※この記事は2020年05月05日にBLOGOSで公開されたものです

Bリーグでは億を超す損害のクラブも

新型コロナウイルスがスポーツ界に及ぼす影響は、当初の想定よりも長期化しつつある。例えばJリーグの中断期間は既に2ヶ月以上に及んでおり、未だに再開の兆しは見えていない。

Bリーグ(国内男子プロバスケットボールリーグ)は3月27日にシーズン中止を決めている。今季(2019-20シーズン)と来季(2020-21シーズン)はB2、B3への降格が行われない。来季は2クラブがB1に昇格し、B1が20クラブ、B2は16クラブで行われる。来季の降格停止は、クラブ経営の安定を図るための措置だ。

B1はリーグ戦の約3分の1とポストシーズンを残した状態で公式戦を打ち切った。チケット売上の減少を主因として、ビッグクラブならば億を超す損害を強いられている。

ただし大河チェアマンは4月17日の会見で、B2も含めた36クラブの動向について「6月(の決算)は乗り切れると見ている」と述べていた。シーズンの3分の2は消化済みで、スポンサー料の入金も大よそ済んでいる。20年6月期(2019年度)の決算を乗り越えれば、来季に向けた予算の組み替えも可能だ。開幕前後にこの問題が直撃したプロ野球やJリーグと違い、社会の変動を織り込んだ手をいち早く打てる。

20年6月期は25クラブが赤字見込みに

チェアマンは4月24日の会見で、各クラブの経営に関する踏み込んだ説明をしている。Bリーグは36クラブ中28クラブが6月決算で、20年6月期はそのうち25クラブが赤字となる見込みだという。

売上増を見込んで支出を増やした中で、新型コロナによる収入減は起こった。それが赤字トレンドのシンプルな背景だ。今期の売上(営業収益)見込みは36クラブの合計が220億円程度で、実は昨期(2018年度)と比較して横ばいの水準を維持している。Bリーグは二つのトップリーグが合流して2016年秋にスタートしたが、開幕前と比較すれば売上や年俸は大よそ2倍の規模感となっている。

問題が2年以上前に起こっていたら、Bリーグはさらに厳しい状況に追い込まれていたはずだ。2018年6月期の段階でB2には債務超過のクラブが7つ残っていたが、投資の呼び込みに成功してそれを解消する手当も済んでいた。大河チェアマンはこう述べている。

Bリーグができた当時とは比べ物にならないほど安定した財務基盤を持っている。少々なことではへこたれなかったという感覚です。

シビアな環境で一時的な体制縮小の動き

ともあれプロバスケが極めてシビアな経営環境に置かれていることは間違いない。問題は2020-21シーズン以降だ。新シーズンは10月上旬に開幕する予定だが、後ろ倒しになるリスクを織り込む必要がある。

BリーグもJリーグと同様にクラブ経営を支援する方策を練り、クラブへのアドバイスを行っている。もっとも「軽い」支援のメニューが、配分金の前倒しによる資金繰りの支援だ。多くのクラブは自治体が用意する無利子無担保の融資制度を活用することになるだろう。強力なオーナー企業がついているクラブは増資、貸付といった選択肢もある。現時点で最後の選択はBリーグ自身が金融機関から融資を受け、クラブに貸し付ける方法だ。

自助努力は大前提だ。各クラブは成長のアクセルを緩め、出費を抑えた安全運転に切り替える必要がある。このタイミングで求められる動きは「冬眠」だ。試合が行われない以上は、最低限の機能を残しつつ極限まで体制を縮小するべきだ。もちろんリーグが動き始めたら、再び活発に動き出さねばならない。

降格なし措置でロースターは若返りか

4月26日の熊本日日新聞には、B2の熊本ヴォルターズが来季の契約選手を当面5,6名に抑えるよう検討するという内容の報道があった。いくらバスケットが5人制の種目といっても、5人だけでシーズンを戦うことはできない。ただし12人、13人のフルメンバーが揃うのは開幕が見えてからでもいい。外国籍選手の契約と来日も、状況が不透明な状況では難しい。契約してしまえば基本給を払う必要があり、試合がなければそれは無駄になる。

熊本に限らず、各クラブは社会動向をギリギリまで見極めるはずだ。契約更新のタイミングは後ろ倒しとなり、過去4シーズンにわたって進んでいた人件費高騰にもブレーキが掛かるだろう。

もう一つ想定される事態はロースターの若返りだ。2020-21シーズンが「降格なし」となったことで、チーム作りのリスクを取りやすくなった。伸びしろが大きく報酬の安い若手を起用しながら育て、2季にまたがってチーム力を上げる手法がより有効になる。

