秋元康と鈴木おさむ、天才放送作家が20代で成し遂げた偉業 - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2020年04月17日にBLOGOSで公開されたものです
放送作家の深田憲作です。先月のコラムでは、20代の放送作家に感じるジェネレーションギャップについて書かせていただいたのですが、執筆中に気がつきました。どうやら僕は年齢について考察するのが好きなようです。
「世界と比べて日本人はやたら年齢を気にする」と聞いたことがありますが、 その日本人の中でも僕は特に年齢を気にする方だと思います。
ただ、僕の年齢を気にするというのは自分の年齢を言うのが嫌だとか、恥ずかしいとか、相手を年齢で判断するといった類のものではありません。「あの人は●歳でこんなことをやった」というのを知るのが好きなんです。
例えば『ミュージックステーション』などの歌番組で懐かしい映像が流れた時、当時のアーティストの年齢を見るのが好き。「『SAY YES』の時、チャゲは33歳だったのか」とか、「『いとしのエリー』の時、桑田佳祐は23歳だったのか」とか。この感じ、多くの人が共感してくれると思います。
およそ20年前、宇多田ヒカルが彗星のごとくメディアに現れた時、彼女が出演した歌番組は確か軒並み視聴率20%超えをしていたはずです。あれは『Automatic』を唄う女性が14歳であることにインパクトがあったわけで、30歳だったらあそこまで注目されることは無かったと思います。
ちなみに僕は宇多田ヒカルの1つ下。当時、1歳しか違わない人があれほどの名曲の作詞・作曲をしていることに驚愕しました。
同い年には妙に肩入れしてしまう不思議
あとは日本人って「同い年」にも弱いですよね? 芸能人やスポーツ選手が自分と同い年と分かったら少し親近感を覚えたり、肩入れしてしまいませんか?
ちなみにですが1983年生まれの僕は以下の人たちが同い年です。嵐の二宮和也、松本潤、EXILEのNAOTO、山田孝之、小倉優子、ベッキー、プロ野球選手の中村剛也、松田宣浩、歌舞伎役者の中村七之助など。同い年というだけで僕はこの人たちへ勝手に親近感を持ち、応援しています。
だから、ゆうこりんがこりん星の設定を貫き通していた時も、ベッキーが不倫の記者会見でウソをついた時も、決して批判的な気持ちを持つことはありませんでした。なぜなら同い年ですから。といったわけで、今回は「放送作家の年齢考察」をしていきます。
前回のコラムで「小山薫堂さんが『電波少年』を担当していたのは28歳」だと書きましたが、有名放送作家が何歳の時にどんなことをやっていたのか? この機会に調べてみました。今回調べたのは秋元康さんと鈴木おさむさんの2人です。
秋元康が『川の流れのように』の作詞をしたのが30歳
秋元康さんは1958年5月2日生まれで現在61歳。AKB48や坂道グループのプロデューサー。もしくはそれらのグループを始め、美空ひばりさんの『川の流れのように』などの数々の名曲を書いた作詞家というイメージを持たれている方が多いと思います。
そんな秋元康さんのキャリアのスタートは放送作家ですが、何歳の時に何をやっていたのか? 見てみましょう。
秋元康、放送作家になる【17歳】
高校2年生の時、ラジオを聴いていた際に何気なく、せんだみつおを主人公とした「平家物語」のパロディをノートに書いて、それをニッポン放送に送ったところ、ニッポン放送の社員の目に留まり、ラジオ局に出入りするようになったそうです。
もちろん最初は放送作家見習いとして、雑用もされていたと思いますが、17歳にしてプロの大人に混じってエンターテインメントを作り上げていたというのはかなり早熟ですね。
秋元康、初めて作詞をする【22歳】
秋元さんが初めて作詞をしたのが1981年にフジテレビで放送された「とんでも戦士ムテキング」というアニメの挿入歌。実際に作詞した時期は分かりかねますが、このアニメが放送された時点で秋元さんは22歳。
17歳で放送作家をはじめ、5年で放送作家の枠を飛び出して作詞をして、それがテレビアニメの挿入歌として使用される。放送作家を生業としている者なら誰もが驚愕する事実です。
そして、作詞家としての初のヒット曲は1982年に発売された稲垣潤一の「ドラマティックレイン」。CDの売り上げは約31万枚。この時、秋元さんは24歳です。
僕が放送作家としてデビューしたのが24歳。その頃の自分の記憶といえば、終電を乗り過ごしたらテレビ局で始発まで夜を明かす。電車賃200円を浮かせるために1時間ぐらいなら平気で徒歩移動。
番組収録に立ち会った際は、余った弁当をもらえるだけもらって帰る。こんな状態でした。(これはこれで楽しい時期だったのですが)
そして、秋元さんといえばおニャン子クラブのイメージもありますが、『夕やけニャンニャン』の放送が始まったのが1985年。放送開始した4月の時点で秋元さんは26歳です。
その2年後、1987年には長者番付の「その他」部門で16位、1億61万円を納税していたようです。29歳で1億円もの額を納税する放送作家はおそらく今後現れないでしょう。
秋元康、「川の流れのように」を作詞する【30歳】
秋元さんの作詞家としての代表作といえば美空ひばりの『川の流れのように』。この曲が発売された1989年1月の時点で秋元さんは30歳。
