【ゆうちょ銀行の株価急上昇はなぜ?】新生増田郵政、新型コロナ危機下での「職員1万人削減」冷酷宣言に落胆 - 大関暁夫

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※この記事は2020年04月14日にBLOGOSで公開されたものです

ゆうちょ銀行株はなぜ神風的に急上昇したのか

新型コロナ危機で多くの企業が苦しむ中で、一時意外な企業からも苦悩が聞こえてきました。日本郵政(以下郵政)です。

3月上旬に囁かれていたのは、コロナショックが株式市場を直撃し、所有ゆうちょ銀行株(以下ゆうちょ株)が値下がり。巨額の減損処理を迫られるかもしれないというもの。具体的には、所有ゆうちょ株の評価額が取得簿価の半額を割り込めば、会計基準により減損処理を余儀なくされるという流れです。

ちなみに、郵政の所有ゆうちょ株の簿価は1732円。その半額は866円です。3月9日に上場来、初めてこの半額を割り込む857円を記録。その後3月15日には、底値の850円を付けました。

もし、この価格が期末評価額となるなら、減損処理額はなんと約3兆円に。それがすぐさま国民負担になるということではないものの、かんぽ生命の不適切販売を受けた前経営陣の退陣は、1月に刷新スタートした増田寛也社長体制に、いきなり冷水を浴びせる一大事ではあります。

しかし、情勢は一転します。底値の850円をつけた後に、なぜか株価は急上昇に転じて、あっという間の1000円超え。最高値で1041円にまで戻しました。この間、底値からは実に22%上昇の持ち直し、コロナ騒ぎ前の昨年12月の株価水準にまで値を戻したことになるのです。従い今期の減損処理は、神風的に免れたわけです。

他行株との対比でみると政治的影響力を感じざるを得ない

この間、他の金融機関の株価はどうであったかといえば、三菱UFJが底値は3月18日の383円で、その後戻しての高値が450円。三井住友が同じく3月18日が底値で2560円、戻した後の高値が2950円。

それぞれ、持ち直し率は約17%、15%。この持ち直し率だけでもゆうちょとは明らかに差があるのですが、何よりも昨年12月の株価水準との対比でみると、ほぼコロナ前水準に戻したゆうちょ株に対して、三菱UFJ、三井住友は共に現状でまだまだ30%近くも下落した状態にあるのです。確証のある話ではありませんが、この神風には何かあると感じざるを得ないところです。

そう感じる理由はただ一つ。郵政と政治の癒着です。以前にも触れていますが、郵政を巡っては、全国郵便局長会(旧称:全国特定郵便局長会=全特)が公然の自民党集票マシンであり、毎度国政選挙となれば、この旧全特強制加入の郵便局長たちが票集めに奔走するのです。

郵政はこの旧全特の集票力を後ろ盾として、自民党に対し、ある時はその要望を受け入れさせ、ある時は自分たちに不利な情勢を覆させることに利用してきたのです。小泉政権下の郵政選挙を経て方向づけされた民営化の流れを、民主党政権下で旧国民新党に擦り寄り骨抜きにさせたのも、旧全特の集票力あればこそのことでありました。

そんな流れを踏まえてここ1か月間の不自然な株価の動きをみるなら、配下に旧全特という強大な政治的影響力を有する団体を持つ郵政が、政権政党の政治力を使って一時的に株価を支えさせることなどいとも簡単なことなのではないか、と思ってしまうわけなのです。

繰り返しますが、今回の神風株価の件に確証はありません。なので、そのことをこの場でことさらに糾弾するのは控えますが、昭和の時代からこれまで幾度となく政治的影響力をもって時代の潮流や市場原理までをも捻じ曲げてきた”闇の力”を、令和の今もこのままにしておいていいのかと、いささか疑問に感じるところではあります。

新型コロナ危機真っ只中での1万人規模の人員削減方針に落胆

そんな折も折、新型コロナの危機感が益々高まってきた最中の3月24日に、2021年からの次期中期経営計画における郵便局員1万人削減に向けて労組との協議に入る、との報道がありました。

春闘の労使協議の中で、経営サイドから話が出されたといいます。1万人規模の人員削減方針を、なぜ新型コロナ危機真っ只中の今打ち出せるのか。郵政の組織マネジメントのダメさ加減を、いたく感じさせられる報道でありました。一言で申し上げれば、増田社長の体に染み付いた官僚主義マネジメントの冷酷さを見る思いです。

今世間では、民間企業の多くが新型コロナショックの拡大で雇用継続がおぼつかないという不安定な状況下にあり、その最中に大型人員削減計画を公言するとは現場の不安を煽ることこの上ない話ではないです。企業マネジメントの常識から申し上げて、絶対にありえない公言であると言わざるを得ません。

世間を揺るがしたかんぽ生命の不適切販売という一大不祥事を経て、歴代の民間トップに代えて敢えて持ってこられた感が強い官僚OBの増田社長。就任時のメディア評価では、元官僚のトップ就任をもって時代逆行的に捉えられるむきも多かったのですが、個人的には正反対の期待感を若干なりとも感じておりました。

これまでのキラ星の如き経歴の民間出身トップを以てして、全く歯が立たなかった旧全特と政治の世界。増田社長の元キャリア官僚から岩手県知事という政治家経験があればこそ、官僚経験で旧全特を御し政治家経験で政界との決別を突きつける、今度こそそれが可能なトップではないのかと淡い期待感を感じていたのです。それだけに今回の一件には、正直落胆させられました。

増田寛也社長が先ず取り組むべきは” “世襲局長”の排除

増田郵政が今職員1万人の削減よりも先に人事面で取り組むべきは、旧国営郵政時代から世襲で郵便局長の地位にあり続ける世襲局長の一斉排除です。同時に明らかな政党支援団体である全国郵便局長会を、一刻も早く解散させることです。

増田社長が本気で郵政改革に取り組む覚悟があるのなら、この怪物政党支援団体を亡きものにしない限り、いかなる改革をぶちあげようとも、彼らの既得権を少しでも脅かすようなものはすべて政治圧力によって潰されてしまうのが目に見えているからです。

それは小泉政権を除く過去の政権政党との癒着による政治力によって、同じ元国営事業である旧三公社(JR、NTT、JT)のような有無を言わせぬ民営化を免れ、無用の長物として生きながらえてきたことが如実に物語っているのです。

現時点では終息の糸口が全く見えない新型コロナ危機ですが、この危機の到来はちょうど不祥事からのトップ交代で脚光を浴びている郵政の、政治との癒着という昭和から延々引きずる特効薬のない重い病を象徴しているかのようにも思えてきます。

病の構造をよく知る増田社長の登板は、郵政の根本的立て直しのワクチン開発になり得るのか、それともやはり悪性の郵政ウイルスの前には無力であるのか。私には、既得権固執という重い病に冒された郵政ウイルスの終息は、新型コロナ危機の終息以上に厄介な問題に思えています。