テレビ業界がテレワーク対応で大混乱! ターニングポイントは『王様のブランチ』と『ヒルナンデス!』 - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年04月24日にBLOGOSで公開されたものです
刻一刻と状況が変化する新型コロナウイルス問題。テレビ業界的にも1月頃までは「なんか大変らしいね」くらいの楽観ムードが漂っていましたが、連日放送されているように、今ではかつてないほどの大混乱が巻き起こっています。
目まぐるしく事情が変わってしまうため、この記事が世に出る頃にはもっと大きな混乱が生まれているかもしれませんが、今この原稿を書いている4月19時点での状況をまとめました。
収録・ロケの中止でテレビ界はどう変わった!?
ニュースなどで大きく報じられたためご存知の方も多いと思いますが、カメラに映る出演者は数人でも、収録や撮影には多くのスタッフが必要です。出演者のマネージャー、撮影中に化粧を直すメイク担当、当日の服装を用意する衣装担当、映像を撮るカメラマン、無数の業務をこなすAD、現場のトラブルに対応するプロデューサー、撮影責任者のディレクター、ロケバスの運転手…など挙げればキリがないほど。
新型コロナウイルスの感染が拡大している今の状況では、これだけの人が集まることは難しくなっています。特に大人数が集まるひな壇のトーク番組や、不特定多数の人と交流するタイプのロケ番組などは影響をモロに受けているという状況。収録や撮影が延期・中止になることは適切な判断だと思います。
そんな状況でも、テレビ業界の端くれとして感じることがあります。それは、泣き言ばかり言っているテレビマンはほとんどいないということです。
いつになったら再開できるのか不透明な状態ではありますが、「この状況でも面白いものを作ってやる!」と現場のスタッフたちは着々とアイデアを練っている最中。この熱量は本当に凄まじいものがあります。テレビをつければ新型コロナウイルス関連のニュースばかりですが、特にバラエティ番組の作り手たちは多くの人に笑って楽しんでもらえるよう、一生懸命に取り組んでいます。
テレワーク対応のターニングポイントは『王様のブランチ』と『ヒルナンデス!』
様々な制約がある中で、生放送の番組を先駆けに出演者がテレワーク出演することが増えました。テレビ業界の中で「こんな方法で放送するのか」と一気に認識が広まったのは『王様のブランチ』と『ヒルナンデス!』だったように思います。MCだけがスタジオにいて、それぞれ別の場所にいる出演者たちが大きなモニターにまとめて映る姿には少なからず衝撃を受けました。
この場合、スタジオには必要最低限の人数のみ。中には「出演者もスタッフも全員テレワークで、誰も1か所に集まらずに収録を行う」という、これまででは絶対考えられなかった斬新な手法にチャレンジする番組もあるそうです。
出演者がテレワークになったのは番組に出ている時だけではありません。事前の打ち合わせもビデオ会議で行われるようになりました。ただし、まだまだトラブルは多いそうです。
というのも、パソコンにあまり詳しくない芸能人の方が多く、「どうやればWi-Fiにつなぐことができるのか」「どうすれば音が綺麗に出せるのか」など、コミュニケーションが上手くいかないことも少なくありません。
スマホやパソコンを触ることがメインの仕事ではないため当然ですが、テレワーク先にスタッフを配置すべきかどうかなど、まだ混乱が続いているような状況です。
そんな中で驚いたニュースがありました。あの田原総一朗さんもZoomやSkypeで打ち合わせするようになったそうです。好奇心旺盛な田原さんはストレスなくコミュニケーションを取っているらしく、86歳になった今でもその対応力には感服するばかりです。
テレビの総集編と再放送はこれだけ違う
テレワーク出演を増やすとはいえ、収録や撮影ができなくなるということは、放送するものがなくなることを意味します。かといって何も放送しないわけにはいかないため、総集編や再放送が増えることは間違いありません。実際、長期戦になることを見据えて、かなり先まで再放送を決断した番組もあるそうです。
ちなみに総集編と再放送は似ているようで、少し事情が異なります。総集編は「これまでの放送を、あるテーマでまとめたもの」のため新たな作業が発生します。一方再放送は「昔放送したものをそのまま流す」ため、基本的に新しい作業はありません。
CMを出稿している企業は原則として「新しく制作された放送」に対してお金を払っているため、総集編・再放送が続くと、番組の制作費は激減します。スタッフの給料にも影響が及ぶでしょう。面白いものを作りたいと情熱を燃やす一方で、将来の不安が少しずつ広がっていることも事実です。
