【BLOGOS対談】片山さつき氏「やっぱり資本主義のルールでやるしかない」 - BLOGOS編集部
※この記事は2010年08月12日にBLOGOSで公開されたものです
7月12日に投開票が行われた参院選から1ヶ月、来年度予算の概算要求基準(シーリング)が閣議決定されましたが、一律1割カットというきびしい内容に、各方面から不満や批判が出ています。菅首相は「財政健全化に不退転の決意で臨む」と述べていますが、過去最大の規模となった本年度予算に続き、膨らむ社会保障費を確保しながらの歳出削減や成長分野への重点配分ができるのか、調整が難航しています。
今回のUstream対談は、経済学者の池田信夫氏をホスト役に、 財務省主計官として予算編成の最前線を経験してきた片山さつき氏を迎え、「国の予算」の仕組みを解説するとともに、「政治主導」で「ゼロベース」の査定をするはずだった民主党政権が、なぜこのような事態に至ったのか、政府・与党の来年度予算案がはらむ問題点をあぶり出しました。
池田:こんにちは。毎月お送りしていますBLOGOSのユーストリーム中継。今月は前にもお話を伺ったんですけど、今度は参議院議員になられた片山さつきさんにお話をお伺いします。今日はよろしくお願いいたします。
片山:はい、よろしくお願いいたします。
池田:この度はどうもおめでとうございました。もう1カ月前ですけど。どうですか選挙戦の感想は?
片山:自分の主張をね、特に経済政策についてはとてもはっきり言って。全国街頭を中心に回って、ハードだったけれども気持ちが良かった選挙でした。それを聞いていただけた感じがあったので、30万票につながったと思っています。
池田:比例区の第1位ということで。
片山:そうですね。自民党ではトップですね。自民党の支持率が20%しかない中での30万票は貴重だったと思います。
池田:第2位も佐藤ゆかりさん。小泉チルドレンが1位、2位になったわけですね。
片山:それはあんまり関係ないと思いますね。(佐藤さんは)もっている組織がおありになるからね。私はないけれども。
池田:そういう意味では、「この何年か小泉改革で日本は悪くなった」とおっしゃる方もたくさんいるけれど、片山さんが1位で当選されたということはそういう見方は当たってないということを証明したのでは?
片山:私に入れた方は別に「私イコール小泉改革」とは全然思ってらっしゃらないのでは。そういう方もいらっしゃるとは思いますが、もちろん私は郵政民営化をきちっと進めるべきだと思っていますが、それは自民党のマニフェストにはっきり書いてありますから公認をもらった以上はみんなそう思っていなければおかしいことですし。
例えば2000万円の上限預け入れ額、1000万円の預金保険にするのに議論をすごくしたんですよ。1000万円あればギリギリのときも立ち行くだろうとか、平均貯蓄額がどれぐらいだろうという議論をした。でも2000万円のときは何の議論も無い。事実上100%国が株を持っているJP、ゆうちょ銀行だけ預金額を上げれば、そこに預金が集中することは当たり前で、民間の信用金庫あるいは農協漁業の共済などはお仕事をすべてゆうちょにとられる。
しかもそれはなぜかといったら、選挙中に民主党が公約したわけですよ、枝野さんが言った「なにがなんでも今度の臨時国会で民営化を後戻りさせて焼け太りさせる法律を通す」と。何のために? 選挙を一生懸命やってくれている前提、これは組織内候補が民主党から出ている全国郵便局長会、国民新党が長谷川憲正さん(前参議院議員・総務政務官)という今郵便局長2人が逮捕されたのをやった方ですが、彼らを抱えているからですよ。
全6000万人の日本の働く方から見たら一部の方の既得権益を守るためだけにやっていいのかということを私はさんざん言った。それに対する評判はすごく良かった。だってどちらの人数が多いかは明白でしょう。でも人数の多い方が声になっていない。そういう方が声を上げる場としてこのBLOGOSやツイッターは非常に良いと思いますね。
池田:自民党も野党になって少しずつ変わっている。今度の中曽根さんが参議院議員会長になられた件とか。
片山:今日朝11時に私含め(中曽根さんの)推薦人21人で集まりました。非常にいいメンバー。自分の言論で勝ってきた良識ある方ばかり。新人議員も何人かいて。会長選挙は結構競りそうだという話になり、でも万が一負けても初めて参議院の会長が選挙をやったことがすごいと。「ミキオハウス」と呼ばれていたポストらしいですから。
池田:前参議院議員の青木幹雄さんですね、笑。
片山:何もかも密室談合で決まっていたときと、まったく違うということを見せられることがいいと。しかも野党だからどうしても民主党に世間の目が集まりがちなときに、私たちが開かれた選挙をやれる、それだけでもいいね、と。ただ負けたら、新人の人たちが、負けたほうについたということでいじめられないようにしないといけない。それには気を付けました。でも勝ちましたからね。40対40というときにあちら側のベテラン議員がほっとした顔されたんですね。本当は中曽根さん押したいけど押せないという人が何人もいたんですよ。ベテラン中堅の方にも
池田:へー。無記名投票でしょ。
片山:ええ。でもその結果が出たんですよ。
池田:まあそのように政局も少しずつ変わり始めているようですが、今日のメーンのテーマは7月27日に閣議決定された2011年度予算の概算要求についてです。非常に難しいテーマですけども、みなさんの生活に大きな関係を持つので、片山さんは以前財務省で主計官をやられたプロフェッショナルですので予算についてお話したいと思います。まずシーリングについて、どう決まったのかをご紹介しますね。今年度予算はトータル92兆円で、国債費などを引いた71兆円が概算要求基準で出てきました。71兆円のうち地方交付税17.5兆の実績ぐらいの額が別枠になっていて、社会保障費は今年27.3兆、自然増で来年度28.6兆になりますが、これも別枠になっちゃって。
片山:丸々全部認めたんですね。
池田:もうこれで45兆円ぐらい別枠になっちゃって。おまけにマニフェストで決まった個別所得保障とかも別枠ですよ
片山:高速道慮無償化も別枠ですよ
池田:別枠を除いて、そのほか全部集めた残りが24兆円。これを一律1割カットしなさいというシーリングができた。その中に元気な日本枠とかいうのがなんか1兆円あって、これが中身はコンテストをやって決めるとかになっているそうですけど……。これは前例の無いシーリングといっていいんですかね?
