※この記事は2020年04月14日にBLOGOSで公開されたものです

4月7日、ついに日本で緊急事態宣言が出された。ニュースなどで報じられている通り、アメリカでも3月に入ってから感染者数が爆発的に増え、ハリウッドが位置するカリフォルニア州ロサンゼルスでもロックダウン(都市封鎖)が続いている。

映画やドラマシリーズの製作も容赦無く中断・延期されており、フリーランスの俳優や撮影クルーたちも仕事を失っている。ハリウッドの制作部門のスタッフとして働く筆者の友人は「今は全員が在宅勤務だが、この先のタイムラインもまだ決まっていない。あと1年以内に制作を再開できれば」と話し、長期戦を覚悟しているようだ。

ハリウッドでは、映画製作・配給大手のディズニーやワーナー、さらに近年ではNetflixやAmazonなども含めた「スタジオ」と呼ばれる企業たち、そして俳優や監督、脚本家などタレントの代理人を務める「エージェンシー」が、業界のビジネス面で大きな影響力を持っている。これらの動きを追いつつハリウッドでの新型コロナウイルスの影響について書いてみたい。

大手エージェンシー役員の給料カット、ハリウッドを離れることを考える人も

ウイルスのハリウッドへの影響が色濃く見え始めたのは、2月下旬から3月はじめにかけてだ。

まず、例年新作映画やシリーズのプレミア上映が披露される映画や音楽の大型総合イベント「SXSW」。今年もテキサス州で3月中旬に予定され、イベント側は2月25日時点で「予定通り開催する方向」というコメントを出していた。

事態が動いたのは、現地時間3月3日、カリフォルニア州で緊急事態宣言が出された直後だった。このSXSWでプレミア上映を行うはずだったAmazonスタジオが不参加を表明、その3日後の6日にはパラマウントやライオンズゲート、Netflixなどのスタジオ、そしてエージェンシーのICMもそれに続いた。

これらの動きを受け、SXSWは同日、イベント自体の中止を発表する。それと並行するように、ロサンゼルス市内でもエージェンシーの最大手CAAが、対面での打ち合わせをオンラインに切り替えたり、社員の不要不急の出張を控えるよう通達を出したりした。

そして翌週からは、いよいよハリウッドの大企業も、在宅勤務の方向へと動き始める。3月12日から13日にかけて、まずNetflixが社員に在宅勤務を呼びかけると、ライオンズゲート、ワーナー、Amazon、UTA、ICMなどのキープレーヤーたちも、同様の対応を行なった。ワーナーメディアのCEOジョン・スタンキーは、社員に向けた文章の中で「先の見えない感染症の中、社員の皆さんの努力に感謝する」と始め、「会社と地域の安全のため、まだどうしても社内で仕事を行わざるを得ない社員のため、人の集まる密度を最低限に抑える必要がある」と呼びかけた。

3月下旬に入ると、CAAなどで、社員のレイオフ(解雇)を防ぐため、一定水準以上を受け取っている重役の給与をカットするという報道が流れた。ハリウッドを取り巻く状況が想像以上に深刻であることが見え始め、特にアシスタントや撮影クルーなど、肩書きや経済的な余裕をもたないスタッフを中心に、不安の空気が広がった。

アシスタントは通常、分刻みのスケジュールを管理し、オフィスにひっきりなしにかかってくる電話をさばき、日々送られてくる脚本に目を通して整理する。彼らの存在はハリウッドの重役たちが膨大な仕事を回すために外すことはできないが、在宅勤務となった今、仕事はオンラインの打ち合わせのコーディネートなどに限定されている。

将来はハリウッドのプロデューサーになることを夢見て、最低賃金に近い時給で働いているアシスタントたちの中には、コロナ禍が収束したところで元のように戻れるかわからないという不安を抱え、ハリウッドを去ることさえも考え始めている人もいる。

こうした状況の下、スタジオや全米映画俳優組合などの組織は、経済的な支援策を続々と打ち出している。こうして業界内で先陣を切って行動を起こす速さは、とてもハリウッドらしいと言える。

動画をインスタやTwitterに投稿、一丸となるタレントたち

一方、ロックダウンの間、外出が制限されるのは俳優などセレブリティも同様で、自宅で過ごすことを余儀なくされている。そんな中、彼らの多くが同じようにこの辛い時間を共有し、一般の人々を楽しませるため、様々な活動を始めている。

例えば、エルトン・ジョンがホストを務めたコロナウイルスに対する特別チャリティ番組「iHeart Living Room Concert for America」が現地時間の3月29日に放送された。このオンラインのフェス企画には、マライア・キャリーやアリシア・キーズなど大物アーティストが参加したが、何より話題になったのが、バックストリート・ボーイズである。各メンバーが自宅からリモートで「再集結」し、90年代洋楽を代表する名曲『I Want It That Way』を歌ったパフォーマンスには、全米の多くの人が心を動かされた。

