と前置きしながら、瀬戸さんが風俗営業法(以下、風営法)が改正された2011年を振り返ってくれた。

「ラブホを続けるか否か、二択で考えたことがありました。風営法の改正のときに、いわばラブホ経営の既得権を得るには、警察に届出をする必要に迫られたのです。考えた末、堂々とラブホを続けようと決めて、届出をして許可をもらいました。そうやって国の制度に従ったのに、いまその制度がなかったかのように職業差別される。もう驚きと悲しみしかありません」

令和時代に残る〝連れ込み旅館〟などの死語

一般のホテル・旅館に対して、ラブホは業界では「4号営業ホテル」と呼ばれる。

風俗営業法では、性風俗関連特殊営業のなかの店舗型性風俗特殊営業「4号」にカテゴライズされている。経営するには旅館業法に加えて風営法による営業許認可への届出が必要となる。ちなみに、1号ソープランド、2号ファッションヘルス、3号ストリップ劇場等、4号ラブホテル・モーテル等。それが6号まである。

瀬戸さんの言う2011年1月の風営法施行令の改正では、それまで旅館業の営業許可のみで経営していた、いわば〝偽装ラブホテル〟は、追加要件に対応した施設を整備しなければ営業不可とされた。

追加要件とは休憩料金の表示、玄関やフロントの遮蔽、自動精算機の設置などだ。要件が整えられずラブホを廃業して一般のホテル・旅館への業態変更を余儀なくされた旧ラブホは、以降、「新法営業ホテル」と呼ばれた。

「4号営業ホテル」との決定的な違いは、客と対面する有人フロントがあること。いずれにしても、旧ラブホ全体をひっくるめた「レジャーホテル」という新語が生まれ、現在に至っている。

ここ10年、レジャーホテルは、アミューズメント的要素で“女子会”に活用されたり、充実したビデオ・オンデマンド・サービス目当ての出張ビジネスマンに支持されたりと、高いコスパも相まってホテル業界の活性化に一役買ってきた。というより、ラブホのサービスを一般ホテルが導入する時代になってきた。

フロント自動精算機やデイユース料金システムは、ラブホ業界からの転用だし、シティホテル・高級小規模旅館の中心的な客層は夫婦やカップルという。そうなると、いまやレジャーホテルと一般ホテルとの垣根はほとんどない。「もっぱら異性を同伴し宿泊または休憩の用に供する業態」というのが一貫した風営法によるラブホの定義だが、現状、一般ホテルにも当てはまる部分は多い。

ところで、ラブホが誕生したのは、昭和27(1952)年。『現代風俗史年表』(河出書房新社)の説明に時代感が滲む。

【さかさくらげ】 いわゆる温泉マークが、ちょうどクラゲを逆さにしたような形であるところからこの名がついた。戦後のこの頃は〝連れ込み宿〟が氾濫し、その種の場所がこのマークを看板にした。その後、〝ラブホテル〟と名前と形を変えていった。

〝さかさくらげ〟や〝連れ込み宿〟は、とうの昔に死語になっているが、その死霊は、どうやら永田町には未だ跋扈しているらしい。国会では、次のような旧態依然とした答弁が展開されている。

5月11日、衆議院予算委員会で石橋通宏議員(立憲民主)が、「持続化給付金の支給要件に、性風俗関連特殊営業の事業者が対象外というのは職業差別だ」と見直しを要求したのに対して、梶山弘志経済産業大臣は次のように説明した。

「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくいといった考えのもとに、これまで一貫して補助制度の対象とされてこなかったことを踏襲し(今回も)対象外としている」

また、参議院財政金融委員会において音喜多駿議員(日本維新)から同様の質問があった。「性風俗業界で働く個人事業主は対象になる」が「事業者は対象外」と中小企業庁担当者が述べた際、「職業差別ではないか」との質問に、麻生太郎財務大臣は次のように述べた。

「性風俗関連特殊営業ということでは、(中略)テレクラとストリップは入っているけど、キャバレーとナイトクラブは入っていない。どこが違うんだよと。どこかで線引きしなくてはならない」

珍妙に聞こえるのは、ご飯論法のような「はぐらかし感」が際立つからだろう。麻生大臣も「戦後混乱期の性風俗」という死霊に取り憑かれているのか、喫緊の課題が見えていないように感じられる。

