※この記事は2020年04月11日にBLOGOSで公開されたものです

4月から新社会人になられた皆さん、誠におめでとうございます。新型コロナウイルスの感染拡大で、急遽入社式が中止になってしまった方もいるかと思います。

さて、期待と不安で胸が一杯の中、冒頭から申し訳ないのですが、皆さんの時代は40歳が定年になります。

「え?定年って60歳じゃなかったっけ?早すぎる」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今年新卒で働く皆さんの世代は、大体20年のうちに一部の経営幹部を除いて、ほとんどの人が別の会社で働くか、他の何らかの手段で生計を立てていくことになります。仲良くなったばかりの隣の同期の中には、すぐにお別れする人がいても何ら不思議ではありません。

今回はその理由と、そんな状況下での生き抜き方をお伝えできたらと思います。

日本で格別の「会社員」

皆さんの親は大体40代後半~50代前半くらいだと思います。この世代はいわゆるバブルや、その後の不況で採用数が激減し就職難だった時期に当たりますが、概ね会社という存在を信頼してきたといえます。

働くということは、「会社員」であるとイコールでした。朝着替えて、電車に揺られて会社に行って、昼ごはんを食べて、夜には自宅に帰るというような生活です。それをしていれば、よほどのことがない限り、給料が入り、食べていけたというわけです。

今もそうですが、日本の中ではこの「会社員」という身分が非常に幅を利かせ、銀行からお金を借りる時でも、年収400万円の会社員が家のローンを組めるのに、年収2000万円の雑貨屋がなぜか組むのに苦労するという有様です。クレジットカードも、会社員ならすぐに審査が通るのに、個人事業主は難しい。

さて、その日本社会で別格の「会社員」という身分なのですが、定年が60歳で大体40年間働き続けられるというところが人気の原因の一つでした。

「一度入ってしまえば、多少しんどいことがあってもいつか報われる」。こういう思いで最後まで耐える人間が組織の中で評価されてきたというわけです。

実際、賃金体系もそうなっていて、新卒採用を行う会社のほとんどでは、若手の給料は抑えられているわりに、40歳くらいからグンと高くなるように設計されているはずです。

私が40歳定年と書いたのは、今、日本の会社にどんどん余裕がなくなり、皆さんの面倒を最後までみる余裕がなくなってきたということなのです。

戦後の日本社会は年金や保険などの負担を企業側に求める仕組みになっており、それが国の負担を軽減してきた部分が大きかったのですが、2000年代に入ってから中国など新興国の台頭で日本企業の競争力が相対的に低下しました。少子高齢化で社会保障費が増大したことなどもあり、国や企業の財布に余裕がなくなってしまったのです。

人間は大体、40歳くらいでノウハウがあり体力も気力もある「最盛期」とされるので、逆にそこまでの競争で敗れた人間を切ろうという企業側のモチベーションが働きます。

私もここまで書いてイヤになるほど世知辛い時代ですが、そもそも企業というのは、どれだけ儲けるかしか考えないので、余裕があった時代には従業員の面倒もみますが、そうでなければちゅうちょなく、解雇するというわけです。

こういう時代ですから、かつてよりも変化に対応して生きていく力が求められる時代になったといえるでしょう。

韓国ではすでに40歳定年になっている

40歳定年時代を生きるというと、びっくりされた方もいると思いますが、実はお隣の韓国ではすでにそうなっています。サムスン電子などの大企業に熾烈な競争に勝って入社しても、社内での競争に敗れれば40歳を超えたあたりから肩たたきの対象となる。地方や中小企業の場合は言うまでもなくもっと大変です。

これは韓国が資本主義の優等生として一気に成長してきた負の部分が出てきたといえるのですが、日本企業でもAIによる省人化などが進むと、同じ道を歩むのは避けられそうにありません。

