「緊急事態宣言」が出ても芸能界はノーテンキ!? - 渡邉裕二

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※この記事は2020年04月10日にBLOGOSで公開されたものです

新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言で芸能界がパニックに陥っている。この欄でも芸能界における新型コロナ感染については何度も記してきたし、テレビ局に対してもチェック体制の強化を訴えてきたのだが、ネガティブな意見はスルー状態だった。

芸能界やテレビ局だけが「特別な場所」なんてことはあり得ない。大阪の毎日放送では60代の制作担当役員が新型コロナに感染して死亡したことが分かった。事は大阪のテレビ局だが、在京テレビ局――とりわけ、テレビのワイドショーでは連日、専門家やコメンテーター、さらにはタレント、お笑い芸人らが次々に出演し「認識が甘い」「危機感が足りない」、さらには「政府の対応が遅い!」など言いたい放題だったが、先の見えない疫病に、どこも九官鳥のように同じことを繰り返すだけだ。

そこまで言うならスタジオに出向くのは断って、自宅から「テレワーク出演」でもした方が、単なるパフォーマンスだとしても説得力があるのだが…。

やっと危機対応を始めたTV局 NHKが皮切り

「最近はテレビでも出演者が隣との距離を離して、手を広げるパフォーマンスをしながら『濃厚接触を避けています』なんてアピールしていますが、一歩スタジオから離れ、カメラに映らない場所に行ったら濃厚接触しまくっているわけですから…。しかも、緊急事態宣言で美容室・理容室などは営業のグレーゾーンになっていますが、テレビ局には必ず衣装やヘアメイクもいます。事情が違うと言えばそれまでですが、どう考えても、やっていることと言っていることに違いがあり過ぎます」(芸能記者)

これでは対応がご都合主義だと言われても仕方がない。

そんな状況の中、ここに来てようやく在京のテレビ局も外部出演者の生出演や収録参加を取りやめ、ロケ収録の見合わせなどを明らかにし始めている。

最も機敏に動いたのがNHKだ。関連制作会社のNHKエンタープライズも含めての対応をとっている。朝の連続テレビ小説「エール」や大河ドラマ「麒麟がくる」の収録を見合わせた他、すでにクランクインしていた今秋放送の朝の連続テレビ小説「おちょやん」についても、収録の休止を明らかにした。

その他のスタジオ収録や外部出演者については「感染予防を徹底して、緊急性・必要性のあるニュース、報道番組を除いて、お越しいただかない」(NHK関係者)と言い、朝の情報番組「あさイチ」でMCを担当してきた博多華丸・大吉についても「スタジオ出演を見合わせリモートでの参加になりました」としている。

それだけではない。局内にあった新聞社・通信社で加盟する「放送記者クラブ」もロックダウン。「NHKが幹事社である読売新聞社に打診する形で閉鎖してしまいました」(スポーツ紙の放送担当記者)。

TBS「半沢直樹」は放送延期 各局の危機意識はまちまち

さすがに民放各局も社内の制作体制の対応に苦慮している。

TBSは、現時点で報道・情報番組以外は4月19日までロケを含むスタジオ収録を全て見合わせている。このため、今月からスタートする予定だった日曜劇場「半沢直樹」(堺雅人主演)や火曜ドラマ「私の家政夫ナギサさん」(多部未華子主演)、金曜ドラマ「MIU404」(綾野剛・星野源主演)など連続ドラマ3本の放送を延期した。

「不特定多数の人と接触するケースが多いので感染防止を考慮した」と説明しているが、前記した毎日放送ではないが、TBSでも3月31日に、60代の派遣契約スタッフ、さらに4月2日には30代の男性スタッフが新型コロナウイルスに感染していたことが明らかになっていただけに深刻度も高い。

その他、日本テレビも4月20日までドラマやスタジオ収録の休止を明らかにしている。その一方で、やや緩い対応を考えているのがテレビ朝日とフジテレビ、そしてテレビ東京だ。

いずれの局もスタジオでの収録については何らかの規制を加えており、テレビ朝日は「(休止するのは)一部の番組」とし、その期間に関しても「個別に判断する」。フジテレビは、ロケについては、大規模なロケではない限り「特に規制はしない」ようだ。テレビ東京も「状況判断」としている。