また、新しく始まる予定だったドラマや番組などが撮影できなくなり、放送枠そのものが空いてしまった場合、過去の人気ドラマを流して対応することが多くなっています。しばらくこの傾向は続くと思われますが、東京五輪の延期により、この夏に五輪特番を生中継する予定だった放送枠がガバッと空いてしまったそうです。説明してきたように収録や撮影が難しい状態で、各局がどんな番組で空いた枠を埋めていくのかが注目されます。
テレワークでテレビ番組の会議が二極化
現場で働く放送作家としては、番組制作側のテレワーク化がとてつもないスピードで進んでいるのを感じます。
これまで番組会議がテレワークで行われることは、ほとんどありませんでした。そもそもテレビ業界の会議は仲間同士の雑談と紙一重といいますか、同じ場所に一緒にいて笑いながら決めていくことが多いのです。その場の雰囲気や一体感のようなものが、面白さを生み出す大きな要素になっていました。
だからこそ画面を通して打ち合わせすると、その温度感や絆を共有できなくなってしまう気がするためテレワーク化はあまり進まない…というのが現状でした。このあたりは見方によっては時代遅れだったかもしれませんが、この一体感こそが番組を支えていたのも事実だと思います。
そんな業界人たちがここ1ヶ月ほどで急転直下のテレワーク化。あまりにも突然切り替わったため、様々なドタバタが発生中です。以下、ビデオ会議で僕が体験した出来事をいくつか書いていきます。
まずは『雑談量の二極化』。ビデオ会議に慣れないうちは同時にワイワイと話しづらいものですが、この状況で「雑談が一切なくなる会議」と「雑談がものすごく増える会議」に分かれているような気がします。
雑談が一切なくなる会議の場合は、サッと始まり必要事項だけ確認して終了。文字通りデジタルに、議題を順番に処理して、その議題に関係ない人は喋らず、全て処理し終わったらすぐに会議も終わります。おそらくビデオ会議に慣れていなくて、どんなテンションでやればいいか探っている段階だと思われます。
それとは真逆で、雑談が増える番組もあります。この場合、Zoomなどの新しい技術に触れたテレビマンたちがそれで遊んでいるうちに、どんどん会議時間が長くなるパターンが多いです。
例えば、先日はZoomで背景が変えられることを知ったプロデューサーが「みんなで背景を変えてみよう!」と提案し、1人1人をイジっていった結果、むしろ通常の会議よりも長い間雑談をしていました。
また別の会議では、あるスタッフの奥様が映り込んだところで会議がストップ。奥様に番組の感想を聞いたり、そのスタッフの裏の顔を暴露してもらったり。もはや本題の会議よりも長く話していたような気がします。
そしてもう1つ、これは放送作家が特に感じていることかもしれませんが…テレワークになって企画案のプレゼンのハードルが上がったように思います。
画面を共有して全員でプレゼン資料を見たりするのですが、それぞれ別の場所にいるからか、音声が必ずしも万全ではないからか、ドッとみんなが笑って会議が盛り上がるのが難しくなったような気がします(そもそもネタが面白くない可能性があるのはさておき…)。
Zoomの小窓で資料をジッと見られている時は、さながらTBSの名物ネタ番組『イロモネア(ウンナン極限ネタバトル! ザ・イロモネア 笑わせたら100万円)』のようになっていて、なんだか緊張してしまい…。これは放送作家には“死活問題”のような気もしています。まあ…ハードルとか関係なく面白い企画が考えられるよう頑張るしかないわけですが…!
今後はテレビマンによるエンターテイメントが多様化か
ここまでテレビ業界の現状を書いてきたわけですが、最後に僕なりの未来予想をしたいと思います。おそらく、テレビマンが生み出すエンターテイメントは今後ジャンルを問わなくなり、かなり多様化するのではないでしょうか。
というのも、番組休止などでそもそも日々の業務が減っている上に、テレワーク化によって移動もなくなり、テレビマンに時間の余裕が生まれ始めています。そうした中で、何か新しいことを始めようと考えている人が増えている印象です。
実際、放送作家やディレクターと顔を合わせると「今やっている番組をどう面白くするか」という話に加えて、「YouTubeを始めようと思う」とか「新しいアプリを開発することにした」などの情報交換が活発に行われるようになりました。そもそもネットに進出するテレビマンが増えていた中で、その流れがより加速している印象です。
まだまだ大変な日々は続きます。新型コロナウイルスが終息するまで、テレビ業界は様々な工夫が必要になることは間違いありません。しかしこの苦難を乗り越えた経験によって、これまでなかったような発想のエンターテイメントがテレビマンによって作られるのではないか…と楽しみにしています。
松本建一
放送作家/ネットテレビ局『プラステレビ』運営
担当番組/「それって!?実際どうなの課」「ポケモンの家あつまる?」「全国高校サッカー選手権」など。