※この記事は2020年04月07日にBLOGOSで公開されたものです

新型コロナウイルスによる休業、閉店などの影響で収入が減少し、これからの家賃支払いに不安を覚えている人も少なくなかろう。家賃は誰にとっても大きな出費。1ヶ月分の滞納ならまだ払えるかもしれないが、2、3ヶ月分と溜まってくると、給料が支払われていても払えなくなる。危ないかもと思ったら、即座に動くことが大事である。

そんな時に思い出して欲しいのが住居確保給付金である。

「これから家賃が払えなくなりそう」という場合も対象に

これは2015年4月に施行された「生活困窮者自立支援法」に基づく制度のひとつ。元々は2008年9月に起きたリーマンショックで住む場所を失った人、失うおそれのある人を救済するために2009年に厚生労働省が始めた「住宅手当緊急特別措置事業」がルーツだ。その後、2013年4月に「住宅支援給付制度」となり、現在は「住居確保給付金」となっている。

概要がまとめられているのが以下の資料。

住居確保支援金について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0914_shiryou03_1.pdf

ただし、今回の新型コロナウイルスの発生・感染拡大に伴い、要件が緩和されており、65歳以上でも受給できるようになり、ハローワークなどでの求職活動の回数なども減らされているので、資料を読む時には注意が必要。緩和された内容は以下の通り。

住居確保支援金の要件緩和について(令和2年3月9日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000605807.pdf

対象となるのは「離職等により経済的に困窮し住居を失った者だけでなく、賃貸住宅等に居住しながら、住居を失うおそれがある者」。ここで大事なのは、すでに家賃を滞納しているか否かは要件とされていないこと。これから家賃が払えなくなりそうという時点からが対象となっているのだ。

受給のためには「人、収入、資産」の要件をクリアしている必要がある。まず、人の要件を分かりやすい部分から書いていこう。

・離職等の前に世帯の生計を主として維持していたこと
・ハローワークに求職の申し込みをしていること
・国の雇用政策による給付等を受けていないこと
・離職後2年以内の者
※【4/8追記】4月20日から要件が拡充され、離職、廃業していない人も対象になる

前述したように、前年度までは65歳未満という要件があったが、それは撤廃されており、現在は年齢要件はない。

ただ、分かりにくいのは離職「等」という部分。具体的にどのような人が対象になるか、厚生労働省の生活困窮者自立支援室に聞いた。

アルバイト、フリーランスの場合は対象になるのか

もっとも分かりやすいのは雇用関係があり、その勤務先を2年以内に辞めた人。退職の理由は問わない。

現在も雇用関係があり、出勤日が減るなどで収入が減少したという人は現状では対象にならない。この制度自体が離職、住まいの喪失を防ぐことが目的であるため、離職していない人は対象にならないのだ。

【4/8追記】4月20日から要件が拡充され、離職していない人も対象になる。

こうした人に対しては基本、休業補償がある。政府ではこの原資となる雇用調整助成金の特例措置を2020年6月30日まで拡大しており、雇用保険被保険者でない労働者の休業も助成金の対象となっている。

新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000615395.pdf

ただし、休業補償については今後、不安もある。

というのはもし、政府が改正新型インフルエンザ対策特別措置法(以下、特措法)に基づいて政府が7日に発令するとみられる緊急事態宣言では、ライブハウスや野球場、映画館など多数の人が集まる営業施設に営業停止を要請、指示した場合の休業は「会社都合による休業」には当たらないというのが厚労省の見解(東京新聞2020年4月3日朝刊)だからだ。

また、厚労省は客の激減、従業員が通勤できないなどで小売店、飲食店が休業になった場合も会社都合とは言い切れないとしている。となると、今後、収入が減っても休業補償がなく、住居確保給付金の対象ともならないケースが出てくることになる。政府にはこうした制度の谷間にも目を配っていただきたいところである。

アルバイトなど単発の仕事で生活している人の場合も対象にならない。だが、もし、2年以内に雇用されていた経歴があれば対象になりうる。過去の仕事を思い出してみよう。

フリーランスの場合は仕事のキャンセルが相次いでいる、大きく減収したなど、窮状が分かる文書などがあれば申請はできる。排除されてはいないとは担当者の弁である。

自営業者の場合は廃業していることが要件。青色申告をしている人なら税務署に廃業届を提出しているはずなので、そうした書面が必要になる。

【4/8追記】4月20日から要件が拡充され、廃業していない人も対象になる。

収入の要件は?東京23区で単身世帯の場合は13万7700円以下

次に収入の要件だが、申請月の世帯収入の合計額が基準額(個人住民税の市町村民税均等割が非課税となる収入額の12分の1)+家賃額以下であること。注意したいのは家賃額は今、払っている家賃額ではなく、住宅扶助特別基準額(生活保護を受けた場合の住宅費)だ。基準額?なんだ、それはと思う人もいると思うが、住居確保給付金の必要性を考えてか、多くの自治体では対象となる要件をホームページにアップしているので、気になる人はすぐにホームページを確認してみて欲しい。

実際、住んでいる場所、家族の数で要件とされる額は異なっており、たとえば東京23区の場合には単身世帯で月額(以下同)13万7,700円、2人世帯で19万4,000円、3人世帯で24万1,800円と例示されている。

預貯金額では申請時の世帯の預貯金合計額が基準額×6(ただし100万円を超えない額)以下であることが基本。上記エリアの場合は単身世帯で50万4,000円、2人世帯で78万円、3人世帯で100万円が例示されている。

