【ナイナイ岡村炎上】矢部の「結婚したら?」発言から考える、人は結婚しないと大人になれないのか - 立川智也
※この記事は2020年05月03日にBLOGOSで公開されたものです
お笑いコンビ・ナインティナインの岡村隆史さんがラジオ番組で「コロナが明けたら美人さんが風俗嬢やります」と問題発言をし批判を浴びたことを受け、今月1日未明に「大変な失言だった」と語り、謝罪しました。
私は正直、岡村さんの発言にはあまり興味が無くて「不適切な発言をしたから謝罪したんだな」以上の感想はありません。日頃から結婚に関わる人間として興味深いのは、途中から番組に出演し「公開説教」をした相方・矢部浩之さんのコメント内容に対する世間の反応です。
矢部:ほんで彼女できたり、ね、結婚したりしていいと思うのが。そら喧嘩にも、なっていいと思うけど、言われるから。間違ったところ。指摘してもらえるっていうのはやっぱり。で、子供にもドキッとするようなこと言われるもんね。自分の子で、6年しか生きてない子に。あーでもやっぱそうやな、見てるなあって。だから多分一人やったら本当言われなくなるから。んでお父さんお母さんと離れてるしな。
岡村:そう、だから、あの。そういうところホンマに避けてきてもうてたから。自分でも全く、あの、理解できてないことがあったんやと、ホンマに思って、うん。
矢部:結婚したら?どう?もうなんか、これをきっかけにって言ったらもう、傷ついた方々には申し訳ないですけど。チャンスをもらったと思って。
(4月30日深夜(5月1日未明)に放送された、ニッポン放送「ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン」より)
その内容が「結婚してないから大人になれない」ともとれるものでした。
この発言について
「結婚してるしてないは関係無い」
「結婚しているからといって上から目線なのは不快」
「結婚や女性は自己変革のための道具ではない」
などなど、SNS上では多くの批判が寄せられています。
「結婚して大人になれ」という考えをお持ちの方は昔も、そして2020年現在も変わらずいるかと思います。ただ以前と違うのは、そういう考えを持っていたとしてもそれを公言するのは憚られる雰囲気が世間にあるという点です。
とはいえ変わっているのはあくまで社会の雰囲気なので、言わないけど心の中では思っているよ、という人が増えてみんなの本心が見えにくくなっただけかもしれません。
では、本当に結婚しないと人は“大人”になれないのでしょうか?結婚相談所を運営する立場から考えたいと思います。
結婚しないと人は“大人”になれないのか?
ひとつ昔話をさせてください。
私が結婚相談所を創業して間もない頃のお客様で、市川さん(仮名)という当時30歳の男性がいらっしゃいました。市川さんは高身長・高収入・高学歴のいわゆる三高の方だったのですが、少し気になる点がありました。それは「挨拶ができない」ことと、「ありがとう・ごめんなさいが言えない」ことでした。
特に後者については非常に分かりやすく、ある時に女性からはっきり「ありがとうとごめんなさいが言えない方なので」という理由で別れを告げられてしまったのです。
そこで私は意を決し、フラれて落ち込む市川さんに“ありがとうとごめんなさいを言う練習”を提案したのです。具体的には毎月の私との面談中、必ず1回以上は「ありがとう」と言うこと、さらに必要がある場面では必ず「ごめんなさい」と言うことを彼に課しました。もちろん面談の終わりには毎回「今日は◯回ありがとうって言えましたね!」とフィードバックをしました。
その市川さんも後に無事に素敵なお相手と巡り会いご卒業されまして、そこから1年後くらいでしょうか、彼から「お礼がしたいから食事でも」と連絡をいただき、久しぶりにお会いしたんです。そこで活動時の思い出話から、当時のありがとうとごめんなさいの練習の話になりました。
いわく当時の市川さんは「一体自分は何をやらされているんだ?」と本気で困惑しつつも、私の「ありがとうとごめんなさいは大事なんです!」という勢いに押されてしぶしぶ付き合ってくれてたそうで。
私はその話を大笑いしながら聞いていたのですが、ふと彼が真面目な面持ちになり「あの練習は本当に良かったと思ってます」と言ってくれたんですね。結婚してそれがいかに大切かを知ったと。
もうずいぶん昔の話になりますが、そのことは今でもよく覚えています。
もうひとつ、ご結婚された前原さん(仮名)からつい最近結婚式にお招きいただいた時のことです。前原さんは元々、とても無口で必要最低限の事しかお話しされない方でした。その彼が式中ずっと奥様に「大丈夫?」とか「苦しくない?」と、しきりに声をかけていたんです。それに気づいた私は写真撮影で高砂に近づいた時にさりげなく「今日はたくさん話してますね」と伝えました。
