40%台回復も要は昭和からのレジェンドに頼りっきりだった「紅白」 - 渡邉裕二
※この記事は2019年01月03日にBLOGOSで公開されたものです
昨年大みそかの「第69回NHK紅白歌合戦」の視聴率がビデオリサーチから発表され前半の第1部(後7時15分~8時55分)が37・7%、後半の第2部(後9時~11時45分)が41・5%だった。前年に比較し、前半は1・9ポイント、後半は2・1ポイントのアップとなり、2016年の40・2%以来、2年ぶりに40%の大台を回復した。16年は解散騒動が社会問題化した人気グループのSMAPが出演するかどうかで視聴者を注目させ、さらにタモリらを出演させたり、朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の主題歌「花束を君に」を歌った宇多田ヒカルを担ぎ出したことが、結果的に功を奏して40%台をキープした。しかし、17年は、引退宣言が社会現象化した安室奈美恵を出演させたものの出場歌手には大きな〝目玉〟がなかったのか39・4%に下落、平成元年の89年に「紅白」が2部制になって以降では、歴代ワースト3位の結果となった。
では、今回は?
放送前は例年以上に、中途半端な「紅白」と言われた。そう言った中で、特別枠出演のサザンオールスターズをトリ(石川さゆり)、大トリ(嵐)の後に歌わせることを明らかにしたり、YOSHIKIを白組と紅組との両方に出場させるなど、視聴率アップを目指した苦肉の策なのかどうかは分からないが、出演者情報を〝小出し〟にしてきた部分が目立った。ところが、そのオチがDREAMS COME TRUEの「出演交渉失敗」と言うのは、結果的に情けないものになってしまった。つまり、本来の「紅白歌合戦」と言う基本コンセプトよりも、特別枠ばかりをクローズアップさせた手法が目立っていたのだ。
しかし、いざ、フタを開けてみると、13年に「紅白」卒業宣言した北島三郎が巨大なカブト武者のやぐらに乗って5年ぶりにステージに登場し「まつり」を熱唱すれば、これまでテレビに出演したことのなかった米津元帥が出身地である徳島からの中継で〝生歌〟を披露したり、さらにエンディングではサザンオールスターズも35年ぶりにNHKホールのステージから平成最後の〝歌い納め〟。それも〝昭和のヒット曲〟である「勝手にシンドバッド」をパフォーマンス。独特のノリで北島三郎を呼び込んだかと思うと、何とユーミンから〝まさか〟のキスをされるハプニングまであって、視聴者にとっても「見応えのある」内容になった。
「結果的に視聴者目線に立った生番組となったことが視聴率アップの大きな要因になったことは確か」(放送関係者)。
「紅白」は音楽番組の〝総合デパート〟
「紅白歌合戦」とは何か?私は、音楽番組の〝総合デパート〟だと思っている。あらゆる商品(アーティスト)が陳列されている。しかし、商品によっては、そんなところに「陳列されたくない!」「陳列されてたまるか!」と考えたり思ったりする人もいる。反対に、陳列されたくても断わられるものもあるだろうし、例え陳列されたとしても他の商品の中に埋もれてしまうようなものもある。いずれにしても、陳列されたら他より最大限際立たせることが必要となってくる。
しかも、「かつて売れた商品」「売れなかったが、再チャレンジを考えている商品」「全く新しい商品」…。「紅白」という総合デパートは、大衆店であって専門店ではない。そう言った意味で、ここでの販売戦略としては、おそらく「かつて売れた」商品を再アピールすることの方が一番効果的なのかもしれない。一度売れたものは、常にヒットの要素があるものだ。確かに、多くの人の目に留まる場所では新しいものをアピールしたくなるものだが、それは、この場では得策ではないのかもしれない。
もちろん、時代の流れもある。
「昭和時代」の「紅白」は81・4%(1963年=第14回)という驚異的な数字を叩き出したこともあった。しかし、平均的に60~70%をキープしてきた。それが、平成に入った89年。ここから2部制になったが視聴率は47・0%(第2部)と、初めて50%の大台を割った(その後は50%をV字回復)。
ところが、2000年に再び50%を割ると、年を追うごとに数字を落とし、04年には39・2%、さらに3年前の15年には39・2%というワースト記録を打ち出してしまった。
とにかく、テレビ放送を取り巻く状況も厳しくなってきているし、視聴者の趣味嗜好も多様化している。しかも、それより何より、2000年代に入るや音楽市場は減少し、18年というのはヒット曲に恵まれない年でもなった。CDセールスだけを見ても1月から11月までの売上げが前年比91%(日本レコード協会調べ)となっている。確かに音楽配信などもあるが、市場規模は70年代にまで落ち込んでしまっているのである。
