石破茂氏がバラエティ番組で魅せたイメージ戦略と美人妻のサポート力 - 松田健次
※この記事は2019年01月30日にBLOGOSで公開されたものです
2019年1月、石破茂が日本テレビのバラエティに続けて出演した。1月20日(日)「行列のできる法律相談所」、1月24日(木)「ダウンタウンDX」、両番組とも初出演となった。日テレバラエティの新年度ファーストクール(1月~3月)の推しは「♪パンケーキ食べたい」の夢屋まさるかと思いきや、パンケーキではなく防衛アンパンマンだったのか?政治家がバラエティーに出るメリット
石破茂と言えば、昨秋は安倍晋三盤石が続く自民党で勝ち目なしの総裁選に立ち、安倍派と石破派(反安倍派)、党内勢力の現状を票数として国民に知らしめた。(改ざん、不正、虚偽が続く昨今の政府関連統計の中で、総裁選の結果票数は、疑わずに信頼できるデータだったことに総裁選の意義があったのだと思えたりするが、それはまた別の話だ)。とにもかくにも石破は次期総裁(首相)候補として名が挙がる一人として、かつて防衛大臣、党幹事長などの要職にあったが、現在は実権から蚊帳の外に置かれ、赤い頬を寒風にさらして更に赤らめながら、潮目が変わるのを待つ身だ。
そうして迎えた新年は、石破茂にとって仕切り直しイヤーの幕開けでもある。そんな石破と日テレの間に何があったのか。何を握ったのか。どんな思惑が合致したのか。石破の日テレバラエティ出演連発は、防衛アンパンマンとアンパンマン放送局の親睦だけではない、読売グループの大いなる意向を標すサインなのか…。
言わずもがな、政治家がバラエティ番組に出演することにはシンプルな意味がある。親しみやすい横顔を見せることでの好感度アップ、人気タレントと共演することでのイメージアップ。また、帰省せずに地元有権者へテレビを通して挨拶代わりとする、ふるさとポイントのアップもある。
果たして、石破茂による今回の日テレ人気番組連続出演は、結果何をもたらしたのか、検証してみる。
まず、「行列のできる法律相談所」でメイン企画となったのが、石破の「顔がコワい」問題だった。以前、石破が保育所を訪れた時に、石破を見た子ども達が「怖いよ~」と、いっせいに泣き出したという。
< 2019年1月20日放送「行列のできる法律相談所」(日本テレビ) >この、顔コワい問題にフックをかけて、石破に「笑顔を教える」ゲストとして登場したのが「えいごであそぼ」(NHK Eテレ)に出演する子役・村山輝星(きらり)ちゃんだった。姿を現しただけで周りから「カワイイ…」と溜め息が漏れるキラッキラッの8歳少女が、かりんとう饅頭みたいな容貌の61歳に、可愛げな表情とハツラツな身ぶりたっぷりで、英単語のレッスンを通して笑顔を教えた。
東野幸治「VTRにありましたけども幼稚園児が泣くんですか?」
石破茂「いちばん最初に総裁選挙出たとき(2012年)、防衛の石破だってみんな思ってたのね。やっぱり今までと違うキャラを見せようっていうんで、保育園行ったわけですよ。「おじさんだよー」とか言うと、みんな逃げ惑うのね。これはね悲しかったねぇ~(笑)。日テレさんとかさ(マスコミ取材が)色んなのいっぱいついて来るわけ。子どもが逃げ惑う場面ってのは、もう(放送用の映像を)頂きみたいなところがあって」
スタジオ「(爆笑)」
「SMILE」では、言いながら両手広げて顔の横でひらひら。「ENJOY」では、お腹の前で両手をつなぎ口の形に見立て「オーイ、オーイ」と腕を上下させてから「エンジョーイ!」とモンキーダンスのように飛び跳ねた。石破は8歳少女のアクティブなパフォーマンスを、こわばった笑顔とぎこちない動きでリピートした。
石破茂と村山輝星ちゃん、その構図はディズニー・ピクサー「モンスターズ・インク」のサリーと少女ブーのような、パターンとして「怪物と少女」という古典にのっとった、広く親しまれやすい組合せで映し出されていた。