局によって番組が関連制作会社と完全外部制作なのかと言うことで対応にも違いがあるが、局内制作に関してはほとんどが自粛となっている。そんな中、

「独自路線を貫いているテレビ東京は、安倍総理の緊急事態宣言の時間に乳児向け番組『シナぷしゅ』を放送していましたが、これにはさすがに視聴者からも疑問の声が出ていました。やはり、編成の違いもありますが局によって危機意識はまちまちということでしょうか」(スポーツ紙の放送記者)。

スケジュールを優先した芸能界 感染爆発の恐れも

冒頭でも記したが、そういったテレビ局の対応に対して芸能界はパニック状態になっているのだ。芸能界は、どうしても新型コロナよりスケジュールを優先している部分が大きい。

3月31日に脚本家の宮藤官九郎(49)が新型コロナに感染したことを明らかにして以来、4月に入ると4日には、お笑いトリオ「森三中」の黒沢かずこ(41)、6日にはお笑い芸人・ゴリけん(46)が感染を公表。さらに8日にはお笑いコンビ「たんぽぽ」の白鳥久美子(38)をはじめ、歌手の速水けんたろう、タレントのラジバンダリ西井(44)らが相次いで感染を明らかにした。

また、前後するが4月1日には、4人組ヒップホップグループ「ケツメイシ」のメンバーであるRYOJI(45)の感染がホームページで発表され、8日には4人組バンド「SUPER BEAVER」のドラマー、藤原広明の感染が同じくホームページで発表された。しかも「ベースの上杉研太にも体調不良がみられたため保健所へ連絡し、保健所からの指示により外出を控え自宅待機中です」としている。彼らは4月1日に結成15周年を迎え、メジャー再契約を発表したばかり。「思わぬところでつまずく結果になった」(音楽関係者)。

相次ぐ芸能人の感染公表 背景に志村けんさんの急死

芸能関係者は「これまでも、体調不良などを訴えながらも活動を続けて来たタレントやアーティストは実は多いはず。ただ、これまで発覚していないのは自然治癒していたか、いまだに放置しているかのどちらかでしょう」とした上で、それがここに来て次々に明らかになっていることについて、

「やはり志村けんさんが新型コロナに感染して、その後に急死したことが大きい。これまでは少々の体調不良でもスケジュール優先で曖昧にしてしたのかもしれませんが、さすがにプロダクションの中にも危機感が出てきて、体調が悪いと訴えたら検査をするようになったのだと思います。ただ、まるで急に感染したように発表していますが、そんなことはあり得ません。テレビ局に限らずメディア、レコード会社、ライブハウス関係者にも感染者が続出しているわけですから、タレントや俳優、アーティスト、あるいはモデルも含め感染者がいないわけがない」

結局は宮藤官九郎のように「まさか、自分が感染するとは思わなかった」という芸能人が多いことは否めない。これだけの感染芸能人がいるということは「他にも感染者がいると思っていい」(プロダクション関係者)だろう。

週刊誌の芸能担当記者は呆れ顔で言う。

「そもそも、宮藤官九郎さんは、感染が判明した直前に体調が思わしくなかったにもかからず、自身がギターを務めるバンド〝グループ魂〟のミュージックビデオの撮影を行っていたと言います。しかも、その撮影には、ボーカルを務める阿部サダヲ(49)や多くのエキストラも参加していた。

その後、サイトでは保健所の見解としながら、発症前の撮影だったため出演者やスタッフは濃厚接触者に当たらないなんて説明していましたが、全国で感染者が急増して、これだけ深刻な状況になっている中でも芸能界では、著名な脚本家でさえ、その程度の認識と対応だということなんです。

人気脚本家なので、視聴者には言いたい放題のワイドショーのコメンテーターもダンマリですが、自覚がなさ過ぎです。少なくとも撮影に参加していた人の検査は事務所の責任として行うべきだと思います」

「緊急事態宣言」が発令された8日、東京都の感染者は144人だった。この際、万が一の感染拡大に備えて芸能・音楽団体は、加盟のプロダクションに指示して、所属タレント、俳優、アーティスト、モデルに対して検査を実施すべきだろう。