日本でも家で長時間を過ごす子供達のストレスについて懸念が出ているが、小さい子供達にとっても嬉しい活動を始めた俳優たちもいる。『アナ雪』シリーズでオラフの声優をつとめるジョシュ・ギャッドは、3月14日からツイッター上で、#GadBookClubというハッシュタグのもと、自宅で退屈している子供達、そしてそんな子供達の面倒を見る親を応援すべく、毎日1冊の本を読む動画を投稿している。

さらにはより長期的、かつ定期的な企画を始めたタレントたちもいる。例えば、マイリー・サイラスは、『Bright Minded: Live With Miley』というシリーズを始めた。こちらは現在、月曜から金曜日にInstagramなどの彼女のSNSアカウントでライブ配信されているが、メディテーションのコーナーや、俳優からシェフ、アスリートまで幅広いゲストへのインタビューなど、この不安な時を明るく過ごす方法について発信している。(IG:@mileycyrus)

そして日本でも抜群の人気を誇るウィル・スミスは、Snapchat上で12エピソードからなるリミテッドシリーズ『Will From Home』を始めた。こちらはウィルが自宅からビデオ通話形式で、俳優やミュージシャンたちといったゲストと会話を繰り広げるアップビートなトークショーで、4月6日に配信された第2話に登場した最初のゲストは、元スーパーモデルのタイラ・バンクスだった。今後は毎週月、水、金曜日に配信される。

自由に発信するアメリカのタレントたち、背景には芸能活動の日米の違い

こうしてアメリカのセレブリティたちの様々な活動と比べると、日本のタレント・俳優には外出自粛を呼びかけること以上の活動はまだあまり見られない。これは芸能活動におけるビジネスモデルの日米の違いを表しているともいえる。

日本では、タレントは基本的に芸能事務所の「所属」となり、事務所のブランドのもとで芸能活動を行う。そのためタレントの活動内容や売り出し方は、事務所の意向が多分に反映される。

一方のアメリカでは、タレントは芸能事務所の所属ではなく、あくまでもフリーランスとしてタレントエージェンシーと代理人契約を結んでいる。タレント側がエージェンシーを雇うという形になるので、その活動や売り出し方に関するタレント本人の裁量もはるかに大きく、より自由な動きが可能になるのだろう。

アメリカではこういった国家の重要な局面に、俳優やアーティストが積極的にメッセージを発信し、社会に向けた行動を起こすことは珍しいことではない。

3月29日に国民的コメディアン、志村けんが新型コロナウイルスに感染した末に亡くなったことは、多くの人々に衝撃をもって受け入れられたが、7日についに緊急事態宣言が発せられたことで、事態はさらにもう一段、深刻さを増したように思われる。

安倍首相による毎回の会見に対して批判的な意見も目立つようになっている中、日本国外でも政府の対応について不信感を募らせる国も多い。しかし批判だけでは状況が好転することはなく、今自分に何をできるのか、前向きに考え実行していくことが求められているだろう。

その中で、影響力のあるタレントやアーティストたちが政治家たちとは違った形でメッセージを発信し、ともに大変な時を乗り切ろうという意思を示していることで、人々はこれをより身近な問題として捉え、同時に勇気を与えられるのではないだろうか。

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家でじっとしていたらこんな曲ができました。  ”うちで踊ろう”  たまに重なり合うよな 僕ら 扉閉じれば 明日が生まれるなら 遊ぼう 一緒に  うちで踊ろう ひとり踊ろう 変わらぬ鼓動 弾ませろよ 生きて踊ろう 僕らそれぞれの場所で 重なり合うよ  うちで歌おう 悲しみの向こう 全ての歌で 手を繋ごう 生きてまた会おう 僕らそれぞれの場所で 重なり合えそうだ  #うちで踊ろう #星野源 #DancingOnTheInside  誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?

Gén Hoshino 星野源(@iamgenhoshino)がシェアした投稿 - 2020年 4月月2日午前9時45分PDT

4月3日に、ミュージシャンで俳優の星野源が、外出自粛中に作ったという楽曲『うちで踊ろう』の動画を投稿し、コラボレーションを呼びかけた。それに賛同した三浦大知や高畑充希、石田ゆり子、中島美嘉をはじめとした多くのアーティストが参加したことが話題になっているように、これからさらに、少しずつ一丸となってこの難局を乗り切るための波が日本でも生まれ、さらに大きな力が生まれてくるのかもしれない。