片山:そもそもシーリング自体が財政危機宣言から生まれてきたことで、本当の予算査定は長靴を履いて築地に行って、魚の値段は本当はいくらまでやるというのが基本です。
もともとは青天井だった時代もあるんですけども、あまりにも財政が悪くなって。しかも予算が大きくなっていくと、夏に要求を出して冬に終わるのは無理だから、実際には概算要求のところで予算の95%を終わりにしようと。
あと査定できるのは5%もなく1.2%というのが今の予算ですから、この時点で切れないものは切れない。民主党は「コンクリートから人へ」を掲げていますから、社会保障の自然増はそのまま認めると。私は個人的にはそれは反対じゃないですよ。
こういう時代ですし、高齢になってから不安じゃないということはとても大事だから。でも効率化はいらないのか、厚生労働行政はちゃんとやっているのかを見ていると、ちゃんとやってなさそうじゃないですか。お年寄りの所在確認ができない国ですからね、でもそういう人たちはのうのうとお給料をもらっている。いいのかなと思いますね。誰も賛成していない、みんな迷惑を感じている高速道路の無料化実験とか、子ども手当なんかも神奈川県の松沢知事と話したら「参議院は野党が勝っているからあれはつぶしてくれないか。自治体から見てあれはいりません」と、言わわれましたよ。そういう意見もたくさんある中で、マニフェスト至上主義だから例外にしちゃう。国民はそんなこと望んでいないじゃないですか。
公共事業も文教も防衛も、1割カットしたことは例が無いですよ。防衛っていうのは中期防衛力整備計画でだいたい枠が決まっていて、例外扱いとはいいませんが、防衛費は国の安全保障そのものですから、一律カットで要求してこいと言われても困るでしょうね。どうせ、全ての経費を一割削るかなんかのことしかできないですよ。海空陸のバランスをいつも取るところ、ほんとはそれは組み変えないといけない。そうしたら結局「一割カット」して、年末になったらそれが一割乗ってくるだけの予算にしかならないですよ。だからこの時点である程度メリハリをつける。例えば景気対策をやりたい年は公共事業の中で、先進的な役に立つものや首都圏の道路なんか、生産性の高いものだけは切らないとかね。
文教教育予算の中でも先々未来への投資のものは切らないとか。科学技術、それこそ生化学の分野とかナノテクとか環境は日本が今から投資すれば何とかなると言われているから、そこは切らないとかね。メリハリをある程度つけてやらないと、どこをどうしていいかを各省の担当に丸投げしている感じですね。
それでそこのところは民間人に丸投げするということですが、「外部の有識者って誰なの?」と。政治っていうのはやっぱり一歩未来を見据えて、今こうだからどうしようっていうことを決めるのが政治で、決める役になりたいといってみんな選挙に手を上げて、厳しい選挙を勝って通ってくるわけです。で、その人たちが決める事を放棄して、選挙に通ったわけでもない公職選挙法で選ばれたわけでもない人たちに丸投げしている。それは(財政)民主主義から見て、非常に疑問ですね。おかしな人が選ばれたらどうするんですか。
池田:予算の決め方の問題も今回いろいろあったと思うんですね。「国家戦略局をやめる」という話が一時出て、いろいろ党内で揉めて、また復活するという話が出てきて、またいや違います」という話が出てきて、今どっちになっているのか分からない状態になっていますね。国家戦略局というのは民主党の去年の選挙のマニフェストの一番大事な柱だったはずですよね。予算の編成を官邸がやるっていうのは、前代未聞のことなわけですから、ものすごく大きな変化だったはずなんですが、それがいとも簡単にひっくり返っちゃう。
片山:でも、小泉政権の時に官邸主導を活かし始めて、経済財政諮問会議で叩き台を作ってしまってたんですよ。それまでは財務大臣に上げて官邸に持っていって決めてたものを、経済財政諮問会議で叩き台を作ってそれを与党(当時の自民党)の政庁にも持っていって、みんながいろんなことを言って閣議決定に持っていってたんですよ。だからものすごくいろんな人の目を通してたんですよ、自民党時代は。今回これを一体、政治家が何人見たのか、すごく疑問ですね。だから民主党っていうのはほんと民主的じゃないと思いました。
池田:昨日、竹中平蔵さんと土居丈朗さんと鈴木亘さんと僕の4人で座談会をやったんですね。その時に土居丈朗さんが「失われた5月」という風におっしゃってたんですけど、自民党政権の時は一応骨太方針というのを6月に出すということで議論が白熱した……
片山:ものすごい議論でした。政府の中でも党でも叩いたんですよ。
池田:そうですよね。それが今年の5月は普天間の問題ですったもんだになって鳩山さんが辞めちゃったりして、概算要求が出る前の政府内の議論が全くされなかった。
片山:だから一律カットというしかやりようがなかったんでしょうね。そうも言えますが、結果は結果だから。「一律何でもカット」「何でも同じ」というのは非常に社会主義的ですよね。
池田:まぁ、竹中さんが逆におっしゃっていたのは、「民主党は予算を組めないから、もう財務省に任せましょう」ということでしょう、と。逆に言うとそれだったら「予算組めることは組めるだろう」と。例年から一割縮小したやつが出てくる……
片山:いえいえ、一割切るんじゃなくて、「一割切って一割戻した分が枠に配分される」から、結局去年とおんなじ予算が出来ますよ多分。
池田:枠に配分される?
