「SNS拡散」と「プライベート伝聞」で広がるネットデマの危うさと対処法 - 三上洋(ITジャーナリスト) - BLOGOS編集部
※この記事は2020年04月14日にBLOGOSで公開されたものです
新型コロナウイルスでの社会不安にともなって、ネットの噂・デマ・フェイクニュースが飛び交っています。TwitterなどのSNSが元凶とも言われていますが、噂やデマは「一対一」「プライベート伝聞」での広がりも怖いのです(ITジャーナリスト・三上洋)。
Facebookがハブになった「コロナにお湯が効く」のデマ
新型コロナウイルスの問題が大きくなった1月下旬から、ネットの噂・デマ・フェイクニュースが広がっています。社会不安が大きくなるにつれ、明らかに嘘とわかるものでさえ拡散してしまう状態です。
その典型とも言えるのが「お湯を飲んで予防」のデマでした。「ウイルスを防ぐためにお湯を飲んでください」など、間違った情報だとすぐわかるにもかかわらず、大きく拡散しました。
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筆者の観測では2月20日前後からFacebook、LINEなどで出回っています。筆者のFacebookタイムラインにも複数あったほか、家族にもLINEで送られてきました。その伝わり方を簡単にまとめたのが図1です。
最初に言い始めたのが誰かはハッキリしませんが、「知り合いの医者が」や「同級生のおいが深セン病院で働いていますが」などの言葉で、お湯がウイルスに効くという間違った情報が個別のメッセージやLINEのトークなどで出回りました。
これを見た人がFacebookのタイムラインに書くことで大きく広まりました。Facebookの厄介な点は、書き込みを友人限定にすることができること。一部の人しか見ることができないこともあって「違うよ」と指摘する人が少ないことから、その書き込みを信じてしまう人もいるでしょう。
このFacebookを見て怪しいと思いながらも信じてしまう人が、個別のメッセージやLINE、そして口伝えなどで広げていきます。それをさらにFacebookやTwitterに書き込む人が出るため、噂やデマが止められない状態になっていきます。
伝言ゲームやチェーンメールのように、少しずつ内容を変えながらデマが広がっていくのです。過激な内容に変わるほど広まりやすくなっていきます。
このようにネットの噂やデマは、FacebookなどのSNSがハブ=中継点になっています。SNSは情報の拡散スピードが速く、かつ大量・広範囲に流れます。SNSがネットの噂やデマを加速させていることは確かです。しかしながらデマの元凶はSNSだけとは限りません。
「プライベート伝聞」で長く広がった熊本地震ライオンデマ
TwitterなどのSNSが噂やデマの舞台になっていることは確かでしょうが、それより怖いものがあります。それは「プライベートのメッセージ」「口伝え」などの個人的伝聞です。
その典型的な例は、2016年熊本地震で発生した「ライオンが逃げた」というデマでした。このデマは最初にTwitter投稿した人がわかっており、業務妨害の疑いで書類送検されましたが不起訴となっています。
このデマについてはフジテレビの報道番組「Mr.サンデー」が綿密な現地取材をすることでいくつかの事実がわかっています(2016年11月27日放送)。それによるとライオンデマは当初Twitterで出回ったものの早めに収束し、その後「口伝え」や「LINEトーク」などで長く広まったことがわかっています。
まず起点となった投稿は、地震が発生した2016年4月14日の22時前後にTwitterに書き込まれました。筆者はこの状況をほぼリアルタイムでSNSで見ていましたが、大きく拡散したのは実感として1時間程度でした。その後は「これはデマだ」「日本の写真ではないだろう」という否定のTwitter投稿が増加。写真からして日本のものではないので、否定されるのも早かったのです。
その後もライオン投稿は画像キャプチャの形で出回りましたが、少なくともTwitter上ではデマであることはハッキリしていました。
しかしTwitterで否定された後もライオンデマは出回り続けます。SNSではなく「口伝え」や「LINEトーク」で出回ったのです。