選手への影響は率直にいって避けがたい。しかしクラブが消滅すれば、彼らへの影響はより大きなものとなる。まずクラブを守り、戻る場所は維持するというシビアな判断は妥当だ。とはいえ一時的に所属チームを持てない選手が増え、生活とトレーニングの環境が不安定となる例も出てくる。協会や出身校、選手会なども含めたバスケットファミリー全体によるサポートが必要だ。

各クラブによるWeb発信の成功事例

バスケット界が先手を打って攻めるべきポイントもある。新型コロナ問題の影響で、様々な社会変動が起こる。ITや通販、宅配サービスは分かりやすい例だがネガティブな社会状況でも伸びる業種は必ず出てくる。リーグとクラブがそのような業界とどうつながるか、どう相乗効果を作るかという「頭の体操」は始めるべきだ。

今だからこそ力を入れるべきアクション、磨くべきスキルもある。Bリーグは野球、サッカーに比べてファン層が若く、Webを生かした発信・プロモーションにも開幕当初から注力をしてきた。リーグは「B.LEAGUE EVERYWHERE」と題して、無料コンテンツを精力的に制作している。毎週日曜日の18時からニュース、インタビューをまじえた特番を配信するなど、試合がない中でもファンのニーズに応える努力を続けている。

各クラブもWebを通した取材には精力的に応じており、質の高いコンテンツを自力で制作している例もある。特に川崎ブレイブサンダースのクラブ公式YouTubeチャンネルは、コアなファンでなくとも楽しめる内容だ。Bリーグ最多となる4万5千人を超す登録者を集め、100万回近い再生回数を記録したコンテンツもある。

オンラインで取材に応じる川崎ブレイブサンダースの篠山:共同通信社

全く違う方向性だが、B2のアースフレンズ東京Zはビデオ会議システムのZoomを活用し、「Zの部屋」と称する有料サービスを提供している。オンラインミーティング機能を活用し、選手とファンが会話する内容だ。クラブが当座の収入を確保するための苦肉の策でもあるだろう。

仮に新型コロナ問題が起こらなかったとしても、Webコンテンツの特性を深堀りし、企画や制作のノウハウを積むことは急務だった。アリーナにファンが来られない状況が長引けば、なおさらWebを介した「つながり」の質が問われる。リモート出演のような制約はあるが、Webはこの状況下で注力するべきファンサービスだし、成功事例の共有ができれば望ましい。

リーグ定着のためにクラブ存続に全力を

大河チェアマンは2019年7月に「B.LEAGUE BEYOND 2020」と題する未来構想を発表している。その肝は投資を促すための単年成績による昇降格廃止と、事業性も含めた評価でクラブのカテゴリーを決める制度設計だ。2024年3月からB1、B2ともライセンス審査のハードルを上げることも発表されていた。

会見で新型コロナ問題が未来構想に及ぼす影響を大河チェアマンに尋ねると、このような答えがあった。

今のところ影響は考えていない。2020-21シーズン、2021-22シーズンくらいまでは我慢のときかもしれないが、まだ少し時間はある。コロナが終われば復活、飛躍だと思っている。

一方でチェアマンはアリーナ建設が後ろ倒しになる懸念も口にしていた。2020年4月の段階で未来構想の撤回、繰り下げまで決定する必要はない。ただし影響の長期化、施設の完成遅延といったリスクは踏まえておくべきだ。

バスケットファミリーが心身の健康を保つことは大前提だが、その上でBリーグはまずクラブの存続に全力を尽くすべきだ。投資や契約をなるべく止めて、消耗を抑える必要がある。それはある種の敗北だが、その後の回復次第で未来への前向きな一歩にもなる。

何もしない、未来を諦めるという意味ではない。縮小や後ろ倒しといった流れはしばらく続くに違いないが、どこかで反転のタイミングが来る。Webコンテンツの充実、未来戦略のブラッシュアップを進められれば、復活とその後の飛躍に向けたステップになる。

Bリーグがこの社会へ定着し、歴史を重ねていくならば感染症のパンデミック(世界的大流行)や大震災、戦争のような事態とも向き合っていかなければならない。クラブ経営を「冬眠」させて復活する動きも、どこかで再び必要になるだろう。

『SLAM DUNK』の金言を借りるならば「あきらめたらそこで試合終了」で、皆がプレーを止めない限りバスケット界には未来がある。仮に傷を負ったとしても「負けたこと」が、いつか大きな財産になるはずだ。