無人コンビニにデジタルサイネージ AIをフル活用した高輪ゲートウェイ駅 - BLOGOS編集部
※この記事は2020年04月30日にBLOGOSで公開されたものです
東京都内を走るJR山手線で、49年ぶりの新駅として3月14日に開業した高輪ゲートウェイ駅(以下、新駅)。京浜東北線も停車し、駅周辺は新たな国際交流拠点を目指した大規模な開発が進行中だ。2024年度に予定しているまちびらきに先行して開業したこの駅には、いたるところに“近未来”を感じさせる仕掛けが散りばめられている。
無人コンビニや、ロボットの警備員、さらには架空の社員が登場する電子看板(デジタルサイネージ)――。JR東日本が新駅の開業に向けて、大切にしたのは“やってみよう”の精神。その心をAI(人工知能)などの試行導入で実装した。
店内は無人 AIで管理したコンビニ「TOUCH TO GO」
真新しい駅舎は開放感たっぷりだった。環境保全のために同社が推進する「エコステ」の駅として、照明電力量を減らすほか、環境に配慮して東北の木材を使うなど、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した設計となっている。
切符を購入し、改札口を抜けるとガラス張りのコンビニが目を引く。名称は「TOUCH TO GO(タッチトゥゴー)」。店内に人の姿は見られず、AIを活用した無人決済システムが特徴だ。
入口ゲートから入店すると、通常のコンビニと変わらないお菓子や飲み物などが並ぶ。買いたい商品を手にして、出口近くにあるタッチパネルの前に立つ。すると、所持している商品の名称や合計額など明細が表示され、Suica(スイカ)など交通系ICカードをかざすと簡単に決済が完了した。
カメラ約50台で客の動きを認識 人手不足解消に貢献
仕組みはさほど複雑ではない。店内の天井には約50台のカメラが設置されている。そのセンサーが客の動きや商品を出し入れする様子を認識し、スムーズな決済につなげている。特に駅構内ではスピーディーな買い物が求められ、人口減に伴って小売店では人手不足が深刻だ。そんな課題を解決しようと、無人AI決済システムは開発された。
無人AIコンビニの導入に向けて、2017年に大宮駅(さいたま市)、18年に赤羽駅(東京都北区)で実証実験が行われた。その結果を踏まえ、同社のグループ会社「JR東日本スタートアップ株式会社」と、サインポスト株式会社が、合弁会社「株式会社TOUCH TO GO」を設立。新駅開業と同時に営業を開始した。
通常のコンビニでは従業員3人ほどが働くが、ここでは商品の陳列や店内の清掃のためにバックルームに人が滞在するのみ。店内にはビールやチューハイなど酒も並べられている。20歳未満でも買えてしまうのではないか--。そんな疑問も生じるが、決済時には年齢確認の画面が表示され、店内のカメラの様子も交えながら対策しているという。
新駅で導入されて1ヶ月以上が過ぎたが、利用者からは特に不満などは寄せられていないという。無人A Iコンビニの技術は今後、JR東管内の駅などで展開していくようで、「外部にも広く提供していけたら」と見据えている。
清掃、警備にもロボットの力が
木材をふんだんに取り入れた駅構内。そんな清潔感あふれる駅舎の清掃に一役買っているのがロボットだ。夜間帯に作動し、利用者や駅係員らの姿を認知しながら清掃を行い、急に人が飛び出してきたらすぐさま停止する“賢さ”を備える。
そんなロボットもサボったらすぐにバレてしまう。きちんと稼働しているかどうかの働きぶりは離れた場所にメールで伝えられるそうだ。
新駅では、警備活動すらロボットが人間とともに行っている。セントラル警備保障と日本ユニシスが共同開発し、予め設定された経路を進んで不審者などを検知するシステムだ。
このロボットも働き者だ。目の不自由な人などサポートが必要な客を見つけたら駅係員に知らせ、不審者を見つけたらサイレンを鳴らしたりライトを点灯させたりして警告し、防犯にも力を発揮する。指名手配犯や迷子の子どもの顔を覚えさせれば、駅係員に知らせてくれるという。
男女の架空駅員が客を案内 存在感増すAI
新駅では、利用者の案内にもAIを活用したロボットが一翼を担っている。
ホームを上がると、日立製作所が開発したAI案内ロボット「EMIEW3」が出迎えてくれる。駅周辺の施設を案内するほか、電車の運行状況など最新の情報も教えてくれる。日・英・中・韓の4カ国語で対話する能力を備え、インバウンド(訪日外国人)にも対応できるという。
改札の外には、AIサイネージが2台置かれている。一つは男性駅係員タイプで、もう一つは女性駅係員タイプだ。現在はまだ駅周辺に施設が揃っているとは言いにくいものの、周辺の飲食店や乗り換えについて声に出して尋ねると、親切に教えてくれる。
女性タイプは「渋谷さくら」と名付けられたアニメキャラクターで、年齢や職業についても答えが返ってくる。これも、日・英・中・韓の4カ国語に対応し、インバウンドの利用にも優しい。
使用を重ねるにつれて、AIが学習しその能力も増すという。JR東は「多様化するお客さまのニーズに応えることなど、きめ細かなサービスを実現していきたい」と意気込む。
最先端の技術が満載の新駅。JR東では、新駅で試行導入した技術について、新宿や東京駅など大型駅での活用も検討している。私たちが日々利用する交通機関という場面においても、AIは確かに存在感を増している。