フジテレビ「Mr.サンデー」の取材班は複数の人にインタビューしており「LINEで送られてきたので家族に伝えた」「避難所で噂を聞いた」とSNSではない場所で聞いたとの証言があります。
その結果、熊本市動植物園には地震の翌日まで問い合わせの電話が続いたとフジテレビ「Mr.サンデー」は報じています。
「プライベート伝聞」のほうが訂正が効かず長期間流れる
つまりSNSでのデマは比較的早く収束したのに、口伝えや個別のメッセージでの伝聞のほうが長く続いたわけです。その状況をまとめたのが図2です。
前述のようにSNSは噂やデマのハブ=中継点になっています。拡散スピードが速く、かつ大量に出回るために噂やデマの加速装置とも言えるものです。
しかしながらTwitterでは投稿を誰もが見られる状態にあるため、本当かどうかの検証も素早く行われます。「ソースはどこなの?」「写真が日本のものではない」として検証していくと、この写真は映画の撮影シーンだということがわかります。それにより「デマはやめて」「拡散しないで」という投稿も増えます。
つまりTwitterでのデマは、拡散スピードが速いものの、収束しやすいと言えるでしょう。部分的にデマは残りますが、それでも拡散されるスピードは落ちていきます。
ところがTwitterで知った人が、避難所での口伝え、LINEの個別トーク、ダイレクトメッセージなどの「プライベート伝聞」で伝えていくと厄介です。個別に広がっていくため「それは嘘だ」という訂正が効かないからです。伝言ゲームのように内容が改変されてしまう問題もあります。
その結果として「プライベート伝聞」でデマは長く続きました。Twitterでは実感で1時間程度で収束したのに対し、「プライベート伝聞」でのデマは長く続き、翌日になっても熊本市動植物園への問い合わせが続きました。
対処法:噂やデマは必ず発生すると考える
このように噂やデマは、SNSがハブであるものの、口伝えや個別のメッセージなど旧来の方法でも「訂正が効かない」「長く出回り続ける」という問題点があります。
私たちはどちらも慎重に扱う必要があります。注意点を4つまとめました。
まずSNSでの対策としては「心を揺さぶられる投稿」こそ警戒することです。「怖い」「報道されていない真実」など、感情を揺さぶられる投稿こそデマの可能性が高いでしょう。
デマの多くは「教えてあげなきゃ」という善意で広まります。善意で注意を呼びかける投稿こそ警戒しなくてはいけません。RTやシェアをする前に、検索やニュースチェックなどで情報の出元と真偽を確かめるクセをつけたほうがいいでしょう。
次に個別メッセージや口伝えでの心がけです。個別メッセージでの注意喚起は、伝言ゲームのように内容が改変されていく上に、出元を確かめることができません。個別メッセージや口伝えこそデマの可能性が高いと思っていたほうが無難です。
ここで「いや口伝えやSNSでも噂が本当だったことがある」という反論もあるでしょう。実際にネットの噂として流れたものが本当だったこともありました。
しかし噂やデマは「本当かどうか」とは別問題なのです。本当であったとしても出元がハッキリしない情報が広まるのは混乱の原因になります。
何らかの危機的状況に関する噂が本当であれば、まもなく報道機関が取材した情報が流れます。それを待っても大きな違いはありません。「本当かもしれない」「嘘かもしれないが安全のために伝えておく」というやり方こそ、デマ拡散の元凶ですから控えましょう。
そして残念ながら噂やデマはなくなりません。IT技術がいかに進歩しても、噂やデマの発生を根絶することは難しいでしょう。社会不安時は噂やデマが発生するものだと覚悟して、敏感にならないことも大事です。
ただしあなたが拡散を思いとどまることはできるはず。噂やデマのハブ=中継点にならないように、投稿する前にブレーキをかけたいものです。
そしてもし間違った投稿だとわかったら謝った上で削除をすること。誰にでも間違いはありますから、デマを流してしまった人を攻撃するのもやめたほうがいいと筆者は思っています。
ITジャーナリスト・三上洋
1965年生まれ、セキュリティ、ネット事件、モバイルが専門のジャーナリスト。ニュースサイトや雑誌などでの記事執筆のほか、テレビ・ラジオでの出演・コメント多数。文教大学情報学部非常勤講師。
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