一連のコーナーを終えて東野が輝星ちゃんに「石破さんは上手でしたか?」と訊くと、さすが子役界の新星、「わたしもイシバさんの笑顔見てたのしくなりました!」と満点回答。ここだけ切り取ると、まるで朝鮮中央テレビばりのプロパガンダ映像である。
しかし、石破の「行列」出演は、「顔コワい」いじりが基本OKなのだ、それを笑ってもいいのだ、ということを改めて喧伝することで、全国隅々に石破とのコミュニケーション・ハードルの「低さ」を広報する重要な役割を果たした。
これによって石破は、地方遊説のツカミとして「こんにちは、顔がコワイ石破です」を正面から使えるようになるだろう。
さらに、昨今のバラエティ界の潮流には、「出川哲朗」「野生爆弾・くっきー」「安田大サーカス・クロちゃん」という「グロかわ」な方面に追い風が吹く気圧傾向があり、その風が石破茂の背を押す気配もチラついた。
政治家の妻・石破佳子のトークスキル
続く「ダウンタウンDX」では、「愛妻家」という括りで、立川志らく、和泉元彌、FUJIWARA藤本敏史らと並び、メインゲストとして登場した。石破は結婚36年目となる妻に対し、「誕生日と結婚記念日のプレゼントを、結婚以来欠かした事がありません!」という前フリから、愛妻家ぶりを披露していく。
< 2019年1月24日放送「ダウンタウンDX」(日本テレビ系) >自身のトーク冒頭から、政治家としての基本的公正さをキチリと挟んでくるあたり、衆議院議員11期の海千山千である。
松本人志「(プレゼントは)ご自分で選ぶんですか? なんか秘書に意外とやっとけみたいな」
石破茂「それはしない、それはしちゃいけない」
松本「しててもテレビでは絶対に言わないでしょうね」
スタジオ「(大笑い)」
石破「私事で秘書を使ってはいけませんよ」
松本「あ~、なるほど」
この「ダウンタウンDX」での石破を見事にアシストしたのは、妻の石破佳子だった。昨年秋に自民党総裁選と結婚記念日が近かった際に、プレゼントを買うようなプライベートの時間がまったくない中で、石破が渡してくれたプレゼントが鳥取名物の地元のお団子だったというエピソードを、VTR出演で妻みずから詳しく語った。
< 同上より >ご存知のとおり、昨年9月の自民党総裁選では負け戦に散った満身創痍の石破茂が、その裏側で妻への気配りも欠かさず、結婚記念日に地元のお団子を妻に渡すという微笑ましい庶民感満載のエピソードは、好感度を上げるのに非の打ちどころがないパーフェクトトークだった。
石破佳子「総裁選挙が9月20日にあって、ほんと大勢の皆さんにお世話になった。で、22日が結婚記念日なんですよ。夫が地元(鳥取)に帰っていて、ずっと挨拶回りをしてて、家に帰ってきて、『ただいま~』って言って、『きょうは何の日だ~』って言い始めたんですね。私もすっかりなんか忘れちゃってて答えられない。さあ何の日だったかな、なんだろうってしばらく考えたら、『結婚記念日だ』って言われて。『はい、お団子あげる』って、くれたんですよ。(略)結婚記念日でお団子買ってくれたの、ウフフフフフ」
スタッフ「お土産ですね」
佳子「でもやっぱり、考えたんでしょうね。なんにも買う時間ないから。なんか手ぶらじゃ帰りにくかったのかな。かわいそうだったかなと思って、フフフフフ。心がこもってるっていうのがやっぱ一番じゃないかなと思いますね、すべてどんなものを頂いてもね」
これは、政治家の妻だからそれなりにスピーチが上手く出来て当然…という一言では片づけられない、石破佳子のトークスキルを感じた。喋りの中に夫が登場し「きょうは何の日だ~」「はい、お団子あげる」など、間接話法で登場する石破茂に、石破本人が有する以上の愛嬌を付加させていた。
普段は、味気ない呪文みたいなスロートークの石破茂が、妻佳子のトークを通したとき、家庭ではこんなに愛嬌に充ちた会話をしているのかと思ってしまう。妻佳子のVTR出演は石破にとってビッグアシストを果たしていた。