片山:そう。一割切って、最後は要望枠が出てくるでしょう。それが24兆円の一割弱の2.3兆円。これを各省庁に戻していくのですが、メリハリをつけて戻すことがどこまで出来るかは疑問だから、結局ほとんど同じになりますよ。でも私がここでそういう風に言っちゃうと、「片山さんがそういう風に質問するといけないな」と思って無理やり変えますよ、また。
池田:(笑)。でも戻したら総額は増えちゃうでしょ?
片山:いや、総額は増えないですよ。だって一割減っているんだから。一割減らして一割戻すんだから同じですよ。前年同額って言いますよ。つまり去年と同じ額の予算が出来て、それに自然増の1.3兆円だけが乗っかる形。
池田:そうすると総額93兆とか4超とかその程度ですか。
片山:まぁですから、それで税収がこれから増えるわけでもないので、去年と同じ国債費の額にしようと思ったら相当きついですね。どうするんですかね?
池田:そうすると大体総額で言うと、去年より少し乗っかったものが出てくる。そういうことですか?
片山:出てくるんじゃないですか?しかもこれをさらに深堀りしたら3倍要求出していいという。これは2.3兆円内に収まるのかどうかね。まぁ2.3に収めるんだろうけど。
池田:そうすると、一割カットってのはどの程度厳密なものなのか。
片山:それはその省庁の要求枠がここで示されているので、その省庁の要求してくる予算は枠が決まってるんですよ。その額を上回ることはないんですよ。だからその中で大事な政策を守って要らない政策をスクラップ出来るかですね。例えば外務省だったら概算要求枠が5841億円で、それに646億円の要望基礎枠を足していいですから、外務省としては全部で6500億を超える額を要望していいんですよ。
池田:はぁ、そうなんですか。
片山:そうなんです。そういうシステム。そこは誤解なさらないで。だから、22兆円に2兆3千を足したら24兆3千億になる。
池田:ということは一割カットっていうのは建前で、なんとなく最終的にはそれはもう入っちゃうんですか。
片山:まぁだから概算要求の要望基準枠に出してきたものからも削らなきゃならないでしょうね。それでこの中で認めるものは認める。でそれが短期間で出来るかどうかわからないので、恐らくは対前年同額の予算に成るんじゃないんですか?
池田:てことは結局一割カットはなくなるだけと。
片山:まぁそうですね。元に戻るだけでしょう。
池田:そうすると総額が、国債を入れると今年度予算を少し上回る程度?
片山:そうですね。彼らにとって幸いなことにいま金利が非常に低い。国債費っていうのは利払いの分は金利で借り置きしますから、金利をどんどん低くしてしまえば、若干へこますことができます。まぁなんとかそれを92なのか93なのか、膨らまないようにするんじゃないですか?
池田:問題は社会保障費。もちろん必要なものであるにしても、いま一般財政の中でいちばん大きいわけですよね。
片山:もう圧倒的に大きいですよ。社会保障費は。
池田:本来は歳出を削る時はこの社会保障を削らないことには、まぁ事業仕分けみたいなものもあるにしてもですね、社会保障を効率化しないことにはどうにもならないわけですね本来。
片山:ただその議論はやはり、「年金制度の見直し」「医療」「介護の見直し」といった“制度をいじる”事でしかできないわけですから。高齢者医療を廃止するといっても、結局後出してこられないわけですよね。結局誰が負担するかの議論になるので、消費税の議論を完全封印してたら出来ないなと思って、それで菅さんも「消費税」と言ったんだろうけど。自民党の場合は「消費税は医療介護年金に充てる」ということをはっきりさせて、今でも充てられてるんですが、根拠があるんですよ。でも民主党は何をどうするか決めてないから、言えないんでしょうね。民主党はこの議論を今封印してるんではないんですか、党首選が終わるまで。
池田:つまり本当は、予算を考えるっていうのはいわば「政策の枠組みを考える」っていうことなんですよね。
片山:そうですね。
池田:まさに今まで自民党政権でやっていらしたように、「骨太方針」を6月に出すっていうことは、その前に全体の政策の方向性のメリハリをつけるという作業があったのに、それが完全に抜けちゃって、何もそれがないままにいきなり一割カットが出てきちゃったわけですね。
片山:まぁ、メリハリをつけたように見せるために「1割カット」にしたんでしょうね。
池田:意思決定の過程で、官邸主導や政治主導というふうに民主党政権がおっしゃっていたわけですけども、どうも結果的にはそれがうまく働かなかったと。どっちかって言えば、菅さんとか仙谷さんは「政治主導は無理だな」という風に気持ちがなりつつある。
片山:いや、「無理かな」と思ってるかどうかは分からないですね。あの、決断をすればいい。政治というのは決めるということだから官僚からいろいろ話を聞いて、「決める」のが政治であればいいわけです。正しい判断力を持った方がその場その場に座っていればいいんだけど、それがどうもそうでもない。私たちは対抗する勢力ですからそう思います。
池田:小泉政権の時に、「政治が意思決定をして、その枠組みの中で財務省がやっていく」そういう順序にしようということにしたわけですよね。それがだんだん元に戻ってきちゃったと。自民党政権の後期にも若干そういった傾向が見られたと思いますけど、民主党政権では逆にそれがはっきり戻ってきてしまったと。
片山:それは社会主義政権だから「大きな政府」になるでしょう。ギリシャしかりで。当然国民に配るものは大きくするということになる。ですから大きな政府を目指しているんじゃないんですか?