実際に、日本でも黒字なのに余裕のあるうちに人件費を削減しようと、早期退職をかける企業も令和になってから増えています。

韓国では、会社員を辞めざるをえなくなり、フライドチキン店を開業する50歳男性のことを「起承転チキン」と皮肉るそうです。

競争は激しく、現在フライドチキン市場は飽和状態に近い状態になっています。これはフライドチキンだけでなく、韓国の飲食店市場の全般的な傾向でもあります。少し古い調査で恐縮ですが、独立行政法人、労働政策研究・研修機構の2011年の調査によると、飲食店の数を比べると、人口1000人当たりアメリカが1.8店、日本が5.7店、対して韓国は12.2店と突出して多い。

これだけ店の数が多いと、フライドチキン店を起業したからといって成功するとは限りません。調査した当時よりも、韓国社会はより厳しい競争社会になっていますから、フライドチキン店を開く中高年の男性は少なくとも減ってはいないでしょう。誠に厳しい社会といえますが、日本がこうならないとは限りません。

さて、このように、およそ厳しい時代になると予想されはするものの、今回の新型コロナウイルスの例があるように、人生何があるかわかりません。誠に一寸先は闇なのです。

今後求められるのは、「自分で決められる環境づくり」

さて、散々暗い未来の話をしてきたので、これからはそれにどうやって対応していけばよいかについて考えてみたいと思います。

いきなりですが会社員の弱点というのは何でしょうか?ズバリ「自分で決められない」ことです。

皆さんも会社員として働いてみるとすぐにわかると思うのですが、大きな組織であればあるほど、自分で何かを決めることはできません。上司のそのまた上司に話を持っていって、それでお客さんに突き返されて、また上司に意見を求める。こういうデススパイラルに陥ることも日常になるでしょう。それも、ほとんどがくだらないことで。

また、「上司を選べない」という恐さもあります。相性の良い上司なら会社員生活は誠に快適になるのですが、そうでない場合も相当あります。最初の上司からパワハラを受け一気に精神を病んでしまう人もいるので、さながらロシアンルーレットですね。

これらは会社員が「組織の一員」だから起きることであって、福利厚生や給料などで生活を保障してもらえる代償となっています。

戦後の日本では、会社員として自分で何も決めず、上に言われたことを粛々と実行する人が求められてきました。革新的な意見を出そうものなら、すぐに妨害されたり左遷されたり、散々な目に遭わされる。

国が上向いていたり、豊かである場合はこれでもいいかもしれないのですが、これからの時代は、しっかり自分の身は自分で守らないといけない。会社に忠誠を誓っても報われない可能性があるのだから、当然です。

さて、ではどうしていくか。カネと仲間を集めて、「自分で決められる環境」を作ればいいのです。

まず、カネの話から。シンプルな言い方をすると、カネがあるとケンカができます。貯金がまるでなかったり、借金があったりすると、会社を辞める自由がなくなります。反対に2年くらい無給でも食べていけるカネがあると、相当程度のことが可能になる。イヤな上司に相対する時も「いつでも辞められる」という余裕があれば逆に客観的に事態を把握でき、適切な対応をとることができるでしょう。

20代は会社での仕事をしっかり覚えるのは当然として、休みの日を利用して、自分の仕事を持つことをおススメします。基本的にはお金をもらえるような「仕事」がいいのですが、動画制作などでもいいと思います。対価は1000円でも100円でも十分。大事なのは、「会社の外でも自分はカネを稼げる」という自信と実績を持つことです。それがあると、「会社=自分」と思わなくていいので、ラクになります。

じっくりカネと信用をためていきましょう。そうするしかないともいえるのですが、それをしっかりできている人は少ないので、十分だと思います。

なお、こういう不安がはびこる時代には、一発逆転の夢を見させるような「虚栄心」に訴えかけるような詐欺が横行します。くれぐれもご注意くださいませ。

同僚とは「ルフィ」と「ウシジマくん」の間の関係がちょうどいい

さて、次は、仲間について、漫画を例に挙げて話したいと思います。

まず、「ワンピース」。有名なのでもはや説明するまでもないのですが、ルフィという主人公が仲間といっしょに「ひとつなぎの財宝(ワンピース)」を追い求め冒険を続けるというストーリーです。