だからと言って、音楽を聴かなくなったわけではない。YouTubeなどと言った動画メディアが台頭するなど、音楽の聴き方にも変化が出てきていることは明らかだ。
一方、現在のテレビの音楽番組にとって大きな問題はその年のヒット曲がないから過去のヒット曲や名曲に頼るしかないことだ。しかし、それでも、辛うじて視聴者を満足させることが出来た。
昨年の各局の大型音楽番組を見ると、7月7日に放送した日本テレビ系の11時間番組「THE MUSIC DAY 伝えたい歌」は、前年より2・1ポイントアップの14・9%だったし、その翌週7月14日にTBS系で放送された13時間の「音楽の日」も前年を0・4ポイントアップする11・6%。そして、12月4日にフジテレビで放送した「FNS音楽祭(前半)」も前年より0・6ポイントアップする14・2%だった。
また、60回目を迎え過去を振り返る内容に徹した感のある年末の「第60回輝く!日本レコード大賞」に至っては、前年より2・3ポイントも上回る16・7%となった。とにかく軒並みに高視聴率を上げているのだ。
そう言った部分では、今回の「紅白」の視聴率も納得するのだが、しかし、この高視聴率に「歌の力は大きいですね」なんて言っていられるのか?この調子で新たな元号になった以降も、同じように音楽番組が継続していけるのか?疑問も残る。
デジタル部門異動経験のあるCPの勝利
「今回の『紅白』も、最大のアピールは〝平成最後の…〟でした。ところが、番組の要となるとサザンやユーミン、北島三郎と言った昭和からのレジェンドに頼りっきりというのが気になりましたね。しかも、歌唱曲も〝紅白バージョン〟とか〝メドレー〟とか、過去のヒット曲ばかり…。それでも1曲の作品をしっかり聴かせる構成にすべきだった。例えば、いきものがかりが『じょいふる』というのは…。復帰しての歌唱曲としては果たしてどうだったか。とは言っても、番組全体のカット割りやライブ演出は、ここ数年の『紅白』としては一番観やすく分かりやすかったと思います。ただ、ところどころに挟まるビデオ映像を視聴者が面白いと思ったか、流れを断ち切ると思ったのかは気になるところですが…」(音楽関係者)。
いずれにしても、外部評価は分かれるところだが、NHK内での評価は概ね良かった。
「新たにエンターテインメント番組部の部長になった二谷裕真さんの出しゃばらない人柄と、渋谷義人CPの存在が結果的に良かった。とにかく現場スタッフを尊重した番組作りをしていた。だから現場もやりやすかったと思いますね。
それに渋谷CPというのは、かつて東大時代はアイドル研究会に所属していた人物だったんですけど、NHKでは一時、芸能番組の制作は嫌だと言ってデジタル部門に異動したことがあったんです。その時の異動経験が今回の『紅白』では役立っていたように思いますね」。
「紅白」は〝究極のマンネリ〟であることが重要
色々と書き連ねたが、それにしても「紅白」を改めて観て思ったのは、やはり、この番組の基本は「大衆」だと言うことだ。 昭和から平成に入ると核家族化が進み、さらに個人でテレビを観る時代になった。二世代、三世代で一緒にテレビを観るなんて言うのは、もしかしたら田舎に帰省した一部の人たちくらいなのかもしれない。「紅白」と言うのは結局、「都市型番組」ではなく「地方型番組」なのだろう。そう言った意味では、いかにマンネリを貫き通すかが大きなポイントになるのかもしれない。若返り制作現場は「改革」「改革」とか言いながら、新たしい「紅白」を目指したいと思っているのだろうけど、果たして視聴者は、どれだけの改革を求めているのか?そう言った意味では、無駄な改革より〝究極のマンネリ〟だろう。
今回の「紅白」を見る限り「特別枠」「中継」も良し悪しだが、やはり基本コンセプトである「歌合戦」に拘り、会場である渋谷のNHKホールで歌を聴かせること、そして盛り上がることが重要だろう。今の時代は〝改革〟より、〝マンネリ〟を貫き通すことの方が難しいのかもしれないが…。
それはさておき「NHKにとって『紅白』は、受信料制度を守り抜くための生命線でもありますからね。確かに、最高裁の判決で受信料の支払いの義務は合法とされ、今後の流れとしてNHKは、パソコンやスマホにまで受信料徴収の枠を広げようとしていますが、それでも視聴者を納得させるには、いかに観られる番組が多いかということです。そう言った意味でもNHKにとっては、『紅白』の視聴率だけは40%台を死守しなければならない番組なのです」(放送関係者)。
事情はどうであれ、今年70回目を迎えるが、今なお40%もの視聴率を取る「紅白」は、やはり世界でも類を見ない〝お化け番組〟だと言っていいだろう。