※この記事は2010年03月30日にBLOGOSで公開されたものです

 3月27日、島根県松江市における講演で、枝野幸男行政刷新相が、日本による中国と朝鮮半島の植民地化に関する認識について述べ、それを直後に撤回するという事態が生じた。朝日新聞の報道を見てみよう。

<中国・朝鮮の植民地化「歴史的必然」 枝野行政刷新相、講演で発言
 枝野幸男行政刷新相は27日、松江市で講演し、「日本は明治維新ができたが、中国や朝鮮半島は近代化できなかった。日本は植民地を広げる側で、中国や朝鮮半島は植民地として侵略される側になったというのは、歴史的な必然だった」と述べた。植民地支配を正当化したとも受け取られかねない発言だ。
 枝野氏は政権交代を契機に「新しい政治をつくらないと大変になる」と述べ、明治維新を引き合いに出した。その中で、「日本は明治維新が早くできたからその後の100年くらいの中で一定の優位性を保つことができた。同じ環境に中国や朝鮮半島もあった。日本の明治維新をみながら近代化しようと頑張った若い方がいたが、結局進まなかった」と述べ、「日本が明治維新できていなければ日本も中国や朝鮮半島と同じように、欧米列強の植民地や半植民地にされていただろう」とした。
 枝野氏は講演後、朝日新聞の取材に「日本が植民地支配する側に回ったのはおかしいと思っている。誤解を招く発言で率直におわびする」と語った。>(3月28日朝日新聞朝刊)

 枝野氏は、「誤解を招く発言で率直におわびする」と述べているが、この記事から判断する限り、発言の内容は明瞭で、誤解の余地はないと思う。帝国主義の時代の「ゲームのルール」は、「食うか食われるか」だ。日本が「食う側」で、中国と朝鮮が「食われる側」だったというのは、歴史的事実だ。枝野氏が述べた「日本が明治維新できていなければ日本も中国や朝鮮半島と同じように、欧米列強の植民地や半植民地にされていただろう」という認識もその通りだと思う。

 それにもかかわらず枝野氏は、なぜ「率直におわびする」などというのだろうか。
 可能性は2つある。
 第1は、民主党の小沢一郎幹事長が、過去の日本の植民地化に対し、自己批判する姿勢が強いので、「反小沢のホープ」として、右翼的言辞を、あまりよく考えずに吐いたという可能性だ。
 それならば枝野氏は、歴史認識を政争の具にしていることになる。こういう人が重責を担うことはできない。
 第2は、枝野氏は講演で本心を語ったが、朝日新聞記者の質問を受け、中国や韓国と外交問題になるとビビリあがり、とりあえず「おわび」してしまったという可能性だ。
 それならば、枝野氏は本心と発言が乖離する不誠実な人ということになる。いずれにせよ、こういう人に日本国家を委せることはできない。
 現在、国際関係は各国の国家エゴが強め帝国主義時代を彷彿させる勢力均衡外交がよみがえっている。中国や韓国にビビリあがり、自らの発言に責任をもてないような人物に行政を刷新することなどできない。本件は枝野氏の政治家としての資質を問われる重要問題だ。(2010年3月30日脱稿)

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「はじめての宗教論 右巻~見えない世界の逆襲 (生活人新書) (生活人新書 308)」、「日本国家の真髄」など。

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「はじめての宗教論 右巻~見えない世界の逆襲 (生活人新書) (生活人新書 308)」、「日本国家の真髄」など。