すると私の想いが伝わったのか、彼から「言わないと伝わらないですから。言わなくても分かるだろうと思うのは甘えだと、ようやく気がつきましたね」と一言。結婚をして大きく成長した彼の姿を見て、とても感動しました。
正直に言ってしまうと、私は「結婚しないと人は“大人”になれないのか?」という問いに対して明確な回答を持ち合わせていません。一方で自信を持って言えることは、“結婚して大人になった人”を私は知っているということです。
一口に“大人”と言ってもいろいろな人がいますし、そこに到達するプロセスも人それぞれだと思います。結婚が唯一のプロセスだとは考えにくく、そこにこだわるのは不幸です。
矢部さんが「結婚してないから大人になれない」という趣旨の発言をした理由ですが、岡村さんをずっと近くで見てきた彼が「岡村さんが大人になるには結婚というプロセスが適切である」と考えたということであり、それ以上でもそれ以下でもないと思います。
矢部さんから見た岡村さん、という極めて限定的な条件においての発言を無理やり一般化する意味を、私は感じません。
「結婚したら?」が許される場合とそうでない場合の違いとは
さらに今回の騒動を考えるにあたっては、2つの論点があると考えています。
ひとつが「人に結婚を勧めることの是非」で、もうひとつが「結婚の目的に正解と不正解が存在するのか」というものです。
当然ですが、個人の生き方は自由です。誰もが自身の生き方を他人から指図される筋合いはありません。
とはいえ、とはいえですよ?信頼している友人から「あなたのここがダメ。だから◯◯すべきだ」と言ってもらった時の温かさは何事にも代えがたいです。その温度は人生を豊かに、深くしてくれます。だから人に結婚を勧めるということも同様に、一概に良いとか悪いでは無いと思うのです。
私が思うに人に結婚を勧めることの是非は、言った人と言われた人の関係性で決まります。そこまで踏み込める関係性であればその時の判断で言って良いし、そこまでの関係でなければ言うべきではありません。
ですから良好な親子関係の中で親が子に「あなたそろそろ結婚した方が良いよ」と言うことは何も問題ありませんが、初対面の相手に「あなたは結婚した方が良い」と言うことは大変に失礼なことなのです。
今回の岡村さんと矢部さんは、長年第一線で活躍しているお笑いコンビの相方同士という関係性です。私は芸人の世界を知っている訳ではありませんが、知らないなりに想像するとその関係の深さは家族と同等か、もしかするとそれ以上です。であればふたりの関係性において「お前は結婚した方が良い」と言うこと自体は何も問題無いはずです。
そもそも結婚の目的に正解は存在するのか?
「彼女(彼)を幸せにするために結婚した」
良いですよね!綺麗ですよね!理想的ですよね!!
分かります、分かりますよ。。それ。。。でも、どうでしょうか?人生の選択って、みんながみんなそんなに美しくシンプルにできるものでしょうか?もちろん100%相手を幸せにするためだけに結婚した方もいることと思います。
ですが、そうでない、いろいろな打算とか、妥協とか、諦めとか、慰めとか、情とか、なんとなくの流れとか。言葉にできない部分も含めていろんな要因が関係して結婚した方も大勢いるはずなんです。そこには正解不正解は無いですし、ましてや他人から「そんな理由で結婚するな!」と言われる筋合いなんてありません。
結婚は多くの人を巻き込むイベントです。これを読んでいるあなたの結婚が、当事者以外の関係者全員が笑顔で納得できる理由や経緯によるものだとしたらそれはとても貴重で幸せなことだと思いますが、そういう方ばかりではありません。結婚する夫婦みんながみんな、お互いの親を含めた家族から祝福されるとは限らないのです。関係者全員から祝福される結婚は理想的ではあります。
しかし私は、それにこだわって苦しい思いをしている方々を沢山見てきました。ですから結婚とはまずふたりが幸せになるためにするものであって、結婚の理由や目的なんてものについて他の人間がとやかく言うことではないのです。分かりやすい極端な例を出せば、男女のうちのどちらかが「お金目当て」で結婚するとしても、ふたりが幸せならそれで良いのです。
最後に、ここまで読んでくださった方にだけお伝えすると今回の矢部さんの公開説教をラジオで聴いた時「ふたりは良いコンビだな」と素直に思いました。私は1985年生まれで、めちゃイケを見て育った世代です。学校で「しりとり侍」とか「数取団」が流行っていて、自分の笑いのツボや感覚はナイナイさんに大きく影響を受けています。自分に深く根ざしているふたりを、そう簡単に嫌いになることはできません。
岡村さんには今回の発言を大いに反省していただいた上で、ナイナイが今よりもっと広く愛されるコンビになることを、いちファンとして願っています。