インバウンド需要に貢献したにもかかわらず

4号営業ホテルと新法営業ホテル、約2000社が加盟する業界団体である一般社団法人「日本レジャーホテル協会」は4月末、2通の陳情書を経済産業省、厚生労働省、警察庁など関係各省に提出した。「新型コロナウイルス感染症特別貸付に関する要望書」と「持続化給付金及び休業補償等に関する要望書」がそれだ。要旨のくだりは、次のように切々と綴られていた。

持続化給付金及び休業補償等の受給について、旅館業法に基づく許可を取得して旅館・ホテル営業を営むレジャーホテル業者に対して、他の旅館・ホテル業者と異なる差別的な取り扱いをすることなく、同等の取り扱いをして下さいますよう要望いたします。

コロナ禍における政府からの支援策は、ラブホのみならずレジャーホテル業界全体が対象外となってしまった模様だ。その実情について、同協会顧問で中小企業診断士の細田悠太さんは語る。

「都市部では休業で売り上げゼロとか、営業を続けていても売り上げが70~90%の減少といったホテルばかりです。地方では廃業に追い込まれたホテルも激増して苦境に立たされています。業界に従事する14万人もの人たちの生活が脅かされているわけですが、〝支援すれば、社会的批判が寄せられる〟というのが、各省庁の決まり文句です」

レジャーホテルはここ数年、Booking.comなどの宿泊予約サイトを導入するなど、東京オリンピック・パラリンピックに向けたインバウンド客の受け入れにも積極的に取り組んできたというが、その業界努力も評価された様子はない。

「この取り組みに手を挙げたレジャーホテルは700軒ほど。補助金や助成金を受けられない状況にあって、この結果は素晴らしいと思いますが、これは国土交通省観光庁のプロジェクト。省庁を横断しての評価には繋がりませんでした」

東京オリンピック・パラリンピックが1年延期されるなど先行きが見えないなか、レジャーホテルの行方はジリ貧と言っても過言ではない。

「これまで銀行から無借金でやってきた会社も多く、その場合は経営難に陥っても、容易には金融機関を探せない。特別融資が受けられないことに加え、納税をしているのに持続化給付金も得られない、固定資産税の減免もないとなると、八方塞がりの状況に陥ります。協会としては粘り強く要請していくしかない」

職業差別が招く暗黒の近未来とは

レジャーホテルを含む風俗業界への職業差別はなくなるのか。

4月末から、署名サイトChange.orgで、「持続化給付金の不給付要件から『性風俗関連特殊営業』事業者を外してください」とのキャンペーンを立ち上げ、経産大臣宛に2度の署名提出をした一般社団法人ホワイトハンズ代表理事の坂爪真吾さんは語る。

「明確な憲法違反だと考えます。適正に納税を行い、法令を遵守して営業している事業者を不給付対象にする理由が分かりません。適正に営業している事業者が国の支援や融資を受けられないとなると、無申告で法令を無視して営業する事業者のほうが有利になり、結果的に業界の健全化が遠ざかってしまい、悪質な事業者の増加を助長することになるだけです」

〝マネーの虎〟の市東さんも、同様に危惧する。

「もっと広範囲に緊急事態宣言が解除されていけば、景気は戻るでしょう。ただ、経営的に体力のなかったラブホとか、競争の激しい都会にあるラブホは半減すると思います。そのとき、バブル崩壊後にあったような〝貸し剝がし〟が横行、反社勢力が暗躍する恐れがある。脅すわけじゃないですが、歴史は繰り返すのではないか」

政府からの緊急支援について、風俗業界内でも職種によって格差が生まれていることにも疑問が残る。ことに持続化給付金だ。デリヘル嬢などセックスワーカーにシングルマザーは多いが、ラブホや風俗店に雇用されているスタッフにもしかり。それぞれの家庭には等しく扶養すべき子がいる。

ところが、給付対象はフリーランスのみで一律ではない。また、セックスワーカーのなかには、自らも風俗店経営者として二足のワラジを履いている人もいる。その場合は持続化給付金の対象外だ。

そもそも風俗店が軒並み廃業に追い込まれたら、フリーランスのセックスワーカーはどんなふうに営業を持続化させるのか? ある風俗店関係者が言った。

「個人で違法に客を見つけるようになるでしょうね。つまり、風俗業界がアンダーグラウンドに潜る。また無法な時代に戻る気がします」

コロナ禍は社会の暗部や、逆に社会変革の兆しを浮き彫りにした。政治家や官僚の暗澹たる時代感覚もまた。近い将来、もし風俗業界が再び闇に紛れるようになったとき、その闇はこれまでになく濃いのではないか。政府は、健全な風俗業界やラブホの存在意義を見つめ直すべきときかもしれない。