池田:その辺の根本の意思決定のシステムを変えきれないままに、ここになだれ込んできちゃった。
片山:こないだ私が予算委員会を聞いてて、意思決定のシステムを変えきらないというか、意思決定をどうやってやろうとしているのかが分からないんじゃないんですかねぇ。
池田:この国家戦略の法案を書かれた松井孝治さん(もと官房副長官)が、ツイッターでこの話が新聞か何かで出てたときに、「こんなことはあり得ない」なんて呟いて……
片山:何があり得ないんですか?
池田:彼は法案を書いた人ですよね。これはもう民主党政権の要の中の要だと。これを変えたらもう他のものは何もできなくなると。ツイッターで延々と書かれていたんですね。「私は今日これから総理に会いに行く」とも。
片山:でも会って話したら納得して帰ってきてしまうんじゃないんですか?だって民主党をおやめになってないでしょ、その方?
池田:もちろんお辞めにはなっていないですけど、まぁツイッター上では、一応「総理に話を聞いていただいた」という話になってて、その後また仙谷さんが、また元に戻しましょうという話をちらっとされましたね。本当に法律を通すかどうか分からないまま分からないままに今に至っているわけですよね。そもそも、去年の11月の臨時国会の時に、あの法案(国家戦略局法案)は出来ていたんですってね。
片山:あ、そうなんですか。
池田:それがなぜか、党内事情で国会に出せなかった。まぁ通常国会に出そうと思ったんでしょうけど、だせなかった。揉めてダメになった。見た目は「手続き上の問題」のように見えるんですけど、僕がちょっと法案をみて驚いたのは、「予算を企画立案する」というのがありましてね。
片山:あぁ、それは、財務省とぶち当たりますよね。
池田:ですよね。もしかして、そういう、なんかこう財務省が上手い戦術で持って、法案を「闇に葬る」という動きがあったのかな。
片山:でも、大臣が当時菅直人だった。財務大臣が。あ、その時は大臣は別の方でしたね。藤井さんだったかしら。
池田:あ、そっかそっか。藤井さんだ。藤井さんは財務所のOBだから。
片山:そのあとが菅さんだから。
池田:どうも官邸主導に意思決定を変えるあたりのところで何かあったのかあと思って。
片山:機会があったら聞いて見ますけど、予算の査定の作業というのはどこでやるのかということですよね。官邸のどこかにいれるのか。うーん、まあ菅さんが大好きなイギリスでは財務大臣がすごく強くて、” the Chancellor of the Exchequer”といって財務大臣のかばんの中にすべて予算が入っていて、予算編成の過程は全く公表しない。それでも、イギリスでは予算委員会で延々と議論するから、いいわけです。そこでオープンになるから。だからどこかで説明責任と、みんなで予算を審議したという形ができていて国民が納得すればいいわけで、それをどうするかが本質なんですよね。スペースのない官邸でみんなで計算機持って、やったってしょうがないでしょうと。
池田:できるんですかということなる。
片山:できるというか、そういう風にすればいい。そしたら財務省のその部分(部署)が2重になるからいらなくなる。全部官邸に引っ越すことになる。財務省は当然抵抗するから、そういう議論は表に出てきますよ。
池田:昨日竹中さんとその話をしたときに、彼がおっしゃったのは経済財政諮問会議が小泉政権の強力な意思決定機関として、骨太方針のように政治主導でやられた実績があるということ。ところが、経済財政諮問会議って調査審議する機関になっている。
片山:そうですよ。
池田:ただ単に調査審議する機関が実際はかなりの力を持っていた。
片山:それは政治的官邸主導をやっていたからでしょう。総理大臣がすべての会議にいて、ずっと話を聞いていて、「決めろ」という役をやっていた。それができない人、鳩山さん、菅さんと座っているんだから、どんなシステムを作ってもダメですよ。
私、このことをテレビ討論でも言ったんですけど、もう古い皮革に新しい酒をいれようが、新しい皮革に古い酒を入れようが、真ん中に座っているプレーヤーが決定できない人ならば、政治主導にはならない。だから、手厳しいかもしれないが、政府の仕組みにお詳しくない方がだーっと並んでいても政治主導はできない。国家戦略室をどうするのかというのは枝葉末節な問題。本質的に腹が決められない政治家がやっているのでは政治主導にはなりませんし、官僚もなめますよ。立派な戦略室ができて、そこにテキトーな人が入ってきてテキトーにお茶を濁されるだけだから。
池田:そういう意味では、実際に戦略局を作っても、「うまくワークしないな」と菅さんも思ったのかもしれませんね。
片山:まあ、そこに旧社会党の職員が入ったら……。だって今、政府の顧問にどなたがなっていると思います?民主党の落選した議員とかね、ズラーっとでしょう。長谷川憲正さんなんて、まだ総務省の政務官ですよ。落選した上に、陣営が2人逮捕されていてもですよ。それは……。だから民主党に人材のプールがないのでしょう。
池田:最後は人だということになるんですか?