そして、このVTRはもうひとつ強い印象を視聴者に残した。それは60代前半とはいえ、否めようのない石破佳子の美熟女ぶりだ。昨秋の総裁選の際、内助の功を比較するような切り口もチラッと並んだが、それにしても石破佳子、この年齢でこうなのだから、若かりし頃はさぞかしああだったのだろうと思わせる可愛げをテレビは映し出していた。
石破夫妻に対し視聴者が「美女と野獣」というフレーズが思い浮かんだであろうことを見越すかのように、MCが如才なく言及する。
< 同上より > 浜田雅功「ちなみに奥様とはどういう形でお知り合いになったんですか?」夫婦のなれそめを滔々と語ったこの場面が、「ダウンタウンDX」での石破出演のクライマックスだった。70年代のメモリアルシネマ「ある愛の詩」のメロディーをBGMに引くなど、あざとさが背中合わせなのだが、若き日の石破佳子が慶応義塾大学の図書館から本を小脇に抱えて現れたシーンを想像すると、「作り話でもなんでもなくて」と念押しする石破茂を信じ、聞きいってしまった。
(BGM~IN ♪ある愛の詩)
石破茂「これはね、大学の同級生なんですよ。私、高校三年間男子校で、大学に入って、すごく花園のように思えたね。で、そのう、大学の図書館から彼女が本を小脇に抱えてトントントンと…。それはもう作り話でもなんでもなくて、うわ、こんなきれいな人が世の中にいたんだなって」
藤本敏史「それで声掛けたんですか?」
石破「いやとても、呆然として声掛けられなかった」
浜田「告白はでも、されたんでしょ?」
石破「大学4年の卒業式のあと、謝恩会ってあったね。帰り車で(彼女を)送ってって、で、実は…みたいな、あのう、結婚を…」
松本「普段より声ちっちゃい!もっと声出さんと」
スタジオ「(大笑い)」
石破「結婚を前提にとか、たぶん言ったんですね。ものの見事に断られた。(略)それで、もう私は、人生に絶望したような処があって、失意の中で銀行勤めしとったわけですよ。銀行員として一生懸命働いてる頃に、うちの父親が亡くなったんですね。で、ずっと音信不通だった彼女からお悔やみが、電報が来て。で、それで、ありがとうみたいな電話したところから話は…」
そして番組後半、石破は自身による「オリジナルカレー」を披露。スタジオの面々に振る舞った。
< 同上より >レシピコメントが細部に至り、石破オリジナルカレーが付け焼刃ではないことが伝わる。それもありつつだが、ここで石破が「カレー」を繰り出したことで、画面では語られないふたつの案件を想起させた。
キャシー中島「(石破カレーを食べて)うん、美味しい。甘みがスゴいあるんだけど、甘みは何入れてんだろうこれ?」
石破茂「これはね、あのう、うちの地元(鳥取県産)の梨の(ワイン)」
松本人志「また言うてる。めちゃめちゃ鳥取に寄せてる」
石破「あと最後に味を引き締めるんで、インスタントコーヒーの粉をぱらぱらってやるんです。味が締まる」
石破が「カレー」なら、安倍は「モリカケ」…食を介した安倍への皮肉がひとつ。
また、自民党総裁選の投票前日に出陣式でゲンを担ぐカツカレーの案件。昨秋そこで安倍派は、333人に3800円の高級カツカレーを振る舞った。しかしフタを開けたら安倍への投票は329票だった。4人が食い逃げしたカツカレー事件、その記憶がにわかに甦ったことがひとつ。
そこはまあ、深読みのさじ加減だろうが、ここで石破茂による今回の日テレバラエティ出演を総じてみる。石破は昨秋の総裁選でスローガンに「正直、公正」を掲げた処「安倍首相への個人攻撃だ」と安倍支持サイドから突き上げられた。その経験も踏まえ、バラエティー番組出演というイメージ戦略を通して見えた新スローガンは「笑顔、愛妻、カレー」という…。
そして、その効果を最大に引き出す心強い存在が妻・石破佳子であることは間違いない。
安倍晋三の妻・昭恵は「アッキー」として広く認知されているが、今後、石破茂の妻・佳子(よしこ)が「ヨッシー」となってビッグアシストを続けたら…。その先に何が待ち受けるのかは、このまま見届けるしかないだろう。
なお、石破佳子を「ヨッシー」と称したのはこの稿の見切り仮称だ。石破家公認の愛称があるならそっちに差し替えたい。