ワンピースが名作であることは疑い得ないのですが、気になるのが「仲間のためなら自分を犠牲にする」というメッセージが時に強すぎるように思うことです。ルフィたちは東南アジアのモロッコ海峡で船を襲うリアル海賊ではないので、あくまで漫画的にしかカネは描かれませんので、「仲間=利害関係のないオトモダチ」という図式が成立します。しかし、人生は有限で、付き合う人間を選ばないといけない場面も多い。

会社員になったばかりの皆さんには大変申し上げにくいのですが、仕事をして金を稼ぐというビジネスパートナーとして人と付き合うことと、オトモダチとして付き合うのは全くの別物であって、いつも「オトモダチ」の言うことを聞いていたら、本当に不幸になるからです。皆さんももうすぐカード会社や生命保険会社に就職した大学のオトモダチから、勧誘が来ると思いますが、わかりやすく言うとそういうことです。

会社員に限らず、社会人はどこまでいっても、自分の社会的な立場から逃れて生きることはできません。本当にオトモダチでいたいなら、利害関係の絡まない関係を維持できるよう自分から距離をとること必要になってくると思います。

さて、現代を最もリアルすぎるほどリアルに描いた漫画は「闇金ウシジマくん」でしょう。

違法な闇金業者を経営する牛嶋馨ことウシジマくんが、10日で5割という暴利を承知で借金しに来る顧客が起こす様々なトラブルに対応していくというストーリーです。原作の真鍋昌平氏の卓抜な取材力によるディテールがリアルさを増し、ウシジマくんとその仲間のキャラも立っていて、非常に読み応えがあります。

この漫画とワンピースとの最大の違いは、ウシジマくんが「仲間の裏切り」を前提としながらも「稼いでいくためには誰かと組むしかない」と意識していることです。実際、作品中にはメインキャラが裏切る場面が出てくるのですが、ウシジマくんはそれを達観しているところがあるのが大きな魅力となっています。

ただ、この漫画の世界観はあくまでも裏社会を生きる人間のものであって、皆さんのような新社会人がここまでバイオレンスな世界観で「人は必ず裏切る!信頼できるのは自分とカネだけだ」というようにおびえながら暮らすのも、疲れてしまうでしょう。

それに、カネは大事ですが、信用の方がもっと大事です。信用があれば、困ったときに食べ物を送ってくれる仲間もいるでしょうが、信用がなければ死んでしまいます。重要なことは、信用を保つため、目先のキャッシュしか目に入らないくらいの切迫した状況にならないよう時には副業などで懐具合を維持することや、本当にどうしようもなくなった場合は公的機関をちゅうちょなく頼る潔さだと思います。

そういう意味では、うまくいっているときはルフィのように仲間とともに目標に向かい、裏切られたらウシジマくんのようにドライになるというのがちょうどいいのではないでしょうか。

長くお付き合いいただき、誠にありがとうございました。歴史上、まれに見る困難な時に社会人となられた皆さんがタフにご活躍されるよう、心より祈念しております。

著者プロフィール

松岡久蔵
ジャーナリスト。マスコミの経営問題や雇用、防衛、農林水産業など幅広い分野をカバー。「現代ビジネス」「東洋経済オンライン」「ビジネスジャーナル」などにも寄稿。お仕事のご依頼はTwitterのDMまで。最新ニュースをお届けするLINE@はhttps://lin.ee/rgFmGXo。アニメニュースチャンネル「ぶっ飛び!松Qチャンネル」も配信してます!https://www.youtube.com/channel/UCuV1WijlpGR1V3wh5MRtIXA/featured