片山:最後は人材ですよ。
池田:前回の対談のときも、片山さんがおっしゃっていたけど、小泉さんとか飯島さんととか竹中さんとかですね、かなり名人芸というか……。
片山:でも、そういう過去の話をいつまでも言っていても仕方がありませんよ。もう終わった人、引退した人なのですから。だから、今からやりたいことがあってやるなら、政府の仕組みに対する、ものの決め方に対する経験があまりにもない。しかも40、50になってその経験がないと、急にはできないということです。だから小沢氏がおととしに大連立を考えるときに、「政権担当能力がない」とおっしゃったのは、その点では当たっていたんではないですか。
池田:これは一体どうすればいいんですかね?
片山:まあ、でも去年の衆議院選挙で民主党が勝って、連立して政権を作っているんですからこれで予算を作るんですが、この経済対策が大事なときに本当に成長分野にお金を振り分けることができにくそうなので、それを危惧しています。こうなったら、野党のわれわれにも言わせて頂いて、予算修正をしない国ですがよその国はしているので予算修正させていただきたいですね。
池田:それはつまり財務省原案が出た後?
片山:国会が予算委員会に行ったらですよ。
池田:このまま8月31日に概算要求があって、例年通り行くと考えていいんですか?
片山:行かせるんじゃないですか。問題なのはこの予算に野党側としてわれわれの言い分が全部通らない限りは、反対になる。予算は優先権が衆議院にあるので、すんなり通るのですが、膨大な国債を発行しなければならないですね。
ここに財政法の抜粋がありまして、「国の歳出は公債または借入金以外の歳入をもってその財源としなければならない。ただし公共事業費等々な国会の議決を出た金額の範囲内で、公債を発行できる」とあります。これが建設国債ですね。この規定で国債を発行する場合はその償還の計画を国会に提出していろとなっている。これが4条国債。そうじゃなくて、特例国債の場合はいちいち法律が必要なんです。
池田:いわゆる赤字国債ですよね。
片山:はい。今赤字国債のほうが多いんです。今回も膨大な赤字国債を出すことになって、その法律は予算じゃないんです。だから衆議院に優先権がなくて、参議院でわれわれが反対すれば、予算はできてもその財源が通らないから国債が発行できない。だから年度の途中で資金がショート(不足)する。その問題の重要性に気がついていない。これがものすごく効いてきます。
池田:それは結構深刻な問題ですよね。
片山:私はどっかで連立を求めてくると思いますね。どういう形にしても、そうじゃないと、だってねえ……。
池田:あとは衆議院で3分の2をとって、もう一度再議決するやり方。
片山:そうですね。今は衆議院は3分の2ありませんからね。
池田:その手段を探る可能性もあると。その辺はこれから国会の攻防、つまり予算自体は通せても関連法案のほうを通せない。
片山:そうすると歳入がない。国際市場での信任が非常に落ちるし、これはやってはいけないこと、あってはならないことですね。それは分かっているでしょうし、そういうレクチャーも受けていることでしょうから、新しい党首、あるいは菅さんの続投が高いから、菅さんが責任ある国家運営、財政運営をするときに誰に頭を下げるかにかかっているんではないですか。
池田:少し難しい話なので整理しますが、要するに予算案そのものは衆議院が優先するので参議院で否決されても通る。実は赤字国債は法律を通さないと通らない。赤字国債を起債できないなら、当然予算成立しないわけで、実は予算案にも参議院にも可決が必要になるということになる。衆議院の3分の2で再可決するか、それとも参議院で大連立、政策協議をして自民と民主が合意しないと予算が実質的に通らないと。
片山:できないということです。予算は通ってもお金は足りません。
池田:その問題はいつ頃?来年の通常国会の前に問題になりますか?