ハローワークを通じて求職活動をしていることも要件。具体的には「月2回以上の公共職業安定所の職業相談等」および「週1回以上の応募または面接」。ただし、状況を鑑み、その回数を減らす、または免除することができるとされている。

自立相談支援機関への相談についても面談が原則だが、勤務状況や地域の感染状況等により来庁が困難な場合は、電話などの手段に替えることができ、給与明細の郵送をもって収入確認に代えるとされている。

必ずしも家賃全額が支給されるわけではないので注意

気になる支給額は生活保護の住宅扶助特別基準額が上限だ。東京23区の場合、単身で5万3,700円(16㎡超の場合)、2人世帯で6万4,000円、3~5人世帯で6万9,800円など。これについては各自治体の生活保護関連のページを検索すれば上限額が分かる。

注意したいのは今住んでいる住宅の家賃全額が支給されるのではない点。支給された額では足りない分は自分で払う必要があるので、今後も不安が続くようであれば、早々に支給額以内の住宅に引っ越すなど住居費を減らす算段をするのも手だ。その場合にはできるだけ契約時に費用の掛からない住宅を検討するのが賢明だろう。

単身者であればシェアハウスに住み替えることで家賃を減らすという手も考えられるが、単身者の住宅扶助特別基準額は部屋の広さによって異なる。16㎡以上であれば前述したように5万3700円だが、これが10㎡超~15㎡以下になると4万8000円、6㎡超~10㎡以下で4万3000円、6㎡以下で3万8000円となる。自分の持ち物、その他現在の生活からどうするかを考えたいところだ。

支給期間は原則3ヶ月。就職活動をきちんと行っている場合などについては3ヶ月の延長が可能で、最長は9ヶ月までとなっている。

問合せ先は全国1,300ヶ所に設置されている自立相談支援機関。支給額はもちろん、申請方法、必要書類などの詳細も自治体によって異なる場合があるので、まずは相談を。住居確保給付金の支給要件に満たなくても、他の支援策が受けられる可能性もある。また、最寄りの自治体に窓口の連絡先がない場合には都道府県、市町村へ問合せを。

生活困窮者自立支援制度の紹介(厚生労働省。下部に窓口情報がある)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000073432.html

「家賃の滞納くらい大家にはたいしたことないだろう」は勘違い

また、この問合せと同時に管理会社、大家さんなど住宅の貸主にも早めに相談をしておきたい。管理会社が入っている場合にはまず、管理会社に連絡。払えなくなるかもしれない状況に加え、現在、どのような手を打とうとしているかも伝えるなど、事前の相談があれば事態悪化の懸念は多少なりとも軽減されるはずだ。

ちなみに世の中には大家=富裕層という考えが根強く、家賃の滞納くらいたいしたことはないと考えている人も多いが、それは勘違い。大家が大手企業であれば多少は体力もあろうが、マンションの1室を持っているサラリーマン大家であれば家賃滞納がローン返済不能、競売につながることもありうる。

「不動産投資で資産●億円」などとうそぶく人でも資産の倍以上の借金を抱えていることが多く、たいていは自転車操業。家賃が止まった途端に身動きが取れなくなる可能性は大きい。地主で大家という人達ですら、不動産はあっても現金がないことが多く、これまた、家賃が止まると非常にまずい状況に陥る。

その結果、住んでいる部屋が競売にかかるとそのまずい状況は入居者にもふりかかってくる。競売で第三者の買受人に買われてしまい、買受人から部屋の明け渡し請求があった場合、入居者は6ヶ月で退居しなくてはならない(*)。その間に未払い、滞納があり、請求にも支払えなかったとすると、すぐさま出て行ってくださいねとなることも。
*民法395条抵当建物使用者の引渡しの猶予

大家としてはこのタイミングで退居があり、次の入居者を探すのは避けたいところ。一方で今春は多くの不動産仲介店舗で物件が足りなくなる状況が続いた。大家、入居者ともに互いに動くには良くないタイミングなのである。できれば互いが納得できるような落としどころを探り、共存共栄を考えるのがこの危機をやり過ごす最良の手ではないかと思う。

家賃以外では電気料金、ガス料金について支払い猶予も要請されている。気になる人は利用している事業者に問合わせてみて欲しい。

経済産業省 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、電気料金の支払いなど生活に不安を感じておられる皆様へ
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200319008/20200319008.html

経済産業省 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、ガス料金の支払いなど生活に不安を感じておられる皆様へ
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200319007/20200319007.html

また、一時的に資金を貸してもらってしのぐという手もあるので、切羽詰まったらこちらも検討して欲しい。

一時的な資金の緊急貸付(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000613522.pdf

それ以外の支援で都会で暮らすビジネスマンに関連しそうなものは経産省のページにまとめられている。状況に応じて変化するので、気になることは逐次ホームページで内容を確認したい。

経済産業省の支援策(2020年4月2日時点)
https://www.meti.go.jp/covid-19/

国以外にも各自治体でも個別の支援策を打ち出している。たとえば東京都は中小企業の従業員向けに実質無利子の融資を上限100万円まで行っており、使える人にとってこれは大きい。

中小企業従業員融資(新型コロナウイルス感染症緊急対策)
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/kansensyo/yushi/

この状況下、制度自体は徐々に整えられつつある。不安だからと思考停止をしている場合ではない。自分が使える制度を上手に使い、この危機を乗り越えられる方法を探りたいものである。