新型コロナによる興行中止・延期でエンタメ業界の3300億円が吹き飛ぶ! - 渡邉裕二
※この記事は2020年05月15日にBLOGOSで公開されたものです
新型コロナウイルスの感染拡大で政府から自粛要請を受け、コンサートやライブの中止・延期を迫られてきたエンターテインメント業界が存亡の危機だ。
すでに音楽団体の間からは、「このままでは文化が潰れかねない」と窮状を訴える声が上がっている。
政府の自粛要請でエンタメ業界に甚大な損害
政府の「緊急事態宣言」が発令されたのは4月7日だったが、コンサートやイベント、さらにはスポーツなどについては、それから遡ること40日も前の2月26日から真っ先に〝適用〟されていた。
政府の新型コロナウイルス感染症対策本部で安倍晋三総理が「今後2週間はスポーツや文化に関するイベントの開催について中止・延期、または規模縮小等の対応を」と各方面に要請したからである。
しかし、当初の「2週間」は当然のように消滅し、中止・延期の期間は5月末まで再延長。自粛3ヶ月目に突入したエンターテインメント業界の実情は惨憺たる状況となっている。
「いわゆるライブ・エンターテインメントですが、要請を受けてから1か月間で約8万1000本の興行が中止。5800万人の観客の移動を止め、1750億円の経済損失を被る結果となりました。
もちろん他の業界も苦しいのは分かっています。ですが、いくら客が激減したとはいえ、店を開ければそれなりの現金収入があるものです。しかし、我々のような業種では収入はなく、支出のみなのです」(業界関係者)
緊急事態宣言により、コンサートやイベントの中止・延期ばかりではなく、その会場となるライブハウスなどはクラスター発生源とされ、いわゆる「3密」の場所として営業すら出来なくなった。
「基本的に演劇や音楽イベントといったライブ・エンターテインメントというのは、舞台監督、美術、衣装、音響、照明、道具と、周辺には倒れてはいけない業種、会社がたくさん携わっています。
中止や延期が続いた場合、役者やアーティストがいくらいても、それを支えてくれるスタッフが倒れてしまったらV字回復などあり得ないわけです。その人たちの代わりを作るには、これまでの何倍もの労力がかかることも考えてほしい」(大手プロモーター関係者)
と悲痛な面持ちで訴える。
確かに音楽業界はCDや音楽配信などの売り上げもあるものの、基本的にはライブなどの収益で成り立っていると言っても過言ではない。それだけに、今回のように中止や延期が数ヶ月も続いた場合、経済的なダメージは計り知れない。
例えば、2000人クラスの会場での全国ツアーを直前に中止すると、準備していたステージセットやスタッフ、リハーサルを含めたメンバーのギャラ補填などで5000万円以上を失うことになる。
それだけではない。会場で売るはずだったグッズやプロモーション費(宣伝費)を含めると1億円近くもの諸経費が一気に吹き飛んでしまうのだ。
「東京ドームやアリーナでのコンサートとなったら、それこそ数億円単位の損害になります。しかも、コンサートやツアーの多くは、たいてい3月、4月から6月にかけて組まれるので、この季節に自粛した損害額は莫大なものになります。
これは、情報誌の『ぴあ』が公表した試算ですが、スポーツも含めたライブ・エンターテインメントが5月末までこの状態が続くと、4月の緊急事態宣言以降、さらに7万2000本の公演やスポーツの試合の中止や延期が見込まれ、2月末から数えるとトータルでは年間市場規模の約37%にあたる3300億円が失われることになるそうです。
この他に映画興行などの損失も含めたら、日本経済に大きなダメージを与えることになります」(音楽関係者)
コンサートプロモーターズ協会の中西健夫会長(ディスクガレージ社長)は、ニッポン放送の番組で「『不要不急』と言う言葉に我々のジャンルが入れられたことに相当傷ついた」と発言していたが、命に関わる問題とは言え、これほど人によって「価値観の違い」が表れたことも、あるいは今回の特筆すべき点かもしれない。
会場不足で建設されたコンサート会場がアダに
6年ほど前になる。音楽業界では「2016年問題」と呼ばれる事態が深刻化していた。
コンサート会場施設の老朽化で、閉館、建替え、改修が重なり、2016年以降にコンサート会場が不足することに危機感が浮上したのである。その時、日本芸能実演家団体協議会の野村萬会長は「国全体の問題として認識してほしい」と、政府に要望した。
その問題も、施設の建替えや改修などが進み、さらに東京五輪で建設した施設の利用や新たなコンサート会場が続々と建設されたこともあって、昨年辺りから多少なりとも改善されつつあったのだが、そこに今度は新型コロナウイルスである。
「感染拡大による措置によって、今度は施設の維持が出来なくなってしまっている。もはや2016年問題とは比較にならないほどの深刻な事態です」(前出のプロモーター関係者)
すでに、東京・渋谷でライブハウス「club asia」を運営する「カルチャー・オブ・エイジア」は、系列の「VUENOS」と「Glad」、そして「LOUNGE NEO」の営業を今月末で終了することを明らかにした。
「老舗となったライブハウス『club asia』を存続させるための措置のようです」(音楽関係者)
このため、ライブハウスの存続支援を呼びかけクラウドファンディングを始めるそうだ。「退去するにしても原状回復で建物を元に戻さなければならず、莫大な資金が必要となります。だったら支援で店舗を守ろうと言うわけです。自粛中の経費は馬鹿になりませんからね」
この他にも、ライブハウスの存続を訴えて、クラウドファンディングを始めるアーティストやバンドが出てきている。
東京・六本木にライブハウスを構えるオーナーは、
「現状、ライブハウスでは、いわゆる『無観客配信ライブ』を行うにしても、ミュージシャン、アーティストはメンバー間の距離を2m(ソーシャルディスタンス)保つことが求められています。
そうなると当然、スペースもあって人数や配置などに苦労します。この先、例え緊急事態宣言が解除され、規制が緩和したとしても、今秋には第二波が襲ってくるとも言われていますからね。我々には、これからも継続的に感染への対応が求められるはずです。もう腹を括るしかないわけで、今後はライブハウスに対する認識や意識を変えていかなければやっていけないと覚悟しています」(東京・六本木のライブハウス運営者)
ちなみに、今月末まで延長された緊急事態宣言を巡っては、菅義偉官房長官は、11日午前の記者会見で「今月14日の時点で、専門家が判断すれば、東京や大阪などの特定警戒都道府県であっても解除することは可能」だとする考えを示していた。が、さて…。