片山:ですから、なんらかの形で補正をするんでしょう。あるいは、当然社会保障費は補正を組むことを前提にしてやっていますから、秋口になると足りなくなるんで、そういう法律上必要な補正をやるかどうかですよね。そうなった時に、国債を追加発行するということになると、予算は通るけど国債は通らない。まあ補正は臨時国会で出さずに、通常国会で出すと思うんですよ。そうすると通常国会の冒頭でその問題になるので、言われているのが解散するか握って通させてよ、という1月解散か予算を通す前にそれをお約束して4月解散。1月、4月の政局はあるのかと言われているんですよね。
池田:この問題は国会の最大の焦点になる可能性があるわけですね。
片山:最大の焦点でしょう。
池田:まあ先の話を置いておいて……。さっきの社会保障費で、1.3兆円の自然増を認めるという話が出ましたけど、まあ自然増とは言っても小泉政権の時に抑制しようということで毎年抑制の方針を出していたわけですよね。それが、今年別枠で自然増を認めちゃうということになった。
片山:私はね、抑制はある程度限界に達してきたとは思うんですよ。無理に切ることによって、障害者の法律なんかも不用意に厳しくして、あとで直している。一から必要なものは必要と認めて、そこにいくらでも国債発行したら国が持たないから、どこかで国民にご負担をお願いしましょうという議論をしようとしたんですね。だから自民党はブレずに財源の問題を一緒に取り上げたんですよ、民主党がそこに途中から乗ろうとしてきた。菅さんが…。でも理由付けが良く分からなくて、ブレる。そこで議論が止まっちゃった。
ついこの前の国会では与野党協議をおっしゃっているが、私は与野党協議ウエルカムですよ。これは国のための「救国戦線」として、どっちの党がという問題じゃなくて国が破産しないほうがいいわけですよ。老後安心できる社会保障が必要なわけですから。ここで見ていらっしゃる世代はもうすでに後期高齢者になっている方はあまりいないと思うが、これから日本国民として生きて働いていてどういう老後で引退したいかですよね。
私は今回、独居老人が所在不明になっている比率がここまで高い日本を見て、われわれ自民党も保守政党ですけど、親子孫が全部同居して面倒を見るというモデルを真ん中に据えるのは無理だと思います。
全国を選挙で回ったとき、中高年の女性から軽費で入れる安心な老人ホームを作ってと。子どもはあてにならないし、嫁さんの世話になるのも気兼ねするし。ただ今は高いから、そういう(安い)ところがあれば私たちは安心できるか、それだけやって、とすごく言われたんですよ。そして気の合う同年代の友達同士で旅行に行ったり、歌を歌ったり、盆踊りをしたりしたほうがいいと。気兼ねする上に狭い部屋に押し込められているうちに居所が分からなくなって、年金やお祝い金だけが子どもに来ていた。しかも驚くことにお子さんが70代ですよ。日本にモラルがあったといわれる時代に教育されている世代。今の子達じゃないんですよ。だから、それはもう無理なんですよ。一番安全にお歳をとっていたのが施設に入っていた人。完璧に医療もあって、何歳かも分かっている。そういう状態が20~30年続いている。みんなが安心でいるためにはお年寄りの面倒は社会がみるしかないと思いますよ。
逆に子どもの面倒は家庭ですよ。生まれた以上年をとることからは逃げられないけど、結婚するかどうか子供をつくるかどうかは本人が選択する。
池田:結局、予算の問題って社会保障の問題が圧倒的に大きいんですよね。
片山:圧倒的ですよ。
池田:考え方を変えないと、自民党も谷垣さんが絆とかおっしゃっているけど、できればいいんですけど……。
片山:絆は大事ですよ。でもそれはもうね、モデル的な同居世帯ってやってなかった。しかも立派な人達がやってなかった。だから、国民の数%で非常に所得が高くて、立派な家があるとか、地域でお役をやっているような方は体面もあるからそうだろうけど、そういう方ですら、子どもが一人っ子あるいは2人兄弟で両方嫁に行った。無理ですよ東京は。
池田:社会保障の考え方を変えないと、もう今まで通り、特に民主党がやっているような、子ども手当をばらまくようなやり方はもう明らかに……。
片山:子ども手当は即刻やめるべきですよ。
池田:もっと目的を限定して、本当に困っている人に所得を再分配するやり方に直していかないといけない。
片山:その通り。そういう声はふつふつとわき上がっていますよ。日本中どこでも。
池田:昨日の学会で、鈴木亘さんって学習院大学の社会保障の専門家がおっしゃったのは、日本の社会保障は世界でもまれにみる奇妙なものだと。なぜなら、(税や年金による)所得再分配後のほうがジニ係数(所得格差の指数)があがっている。バラマキだの、歳取ったってだけでお金がもらえるようになっているから。
片山:民主党のパンとサーカス政治ね。パンがばらまきで、サーカスが事業仕分け。このまやかしに国民が気付きつつある。これを広めないといけない。
池田:所得の再分配は貧しい人に分配しないといけないんだけど、日本では単に歳をとっているとか、一定の医療、保育を受ける人には、非常に大きな国費負担で補助している。所得の大小に関係なく、いいかげんなかたちでばらまかれている。その結果、所得再分配が100分配になっちゃっている。この問題は、社会保障のあり方を考え直さないといけない。
片山:それが一番やってはいけないこと。民主党は、消費税を考えると言いだしながら、絶対的にやりにくい環境を自分でつくった。マニフェストにあった消費税には一切手を付けず、子ども手当をばらまくというのは、彼らなりには一貫していた。
つまり、いろんな所得階層に一定の金を、条件をつけずにあげておいて、税金を払っていない家庭にもあげておいて、消費税を上げるといったら、低所得者層の負担感はすごい。私は消費税をつくった人に直接何回かはなしを聞くチャンスがあって、現職の国会議員で残っている人でそれを聞いたのは、私のほか、渡部恒三さんと、野田毅さんだけです。
