早急にオンライン授業も実施 シンガポールの新型コロナ対応に学ぶ政府への信頼醸成 - 中野円佳
※この記事は2020年04月15日にBLOGOSで公開されたものです
新型コロナウイルスが世界で猛威を振るっています。私が住んでいるシンガポールでは、2月から中国からの入国禁止などの水際対策に加え、感染拡大地域への渡航歴がある人の2週間隔離政策を徹底しておこなってきました。
2月末~3月頭には一時期感染が落ち着きつつあるように見えたのですが、その後欧米から戻ってきたシンガポール市民や、長期ビザ保有者などからのウイルスを「輸入」するケースが拡大してしまいました。
現在は外国人労働者の寮で大規模な集団感染が起こっており、4月3日にはソフトなロックダウンともいわれる「サーキットブレーカー」を発動するに至りました。さらに、それ以降もソーシャルディスタンスを守らない場合に罰金を科すなど状況はどんどん厳しくなっています。
感染拡大を防げなかったという意味では、現時点でシンガポールのCOVID-19対策が効果的であったとは言い切れません。政府に求められていることを守らなかったときの罰則は重く、自由が制約されています。しかし、それでも在住外国人として政府の情報発信は常に迅速でわかりやすく、また政策は総合的で納得感があると感じています。
徹底した隔離政策と連動した給付金施策
感染事例には当初から番号が割り振られ、情報の開示もありました。街中の監視カメラなどまで活用し、徹底した追跡によるクラスター分析と接触者の隔離政策がとられてきました。
隔離は徹底していて、破ると1万ドル(80万円程度)の罰金または6カ月の懲役またはその両方と、重い罰則が科されます。外国人の場合はサーキットブレーカー発動前の自宅隔離に従わなかったケースで、ビザ剥奪で即強制帰国、今後一切シンガポールに入国できなくなったという報道もありました。
一方で隔離対象になった場合は、個人事業主には直接、雇用者には雇用主を通じて、一日100ドル(8000円程度)が支給されるという施策つきでした。経済政策としては、他にも雇用調整助成金や生活支援金が打ち出され、市民や在住者に何かを要請する場合には、それに対応した施策がきちんと連動して出ています。
感染拡大に向け用意周到だったオンライン授業への備え
サーキットブレーカー以降は、多くの店や公園の遊具エリアが閉鎖となり、レストランや屋台も持ち帰りやデリバリーのみとなりました。学校はオンライン授業に切り替えとなり、オンライン通話ツールや録画した教材、学校から持ち帰った教材で子どもたちは時間を過ごしています。
学校のオンラインへの切り替えについても、唐突だった日本の一斉休校とは異なり、用意周到でした。ローカル学校は休校に備え、ちょうど週1回のオンライン授業を始めていました。おそらく当初はもう数週間このまま運用する考えだったとは思うのですが、感染の拡大を受けて、発生する問題などを一通り確認した上でのフルオンライン実施となりました。
そして、保育園等は急な休みになりましたが、エッセンシャル領域で親が働いていて、他に面倒を見る人がいないケースでは引き続き登園ができます。とりわけ、医療関係や日雇い・低賃金労働など家庭基盤が脆弱なケースを優先するということで、我が家にもサーキットブレーカー発動直後に、幼稚園から「登園させる必要がありますか?ある場合は、理由を説明してください」というWebアンケートが来ました。
登園しないと回答した後も、幼稚園からもオンラインや持ち帰り教材によって、この期間引き続きサポートをしてもらえるとの連絡が入りました。世の中に無料のオンライン講座なども増えていますが、子どもたちはやはり知っている先生の録画やライブ配信、友達の様子も知れる方が参加しやすいようです。
徹底した感染防止対策は管理国家だからできている?
サーキットブレーカーが発動している現在は、親は在宅勤務、子どももオンライン授業という形で、基本的には家で過ごしています。必需品の買い物や健康維持のための散歩などは可能なのですが、友達と約束して会うことなどはできません。
日本の緊急事態宣言と内容はかなり近いのですが、異なる点は、シンガポールは罰則がかなり厳しいということです。サーキットブレーカー発動後も人が集まっていることが確認されたためか、発動から一週間後には1回目で警告、2回目から300シンガポールドル(2万4000円程度)の罰金、3回目からは裁判所出頭という決定がされました。
ところが、翌日には1回目の警告を受けた人が3000人規模で発生したため、1回目で300Sドルの罰金が取られることになりました。外国人にとってはこのような罰則はさらに厳しく適用され、今後永久にシンガポールでの労働が禁止になったという事例もあるので、もはやいたずらに外に出かけるのは恐怖です。
また、シンガポールはサーキットブレーカー発動と同時に、1月末に「具合の悪い人以外はマスクをしないで」としていたマスクの着用方針を転換し、1人1枚布マスクを配布することを発表していました。その配布期間最終日である12日(日)から、マスクをしていない場合スーパーなどが入店拒否をできるようにし、バスや電車等の公共交通機関はマスクなしで利用できなくなりました。
シンガポールは普段から道でごみを捨てる、公共のトイレを流さないといったことにも罰則を設けるなど(捕まっている人は見たことがありませんが)厳しい管理国家です。国家による個人や家族への介入も強く、日本も徹底して国民をこのように管理をせよとは私は決して思いません。
今回の感染拡大の状況では、厳しい管理国家であることが優位に働いている面もありますが、むしろ、そうならなくてもいいように皆が考えながら行動をすることで、危機を乗り越えられるのだとしたらその方がいいと思います。
透明性の高い情報発信が政府への信頼感を醸成している
ただ、学べる点もあると思います。それは、政府が信頼感をきちんと醸成している点です。シンガポールは、1965年の独立時に何も資源をもたないまま、国家として生き残るために、発展途上国でありがちな属性主義や賄賂の横行を徹底的に排除し、メリトクラシー(業績主義)で優秀な人材を政府に配置してきました。
実際には階層の再生産が進んでおり、また一党独裁的な面はありますが、政策は省庁横断でよく考えられており、効果がないと判断すればすぐに取り下げ次の政策を出すという臨機応変さもあります。
感染症対策のときには、不安がさらなる混乱を招いたり、差別が横行しやすい環境になり得、それを払拭していくには信頼性のある情報がきちんと国民に届くことが非常に重要だと今回痛感しました。
個々の政策については、国の状況や特性によっても異なり、一概に比較をできるものではないと思います。しかし、政府が何か政策を出すときには、その副作用として発生する事態にも対応した総合政策を出してもらい、透明性の高い発信をしていってほしいです。