この若さで日本の歌謡史に残る名曲の作詞をしているわけです。改めて、『川の流れのように』の歌詞を見てみました。
もちろん、この歌が名曲であることや秋元さんが作詞したという先入観が入っていることは間違いないのですが、歌詞からは貫禄のようなものを感じます。若さ故に出てしまうこねくり回した言葉やかっこつけた表現がない。1つ1つはシンプルでありながらも、深みを感じさせる言葉が並んでいる印象です。
余談ですが、僕が運営する『日本放送作家名鑑』というサイトで、秋元さんを取材させてもらったことがあるのですが、その際に「肩書きを“作詞家”にしているのは『川の流れのように』で美空ひばりさんに認めてもらえたという思いがあるから」とおっしゃっていました。30歳にしてそんな風に思える作品を残せる人がどれだけいるでしょうか。
そして、これを書いていてふと気になったのが、僕からすれば美空ひばりも秋元康さんも日本のエンタメ史に残る偉人・大物という印象があるため、2人の年齢差を気にしたことがありませんでした。
調べてみると美空ひばりは1937年生まれ。秋元さんの21歳上の51歳。秋元康といえども美空ひばりは相当に緊張する相手だったはずです。30歳にして日本を代表する歌姫と向き合い、歌詞を提供するという仕事はさぞ刺激的だったに違いありません。
秋元康、AKB48を立ち上げる【47歳】
AKB48を発足したのが2005年。秋元さんが47歳の時です。ここからのAKB48、並びに坂道グループの快進撃は記憶に新しいところ。
常人ならばここまでに残した功績とお金に満足し、やりたいと思った仕事だけをしてあとは悠々自適に生きていくというスタンスに移行しそうなものですが、秋元さんは齢50を過ぎてからもその手を止めません。
2011年に出演した『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングで秋元さんは「1日に2曲の歌詞を書いている」と話されています。2011年時点で発足しているAKB48グループは、AKB48、SKE48、SDN48、NMB48、HKT48の5グループ。(ちなみに乃木坂46は2011年に発足)
その後も数々のアイドルグループを発足させ、ほぼ全ての楽曲で作詞を手掛けている秋元さん。もはや1日2曲ペースでは追いついていないはず。
こう書くと「どうせゴーストライターに書かせているんでしょ?」なんて言う方もいると思います。ただ、秋元さんを知る人に聞くと皆「あの人は絶対自分で書いていると思う」と確信を持って言います。とにかく秋元康さんのバイタリティは恐ろしいということですね。
鈴木おさむが月9ドラマ『人にやさしく』の脚本を担当したのは29歳
秋元康さんの年齢について調べてみましたが、もう1人調べてみました。今、世間の人にとって最も知名度が高い放送作家といえば鈴木おさむさんでしょう。「森三中・大島美幸の旦那」と言えばほとんどの方がピンと来るはずです。
当然、僕にとっては雲の上のような存在なのですが、鈴木おさむさんは現在47歳。秋元さんよりはその存在を少しだけ生々しく感じられます。そんな鈴木おさむさんが何歳で何をしていたのか?見ていきたいと思います。
鈴木おさむ、放送作家になる【19歳】
鈴木おさむさんは1972年4月25日生まれのもうすぐ48歳。鈴木おさむさんも秋元さんと同じく、ニッポン放送のラジオ番組で19歳のときに放送作家としてデビューされています。(山田邦子のリクエスト番組とオールナイトニッポンとのこと)
これまた放送作家を始めるのがとても早い。
鈴木おさむ、月9ドラマ『人にやさしく』の脚本を担当【29歳】
2002年1月クールに放送された香取慎吾の主演ドラマ『人にやさしく』で脚本を担当。ドラマが放送された時、鈴木おさむさんは29歳です。この若さで月9の脚本を放送作家が担当するなんて。僕の感覚だと信じられない偉業です。
視聴率を調べてみると、全11話の平均視聴率が21.4%。同世代の放送作家がどんな気持ちだったのか聞いてみたいですね。
鈴木おさむ、森三中・大島美幸と結婚【30歳】
森三中の大島美幸とは2002年10月に結婚されています。この時、大島美幸は22歳。その後、大島との馴れ初めを書いたエッセイ『ブスの瞳に恋してる』を発売し、それを原作としたドラマが2006年に稲垣吾郎主演で放送されています。
ドラマの放送が始まった時点で鈴木おさむさんは33歳。この年で自分の書いた本が原作でドラマが制作されて、しかも主演がSMAP。どんな心境だったのでしょうか。
奇しくも現在、鈴木おさむさんは秋元康さんがAKB48を発足した年齢と同じ47歳。その活動ぶりを見ていると秋元さんと同様にまだまだその手を止める気配はないように感じます。
秋元康と鈴木おさむという日本のテレビ史に名を残す2人の放送作家の年齢について調べてみましたが、僕としては調べているだけで楽しめました。
年齢考察によって何か学びがあるというわけでもないのですが、読者のみなさんにも興味を感じてもらえたら幸いです。
深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
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