私は主税局から派遣されて、自民党税調が高齢化社会に備えて、付加価値税タイプが日本にも必要だということで、全部こられたときに、ずっとついていたんです。そのときに、モーリス・ローレという消費税を設計した方が、この設計もある程度理論性があったので、欧州も同じものを使っていた。おかしかったら使っていない。で、これは逆進性のある税金なんです。金持ちでも、貧乏な人でも、一日に同じものを食べるとすると、その分に消費税がかかりますよね。そうすると、貧乏な人ほど所得分の負担率があがるので、必ず導入するときや税率をあげるときに低所得者配慮をする。ところが、度重なる減税により、日本では所得税を払っていない人が増えた。だからその減税配慮ができにくい。税金を払っていないだけではなくて、覆いかぶせてものをあげた。ここに消費税をかけるということは、社会的に心理学的にほとんど不可能。ほとんど不可能な状況をつくっておいて、自民党が最初に与党協議しようとなったら、まずばらまきをやめないと。
池田:昨日の学会で聞いたのは。消費税が逆進的だという話はよくあるんですが、国民年金はどうなのか。あれはほとんど人頭税ですよね。
片山:そうですね。
池田:あれほど逆進的なものはない。所得再分配の観点からは相当おかしい。年齢差別みたいなものが相当存在している。これからの日本を考えたとき、急速に高齢化が進んでいく。今3人で1人を支えている高齢化社会が、あと13年で2人で1人になってしまう。極めて高齢者にウエートの大きな福祉制度を持続するのは、常識的に考えてまず不可能。
片山:それはみなさん分かってらっしゃるんですよ。だから納得のいくかたちで決めてくれという気持ちが強いんでしょうね。
池田:その辺が民主党政権になって、無駄遣いをなくすということは政権をとる前からいっていた。取ってからは事業仕分けをしたが、今年もマニフェストでやると。あれもパンとサーカスに近いものがあって、国民に説明するという意味ではいいと思うが、私もあれを見学して、やっぱり1日見ていて思ったのは、蓮舫さんがガンガンやっているのはごく一部。大部分は手を付けられない。
片山:それはできないですよ。
池田:言っちゃ悪いけど、誰が見ても無駄な経費なんてそんなにないんですね。
片山:今はね。今は削り込んでいるから、優先順位の選択なんて減らすべきでしょう。
池田:無駄なものを削るという発想が間違っていて、削る時は、それに対応してサービスを削らないといけないという決断をしないといけない。特に福祉は社会保障そのものだから、一番はっきりしている。給付をけずること自体がサービスをけずるということだから、強い社会保障でどんどんばらまきましょうといっておいて、無駄を削減するというのは、論理的になりたたない。
片山:沈んでいくタイタニックの上で、イスを並べて掃除しているだけ。今はまだいい。今年くらいまではまだいい。しかも今は国債金利が下がっている。野田佳彦財務大臣が質への逃避とおっしゃった。あなたの組んでいる財政は質が高いの?言葉に気をつけなきゃ。ほかよりましなだけです。あまりにも他が不安定だから、何もしていなくて、硬直的な日本はよくもわるくもならないから、逃げてきているだけ。
池田:税調の専門家委員長の神野直彦さんが、昔から自分がそうだが、国債をどんどん発行すれば問題ないと公然と仰っている。
片山:神野先生は地方財政の先生ですが、H18年に一時的に小泉政権が頑張ってプライマリーバランスがよくなったときに、自治体が勝手に減税できる法改正をした。名古屋市で河村たかしさんがやった。ただいくらなんでも、勝手に減税してその財源は行政改革でだしてくれと条文に書いてある。行政改革でだした証拠をあげなくても無効にならない。
結局名古屋市は借金を増やしてばらまいていますし、さらに今年から、地方交付税をもらう団体に、5年ぶりに転落した。だから、いいよ、でも転落したらおやめなさいくらいのことは言わないといけない。私はこれを原口さんにお電話して言いました。そうすると、いろいろ考えることがあるということでした。地方債の最終的な保障者は国で、その国の保障は国債になる。それは必ずしも、市民が払うわけじゃない。知らないうちに借金のつけを回されて、名古屋の減税分を日本中で負担する。それを日本中でやりだす。せめて交付税をもらわないうちにやるとか、百歩譲ってもそうしないと。
だから地方自治体が自立するためには、最終的には地方債の政府保証を外さないといけない。オレンジカウンティーが破産したように。そこまで財政自主権もあげるべき。私が「真実の議論」で書いた。それをやるには、今地方自治体で大半のところは、税金を産む企業がそもそもない。偏在している。日本のように、税を産む企業が偏在しているところでは無理。それを考えると、勝手に減税しすぎるのは良くない。神野先生は地方財政の学者で自治省お抱え。立派な方ですがそこが甘い。
池田:彼によれば、国債はすぐに返さないでいいと。
片山:デフォルトしてもいいと?
池田:そうはいわないけれど、借り換えができていればいいと。
片山:すでに日本の国債は60年償還ということを忘れてはいけない。今借りたものを返しきるのは、あなたは15歳なら75歳になったとき。それを国民の皆さんはご存知なのかなと。60年償還ルールにしたのもごまかし。10年のものは10年で返せばいいのに。だからどんどん借金が増えてもいい体制にして、借金を増やしながら、歳出を増やした。それでよくなったものもあったが、これ以上続かないだろうというときに、まだまだ増やすという方向に舵を切るのはよくない。
池田:借り換えができていればいいか、いつまでできているかが問題。
片山:国全体のバランスシートをみたとき、外国から借りないといけなくなるにはあと数年。そのとき、国債市場で一番かってくれるのは中国でしょう。中国人民銀行の周総裁が、外貨をドルだけもっていてもしょうがないということで買いだした。われわれの命運を中国がにぎるということになる。我が国は、返しながらうまくやっていくのは財政再建だが、これを自分でやるのか。海外がスポンサーになるなら、メーンの資金の出し手は中国だが、それでいいのか。
池田:せめて国内でちゃんと消化できるうちに……。
片山:全部返すというのは、どの政権も政党も考えていない。無理だから。だましだまし、少しでもショックがないように財政再建の絵を描くだけなんです。
池田:民主党が6月に出した財政戦略は、骨太方針に対応するものだそうですが。あれによると、2020年までにプライマリーバランスをトントンにすると言う目標があるが、それをやるためには、2020年段階で成長率1.7%を見込んでも20兆円くらい、消費税で10%くらい足りない。これはどういうことかと。つまり普通の政治家がみれば、消費税を増税しないと財政破綻するという計画を出しているのに近い。
片山:その手の計画は前から出している。ただ税というのは自然科学ではなくて人間科学。ネゴシエーションだから。議会政治主義だから、どうするかは国民が決める。
池田:逆に消費税を10%にあげれば、とんとんにいく可能性がある。
片山:日本の消費税は低いので、ほかの国が日本に猶予しているのは、どこかで増税するだろうと思っているから。25%は無理でも5%はできるだろうと思っている。
池田:それが日本国債への信頼になっている。問題は、消費税があがったときに、貯金を使い果たしてしまうということ。つまり消費税をあげて、財政がよくならないのが怖い。
片山:財政はよくなるでしょうが、経済がそれを乗り切れるかどうか。釈迦に説法ですが。インフレになっているときに追い打ちをかけるようにあげることはできないから、インフレになるまえにやらないといけない。インフレにならないときは成長率が低いから、当然いろいろと出てくる。私が選挙を勝ったときにすぐ言ったのは、菅首相が400万以下の所得の人に消費税を還付するといったが、あり得ない。みんな「わたしは所得400万以下です」というプレートでも下げるのですか。この狭い国で一物二価というのはあり得ない。
それから、米国では州によってセールスタックスの比率が違うから、日本でも付加価値税を州によって変えられるか。これは、表に書いてみてほしい。そんなことをしている国はどこにもない。付加価値税はすべての段階に関わっているから、できない。だってここから荒川、江戸川を超えると税率が変わる、その経緯をどう見るのか。
池田:税制全体を見直さないと、個別の税目を見て所得分配をどうするかといじくりまわしてもだめだと。
片山:基本的には所得と消費(取引サービスを含めて)と財産のどれかにかける。
池田:入るほうについては、消費税の問題がでているが、こっちは菅首相が次の選挙のあととおっしゃったんで、2、3年先送りになりそう。そうすると、再来年は当分増える見込みがないということになる。
片山:民主党が単独で政権をやるなら、所得税に手を付けるしかない。すでに言いだしている。それでは、優秀な人と金持ちが逃げていく。困りましたね。
池田:あと法人税ですね。
片山:私たちは資本主義側の政党なので、国際標準の20%に下げろといっていますが、民主党もさすがに財界から留保金課税のことで怒られて、あんたら共産党か、とまでいわれて、ようやく下げるといいだしている。手を付けるとしたら、贈与相続か、所得税しかない。そうすると、昔70%くらいとっていたのを復活させるつもりなんでしょうね。
池田:法人税については、財務省もやや柔軟というか。下げてもしょうがないかな、みたいな。
片山:そうしないと、もう企業が国内に残らないだろうということでしょう。それは雇用を残すということですから。民主党もそう思ってくれないと。
池田:法人税は下がると。来年の通常国会で何か出てくる可能性は?
片山:ただその財源がないときにどうするかです。法人税を下げるには、何か金を取れるのかという議論になる。
池田:ないとまずいんですか。
片山:まずいというより、財政がここまで落ち込んでいるなかでどうするのかということ。
池田:中長期で成長率があがれば、来年は難しいかもしれないが。
片山:やりそうなのは、3年経つとこれだけ企業所得が増えて帰って来るから、その間のつなぎ国債3年とか。私たちも大蔵省にいたときに、おなじようなものを考えました。私が今言っちゃうと、すぐ出てきそうですが。
池田:僕は、法人税の引き下げというのは、手詰まりになっている今の経済政策の中では唯一効果がありそうだと思います。
片山:あと私たち自民党がいっているお台場特区。今の日本では、金融取引によるGDP比が少ない。だからお台場あたりを特区にして、そこに進出するベンチャーの税率をシンガポール並みにする。今の日本にもイノベーティブな方は大勢いるから、そこに行ってくれ、というものをつくりましょう。
池田:法人税に反対する人は多いですが、アジア、シンガポールとか台湾は10%台、僕が最近商社の人に聞いたのは、台湾では最初の3年をただにするとか、ディスカウントしちゃってる。
片山:そこまでやると、台湾はタックスヘイブン認定されるでしょう。台湾は所得が高いから。日本でやるなら特区をつくるしかない。
池田:予算だけを見ていると、手詰まり感が大きいが、社会保障の考え方や経済成長によって中長期で取り直していくとか考えないと、予算だけどうするという話をしていてもだめ。
片山:成長戦略がまだまだ弱いですね。民主党は成長が大事だというが、成長は新陳代謝だから、マーケットや自由主義経済にあわない人には向いていないので、そこはわれわれが頑張りたい。
池田:民主党では、去年の選挙でいっていたところからは、少しずつ現実的になってきている。やっぱり資本主義のルールでやるしかないとか、仙谷さんはそんな感じがする。
片山:国益のためにもそれを望みます。
池田:自民党でも。
片山:政策協議をするべきです。国の経済や安全保障を立てなおすためにやっているのですから。
池田:そういう意味で、予算関連法案についても、民主党との議論が密になっていけばいいですね。
片山:特に参議院は面白いです。
池田:中曽根さんが会長になったわけですが。
片山:参議院は主戦場です。戦う参議院。戦うけれど、いいことをやりたい。
池田:というわけで、今日はありがとうございました。今日の対談は、このフィナンシャルジャパンの11月号、9月21日発売予定の11月号に、連載、私の対談企画の1つになる予定です。現在発売中の9月号に第1回は堀江貴文さんが出ておりまして、第2回の田原総一朗さんは8月21日発売のフィナンシャルジャパン10月号に掲載されます。
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